2話目 人参畑で追跡調査
オレンジジュース、グレープジュースなどのソフトドリンクを販売して利益を稼ぎたい分けではなかった
自分だけが独占的に甘い飲み物を飲んでいるという状況を作り出し、悦に入りたいというそんな欲望が芽生えた
まずは自分の精神的欲求を満たしたい
人より良い思いがしたいのだ
ただ自分だけジュースを飲むという子供みたいなことで・・・
素材が売っていそうな店が閉まってそうなので高級宿に戻り、睡眠をとった
起きるとまずは洗浄魔法で完璧な衛生状態を保った、とても楽だ、この部分だけは元いた世界より快適だ、1日二回魔法を唱えるだけで良いから、洗浄魔法の消費MPは0.01だった、1%以下の消費MPは通常は表示されないが、ステータスを詳細に切り替えると細かく表示された
鑑定
洗浄魔法
この世界の誰もが生まれると同時に神から無償で付与される魔法、消費MPが非常に少なく、MPがゼロの人間も極微量のHPを消費すれば使用可能、神からの贈り物と呼ばれている
こちらの世界の神は全ての人間の衛生状態を良くしておきたいんだな、神が人間に紛れて御忍びで冒険者をしたりしてそうだ
「そう言えば宿に鏡が無いな、平たい金属を磨き上げて顔を映す銅鏡ぐらいは売っているかも知れない、今度さがしてみるか」
宿を出る、結構明るい
もう外がかなり明るくなってるな、この時間は店がしまっているから午前中は冒険者ギルドに行って依頼で時間を潰そう
時計が無いから太陽光の明るさで時間を推論する
結構日が出ているので体感的に朝の9時ぐらいだ、曇りの日は何時か良くわからないだろう、これでは待ち合わせとかかなり体感的な時間感覚を持っていないと遅刻してしまいそうだ
冒険者ギルド
朝から床に男が転がっている、理由は知らない
俺は受付で冒険者カードを提示して森のグリズリーを解体し売却したときのポイントが入っていないか効いてみる
「ええ、カード情報の更新が終わったのでギルドポイント入ってますよ、森のグリズリーは薬屋組合と農耕ギルドと住民組合から害獣指定されているCランクモンスターですね、合計で4体倒してますね、FランクからEランクに昇格です」
受付の女性はさほど驚きもせず淡々としている
「今年は森のグリズリーにもう8人もやられたんだよ、ありがとな」
知らない剣士が暗い口調で話掛けてきた
・・・仲間でも殺られたのだろう
そっとしておこう・・・
Eランク掲示板を見る
モシャモシャの追跡調査
危険度C
人参畑に出没するモシャモシャというウサギ型モンスターを追跡調査して巣の場所を突き止める、ウサギ型モンスターは高レベルモンスターであるため戦闘は推奨しない
追跡調査のみであるためEランクから参加可能
場所 人参畑
報酬銀貨8枚
追跡に有効なスキル持ちは金貨1枚を報酬とする
危険度が表示された依頼は初めてみたな、Cランク以下の者は戦闘するなという意味かな、今俺はEランクだから2つ上のランクの敵か・・・ハイリスクな割に銀貨8枚か、気配探知は追跡に有効なスキルにはいるのかな
「そいつは止めとけ、外れ依頼だ」
「ええぇ、そうなんですか?」
バトルアックスを装備したドワーフが話掛けてきた、ドワーフは見た目では何歳か分からないが立派な髭が生えていて背は子供並みに小さい
全体的に装備品が高レベルっぽいので鑑定で見て見るとランクはCランクでレベルが15だった、この冒険者ギルドの中堅クラスの実力者だろう
忠告してくれているらしい
「モシャモシャは素早い、追跡スキルのマーキングでもなければ見失ってしまうぞ、その割に報酬は銀貨8枚だ」
「マーキングスキルはまだ持って無いです気配探知でもいけますかね」
「さあどうだろう、気配探知に加えて隠密と消臭を組み合わせたらどうにかなるかもな、Eランクにそんなスキル持ちはいないだろうがな」
スキル3つ無いと無理なのか・・・
「まあ、無理っぽいですね私はEランクですし、でも今日の午前中は暇なんで畑を少し見に行ってきます」
「モシャモシャは強いぞ、絶対に戦うなよ、発見もされるな、まず逃げ切れないからな」
プライドの塊みたいな歴戦のドワーフにここまで言わせるとはモシャモシャってよっぽど強いモンスターなのかな・・・
人参畑
人参畑にやって来た、モシャモシャというウサギ型モンスターの見た目がどんなだか興味があったし、畑にも興味があったからだ
果実や薬草や料理の材料、それに観葉植物などを生産しながらまったりと楽しむプレイスタイルも有りだろう
元の世界に変える気が湧いて来ない、多分せっかちな女神様に言えば元の世界にあっさり帰されてしまいそうで呼び出すのが怖い
折角異世界に転移してきたのだからやりたいように楽しんでみよう
まず目の前に大量にある人参でも盗むか?そんなことを考えていると、50メートルぐらい先の人参畑の中に何か生物がいるのを目にする
「かなり小さいなあれはモグラか?」
歩いて近づいて行くとモグラは美味そうに人参をガリガリかじっている
鑑定
灰色モグーラ
野菜を食害する
「まあ見た目可愛いしモグラは放置で良いだろ」
その後も数百メートルぐらい歩きながら畑を見回る美味そうに人参をかじる灰色モグーラをたまに見かけるが動物の気配がしない
俺は休憩して竹製の水筒から水を飲む
10分後
見知らぬ四つ足の生物がよたよたと森から歩いてくるのが見える
あれは?モグーラより少しでかいのがいるな、リンゴ2個分ぐらいの大きさだ
鑑定
針り飛ばしネズミン
野菜を食害する
近づくと無数の毒針を飛ばす、毒性は強くないが刺さると強烈な痛みがあり腫れる
「近付かない方が良いな、この畑食害されまくってるな、放置して良いのだろうか?」
さささっ
「ん、何か素早い奴がいる」
さささっ ひゅん さささっ ひゅん
さささっ ひゅん さささっ ひゅん
さささっ ひゅん さささっ ひゅん
「人参抜かれてる、スゴい早さだ残像しか見えない、放置してたら畑全部やられるぞ、あれがモシャモシャだろうな、食害レベルが桁違いだ」
モシャモシャはもふもふした感じの毛に包まれていて、朝ギルドで見かけたドワーフと同じぐらいの大きさに見える
危険なので鑑定の射程距離 3メートルまで接近出来ない、それに今回は追跡調査依頼だ
潜伏スキルで身を隠してじっと様子を見る、
幸いこちらは風下で臭いを察知されずらいし普段から洗浄魔法をしようしているので体臭もしない
となれば後はあのでかい耳で音を察知されなければいけるだろう
気が付けばモシャモシャは畑の30%を食害した挙げ句、大量の人参を袋詰めにして持って帰ろうとしている
「何てでかい袋だよあれは後500本はパクってく気だぞ、畑根こそぎじゃねーか、最悪な害獣だな・・・俺が盗む分が無くなるじゃねーか・・・」
モシャモシャは器用に紐を引っ張って袋を閉じると袋を背中に背負い二本足で立ち上がり普通に森の方へ歩いて行く
食べ過ぎたらしく腹はパンパンに膨れ上がりもう残像が出せないみたいで歩行速度も早くはない
「警戒心ゆるゆるだな・・・本当に強いのか?」
追跡調査開始
気配探知の射程ギリギリまで距離を保ちつつ、風下から追跡していく、どうにか気付かれずにすんでいるみたいだ
森が少し開けた道にさしかかり更に奥へ進む、モシャモシャの前から何かがやって来た
狼の群れだ!
狼の群れはモシャモシャとの距離を素早く詰めると、直ぐに散開してモシャモシャを四方八方から包囲した
ワオォーン
ガウッ!ガウッ!
ぎゃん
ボキッ
しゅつ
ボキッ
しゅつ
ボキッ
しゅつ
モシャモシャは人参の袋を背負ったまま襲ってくる狼を左手で無造作に掴み握力だけで軽く首を捻り折って殺し、袋に詰めるという行為を繰り返している
狼は鑑定出来ない距離にいるが戦闘速度から推察すると狼タイプのモンスターでかなり高レベルだと思われる
それを無造作に殺していく・・・
こえぇー 怖いー
モシャモシャって狼食うのか・・・
狼達が一斉に逃げだした
モシャモシャは袋から人参を何本か掴み逃げる狼達に投げ付けた
石ころ並みの固さに硬化した複数の人参が投げナイフのように飛ばされ狼達の脳天を次々に砕き即死させた
狼の群れが全滅するまでに5分と掛からなかった
更に森の奥へ進む
リス顔の獣人が表れた
「おい、リスマン、人参買ってくれ、狼の肉もあるぞ」
信じられない光景を見た・・・
モシャモシャが喋っている
あいつ喋れるのか!?
盗んだ人参をリス顔の獣人に売却しようとしてやがる
「そうだなそこの人間の肉も付けてくれたら金貨50枚で買い取りたい」
気付かれたようだ
「あああいつか、もっと奥へ連れていってから殺る気でいたが・・・運ぶのが面倒なんでね、ここで売れるのなら同じことか」
最初から気付かれていたようだ
モシャモシャは死体を運ぶのが面倒だっただけ、人参の袋で片手塞がってるからな
リスマンが仕掛けて来た
腰に差した小型の双剣を抜き俺の方に走ってくる
「こいつ、双剣使いかっ」
同時にモシャモシャは人参の袋に手を突っ込んだ
「さっきの人参が来る!」
リスマンがもう目の前にいて双剣を!
「双剣技、ドングリ!」
ドン、グリグリグリ
ドン、グリ
先にリスマンが攻撃を仕掛けてきた、上段から同時にドンっと二連激、即座に刃を回転させグリグリっと傷口を広げようという凶悪な双剣技をくりだしてきた
ガツン
俺はリスマンを峰打ちで叩き気絶させた
無数の人参が飛んでくる、固さは石、速さは拳銃並みだ
「魔力操作!」
俺は人参に掛けられていた硬化の魔法を魔力操作で反転させて、お豆腐の柔らかさに変えた
べちゃっ
べちゃべちゃ
人参が俺の顔面を直撃した
「人参がー、お豆腐みたいに潰れてかかったー、良くもやりやがったなウサギめっ!」
「お前が魔力操作で固さを反転させたんだろ・・・」
「絶対に許さんぞウサギー!べっちゃべちゃじゃないかーっ!」
ボカ ボカ
ボカ
モシャモシャを討伐した
レベルが11上がりました
手加減を覚えました
逆ギレを覚えました
手加減
殺さずに倒す
逆ギレ
怒る原因が無くても狂戦士状態になれる
「お前ら反省しろよ、外見がもふもふしているから殺さずにいるけども」
その後
モシャモシャを尋問しながらコールドリーディングで嘘かどうか判定し、巣の場所を聞き出した。
モシャモシャ村
モシャモシャが50体程いる
捕らえていたモシャモシャとリスマンを解放してやった
「人間よ何のようだ」
モシャモシャ側の代表者がやって来た、俺がモシャモシャを捕縛しながら村に入って来たので険悪な空気だ
「人参を盗み過ぎるな、500本は盗み過ぎだ、農家が廃業するだろ、ギルドに依頼が出ているぐらいだ、近い内に掃討作戦が始まるだろう、その前にこの地を去るんだな」
「それは出来んな、なぜなら安住の地を動くのが億劫だからだ、この地に居れば労せずして人参が手に入る、そしてお前を始末すれば村の場所も知られまい」
ピーッ
モシャモシャ代表者が敵襲を知らせる笛を吹くと
モシャモシャ村人達が家の中から大量に出てきた、100体程のモシャモシャに取り囲まれた
「かかれ」
モシャモシャ代表者の号令でモシャモシャ達が一斉に襲ってきた
ドン
ドン
ドン
ドン
カッ
ドン
ドン
カッ
ドン
ドン
カッ
カッ
俺は装備していた王宮兵士の剣に水魔法で水をコーティングして刃の鋭さを無くして棒状の武器としてウサギ達をドンドン叩きながらお仕置きしていく たまにこめかみを叩いてやると骨にぶつかって カッ とおとが鳴る・・・ 音ゲーみたいだ
「参ったー、参ったー、降参だー!」
モシャモシャ達は半泣き状態で降参した
レベルが20ぐらい上がりました
「毛並みがもふもふしているから殺さないでいてやるが、次にやったらもふもふの毛皮を剥いでもらっていくからな」
ウサギ達は毛皮に手をやりながら戦慄した
「村は30分後にファイヤーボールで全て燃やしていくから、要るものとか整理しとけよ」
モシャモシャがここに居座ればギルドの討伐隊と戦闘になる、そうなれば人間側にも死傷者が多数出ることは目に見えている
俺は結局人間側の味方で、これは人道上放置出来ない事態だ
モシャモシャが知性を持った獣人、亜人のような存在であったことも追跡調査依頼の結果としてギルドに報告しておこう
「ええぇー、村、燃やすんですか?」
モシャモシャ代表者は真っ青になった
「それ以外無いだろ、人間が強いのは今分かったろ、
戦えばお前達は全滅する」
俺は現実的な話をした、モシャモシャ側に色々言い分が有っても結局人間は来るのだ、そしてコイツらは人参を盗み過ぎたので善の側にいるわけでも無いし、俺を殺害して死体を肉として売却しようとした凶悪な奴等だ
「少し待って下さい、私がギルドに同行してギルドマスターに直接降伏を申し入れたいのです、村を焼き払うのを待ってもらえませんか」
「・・・代表者よ、人間側に全滅降伏を申し入れるのだな、こちらとしても話し合いで解決出来るならばそれにこしたことは無い、幸い双方にまだ死人は出ていないのだから」
「あっ、この間からギルドから追跡調査に来た奴等ちょいちょい殺してリスマンに肉として売却しちゃってたんですが・・・」
そんな危険な依頼の報酬がたった銀貨8枚だと・・・
あのドワーフの言った外れとは本当だったんだ・・・
「・・・色々不安もあるが代表者が話せば事態が好転する可能性もあるだろうギルドまで同行してくれ」
歩く
歩く
歩く
森を抜けクローバータウンに入り
畑を通り抜け市街地へ歩く
モシャモシャを連れて町を歩く、道行く人達が怪訝そうな表示を浮かべる
コイツの連れウサギ型の獣人にしか見えないが、ウサギ型の獣人なんて見たことが無いぞという顔をする
ウサギ型モンスター、モシャモシャは余りの強さ、凶悪さのために調査が進んでいなかったため、町の住人達にはモシャモシャはウサギ型モンスターだと認識されている
故に獣人のように平気で人間と連れだって歩いているコイツがモシャモシャだとは誰も気付かない、モシャモシャの正体をしらないのだから
冒険者ギルド受付
「モシャモシャの追跡調査依頼が完了したので報告に来ました」
「はい、冒険者をカード出して下さい追跡調査の内容を直接聞きたいので担当者と奥の部屋にいってもらえませんか?」
「はい、関係者一名を同行させてもよろしいですか?」
「はい、そちらの獣人の方ですね」
ウサギ型獣人なんていたっけ・・・
初めてみたわ
「そうです」
ここで話したらパニックになると判断して詳細は奥の部屋で話すことにした
冒険者ギルド応接室
革張りの椅子が向かい合うように4つ配置され間にテーブルがある
部屋の奥には机と椅子が一つ配置されている
「モシャモシャ追跡調査依頼の報告をお願いします」
テーブルを挟んで
担当者が向かい側に座り
俺とモシャモシャは並んで座った
「単刀直入に話します、今目の前にいるコイツがモシャモシャです、モシャモシャは二足で歩き、人の言葉を理解出来ます、モシャモシャとは未確認の獣人だったのです」
「・・・んっ・・・モシャモシャって危険度Cランクですよね・・・」
「はい」
「大丈夫なんですか?」
「大丈夫です、問題無いです」
「ギギ、ギルド、ルド、ギルドマスターを呼んで来ますんで少々お待ちを・・・」
あっ、逃げた
30分後
武装したギルドマスターと屈強な護衛5人が入ってきた
「そいつがモシャモシャか、鑑定を掛けるぞ構わないな」
鑑定
名前 ウッサ・ギルス
レベル22
種族 半獣人モシャモシャ
モンスターや動物に近い獣人
人の言葉を理解出来る知能を持つ
クラス
モシャモシャ代表者
能力補正
素早さプラス8
筋力 25
魔力 32
速度 33
外見 0.5
スキル
硬化人参弾
速度強化
士気上昇
「種族のところ確かにモシャモシャって書いてあるな」
モシャモシャはギルドマスターに事情を説明した後身柄を拘束された
「モシャモシャ達とは外交関係を結べる可能性があるので町長に報告する、その間モシャモシャの身柄はこちらで預かり外交上の代表者として扱う」
どうなるかまだ分からないがとりあえず
俺のモシャモシャ追跡調査依頼は成功判定になり 追加ボーナス金貨180枚が支給された
懐が暖かい
今日は高級素材でも買い漁って美味い料理でも作るか