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真祖赤姫  作者: 龍翠
第二話 真実への探求者
14/42

01

壁|w・)第二話開始、なのです。


 住んでいた町が赤姫によって滅ぼされて、長い月日が流れた。もう五十年近くになる。あの時に抱いていた悲しみも憎しみも、かなり薄まってしまったものだ。

 それでもまだ、レヴィアへの想いは変わらない。今も変わらず親友だと思っているし、その親友の真意を知りたいと思っている。それが、昔から変わらない旅の目的だ。

 未だ当時から変わらない姿のまま、金級冒険者であるアスカは次の町へと向かっていた。


   ・・・・・


 書物の町、レスタ。世界中からありとあらゆる書物が集められる都市だ。どこの国にも属さず、人族と魔族との間で不可侵の協定が結ばれている町であり、唯一赤姫が不可侵の協定に同意した町でもある。

 赤姫から襲われる心配がないということで人気のある町だが、この町に住めるのはそれぞれの国が認めた研究者とその家族だけだ。これといった名所や名物もないため観光にも適さず、外から来る者は少ない。文字が読めて本に興味がある者は、旅行先の一つとして選択肢に入っているそうだ。


 この町には所々に五階建ての大きな建物がある。これらの建物は全て書物の保管場所であり、入りきらなくなる度に新しいものが建てられるということを繰り返している。

 研究者たちは分野ごとに集まり、与えられた研究所で己の研究に没頭している。ある集団は魔道具を造り、ある集団は新たな魔法を構築し、そしてまたある者はある存在を調べている。

 クラウはその町に暮らす研究者の一人だ。黒髪黒目の青年で、年は二十になる。自分が住んでいた国から与えられた小さな家屋で、たった一人で研究を続けている。クラウが調べているのは、赤姫に関することだ。


 クラウが赤姫に興味を持ったのは十歳の時だ。赤姫という存在を知り、その脅威を知って。他の子供たちが恐怖を覚える中、クラウだけは別のことを考えていた。

 どうしてたった一人で、そんなことを続けているのかな、と。

 興味の赴くまま、クラウは赤姫に関することを調べ始めた。

 クラウが生まれ育ったのは小さな漁村だ。決して裕福というわけではなかったが、行商人に頼み込み、手伝いをすることを条件に漁村と最寄りの町を往復して、その町で調べられるだけ調べていった。

 だが当然ながら町で調べられることには限界がある。赤姫の研究なんて誰もしていないのだから当然だ。昔は赤姫の弱点を探ろうと多くの研究者がいたらしいが、今はもう、そういった人間は数人しかいないそうだ。


 町で調べられることに限界を感じて途方に暮れていたところ、漁村に領主が訪れた。ここの領主は人望があり、それは漁村でも変わらない。視察として村を巡っている領主に相談したところ、驚くことに国王に紹介されて、その国王の許可と支援を受けて書物の町レスタで暮らすことになった。

 未だ目立った成果は上げていないが、それでも国から支援を続けてもらっている。クラウは自分の国に恩を感じながらも、今日も赤姫について調べ続けている。




 真祖赤姫。千年もの昔に現れた吸血鬼であり、絶対的な恐怖の象徴。それでいて、明確な姿は誰も知らず、謎に包まれた存在だ。千年前に残された記録から赤い少女の姿をしているとされているが、その赤が何を示しているのかまでは分からない。

 今もなお実在している存在でありながら誰も姿を知らない理由は、単純明快に、見た者は全て殺されているから。時折滅ぼされた町の生き残りがいるが、彼らは全て、赤姫襲撃時に町を離れていただけのことだ。誰も姿を見ていないことに変わりはしない。


 五十年ほど前に赤姫の姿を見ていながら生き残った少女がいたらしいが、忽然と姿を消したそうだ。赤姫討伐の手がかりを握る重要人物として大規模な捜索がなされたが、どれだけ探しても見つからず、赤姫に連れ去られ殺されてしまったのだろうと結論づけられた。


「まあ生き残ってても、もうおばあちゃんだよなあ」


 当時の資料をめくりながら、クラウは苦笑する。当時に生まれていさえしたら、せめて捜索隊に加わっていたというのに。

 クラウが今いるのは、研究所兼自宅の家だ。家にあるのは一般的な家具ばかりで、本棚はない。毎朝書物を借りに町を歩き、昼に読みふけるということを繰り返している。

 最近は赤姫が町を襲撃する基準を調べているが、皆目見当もつかない。人の多い町を襲っているかと思えば、小さな村を滅ぼすこともある。


「わっかんねえ!」


 うがあ、と頭を抱える。だがすぐに気を取り直して、他の襲撃についての資料を見る。成果が得られないことなどいつものことだ。そんなことでうじうじ悩んでいる暇があるなら、他の資料を読んだ方がましだ。

 赤姫そのものについては謎に包まれていても、資料だけは膨大だ。襲撃された町村の資料だけでも百冊近い。千年分の資料なのだから当然と言えば当然か。保護魔法という便利な魔法が開発されていなければ、間違い無く昔の資料は残っていなかっただろう。

 だがだからこそ、ありすぎて分からない。襲撃の傾向を調べても、千年分もあればいくつか共通していることなどいくらでも見つかる。全てに共通しているものはなく、かといってある程度の共通点で探せばあまりにも数が多すぎて基準にならない。


 せめて赤姫の次の襲撃場所が分かればいいのだが。しかし調べた限りでは、やはり無作為に選んでいるとしか思えない。

 それとも、何か隠れた理由があるのだろうか。

 クラウが調べられるのは、町の基本的な情報ばかりだ。町の裏で何かなされていたとしても、それは分からない。そういったことに詳しい人間が知り合いにいればいいのだが。


「ないものねだり、だな」


 クラウはため息をつくと、テーブルの資料を片付け始める。借りていた本は全て読み終えたので、一度返しておくことにする。ついでに、気分転換を兼ねて散歩でもしようか。

 そんなことを考えながら、クラウは大量の本を抱えて自宅を後にした。




 未だ昼前のためか騒がしい町をクラウがのんびりと歩いていく。本は重いが、何度も往復しているのでもう慣れたものだ。時折挨拶をしてくる者に会釈しつつ、歩を進める。

 レスタに住む者は研究者が多いが、当然ながら彼らにも家族がいる。数は少ないが商店もあるため、他の町と大差ない。買い物を楽しむ人もいれば、元気よく遊ぶ子供たちもいる。そんな人々の営みを見ていると、少しだけほっとしてしまうのは何故だろうか。


 クラウが向かうのは、この本を借りてきた建物、第五蔵書庫だ。蔵書庫は本を保管している建物のことで、数字は建てられた順番に付けられている。本の種類ごとに管理されている、というわけではなく、本は入った順番に蔵書庫に入れられるため、探すのはとても不便だ。

 入った後は蔵書庫ごとに管理されるため、覚えればまだましではあるが。

 やがて目的の場所、第五蔵書庫にたどり着いた。他よりも大きな建物だが、大きさだけで造りはあまり変わらない。扉を開けて中に入れば、大量の本棚が迎えてくれる。


 一階にのみカウンターがあり、このカウンターで貸し出しと返却の登録をすることになる。登録と言っても、専用の紙に名前と借りた本を書くだけの簡単なものだ。本来なら証明書などがいるそうだが、蔵書庫で本を借りるのは研究者ばかりで、何度も行くことになるのですぐに覚えられてしまう。その後は証明書の提示は求められず、顔を見せるだけで良くなる。

 それでいいのかとも思うが、今のところ問題が起きたことはないそうなので大丈夫なのだろう。

 今日もクラウがカウンターへと向かうと、そこに座っていた若い男は笑顔で出迎えた。


「いらっしゃい、クラウさん。返却ですか?」

「ああ。頼む」


 名前を言わずともあちらから確認してくれる。便利ではあるのだが、覚えられるほどに借りたということでもあるので、複雑な心境だ。

 男が、前回クラウが書いた紙を取り出し、内容を確認する。全て間違い無くあることを確認すると、笑顔で頷いた。


壁|w・)五十年間は赤姫さんが関係なくなるのでばっさりいきました。

アスカがどんな冒険をしていたかはご想像にお任せします。

……気が向いたら、番外編として書く、かも?

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