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真祖赤姫  作者: 龍翠
第二話 真実への探求者
18/42

05


 自宅にたどり着いたクラウが、今までの研究者の末路についてアスカに話すと、アスカは興味深そうに目を細めた。予想と違った反応に面食らうクラウに、アスカが言う。


「なるほど、分かった。つまり私は、クラウを護衛すればいいんだね」


 何故そうなるのか。絶句するクラウに、アスカは笑顔で言う。


「心配しないで。私はこう見えてそれなりに強いからね。クラウのことは守ってあげる」

「いや……。いやいや、待て! もしかしたら、赤姫自身が殺しに来るかもしれない! 危険だ!」

「それならそれで良し。私は赤姫に会いたいからね」

「ああくそ、そんなこと言ってたな……!」


 アスカが何故赤姫に会いたいのか。それは分からない。今まで気にはなっても、聞くことはしなかった。だが本当にその目的なら、説得は不可能だろう。むしろ嬉々として調べ続けそうだ。

 説得の言葉を探していたクラウだったが、にこにこと楽しげにしているアスカを見て、これはだめだと諦めた。何を言っても無駄だ、と。


「クラウの方はいいの? 殺されるかもしれないよ」

「その時はその時だ。今更他に仕事なんて考えられないし。赤姫が直接殺しに来るなら真意を聞いてやる。呪いなら、どんな呪いなのか書き残してやるさ」

「狂ってるね」

「お前にだけは言われたくない」


 それもそうだ、とアスカは笑う。いつもの笑顔に、クラウも頬を緩めた。


「なあ、アスカ」

「なに?」

「お前が赤姫を探す理由は何なんだ?」


 本当なら、聞くつもりなどなかったことだ。だがこうして、実際に命がけになるかもしれないのなら、彼女の目的を聞いておきたい。もし何かがあり、自分だけが生き残ってしまった時は、彼女の目的を代わりに果たすために。

 その考えが分かったのか、アスカはわずかに目を見開き、そして微笑んだ。だがそれはいつもの朗らかな笑顔とは違い、どこか悲しげな笑顔だった。まるで、痛みを必死に堪えているような。


「あ、いや、答えたくないのなら、別に無理にとは……」

「んー……。いや、答えるのはいいんだけど……。できれば、町の外で話したいかな」

「町の外?」

「うん。万が一にも人に聞かれたくないからね。明日、ギルドで何か依頼を受けるから、一緒に行こう」

「町の外にか……」

「大丈夫。ちゃんと守ってあげるよ」


 それは助かるが、女の子に守ってもらうというのは男としていかがなものか。クラウが顔をしかめていると、アスカは小さく首を傾げた。男のプライドなんてアスカに分かるはずのないものだろう。


「まあ、いいか。分かった。明日は一緒に行こう」

「うん。よろしくね」


 クラウが頷くと、アスカはとても嬉しそうにしていた。

 ちょっとだけ、デートみたいだ、なんて思いそうになるが、町の外だ。そんな浮ついた気持ちでいてはいけないだろう。

 気持ちを引き締め、明日に備えることにした。もっとも、クラウが準備できることなど何もないのだが。




 翌日。クラウはアスカと共に冒険者ギルドに入った。

 実はクラウは冒険者ギルドに入ったことがない。何かしらの素材が必要な研究をしている者ならともかく、クラウのそれは町の中にある資料で事足りる。わざわざ冒険者ギルドに来る必要はなかった。

 ギルドの中は、なかなか騒がしい。大勢の冒険者が集まり、雑談や相談をしている。何枚もの紙が貼り付けられている掲示板を見ている者もいた。


「ここが冒険者ギルドなのか……」

「うん。来るのは初めて? 感想は?」

「冒険者ってこの町にもこんなにいたんだな……」

「そっち?」


 くすくすと笑いながら、アスカはクラウの手を引いて掲示板へと向かう。

 周囲を見る。この部屋にいる者はほとんどが冒険者なのだろう。何かしらの武器を持っている者ばかりだ。


「アスカじゃない! なによ、彼氏?」


 女の冒険者がアスカに声をかける。小柄な女で、短剣を腰に吊っていた。


「違う違う。調べ物を手伝ってくれてる人。ちょっと色々あって、一緒に依頼に行こうかなって」

「へえ……! 色々、ねえ?」

「変な疑いをかけないでほしいなあ!」


 女とアスカが言葉を交わして笑い合う。どうやら随分と仲がいいらしい。

 会話が終わった後に聞いてみると、しかし予想外の答えが返ってきた。


「友達? まさか。ただの知り合い」

「ただの知り合い? それにしては、随分と仲が良さそうというか……」

「あはは。まあ私たちはいつ死ぬとも知れない冒険者だからね。一緒に仕事することなんてほとんどないし、知り合ったら誰もがあんな感じだよ」


 冒険者は他の町へと旅立つ者も多く、昨日まで会っていた者がその後二度と会うことがないというのも多いらしい。だからこそ、彼らは出会いを大切にする。無理に合わせるようなことはしないが、かといって喧嘩をすることもなく、馬が合えばその場限りの友人となる。

 クラウには想像できない世界だ。けれど、冒険者というのはそういうものらしい。

 さて、と掲示板から依頼を探す。どれにしようかと悩むアスカを見ていると、ギルドの扉が勢いよく開かれた。


 そちらへと目を向ければ、大柄な男が入ってくるところだった。整った顔立ちに、様々な装飾のある服を着ている。おそらくは貴族だろう。続けてもう二人、鎧を身に纏った騎士が入ってきた。貴族の護衛だろうか。

 突然の貴族の登場にギルドが静まり返る。貴族は特に気にした様子もなく、依頼が貼り出されている掲示板まで、つまりは自分たちの方へと歩いてきた。


「ふむ。失礼」

「あ、すみません」


 クラウが慌てて道を譲る。どうやらこの貴族はまともな方らしい。

 人族も魔族も例外なく、土地を治める貴族というものは存在する。平民の自分たちにとって、彼ら貴族は二種類に大別される。傲慢か、そうでないか。傲慢な貴族は平民を下に見て我が物顔で振る舞うのに対し、そうでない貴族は平民を庇護の対象と見て、平民の声に耳を傾ける。

 もっとも、どちらにも共通して言えることは、基本的には関わり合うことがないということだが。

 その貴族がこうして冒険者ギルドに足を運ぶ姿など初めて見た。アスカも気になっているのか、掲示板の側から離れて、その貴族の動向を見守っている。

 やがて貴族は落胆のため息をつくと、カウンターの方へと歩いて行った。


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