十九.破れ落ちる服
「ひゃ、ひゃあっ!?」
風圧によって服も帽子も真っ二つになった秘書女が恥ずかしげな声を上げたのかと思いきや、甲高い声を上げたのはスズキさんだった。
どうやら秘書女の裸を見て照れたらしい、両手で顔を隠している。
「………………………………はっ! し、失礼致しましたね、少し呆然としてしまいまして……お見苦しいものをお見せしましたね……」
「何が見苦しいんだ? ほら、これでよければ着てくれ」
俺は着ていた防寒着のコートを秘書女に着せた、わざとじゃないとはいえやったのは俺だからな。
「あ……ありがとうございますね…………異界の方には見慣れぬものでしょう、こんな素肌をした種族は……ね」
素肌? よく見てなかったけどそういえば普通の人間とは違うな。頭からは小さい角が生え、腕の一部と脇腹あたりに蒼白い鱗みたいなのがある。
「あの試験官の御方……肌が人のそれとは少し違うようですがいったい……」
「試験官さんは……亜人だったのですか……それもあれは竜族のものですよ………いえ、鱗が少ないのでハーフですかね……」
「……竜族……ですか?」
「ええ、遥か昔からこの世界にいる種族です。古来より世界を支配してきたドラゴンを鎮めるためにいた部族が呪いを浴びて半竜化したことから誕生したと言われていますが……」
ムセン達の会話を耳で拾う。
ゲームで言うドラゴニアだとかドラゴニュートだとか竜人だとかそんなやつだな、鱗を隠せば普通の人間にしか見えない。
しかしカッコいいな、やはり男たるもの竜にロマンは感じるものだ。竜化とか俺にもできたらいいのに。
そう思った俺はアマクダリに言った。
「触らせてくれ、鱗」
「………………は、はい? 今何と仰いましたか……? 聞き間違い……ですかね?」
「だから触りたいんだ、鱗。男のロマンだ」
「……………はぁ………あまり好奇の眼に晒されるのは好きではありません、昔から半竜というだけで同じような事を仰る人間を腐るほど見てきてうんざりしているんですよね。貴方もその類いの人種だとは思いませんでしたが……ね。やはり亜人というのは」
「馬鹿野郎!!!」
「!!?」
「そんな綺麗なものを隠しておいて触らせないとはどういう了見だ! 俺はお前(竜)が大好きなんだ! 少しくらい触らせてくれたっていいだろう!」
「は、はい!? 急に何を言い出すのですかね!? ワタクシと貴方は出会ったばかりでしょう!? それ以前にす、好きだから触らせてくれと言うのはおかしいですよね!?」
「俺は好きなものは好きだとはっきり言う、そして触りたいと言う、そうしなければイライラするからだ」
「い、意味がわかりませんね! それに……こんなもの綺麗でも何でもありません! 忌々しい単なる呪いですね!」
「お前がそう思うのならそうなんだろう、お前の中ではな。しかし、俺の中では綺麗で美しくてカッコいいものだ。それを勝手に否定するな」
「…………貴方は本当にわけのわからない人ですね……触りたければどうぞ、しかし気をつけてくださいね。この呪いは触れたものに伝染しますからね、それでよければ……ひゃんっ!?」
俺は差し出された肌白く、蒼白い腕を遠慮なく触る。
「おお、ゴツゴツしてるのかと思いきや意外とサラサラしている。しかしこの光沢にフォルムはまさしく竜、匠の技」
「は、話聞いてましたかね……ゃん!」
「どうやったら伝染するんだ? 俺も竜の鱗を身につけたいんだが」
「ば、バカなんですかねあなたっ!? ぁあんっ! 半竜として生きるという事がどういう事かも知らないで軽々しくっ……ぁあっ! そんな触りかたはだめぇっ!」
「おい、伝染しないぞどういう事だ」
「ごめんなさいっ! 嘘ですね嘘! もうダメ! 離してくださいっ!」
今日はエイプリルフールじゃないのに嘘をつかれた。そもそも異界にエイプリルフールはあるのか? まぁ、どうでもいい。
「残念だ、というわけで試験を続けるか」
「はぁ……はぁ……はぁ……貴方という人が全くどういう人間なのかわかる気がしませんね………しかし……文字通りにワタクシの逆鱗に触れましたね、既に剣が適性武器と判断できますが……試験は続けさせて頂きますっ!」
剣が、適性、ねぇ。なんか全くそんな気がしない、しっくりこない。
じゃあ次は『槍』でも使ってみるか。
「本当にイシハラ君は不思議な人ですねぇ……ムセン君? ど、どうしました?」
「もう何か色々と理解が追いつかないので一旦心を無にする事にしました、全てが終わってからイシハラさんに色々問い質そうと思います」
「そ、そうですか……」
俺は槍を構えた。
全く関係ないどうでもいい事だが警備員は槍に似た刺叉を使う事がある。俺は使った事ないけど。
「えいっ」
俺が槍を振ると何か竜巻が発生した、生まれた竜巻はまるで生物のようにうねりながら地面を切り裂き壁に穴を開けた。
うーん、これもしっくりこない。何か手に馴染まないし、いちいち振るの面倒くさい。
「…………………」
パサッ……
あ、秘書女に着せた俺の防寒着が破れてしまった。あれ温かくてお気に入りだったんだが、まぁ俺がやったんだから仕方ないか。
俺は着ていた制服を上だけ秘書女に着せた。裸にYシャツだけのセクシーな格好だけではあれなので秘書女は一旦着替えにいって試験を再開した。
〈鎚〉ドゴォォォォォオオオオオオオオンッ!! パサッ
〈レイピア〉ビュウッ!! ドゴォォォォォンッ! パサッ
〈鉈〉ブォンッ、パサッ……ドゴォォォォォンッ!
〈ナイフ〉ヒュッ…………バリィッ、パサッ
〈手裏剣〉ビュウッ! ドゴォォォォォンッパサッ
〈鎖鎌〉〈フレイル〉〈……〉 etc……
「い、いい加減にしてくださいね!? 貴方ワタクシをどこまで辱しめれば気が済むのですかね!? もう替えの服はないんですっ!」
「いや、そんな事言われても」
「ぅう………信じません……そんなわけありませんね……」
何か全部の武器から何かしら出た。これ故障してるんじゃないのか? 判定がザルすぎるだろう、どれも触った事すらないんだから俺に合う武器のはずないのに。第一どれを使っても全くしっくりこない。このままじゃ俺は不合格になってしまうな。
残ったのは刀だけ、ふむ、俺はやはり日本人だから和の精神という事で刀かもしれない。よし、振ってみよう。
「ちょっ、ちょっと待ってくださいね!? もうわかりましたから!あちらに向けて振ってくださいね!」
しょうがないな。
俺は誰もいない方向に向けて鞘から刀身を抜き、振ってみた。
するとまたもや耳鳴りのような音がして、会場に一直線の亀裂を走らせーー秘書女の服を真っ二つにした。
「何でですかね!? 何故そちらを向いているのにワタクシの服が斬れるのですかねっ!?」
俺が知るかい。しかし困ったぞ、これも違う。俺に合う武器が一つもない、試験はここまでか。
「……ぜ、全武器適性……そんな人……勇者様しかいないと思っていたのに……今更ですがねイシハラさん……貴方一体何者なんですかね……」




