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真祖赤姫  作者: 龍翠
第一話 冒険者の卵
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01

 木造の建物が数多く並ぶ町。当初より計画的に作られているこの町は、居住区と商業区で明確に区分けされている。大きな道には木々が植えられ、緑に恵まれた町だというのがすぐに分かるだろう。

 その町の中心には、他よりも大きな建物がある。この町ができるきっかけとなった建物。冒険者養成学校だ。危険な探索を生業とする冒険者を育てるための学校であり、近辺の様々な町から冒険者を志す者が集まっている。老若男女様々で、在校生は二百人ほどにもなる。


 その少女も、この学校に通う生徒の一人だ。

 学校の外にある訓練場で、その少女は木剣を握り、教わった通りの構えを取っていた。長い金髪に褐色の瞳を持つ少女で、一目で快活そうな印象を受ける。年は十六になったばかりだ。

 その少女と相対するのは、セミロングの黒髪黒目の少女。気怠げな瞳からはやる気というものを感じられないが、こう見えて彼女はこの学校随一の実力者だ。何故未だ学校に通っているのか分からないが、教員たちは金さえ払ってくれるなら別にいいという考えらしい。

 今は、これから模擬戦闘を行うところだ。金髪の少女は緊張の面持ちなのだが、黒髪の少女はいつもと変わらない。それが少し、憎らしい。


「今日こそは私が勝つよ、レヴィア」


 金髪の少女がそう言うと、レヴィアと呼ばれた黒髪の少女は特に表情を変えることなく、


「期待している。アスカ」


 短くそう告げた。

 期待なんてしてないくせに、とアスカと呼ばれた金髪の少女はわずかに顔を歪める。しかしすぐに気を取り直し、レヴィアへと向かっていった。




「今日で九十五戦、九十五敗……。どうしたら勝てるの!」


 学校の教室で、アスカは自分の机に突っ伏していた。教室は一人用の机が二十ほど並ぶ部屋だ。座学の時は教員が正面に立ち、様々なことを教えてくれる。放課後はよく自分たちの教室でその日の復習をしたり反省点を考えたりとしていた。

 アスカの目の前には、レヴィアがいる。いつもの気怠げな瞳でこちらを見つめているが、特に悪意は感じられない。それもそのはずで、このレヴィアという少女は普段から表情の変化に乏しいだけだ。感情の起伏はあるようだが、それも親しくならなければ分からない程度だ。

 レヴィアとはアスカがこの学校に通い始めた頃からの付き合いだ。レヴィアの意図は分からないが、入学当初からよく一緒にいてくれている。理由を問うたことはあるが、何となく、というものだった。


「アスカには才能がある。頑張るといい」


 無表情なレヴィアの言葉。一応本当にそう思ってくれているのは分かるのだが、ここまで勝ちがなければ疑ってしまいそうになる。


「ねえ、レヴィア。私は本当に強くなれるの? レヴィアに勝てるようになる?」

「…………」

「どうして目を逸らすの?」


 あからさまに目を逸らすレヴィアに小さくため息をつく。だが、アスカはこの友人を憎めないでいる。レヴィアがこのような態度を取るのは自分だけだと知っているから。

 この友人は、他人に対してほとんど興味がないようで、自分以外と会話をしている姿をほとんど見たことがない。話しかけられれば応じはするが、最低限の言葉で終わってしまっている。

 その理由を知ってはいる。それは、レヴィアにかけられている呪いのせいだ。


 レヴィアは、不老だ。老いることなく、今の姿のまま変わることがない。その呪いのせいでいままで多くの苦労があったのだろう、初めて会った時から、レヴィアは周囲から距離を取っていた。

 だからこそ、何故アスカに良くしてくれているのか分からない。分からないから最初は不安だったが、今となってはもうあまり気にしていない。アスカにとって、レヴィアは大切な友人だ。


「いつかレヴィアより強くなるからね! レヴィアの隣に立てるように!」


 アスカがそう宣言すると、レヴィアはわずかに目を細めて、小さく頷いた。




 アスカが強くなろうとしている理由は、父の背中を見て育ったためだ。父もこの町の学校で育ち、卒業してからは町の守衛として働いている。そんな父は、外の情報に貪欲だった。特に、赤姫という存在について、調べていた。

 真祖赤姫。現在確認されている唯一の吸血鬼。千年もの昔からその猛威を振るう化け物であり、彼女が現れた土地の生き物は全て殺し尽くされてしまうという。これはただの伝説ではなく、今も続く事実だ。


 赤姫は、この世界の脅威として君臨し続けている。一年か二年に一回、突然姿を現し、町を蹂躙する。生きていくために必要な血を求めているのだろうと言われているが、実際のところは分からない。分かっていることは、姿を現したが最後、その土地の人間は皆殺しにされるということだ。

 当然ながら、今も最優先討伐対象とされていて、多くの国が協力して倒そうとしているが、相手は神出鬼没の吸血鬼。なかなか捕まらないのが現状だ。


 いや、これでは誤解を生むだろう。例え運良く討伐隊と赤姫が鉢合わせたとしても、何も変わらない。何の気まぐれか、赤姫は次に襲う場所を知らせる場合がある。その度に連合軍が総力をあげて挑みかかるが、その結果は赤姫が健在であることを考えれば言うまでもないことだろう。

 なぜ場所を知らせてくるか。これは一度、赤姫が実際に口を開いたことがあるらしい。

 曰く、殺せるものなら殺しみろ、と。赤姫にとっては、人間との戦いすらも娯楽のようなものなのかもしれない。


 父がこの赤姫について調べているのは、いつこの町に現れても対処できるようにだ。対処だなんて言っているが、実際は逃げることしかできない。父は、自分が時間を稼いで家族を逃がすつもりでいるらしい。そう、話してくれた。

 アスカにはそれが許せなかった。父を見殺しにすることなんてできない。だからこそ、アスカは強さを求める。いつか、赤姫が現れた時に、父と並んで戦うために。そして、赤姫を打倒するために。

 それに、今この町には、天才のレヴィアもいる。あの子が協力してくれるのなら、きっと赤姫打倒も夢ではないはずだ。

 それが終われば、レヴィアと二人で、冒険者として旅に出ても面白いかもしれない。


「そんなわけで、赤姫を倒せたら一緒に旅でもしようよ」


 実際にレヴィアを誘ったことがあったりする。今でも時折、言っている。それを聞いたレヴィアの反応はいつも決まって、そうだね、という感情のない言葉だった。


壁|w・)しばらくは説明回がてらの日常です。

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