外伝61話 創造主の母 課題地獄鎮魂編
毎年恒例の4月1日ですね!
今年のエイプリルフールまでの期間は短かったです。
漫画の監修作業や、執筆依頼があった作品を考えたりと、充実してたのが原因でしょう。
それでも、正確には途中までは全然余裕と構えていましたが、年末から一変しました。
母が倒れ3か月少々の闘病の末に亡くなりました。
その間も、辛うじて作品の投稿は遅れずにできましたが、エイプリルフールネタを忘れていました!
それに気が付いたのが3月某日!
大慌てで書き上げた作品です。
フィクションでありノンフィクションであり、エイプリルフールですが、信長Take3にテーマの一つ、鎮魂の話でもあります。
(――暗い。私は死んだ……のね――)
真っ暗な闇の中でふと自分の死に様を思い出した。
人生における最大の危機に遭遇し『絶対に生き延びてやる』と頑張るも、治療かなわず果てた。
(……? 果てた……? そうだ、私は果てたんじゃないの?)
果てた日と同じく真っ暗な闇の中で、今の状況を確認出来る自分の思考に驚いた。
(人間あっけないわねぇ。こんな突然死んじゃうなんて。父さん、母さん、兄さん、それに旦那に息子達。それと友達や職場……え? 今、この考える事が出来る状況は何?)
確認しようとして、それが出来ない事に気が付いた。
(目は、耳は、鼻は、声は……手は……足は……機能している……の?)
何も感じないが、全ての機能を失い、考える事も出来なくなって以来の、突如の思考の開始に驚く。
力を入れようと足腰に意識を向けたが、そもそも自分が立っているのか寝ているのか判らなかった。
(何この感覚? 鳥の様に空を飛べたらこんな感覚なのかな?)
無論、浮いた事など有ろうはずが無い。
つまりは、五感の全てが狂っているとしか思えない事を察知した。
(こんな状態じゃダメだったのね。ダメだった? 何で? そもそも……私は誰だっけ?)
そんな事を思っていると、突如、聞いた覚えのない声が響いた。
(創造主の聖母……! 松岡睦月様(仮名)……!)
(ママさんニャ!)
(さっさと起きて撫でるニャ!)
(マツオカムツキ……? 誰かが私に話しかけている? 撫でる……ニャ?)
何者かの必死の呼びかけが聞こえるが、その声に心当たりがない。
あと『ニャ』がなんなのか分からない。
(思いだして下さい! 貴方の息子の作品『信長Take3』を!!)
(息子の……作品……信長Take3……ニャ? ……アッ!?)
その瞬間、全ての感覚が繋がり、睦月は覚醒した。
「キャッ!? こ、ここは!? ICUじゃ……ない……わね……。私はクモ膜下出血で倒れ……キャッ!?」
松岡睦月と呼ばれた人間が呼びかけに反応して、覚醒し起き上がった。
それと同時に2匹の猫が飛び込んできた。
物凄い勢いでゴロゴロと喉を鳴らし頭をこすり付けている。
「貴方達(猫)は……覚えがある……でも他は……それにここは?」
2匹の猫を抱えながら見渡すと、眉を顰める処ではない素っ頓狂な格好をした者が先頭に、その後ろに時代劇の役者なのか武家の正装をした男女が数人。
さらに後ろには、ここが天国と断定できない禍々しい存在がいる。
だが、全員土下座で、先頭の素っ頓狂な格好をした変な髪色の者だけが片膝立ちだ。
ここのリーダーなのだと察せられる。
「ようこそ5次元空間へ。ここは魂とパラレルワールドの世界」
「ぱ、パラ? パラレルワールドは聞いたことあるけど、ご、5次元? でも魂ってことはあの世……」
「そうだニャ!」
「だから会えたニャ!」
「そ、そう……猫が喋ってるものね。あの世よね……」
「この時の為に猫達の魂を探し出して、復活させました。ついでに意思疎通もできますよ!」
「それは凄いけど、後ろの方が何というか……地獄感が凄いと言うか……」
睦月がリーダーの後方に目を向けると『天国と断定できない禍々しい存在』即ち、崇徳、平将門、菅原道真が発する禍々しい何かが現世でないと察した。
フィクション、CG、AI画像にしては存在感があり過ぎる。
本物にしか見えないのだ。
お陰で猫が喋る怪現象どころでは無かった。
「多少は知識をお持ちの様ですね。松岡睦月様が生きていた次元は3次元+時間の4次元です。これは良いですね?」
「え、えぇ」
本当は良くないが、とりあえず話を聞くことにした。
「実は最近分かった事なのですが、人間死ぬと、5次元空間に辿り着き眠りにつくんです。でも私がその魂に干渉する技術を開発しました」
「す、凄いのねぇ……? って事は、ここはあの世であり、未来?」
「そうです。御母堂様」
「ごぼどーさま……御母堂様? 誰の?」
「流石に記憶が混濁してますね。貴方は信長Take3創造主、松岡良佑の母親なのです」
「信長Take3、松岡良佑は聞き覚えがある……気がする」
「じゃあ記憶整理の為にも、貴方の人生を振り返ってみましょう」
岡園家に生まれて高校受験の際に母を脳腫瘍で亡くし、就職して松岡良清と結婚し、長男良佑、次男睦佑を産んだ。
それから数十年後、良佑が猫達を拾ってきたくせに猫アレルギーが発覚して、自分たちで預かった。
その後、良佑が予想外の小説受賞の報を知るも、漫画単行本発売17日後、クモ膜下出血を発症し、治療の甲斐無く亡くなった。
そして約1億年に至り復活した。
「どうですか? 思い出しましたか?」
「『たった6行』と『そして1億年後』ってのがすっ飛ばし過ぎな気がしますが……」
「いけません!」
「ッ!?」
「『地の文』はあまり読まないのが、この世界のルールですので気を付けてくださいね。ペナルティがある訳ではないですが、そうそう使っていい手段ではないので」
「ち、チノブン? え、ええ、危ないのは分かりました。でも6行は……ッ!?」
激しい剣幕では無いが有無を言わさぬ迫力が、眼前の素っ頓狂な格好の娘から感じられ、睦月は押されてしまった。
「あ、でも思い出しました……意識不明の私に、一生懸命語りかける家族や親戚、友達が……それに亡くなった官兵衛(猫)と小十郎(猫)!!」
後は声にならなかった。
90歳は生きると豪語してただけに恥ずかしい。
息子達に人生の何たるかを教えなければならなかった。
次男の釣った魚が楽しみだった。
長男の小説を応援したかった。
夫にも、もっと料理を覚えてほしかった。
いろんなところに旅行に行きたかった。
友達と井戸端会議に花を咲かせたかった。
定年退職したのに飲み会に誘ってくれる同僚が嬉しかった。
また最大の楽しみであった旅行。
ただ、何故か旅行前に体調不良になる事が何回かあった。
だが検査しても問題なしで、数日で回復していた。
息子に『遠足前の小学生か!』って突っ込まれた。
それで、今回も旅行前に体調不良になったと思ったら、ありえない不運の連続で、それが死に繋がるとは想定外だった。
小十郎(猫)が亡くなった2年後、官兵衛(猫)が亡くなった7ヶ月後。
後を追う様に死んだ。
まだまだやる事があったのに、無念の後悔が押し寄せる。
「まだですよ御母堂様。実は、御母堂様にはやる事は山積みなんです。貴女は信長Take3を生み出した創造主の聖母。まだ、漫画も小説も途中でしょう? 完結する前に亡くなったのですから」
「あっ……そうだったわ。良佑が『あの世で読んでね』って耳元で言ってたっけ……え? まさか?」
睦月は、久しぶりに会う亡くなった猫を撫でながら、何か嫌な予感を察知した。
「はい。死後の話なので御母堂様が知らぬのは仕方ないですが、QRコード、超古代の化石の如き技術ですが、小説が記録されたモノがあります。創造主は小説を全部プリントアウトして棺に押し込めようと考えたそうですが『6563枚!? 両面印刷でも3281.5枚!? プリンターがぶっ壊れるわ!』と嘆き、苦肉の策としてQRコード入り名刺を棺に入れました。あの世で読み込めって事でしょう」
「棺に入れたって事は燃えたのよね? 燃えたものを元に戻せるの?」
「はい。魂にくっ付いてきたので復元しました。余程の執念を込めた名刺だったのでしょう。『No.☆1』と書いてありました。特別No.の名刺だそうです。で、小説は亡くなった時点で約270万字ですね。時間は無限にあるので、私たちの活躍と、それを描く創造主の歴史への愛を確認してください」
ファラージャが嬉しそうに言うが、睦月は顔色が悪い。
「あの今の時点で270万字って……まだ増えますよね? きっと」
「まぁそうでしょうね。記録によれば創造主は『500万字は行きそうだ』と言ってますね」
「500万字!? あ、あの、言いにくいのですが……私、歴史は苦手でして……」
「えっ」
衝撃の言葉が睦月の口から飛び出した。
「江戸庶民を題材にした話は好きなんですけど、戦国時代の登場人物は多すぎて誰が誰だか分からないんです。良佑には言ったんですけどね?」
「え!?」
「あの子が小さい頃、誕生日プレゼントとして『日ノ本の歴史』だったかしら? 勉強も兼ねてそんな漫画をプレゼントして大ハマりしたのは知ってますが、こんな小説を書き上げるのは想定外でした。そもそもピアニストになって欲しかったのに、作文は当然、日記すら嫌いな子だったのに、どうして小説なんか……」
「な、なら漫画版信長Take3はどうですか?」
こちらは棺に収まる量だったのでしっかり入れた。
まだ当時は発表前の原稿もだ。
特別大サービスだぞ!
「私、漫画自体があんまり好きじゃなくて……読むには読みましたが、中々読み進められなくて……。ゆっくり読もうと思ったら死んでしまうありさまでして。さっきも言いましたが、戦国時代の登場人物はほとんど知らなくて……歴史の勉強も苦手でしたし……」
「えぇ!?」
ファラージャ以下、諸将が驚き戸惑う。
「創造主の聖母が歴史アレルギー!?」
この場にいる居並ぶ歴戦の武将達が驚愕で卒倒しそうになる。
「あ、あの御母堂様、某は斎藤道三と申しますが記憶にありませぬか?」
「あ、それは大河ドラマか何かで聞いた名前ですね。……新聞のTV欄で」
「聞いた名前……程度ですか……TV欄……」
道三が複雑な表情で沈み込む。
「そ、それじゃあ、某、斎藤義龍は!?」
「義龍さん? ご、ごめんなさい……分かりません」
「ゴハッ!」
義龍は言葉の一刀両断で切り捨てられた。
「あ、あの朝倉宗滴と申しますが、某はどうでしょう?」
「朝倉? あ! 一乗谷城は旅行で行きましたよ! ソーテキさんは……ソーテキ? 義景さんの子孫?」
「そこまで分かって何でぇぇっぇぇッ!?」
宗滴は断末魔をあげた。
「せ、拙僧はどうでしょう? 太原雪斎と申しますが……」
「雪斎さんの名前は息子がしきりに説明してましたね。『これがパーフェクト今川家なんだよ!』とか。息子の言葉からするに今川家の武将ですか?」
「武将!? ま、まぁそう言う役割も果たしましたが……武将……」
雪斎は辛うじて致命傷で済んだ。
「じゃあ当然、深芳野と言う名前は……」
「ミヨシノ……どこかの野原、地名……じゃないんですよね?」
「え、えぇ……流石は戦国時代。本当に女の名が残らない時代なのね……」
深芳野も致命傷で済んだ。
「ククク! フハハハハ!! 皆情けないのう! ワシは信長の父信秀! さすがに知っておろう!?」
皆の無様な姿を高笑いしつつ信秀が聞いた。
流石に人気殿堂入りの信長の父を、知らぬハズが無いのは分かり切った事。
故に余裕だ。
「あ……。言いにくいのですが、信長の父はそんな名前だったんですね?」
「ギャァァァァァムッ!?」
信秀は謎の力でブッ飛ばされ、致命傷を負い気絶した。
「怨霊の皆さんはどうします?」
睦月無双の惨状に、ファラージャが残りの怨霊に一応確認を取った。
返り討ちに合うのは目に見えていたからだ。
「さ、流石に我等は知っておるじゃろう?」
言葉とは裏腹に、自信なさげに崇徳天皇が答えた。
「某の首塚は古代も厳重に守られているなれば絶対知っているはず!」
「わ、ワシは学問の神として大宰府天満宮に祭られておるから!?」
「き、貴様ズルいぞ!? 貴様だけ観光名所ではないか!!」
「あっ! 太宰府天満宮は夫と共に旅行で訪れました。菅原道真さんですね?」
「おぉ!! ……じ、じゃあ怨霊としてのワシは?」
手ごたえを感じた道真が喜ぶ。が――
「怨霊だったんですか?」
「……うん」
道真の存在が消えかけた。
己の半分を否定されたのだから当然か。
「わ、我はどうかな? 崇徳帝として日本最強の怨霊として大事に祀られているハズなのじゃが……百人一首にも名前があるハズなのだが?」
崇徳が崇徳らしからぬ慎重さで尋ねた。
「ストク……息子が必死に説明してた様な? 『徳』がつく天皇は……何だったかしら?」
「……崇徳の贈名は?」
「あっ『徳』の意味を思い出しました! 『崇』められ『徳』がある天皇だったから崇徳ですね!? あれ? でも怨霊?」
「ゴハァッ!! 『徳』意味を間違えている! それにしても最強怨霊たる我にここまでダメージを与えるとは、さすがは創造主の聖母か!!」
将門が小さな小さな声で尋ねた。
完全に自信を無くしている。
飛び回る生首も小さくなってションボリしたり、猫に追いまわされ逃げている。
「平のマサカド……源平合戦の方……?」
「予想通りの答えで違ぁぁぁうッ!!」
将門は霧散した。
「流石、創造主の御母堂様! 強い! じゃあ織田信長は!?」
ここに居ない信長の代わりにファラージャが尋ねた。
「それは流石に知ってるわよ! 馬鹿にしないでもらえる!? 無抵抗の僧侶を大虐殺した人でしょ!? それで本能寺の変で死んだんでしょ?」
「……まぁ、諸説ある一つとしては正解ですが。じゃあ斎藤帰蝶は?」
「知りませんが、どうも斎藤さんが多いですね?」
「あ、じゃ、じゃあ濃姫ならどうですか?」
斎藤帰蝶がマイナーな名前と悟ったファラージャが、一般に馴染み深い方の名前で尋ねた。
「それなら知ってます。信長の妻ですよね? ……あれ? そう言えばソレしかしらないわ。あ、息子が言ってた様な? 『謎の人』って」
「ウグッ!!」
帰蝶のクローンたる胡蝶もちょっぴりダメージを負った。
「流石ママさんニャ!」
「死屍累々ニャ!」
「あんた達と喋れるのを夢見てたけど、もっと落ち着いた場所が良かったわね……。あと別に倒したい訳じゃないけど……」
全員討ち取った後だけに、誇らしい、とは思わないのが睦月。
興味の無い人達だけに、何の感情も浮かばない。
凄いのだけは伝わったが。
一方、ファラージャが膝をガクガク揺らしつつファイティングポーズを取る。
「御母堂様、先ほど私が言いましたよね?『時間は無限にあるので、私たちの活躍と、それを描く創造主の歴史への愛を確認してください』と……! 270万字なんて軽い軽い! 漫画なんてまだ、単行本1冊と少しです(2026年4月1日現在)!」
「えっ。漫画と270万字を読めって、歴史アレルギーの私には地獄の責め苦同然……」
歴史アレルギーにとって歴史は本当に地獄らしい。
暗記として『誰が、いつ、何をした?』を叩き込まれったって、ツマラナイに決まっている。
本来は『誰が、なぜ、どんな理由で?』が、歴史の面白さであり勉強のハズだ。
「大丈夫! 分からない所は我々が何度でも教えて差し上げます! 信長Take1からTake3までね! こんな豪華な授業は無いと思ってくださいよ!? 御母堂様と言えど容赦しませんからね!?」
睦月に倒された武将や怨霊達も、ゾンビの如く立ち上がった。
目にはある種の闘志が宿っていた。
「良佑ェッ!! あんた、とんでもないコトしてくれたわねッ!?」
こうして松岡睦月に対する、5次元空間での小説と漫画の黙読が始まった。
始まったが――怨霊や戦国時代に至る時代背景などは、テスト勉強が終わったと同時に忘れ去ったので、もう意味不明な所だらけで、日本語なのに日本語が読めない状態の母、睦月。
5次元の当事者たちも必死に説明するが、説明の説明の説明がいる始末で、本人たちも分からない歴史が出てくるとすぐにファラージャにバトンタッチされた。
何なら、当事者たちが解釈を巡って争う混沌地獄と化した。
「なんでこんな苦労を……!!」
ファラージャが言った。
「それは私のセリフでもあるんですけど!?」
母、睦月が言った。
ついでだが20歳の肉体で復活しているので非常にパワフルだ。
母の苦労は始まったばかりであり、創造主たる松岡良佑もできるだけ長生きして母の怒りを回避すべく、あの世に行くのを遅らせる決心をするのであった。
「極楽だニャ~」
「これからはずっと一緒だニャ~」
2匹が睦月の膝に陣取り、眠気に負けて眠るのは、猫と母が今際の際に夢見た光景だ。
歴史の勉強は本当に余計な事だが――




