234話 軽快下見旅 最強の称号と本願寺
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【次話予告】
4月1日です。
4月1日です。
【山城国/京の都だった所】
「よし。これで粗方見て回ったであろう。織田殿も頭の中には再建計画や、再建した都が想像できておろう?」
「はい。三好殿にも再建案がありましょう。お互い良い所を取り入れ、帝をお迎えするに相応しい都を作りましょう」
当然ながら嘘の会話である。
本当は――
『よし。迎撃案はある程度固まったな。織田が好みそうな瓦礫や進路も把握できた。恐らく攻城戦の様な野戦になるな』
『お互い迎撃策が基本になろう。広いが進軍路は限られる。もはや攻城戦か。どこに誘い込み、あるいは誘い込まれたフリをするかが重要か』
スケールが違う会話、日本の統治者を決める会話だ。
言っている事と本心の乖離が凄く、まるで狐と狸の化かし合いだが、これは悪鬼と魔王の化かし合いだ。
しかし意見は一致した。
野戦の攻城戦。
瓦礫が多すぎて隊列を組んでの進軍が難しい。
故に攻城戦想定の野戦と判断した。
ただ、2人して共通の悩みがあった。
(斎藤帰蝶が居らんのが懸念だな。この場に居れば、その行動も読めるだろうに!)
(於濃は籠にでも乗せて連れてくるべきだったか!? クソッ! あ奴の顔がチラつく度に戦略が崩れる!!)
それもこれも、帰蝶の不在がまさかの懸念であった。
元々産後なので連れてくのは無理があったし、本人も本心では行きたそうだったが、無理はしなかった。
2回目の人生にして初の出産で双子だったのだから、帰蝶の行動は極めて正しい。
だが、居ないと居ないで困る。
しかし居ても困る。
居たなら、長慶ならその戦意を測って役割を割り出せるし、信長も予め手が打てるし、帰蝶の仕草や発言で長慶の思惑を逆手に取れるかもしれない。
もう帰蝶が居ても居なくても、自信に満ちた考察が揺らぐ。
お互いが『この時代の主役は俺だ!』と思っている。
だが最近『この時代の主役は俺だよな?』になりつつある。
勿論、ここに居る諸大名も、諸将もこの2人を差し置いて主役はいないと思っている。
その上で『斎藤帰蝶なら』『濃姫様なら』と絶対に考えてしまう。
何なら、『今日の斎藤帰蝶は何をしているのか?』『濃姫様は何をしてお過ごしか?』と考えている自分に気づく諸将が殆どだ、というか信長や長慶も含め全員だ。
絶対に台風の目になる。
どこに配置しても、配置されてもキーマンになる。
そんな気がしてならないのだ。
綿密な戦略を立てても勝手に崩れていく。
それでいて、最大限警戒したらスカされる気もする。
(何と面倒なお方よ!)
(何て面倒な奴だッ!)
2人して大きなため息を無意識に吐いた。
「織田殿」
「何でしょう?」
「都再建計画じゃが、斎藤殿も育児に忙しいであろう? 無理に参加させずとも我らで済ませましょうぞ」
「そうしたいのは山々ですが、絶対にどこかから嗅ぎつけてくると思いますぞ。よりによって尾張、伊勢、志摩の開発の総括を任せた事もありますからな。……残念な事に、見事にやり遂げました」(87~88話参照)
「そうか……」
「そうです……」
2人は希望が絶たれた事を知った。
もちろん聞いたのは『帰蝶の都市開発計画の能力』じゃないのは言うまでもない。
長慶は『産後だし参戦させない方が良いんじゃない?』と提案し、信長も『そうしたいのは山々なんだけど、アイツは絶対嗅ぎつけて戦果をあげるんスよ』と言っているのだ。
「そうか。くれぐれも無理なさらぬ様にと伝えてほしい。本当に。そうだ。ついでと言っては何だが、今龍城への通行を許可してもらいたい。せっかくここまで来たのだ延暦寺に寄って、斎藤殿の出産祝いを直にしようと思う」
これは長慶による最後の手段。
直々の挨拶で『来年は休んでいなさい』と告げるつもりだ。
信長は一瞬迷ったが、最後の賭けに出た。
長慶の意図を察したのだ。
そこには敵味方を超えた友情(?)があった。
「……そうですな。琵琶湖を東進すれば今龍城はすぐです。では延暦寺への書簡と、今龍城へ先触れを出しておきましょう」
この言葉を最後に、お互いが覇気を抑えるのを止めた。
即座に覇気が溢れ、中空で混ざり合い、自分を纏うに相応しい人間を見定め漂う――様にしか、取り巻きの人間には見えなかった。
「ありがたい。ではまたいつか会おうぞ」
「はい。次は下馬させてみせましょうぞ」
「フフフ。その時は、お主の副王となってやろう」
最後の最後。
別れ際の土壇場で、お互いの真の意思を確認した両雄は西に、東にと進路を向けるのであった。
【摂津国/石山本願寺】
「そうですか。三好殿と会われましたか」
「えぇ。と言う事は三好殿も来たと?」
顕如と信長一行が本願寺の本堂で対面していた。
ここに来るのは初めての者も多く、北陸は吉崎御坊で一向一揆と戦った朝倉延景、浅井長政は複雑な心境であり、一向一揆を利用して武田家を乗っ取った武田義信は物珍しそうに周囲を見ていた。
「えぇ。来年京で騒乱が起きるが決して関わるなと。また、仮に三好が破れ本願寺と挟まれても絶対に助ける事を禁じると。助ければ織田軍に本願寺攻略の大義名分を与えてしまうから、と仰っておりました」
遠慮なく顕如が言うが、それは信長も以前から言っていた事だ。
遠慮することは無い。
「フフフ。三好は倒すのじゃが、そこに本願寺を巻き込んでは意味がない。前にも言ったが、本願寺には大切な役目があるのだが、向こうも同じ考えだったか」
信長は長慶の能力を信頼している。
戦後に必要になるのは目に見えている。
まずは目先の戦だが、その後を、戦後に考えては遅い。
時間は、歴史は待ってくれないのだ。
Take3となった今では『時間も歴史も敵か?』と思う事さえある。
「存じております。……焦りましたか?」
「いや、安心したぐらいじゃ」
本当は、この辺りで隙を見せてくれると助かるのだが、三好長慶にミスを期待する方が無理であった。
「そもそも、京から三好を叩き出すにしても、それを本願寺に誘導するのは距離がありすぎて骨が折れる。いや? 撤退して堺や本国に行くには本願寺近辺を通過するわけだから可能性は十分あるか?」
一応、進行方向次第では本願寺方面に退却させるのも可能だ。
「そうですな。三好殿は手助け無用と仰っていましたが、織田殿は何を望みますか?」
「……そうじゃな。統率を失った三好軍が大挙して押し寄せては、本願寺も受け入れざるを得んかもしれぬ」
本願寺も城同然の防御力を持つ寺院だが、延暦寺のソレとは流石に規模が違う。
延暦寺と違い、本願寺はいわゆる平城なので、防御力に関しては延暦寺に軍配が上がる。
織田軍は延暦寺に逃げ込めないし、三好軍も延暦寺との連戦は無理だ。
だが逆は可能性がある。
三好軍が本願寺に逃げ込めるし、織田軍も勝利の勢いで三好を本願寺ごと潰す事も可能だ――がソレはやらないと前々から決めている。
「受け入れてしまった者は仕方ない。治療や休息を認めよう。無論、武装解除は絶対条件じゃがな。あと脱出船を頼まれたら出してやってくれ。その費用はワシが持つ」
「ッ! 本気で勝つつもりですな?」
「負ける前提で戦うのは基本的にありえんぞ? 『負けて来い』は勝つ為の偽装撤退ではあり得る選択だが『死んで来い』など兵に対して無礼極まりない」
史実では生き残る為に、例えば金ケ崎の撤退などは『死』前提の命令を下した事もある。
この歴史でも、その命令で逆転できるなら躊躇はしないが、そうならない様に慎重に考えてはいる。
「ッ!! これは驚いた。織田殿とは毎回話す度に驚かされますが、今回、三好殿も同じことを仰っていました。今頃は延暦寺で同じ事を約束しているかもしれませんな」
しているだろう。
ただ、三好と延暦寺の関係性が、どこまで構築されているかは分からない。
自分も決して良い関係を築いているとは思わないが、前の歴史よりは良い、という判断で動いている。
前より良い、と言うのは信長だけが判定できる判断で、この歴史では良いかもしれないが、悪感情のレベルに差があるだけだ。
今のところ関係性は悪くないハズだが『絶対に武家を受け入れない』と言う可能性も考慮しなくてはならない。
「そうかも知れぬな。きっとワシと似た様な事を約束として提示しているだろうよ」
【近江国/延暦寺 京側入り口 麓】
一方その頃の延暦寺では、完全に予想通りの会話が進んでいた。
「そう言う訳で、ワシらが織田を延暦寺と挟んだとしても手出しは無用。織田兵の受け入れも禁ずるが、入り込んでしまったものは仕方がない。禁ずるが処罰は無い――と言うより、こんな要塞を織田との連戦で落とすのはチト骨がおれるな。これを考案した者を三好に迎え入れたい程じゃよ」
「そ、そうですか……。対織田を考え、皆で懸命に作り上げた物なれば、特定の設計者というのは居ないのですが……」
「それでこの完成度か! 織田との決着がついたら、ぜひ見学させてくれ」
「それはもう喜んで!」
覚恕は長慶の背後に後光を感じ、平身低頭、命令に従う決意をした。
【摂津国/石山本願寺】
元に戻って本願寺。
顕如が一つの懸念を提示した。
「大和国に逃げるというのはありませぬか?」
本願寺が西方面なら、大和国は南方向で三好領地でもある。
大和国に逃げるならば本願寺は全く関係なくなる。
それでも提案したのは、信長に多少なりとも恩義を感じているからに他ならない。
「大和国か。ありえるな。一応三好の領地だ。だが、三好軍も立て直しや迎撃には向かわんだろう。去年散々荒らしたばかりだしな。故に逃げる進路の選択としてはありえるだろう。一旦南下し西進すれば本願寺を巻き込まず逃げられる」
そう言いながら、信長は顕如の方から懸念を示したのに驚いた。
前の歴史では考えらえない行動だ。
信長としては、政治に口出す勢力は絶対に許さないスタンスなのが、前の歴史から変わらぬスタンスだ。
それをこの歴史でもやってきたが、本願寺の系列寺院や吉崎御坊を戦場にしても、こうして対応してくれる顕如には驚くばかりだ。
「それにこれは我らが退却路にも使える可能性があるな」
「負けを口にするのですか?」
「言霊として好ましくは無いがな。指揮官としては考慮せん訳にはいかん。熊野参拝道にさえ入り込んでしまえば、紀伊でも伊勢でも脱出路はある。むしろ延暦寺を考えると此方の方が安全かもしれんな。ま、一番逃げ道として好ましいのは斎藤家の朽木方面じゃな」
「あっ! なるほど!」
これは顕如の声だが、全員が気が付いた利点だ。
「細い道なれば大群を相手する必要もない。仮に野戦で不利になろうとも、朽木方面に逃げ込めば撃破しながら退却もできる上に、逆転も狙える場所。こういう時の為に奇襲路、退却路に使える様に隠し路が設けられている。そうだな十兵衛?」
「はッ! 伏兵の配置まで思うが儘です。あの道は最大の防御と攻撃を発揮できる、敵にとっての死出の道になりましょう」
「うむ。皆も聞いた通りだ。地形把握も済んで、押された場合の対処もできている。後は各々、来年まであの光景をどう活用するか、あるいは必要な準備を整えて終結の報を待て。これで、征夷大将軍、関白、太政大臣など官位はあるが、今一番最大の価値がある『日本の副王』の座、もらい受けるぞ!」
権威が死んだ朝廷の発する官位に何の意味も見いだせない信長だが、長慶が独力で手に入れた『日本の副王』の座は何よりも価値がある。
これは本人の努力の結晶なのだ。
どんな金銀財宝よりも価値ががる。
次点で、武家が名乗れぬ『上総守』だが、これはもう算段が付いているうえに『日本の副王』と同時に名乗ることも可能。
日本の副王だが実質的には王でもある、最高の称号だ。
前の歴史では誰も倒せず長慶の病没と共に消滅した称号だが、今は奪える最初で最後のチャンスだ。
京の都も将軍も関白も太政大臣もどうでもいい。
武家最強の称号は『日本の副王』なのだから、これを奪って初めて長慶に勝ったと言える。
信長はそう決意するのであった。




