カガミとマクラ。(第6期キャラクター紹介)
《各務 凉の場合》
ぼくの世界は、いつだって望まないコトで満ち足りている。例えば喫茶店で出てくるコーヒーのシュガーの数。気を利かせてか一本だけ添えられたソレは、まるで「私のことが必要なんでしょ?」と言わんばかりにツンとその角を尖らせていて。反発してブラックのまますすろうものなら、
「………………にげぇ」
さっさと諦めてシュガーの封を切る。けれど、ぼくの場合は一本じゃ足りない。だから二本目、三本目だって欲しいんだけれど、生憎セルフ・サービスじゃないわけで。
これ以上の追求は諦めて、苦味に屈服した甘味を探るようにスプーンで底をかき回す。ざらついた感覚を確かめてから、苦味を覚悟してそっとカップの中身を飲み干した。
望まないことが多いのは、何もコーヒーのことだけじゃない。例えば信号の待ち時間。例えばふと見上げた空のひとしずく。例えばくもりガラスに映る自分の顔。例えば………………いや、これ以上はキリがない。とにかく数え切れないぐらい数が多いんだ。
でも、一番の望まないことは。
(………………また、大きくなってる)
鏡に映した自分の身体にそっと爪を立てる。柔らかな弾力を覚えるその手のひらの内には、膨らんでいく嫌悪の塊を写し取ったかのように日に日に育つ胸。手の届くところにハサミがあったらあるいは………………いや、そんなことをしてももう戻せないんだ。
―――私の、あの日々は。
《可児 愛瑠の場合》
「んっ、ここがいい♪」
むぎゅっと抱いた枕をぽふっと草の上に置くと、後は重力に身を任せてごろんと転がる。全身におひさまを浴びてカラダがだんだんぽかぽかしてきた。
「ん〜、今日もおひるね日和だねぇ」
一人でそう呟くと、あとはぐっすり夢の中に入るだけ………………と思ったら、横の草むらがなんだか がさごそし始める。
「………………ネコ? 」
その言葉にうにゃっと返事が返ってくる。ぶちネコが草むらからにょきっと出てきて、私の横の草むらをふんふんと匂いをかぐ。
「ここの特等地はあげないよ?」
しっしっと手を振って追い払おうとしても、そんなの知らんよとばかりに私の横にお腹をつけて伏せる。
「………………私のおひるねのジャマしないならいいよ」
めんどくさくなってそのまま目を閉じると、今度はまた草むらががさがさし始める。しかもさっきより大げさに。
「またネコぉ………………?」
増えないでよぉ、私が転がれるスペースが減っちゃうよぉ………………
「待ってぇネコちゃーん………………あれ? 」
ひょこりと出てきたのは、高等部の制服を着た子で。
「おねーさん、なにしてるの?」
「おや、いらっしゃーい♪」
うふふ、この子ならお昼寝の良さを分かってくれそう♪
「ねぇきみっ、お昼寝は好き?」
「おひるね? うーん、ねるのは好きだけど、おひるねはしたことない。」
「えー、それは勿体ないよぉっ!? ここはポカポカだから一緒にお昼寝しよ? ね?」
「えぇっ!? でも、こんなとこで寝たら、おこられちゃうよ?」
「大丈夫だよぉ、お昼寝すると気持ちいいよ? ほら、ネコもたくさんいるし」
「ほんとだっ、ネコちゃんだっ」
呼んだ? と言うようにぶちネコが目を開けて、中等部の子の方を見る。かと思えば一目散に逃げていった。
「あっ、ネコちゃんまってぇ」
………………あ、行っちゃった。
うーん、お昼寝は楽しいのに、なんでみんな分かってくれないんだろう?
まぁいっか♪ 今日はぽかぽかだし、このチャンスを逃すわけにはいかないよねっ♪
それじゃ、おやすみぃ………………ぐー………………