03
「任せるって……。私次第ってこと?」
「ん……」
「じゃあ親友だね!」
「ん!?」
レヴィアが驚いたように勢いよくこちらへと顔を戻してくるが、アスカとしては当然のことだ。レヴィアから離れたいという意志を示してこないのなら、関係はあの頃のままだ。安心して頬を緩めていると、何故かレヴィアが顔を赤くしていた。しかしすぐに、神妙な面持ちになって、言う。
「でも、アスカ、私は、あなたの両親を……」
「あー……。うん。そうだね……」
それを言われると、アスカも困ってしまう。だが、あの時の感情は希薄になってしまっているのも事実だ。先ほどの料理は不意打ちで思い出してしまったが、それを過ぎると過去の思い出の一つになってしまう。
薄情と言われてしまうかもしれない。否定もできない。だがアスカも、五十年で様々な出会いと別れを経験したし、別れの中には目の前で死なれてしまったというものもある。だから、そんなものなのだ。
それでも気になるというのなら。
「じゃあ、レヴィア。一発だけ殴らせて」
「ん……。分かった」
レヴィアが素直に頷き、立ち上がる。アスカは彼女の側まで歩くと、拳を振り上げて、思い切り、力も魔力も全てこめて、殴った。
レヴィアの体が吹っ飛んでいく。いくつかの木々をなぎ倒して、地面に倒れて。そして何事もなかったかのように起き上がって戻ってきた。いたっていつも通り。傷一つついていない。むしろアスカの手の方が痛い。
「理不尽だ」
アスカが頬を膨らませると、レヴィアは肩をすくめて、
「この程度なら、問題ない。それに……。十分、痛かった」
そこまで言って、レヴィアは俯いてしまった。そうしてレヴィアの口から漏れてきた言葉は、
「ごめん、アスカ。巻き込んで、ごめん」
謝罪の言葉だった。
アスカも、言葉に窮してしまった。正直、巻き込まれたことについては、アスカとしてはどう言えばいいのか分からない。
巻き込まれていなければ、アスカは両親と暮らして、結婚して、子供に恵まれて、そんな生活をしていたかもしれない。ただそうなると、アスカは無二の親友を得られなかった。
どちらがいいと聞かれれば、アスカには選ぶことはできない。レヴィアも大切な存在だから。
だからアスカは、何も答えることはせず、黙ってその謝罪を受け入れた。
お互いに椅子に座り直し、さて、と仕切り直しをする。一つ目が終わったので、次だ。
「うん。次だね。ちゃんと親友って確認も取れたし!」
「ん……」
「親友って確認も取れたし……!」
「う……。いや、あの、もういいから……」
「親友だから!」
「…………」
真っ赤になって俯くレヴィアはかわいいと思う。にやにやと意地悪く笑って見つめていると、レヴィアは小さく鼻を鳴らして、
「ん。もういいってことだね。じゃあこれでお開きってことで」
「ああ! ちょっと待ってそれはひどい!」
「ふん……」
レヴィアの機嫌が少しだけ悪くなっていることを察して、アスカは続きを話すことにした。もっとも、このレヴィアの不機嫌がただの照れ隠しというのは分かっているが、あまり指摘すると本当にまた姿を消されかねない。
「レヴィア。答えたくなかったら、答えなくてもいいからね」
先にそう前置きしておく。眉をひそめるレヴィアに、アスカは言った。
「レヴィアの過去を教えてほしい」
「……っ!」
レヴィアがわずかに目を見開く。そしてすぐに、考えるように天を仰いだ。やはり、話しにくいことなのだろうか。
「レヴィア。その、別に無理に話してもらわなくても……」
「んー……」
不意に、レヴィアが右手を上げた。次に左手を上げて、ぱんと音を立てて合わせる。そして次に手を開いた時、レヴィアの右手には小さな光の玉が浮かび上がっていた。ん、とそれを差し出してくる。
「えっと……。なにこれ?」
「記憶」
「へ?」
「見た方が早い」
ずい、とレヴィアが身を乗り出してきて、そのまま光の玉をアスカの手に押しつけてきた。
そして次の瞬間、アスカは目の前が真っ暗になっていた。
・・・・・
その村は、人族と魔族が共存する珍しい村だ。あらゆる場所、あらゆる国で戦争が起こっている中、この村は静かにあり続けた。戦いに疲れた人間が最後に逃げてくる場所。それがこの村だ。
レヴィアはその村で生まれた。人族の両親の間に生まれたレヴィアは、当然ながら人族の娘だった。ただ他と違う点は、他の人よりも赤子でありながら魔力を多く持っていたということだ。理由は分からないが、かといってこれで差別が起こるような村ではなく、他の子供と同じように、大切に育てられた。
変化は、突然だった。前触れはなかった。
「んー……」
簡素なベッドから体を起こしたレヴィアは、ゆっくりと伸びをして立ち上がった。なんだか妙に体が軽い。足取り軽く、両親に挨拶をする。
「おとーさん! おかーさん! おはよう!」
そうして挨拶したレヴィアを見た両親は、二人揃って絶句していた。
「どうしたの?」
首を傾げるレヴィアに、父が恐る恐る歩み寄ってくる。そしておもむろに、口を開かされた。困惑するレヴィアに何の説明もせぬまま、父は口の中を見て、そして深くため息をついた。
「レヴィア。昨日、何か変わったことはなかったかい? 何かに噛まれたとか」
「んー? 特にないよ?」
「そうか……。そう、か……」
その後は、何故か朝食を後回しにして、村長の家へと連れて行かれた。そして両親の口から、思いも寄らない言葉が発された。
「村長。どうやら私共の娘が、吸血鬼になってしまったようです」
村長はもちろんのこと、当人であるレヴィアも驚愕した。そんなばかなと口に指を入れて、そしてそれに気が付いた。牙がある。両親が驚いていたのはこれか。
「まさか……。吸血鬼が村の中にいるのか!?」




