十六.身体測定
〈警備兵採用.第二次試験当日〉
俺達は全員昨日一次試験を行った場所に集められ待機させられていた。昨日とは違い、椅子や机が広い室内に置かれている。
メンバーは4人。
昨日倒れたバーコードハゲの眼鏡おっさんは無事回復し、万全の状態のようだ。どうやら待機中は雑談オーケーなようで適当に自己紹介しあった。おっさんは鈴木一郎というらしい、日本からの転生者か?
「違いますぅ……スズ・キイチ・ロウです……先日は倒れた私を運んでくださったようで……本当にありがとうございます」
「気にする事はありませんよ、スズキさん」
「あのぅ……スズキではなく……」
「すみません……この人には何を言っても無駄ですよスズさん……というか……イシハラさんの話し方に違和感が…………敬語とか使えたんですか?」
ムセンが割って入ってくる。何て失礼なやつだ。社会人としての常識だから使えるに決まってるだろう。
「……でも今まであまり聞いた事ないような……」
「人として敬語を使うに値するやつで尚且つ年上になら使う、そうじゃないやつには使わない。それだけだ」
「……いえ、社会人でしたら試験官さんとかにも使うべきのような気がするのですが……」
「じゃあ偉そうなハゲには使わないも追加で」
「……はぁ……まぁ貴方に何を言っても無駄ですしね…」
何だこいつ、ケンカ売ってるのか? 上等だ。
「ねぇねぇそんな事よりもさー、何かいっぱい武器が置いてあるけど何するんだろー?」
試験者の一人、水色女のシューズとかいう女がめざとく何か見つけたようだ。確かにザ・RPGって感じの色々な武器が片隅にあった。
まぁどうせ魔物と戦わせるとかそんな試験もあるんだろう。
「そんなって……そういえばま、魔物って何なんでしょうか? この世界に来てよく耳にしますが……イシハラさんはご存知なんですか?」
「当たり前ダーウィン」
「そういえば……イシハラ君もムセン君も異界人でしたか……魔物というのは魔界から魔王によりこの世界に連れてこられた化物ですよ……」
スズキさんが説明してくれた。やはりTHE.定番のRPGって感じの世界観なんだな、わかりやすくて非常に助かる、興味ないけど。
「ば、化物ですか? というとエイリアンとかクリーチャーとかそんな感じの……?」
「え、えいりあんにくりーちゃー……ですか? いえ聞いた事ない言葉なのでわかりませんが……すみませぇん……」
そういえばムセンは宇宙人みたいなもんだった。
宇宙人とファンタジー人には共通しない言葉なんだな魔物とかエイリアンとかって。俺はどっちも知ってるけど説明しない、絶対。だって面倒くさいから。
そんな会話をしていると入り口の扉が開いた。
「皆様、お待たせ致しましたね。二次試験はワタクシが勤めさせて頂きますね。宜しくお願い致します」
副試験官の秘書が入ってきた。ハゲはどうしたんだ? 左遷でもされたか?
「二次試験は簡単な身体能力と筆記試験……そして『適性武器』を決めるだけとなりますね。ですからワタクシのみで審査させて頂きます」
「……『適性武器』……ですか?」
「はい、人にはそれぞれ自分に最も適した武器がございますね。それを適性武器と呼びます。それは職業に依ったり、今までの生きてきた環境に依ったり性格に依ったり様々な場合がございますね。警備兵は護身具の他に一つだけ適性武器の携行が許可されていますのでね。合格者の者には合格した後、それぞれの適性武器が配布されます」
「なーんだ、試験ってそれだけなのー?」
「はい、実際のところ……一次試験で警備兵にとって必要なものを皆様は持っていると判断致しましたので皆様は既に合格としても構わないのですね」
「……警備兵に……必要なもの……それって何ですか?」
「………『不屈の精神力』、いついかなる時も……警備兵に甘えは許されません。警備兵が逃げたり諦めたりしてしまえば……警備するものはいなくなってしまいますからね」
「……精神力……」
「勿論試験ではございますから……試験を通過しない場合もありますね。体力や頭脳が基準値に満たなかったり、適性武器が何もない場合……それは仮に警備兵になったとしても早々に死を招く結果となりかねませんのでね……警備兵たる資格無しと判断させて頂きます」
「なるほど……でも私に適性に扱える武器などあるのでしょうか……? 私……ほとんど武器になるようなものを使った事がないのですが……イシハラさんはどうですか?…………って寝てる!? 起きてくださいイシハラさん!」
「ZZZ話が長すぎるzzzz」
「それ寝言なんですか!? 起きてるんですか!? しっかりしてください!」
「それでは筆記試験から始めさせて頂きますのでね、皆様お座りください」
そして俺達は席について試験を始めた。筆記試験は小学生レベルの簡単な問題ばかりだった。
「あなた方御二人はこの世界について知らぬ事ばかりでしょうからね、簡単な問題とさせて頂いております。御二人が通過した暁にはこの世界においての軽い講習を受けて頂きますね」
なるほど。これはただ人として最低限の知識があるかどうかみているだけの筆記試験のようだ。
まるで学生のテストようにペンが走る音が室内に響く。
〈50分後〉
「終了となりますね、では続いて身体能力値を測らせて頂きますね。まずは試験ナンバー1、セーフ・T・シューズさん」
「はーい」
この試験も学生がやるような軽いものばかりだった。ダルくなくて非常に助かる、合格ラインはよくわからないが適当にやればいいか。
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「全員の測定が終了致しましたのでね、最後に適性武器を判断させて頂きます。ではまずは試験ナンバー56番ムセン・アイコムさん。そしてナンバー21番スズ・キイチ・ロウさん。並べられている武器から直感的にで構いませんので一つ手にお取りくださいね」
「は、はい!」
「ひゃいっ!」
ムセンとスズキさんは並べられている武器を眺めウロウロしている。ざっと見ただけで、剣、刀、レイピア、槍、鎚、弓、杖、鎖鎌など多種多様で二人共迷っているようだ。
「で、ではこれで……」
「私も……」
ムセンが手に取ったのは杖、スズキさんは剣だった。
うむ、まぁムセンは回復役なんだから普通なら杖だろう。けど何かムセンもスズキさんもイメージに合わないな、俺の勝手なイメージだけど。
「よろしいですね? では……」
秘書女がそう言うと静電気が走ったような音が響いた。胸元から取りだした『鞭』が床を叩き鳴らした音だ。
秘書女のイメージぴったしだ、なるほど。あれは確かにあの秘書の【適性武器】なんだろう。
「ひぃっ!?」
「……え?……アマクダリさん……? 何を……?」
秘書女は鞭を構え、ムセンとスズキさんに対峙する。
「適性武器検査はワタクシと戦う事で判断します、ご安心を。手加減しますので死ぬ事はありませんので、ね」