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真祖赤姫  作者: 龍翠
第二話 真実への探求者
17/42

04

 おそらくレヴィアは、何か問題がある町があれば、そちらを優先している。だがなければ、無作為に選んで襲っている。今のところはそう結論づけている。

 では、何故襲うのか。

 これについては、分からない。五十年調べても、全く分からない。


 いや。予想はある。もしかしたら、というものはある。確証も証拠もない、ただの推測。それでも、可能性として考えているものはある。

 だがそれは、ないと思いたい。思いついた時には愕然とした。違ってくれと思い、違う理由を探そうとこうして調べ続けている。だが、未だに可能性を否定できてはいない。

 もしも、アスカが考えていることが正しければ。

 あまりにも、レヴィアが報われない。

 アスカは少しだけ目を閉じ、自然と暗くなっていた思考を切り上げて、広げられている資料の一つを手に取った。


   ・・・・・


 アスカが自分の家に寝泊まりするようになってから、一ヶ月が経過した。なにやらクラウが少女を連れ込んでいると噂になったり、町の衛兵に事情聴取されて誤解を解くのに必死になったりとちょっとした事件はあったが、今のところ何事もなく過ごしている。

 アスカは二日に一度程度だけ、冒険者ギルドで何かしらの依頼を受けて出かけているが、それ以外はこの家でクラウと共に資料を読みふけっている。

 アスカはまだ少女のように見えて、かなり物知りだ。どのような生活を送ればそれだけの知識を得られるのか、と思うほどである。

 いや、はっきり言えば、かなりおかしい。


 彼女は冒険者として世界中を巡っているという。旅の話を聞いたこともあるが、どれも嘘とは思えない、説得力のある話ばかりだった。そんな話がいくつもあった。

 この、十代に見える少女が、そんな話をしていた。

 おかしい。冒険者の登録に年齢制限などないが、それでも疑念は尽きない。例え十歳で旅に出たとしても、それほどまでに多くの経験が積めるとは思えない。

 彼女は何者なのだろう。

 疑問に思うが、聞くようなことはしない。調べるつもりもない。初めて得られた仲間だ。もう少しだけ、一緒にいたいと思う。


「それじゃあ、資料の交換をしてくるよ」


 クラウがそう声をかけると、アスカが顔を上げて言う。


「あ、私が行くよ、クラウ。いつもの場所だよね」


 三日ほどで慣れたのか、最初の堅苦しさはどこへやら、今では随分と打ち解けていると思う。呼び捨てになっていたり、気安い口調になっていたりというのがその証拠だろう。


「いや、気にしなくていい。買い物もついでにしてくるから」

「そう……? 分かった。じゃあ、うん、掃除ぐらいはしておくね」

「あー……。そうだな。助かる」


 アスカは何かしらの家事を手伝おうとしてくれる。最初は遠慮していたのだが、どうにも本人が落ち着かなさそうだったので、今では結構任せてしまっている。

 アスカに見送られて、家を出る。資料を借りてきた建物へ向かおうとして、

 ぞくりと。唐突な悪寒に身を震わせた。

 なんだ、と思いながら周囲を見る。悪寒を覚えたのはクラウだけのようで、道を行き交う人々はいつもと変わらない。気のせいか、と歩き出そうとして。

 目の前に、一人の少女が立っているのに気が付いた。


 アスカよりも少し幼く見える少女だ。セミロングの黒髪に黒い瞳。どこにでもいる、普通の少女。その少女が目についた理由は、彼女が真っ直ぐにクラウのことを見つめているからだ。

 その少女に見覚えはない。初対面のはずだ。それなのに、何故彼女はこちらを見つめているのだろう。

 気にしても仕方がない。そう自分に言い聞かせ、歩き始める。少女は動かない。ただ、じっと、クラウのことを見つめている。

 そうして彼女の目の前まで来た時、ようやく口を開いた。


「あなたが、赤姫について研究している人?」


 感情を感じられない、平坦な声だ。その声に薄ら寒いものを感じながら、クラウはそうだと頷いた。


「悪いことは言わない。手を引いて」

「なんだって?」

「赤姫を研究する人がいなくなった理由を、気にした方がいい」


 それはクラウも気になったことがある。だがそんなことを調べる時間があるなら、研究を進めたいと思った。なので、調べたことはない。


「何を研究するかは、俺が決めることだよ。君はどこの子だ?」

「…………」


 少女は何も答えず、ただ小さく、落胆のため息をついた。踵を返して、歩き去ろうとして、


「おい!」


 クラウが呼び止めると、少女は煩わしそうに振り返った。


「君は、何か知ってるのか?」

「ん。知ってる」


 クラウの目が見開かれる。対する少女は無表情のままだ。クラウになど、最早興味などないかのように。


「君が、真実に近づかないことを願うよ」


 少女はそう言うと、今度こそ立ち去ってしまった。クラウが呼び止めても、今度は振り返りすらしなかった。




「赤姫を研究した人? え、もしかして知らなかったんですか? 物好きな人もいるなとずっと思ってたんですが」


 あの少女の言葉が気にかかり、蔵書庫の受付に聞いてみたところ、返ってきた答えがそれだった。つまりは、それだけの何かがあるということだろう。


「半数近くが死んでますね」


 その言葉に、クラウが絶句してしまった。そんなクラウへと、男が続ける。


「自殺とか、他殺とか、事故死とか、まあ理由は色々ありますけど。何かしらを知った者は赤姫に呪われる、なんて言われて、まあ騒ぎになったみたいですね。真相なんて誰も分からないので、自然と赤姫の研究が消えていきました」


 知らなかった。愕然とするクラウと、首を傾げる男。


「調べているなら自然とこれも知ることになると思うんですけどね」


 なるほど確かに、今までそれについて触れられなかったことが不思議でならない。誰かが、意図的に隠さなければ、絶対に気づいたはずだ。

 では、誰が?

 目の前の男を見てみる。男は本当に不思議そうにしている。演技の可能性もあるが、それを見分けることなどクラウにできるはずもない。


「いや……。まあ、いいか」


 今更気にしても仕方のないことだ。もう赤姫の研究を止めるつもりはない。せっかくの忠告だが、無視させてもらうことにしよう。

 資料を交換して、自宅へと向かう。足取りは、少しだけ重い。

 死ぬ可能性がある。それに恐怖を覚えるのはもちろんだが、それ以上に気がかりなことがある。

 アスカだ。

 アスカも、赤姫について調べている。今までの研究者のことなど、アスカは知らないだろう。教えてあげた方がいいかもしれない。

 仲間が減ってしまうのは悲しいが、本当に赤姫に呪われるならそうも言っていられないだろう。クラウは自宅へと急いだ。


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