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一級警備員の俺が異世界転生したら一流警備兵になったけど色々と勧誘されて鬱陶しい  作者: 司真 緋水銀
第一章 一流警備兵イシハラナツイ、勤務開始

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七十八.ジョブタレントチェンジ


「王女様の体がっ……光ってますっ……!?」

「そうよ、ムセンちゃん。あれがさっき話した職業の秘密の一つ……『職業適性変化(ジョブタレントチェンジ)』。職業は上位にランクアップする他に本人の気質や経験の変動によって稀に適性が変わる事があるのよ。これで第二王女は名実共に……奴隷からの脱却を果たしたというわけね」


 エメラルドの周囲の光はエメラルド本人にも乗り移り、その体を輝かせる。この事を知ってか知らずか皆一様に驚いた顔をして見ている。


 ただ一人、エメラルドの母を除いて。

 エメラルドの母は安堵したような、喜んでいるような表情をしてうっすら目に涙を浮かべていた。なるほど、あの母親からはクズの匂いがしなかったわけだ。

 最初からこれを狙っていたわけか。


「……ぁぁ……良かった……本当に……良かった……エメラルド……」


 エメラルドの母は両手で顔を覆い、崩れ落ちた。

 そしてよろよろと立ち上がり、エメラルドを抱き締める。


ギュッ……


「エメラルドッ……ぐすっ……」

「お母様……これは………どういう事なのでしょうか……と、わたしは疑問に思います……」

「………私達の国の王族には……古来から伝わるしきたりがあります……それは……『産まれた子が王族に相応しくない職業適性だった場合、子殺し……間引きを行うものとする』。【奴隷】という適性はまさにその間引きの対象でした」

「!!」


「職業検査後……エメラルドを部屋に閉じ込め、長い時間をかけ夫や臣下達と話し合いました……古くからの慣習とはいえど、間引く子が産まれたのは数世代も前の事……魔王到来よりも前の事です。そんな風習は無くすべきだと……私は反対しました……夫も……王として家臣の前では毅然とした態度をとっていましたが……私と二人の時は頭を抱え悩んでいました。何とかして回避する術を見つけなくては、と……」

「………」

「そして……職業適性変化に懸けてみる事にしたのです。……家臣や賢人達を言いくるめた後、私達は【奴隷】という職業のあらゆる事について調べました。そして判明したのです……過去に例のあった話として……奴隷適性の人物が自由を求め続け何十年も抗い、戦い、自由を勝ち取った事があると。【奴隷】は脱却できると。……その脱却方法は『道具として飼い慣らされた状況で自由を求め戦い続ける心を持つこと、そして、やりたい事を持つ事』……その日から私達の辛い日々が……いえ、一番辛かったのはエメラルドでしょう……戦いが始まりました」


 エメラルド母は泣きながら、ゆっくりと話を続けた。

 王と王妃はエメラルドの所在を隠し、城に保護しつつエメラルド自身がいつかこの状況で自由を得る事を望む日を待ち続けていたらしい。

 【奴隷】の脱却には『本人が奴隷である事を認識しつつ、自身の意志でそれを棄てる強い心を持たなければならない』。

 エメラルドの侍女に事情を話し侍女を通じていつも見守っていた、と。

 エメラルド本人に事情を話す事はできなかった、10歳のエメラルドには理解できないと思っていたし、何より事情を話す事で自分自身での望みを持たなくなってしまう事を恐れて。


 冷たい態度をとりつづけた、そうすればそれに抗う強い心を持ってくれると、六年間信じ続けたのだと。


「……もう母と呼ばれなくなってもいいから……恨まれてもいいから……エメラルドが希望を持って生きていけるようになればそれでいい、その一心で……私達は変化が起こる事を待ち続けました……しかし、そんな時……外から事情を掴んだ者が現れました。そちらにいる……マルグラフ候です」


 マルグラフ候は名指しされ、何か慌てたような表情をした。


「……外からでも事情を掴んだ者がいる、それは時間の制約がかけられた事を意味しました。いつまでもエメラルドの存在を隠してはいられない……きっと、私達が慣習に逆らい……エメラルドを匿っている事は明白と断ぜられる……私達は最後の賭けに出る事を決意しました。それがマルグラフ候との縁談話です」

「……何ですと?」

「今は明言を避けますが……裏のある見知らぬ男との結婚……これに逆らえなければもう手立てはありませんでした……その場合は……エメラルド共々……心中も覚悟して……本当に……勝手な母でごめんなさい……エメラルド……怖かったでしょう……辛かったでしょう……苦しかったでしょう……一緒にいられなくてごめんなさい……」


 エメラルド母はより強く、エメラルドを抱き締めた。


「……お母様っ……では……わたしは……王女であって良いのですかっ……お父様やお母様の……家族であってっ……よろしいのですかっ……!?」

「当然でしょう……? あなたは私の娘……たとえ何者になろうが私の子……それだけは変わらない、ごめんなさい……ごめんなさい……エメラルドッ………」


 それを聞き、初めてエメラルドは悲哀以外の感情から生まれる涙を母の腕に雫(こぼ)した。


「うっ……ぅうっ……おかあさまっ……わたしはっ……寂しくて……悲しくて……いつも……辛さを感じずには、いられませんでしたっ……それに慣れてしまう自分がっ……本当は怖かったのですっ……だけどっ……抜け出せなくてっ……」

「うん……うん……わかってるわ……あなたは奴隷なんかじゃない……道具でもない……私の大切な子……いつも……ずっとそう想い続けていたわ……それはこの先もずっと変わらない……よく頑張ってくれましたね……ありがとう……エメラルドッ……」


「…………………………ぅっ……ぅうっ……うわああああああああああああああああああああああああああああああんっ!!!」



 エメラルドも大声で泣いた。

 まるで幼子のように、10歳児のように、その時からの時間を取り戻すように。


 そしていつまでも母と強く抱き合っていた。


「よかっだ……ぅぅ……良かったでずぅ……王女様……」


 何故かムセンも泣いている、何だこいつ。

 まぁ早めに一件落着して良かった、ここで母親が登場しなければ隣の国まで行かなきゃならんところだったな。


「ふふ、イシハラ君はそれでもきっとぶつぶつ言いながら最後まで王女の面倒を見たんでしょうけどね? 段々あなたの事が掴めてきたような気がするわ」


 宝ジャンヌが近寄ってきて俺に言った。

 こいつ、いちいち俺の事を過大評価しすぎじゃないか。


 まぁ、もう全て終わったし帰って飯だ。

 雰囲気に水を差す事なく、さっさと帰るとしよう。










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