229話 ナンバンドーと宝剣
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作画担当先生は、八坂たかのり(八坂考訓)先生です!(旧Twitter @Takanori_Yasaka)
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よろしくお願いします!!
【お詫び】
母が短期間でクモ膜下出血を再発+感染症併発で意識不明の重体となりました。
その他にも何度も手術を受けて、なんなら日本医学史上初の症例かもしれない事まで発症させました。
私も家族も、精神はボロボロです。
誤字脱字、ストーリーの矛盾があるかもしれません。
投稿後も見直しますが、気が付いたことがあれば指摘などお願いします。
また『なろうチアーズプログラム』に参加してみました。
ページが特に変わった様子は見受けられませんが、不都合があれば廃止します。
これで医療費が稼げれば良いですねぇ……。
【近江国/今龍城 斎藤家】
「叔母上(帰蝶)、只今、帰還いたしました。今は喜郎と書いてシーランと名乗っております。そして弾正忠様(信長)、昔の件、家督継承の際にはお世話になりました。改めて御礼申し上げます」
シーランこと龍興は、上座に座る当主の帰蝶に頭を下げ、次は体を下段の上座に座る信長に頭を下げた。
斎藤家内では信長はただの客人扱いである。(163話参照)
帰蝶の横や、最上座に座る事は無い。
「ご苦労様。あれから3年経ったのね。立派になったわね。見違えたわ!」
「そ、そうですか? 自分では良く分かりませぬが……」
帰蝶の絶賛に照れくさそうにするしぐさは、自由奔放に生きる難しさを経験した証か。
「うむ。少なくとも甲冑を着て先頭に立つだけの迫力を有しておりますぞ。むろん勘十郎もな」
「ありがとうございます、兄上」
龍興が帰還したからには、同じ船に乗っていた信行も一緒である。
今日は期間報告のついでに、色々土産を用意してきたのだ。
ただ、誤算もあった。
「まさかお二人の御子が生まれていたとは……」
「いや、むしろ遅すぎたぐらいで、生まれていると想定すべきでした」
要するに出産祝いの土産が無いのだ。
本来なら産まれてなくても何かしらの可能性を考え用意すべきであったが、どうにもこうにも帰蝶が出産した姿を想像できなかった。
明国でも帰蝶の話になれば、武芸や武功、戦闘能力の話ばかりで、自然と土産もその方面になっていった。
2人とも頭では女性と理解しつつも、女性らしい物は、端から土産候補から外れていった。
その上で選んだ品々が並びだされた。
錆びたプレートアーマー
モーニングスター
ハルバード
設計図
そして宝剣
今回は南蛮製の物が多い。
早速信長の目が輝きだした。
3回目と言えど、初めて見るのだから仕方ない。
「こりゃまた珍妙な甲冑じゃのう? こ、これは息が出来るのか? 一応穴は開いておるか」
信長がプレートアーマーを見て驚く。
頭部も隙間はあれ視認性に難があるようにしか見えない。
また冗談としか思えない兜の人相にも笑いそうになる。
そんな品評を下し――
《ちょ、えぇッ!? 噓でしょッ!?》
《な、なんじゃ!?》
《な、なに!?》
突然ファラージャが絶叫の如く驚きの声をあげて、信長も帰蝶も体を驚いて体を仰け反らせた。
もちろん、信行と龍興には、突然の夫婦そろっての謎行動で意味が分からないが、とりあえず黙っていた。
《信長さんと言えば南蛮胴じゃ無いんですかッ!?》
《ワシと言えばナンバンドー? なんじゃその歴史は!?》
南蛮胴にマントの信長像が岐阜駅にもあるし、各種媒体でも定着した『信長の甲冑姿と言えばコレ!!』という意識が読者の皆様にもあるだろう。
だが記録に残る資料によれば、史上初の南蛮胴は豊臣秀吉が受領した事になっている。
そう、『豊臣』であるからには、信長死後の話である。
つまり信長は南蛮胴を知らなくて当然である。
漫画でもゲームでもドラマでも、さらにアレンジされ異様にカッコいい南蛮胴にマント姿の信長は全部フィクションと言う事になるが、余りにも様になるので、一瞬で定着してしまった。
伊達政宗の眼帯も資料には記載がなく、映画やドラマで定着したのと同じ理屈である。
亡くなっても数百年経ってなお衰えない、信長や政宗の魅力の成せる業だろうか。
1億年の未来でも安土宮殿よりも超巨大な信長像が立っているが、やはり南蛮胴をモチーフにしている。(漫画版信長Take3 36~37ページ参照)
信長=南蛮胴は、現代で定着して以降、もう動かし様の無い事実として、1億年先まで伝わってしまっている。
ファラージャでさえ常識と信じて疑わなかった、驚愕の事実である。
一応、資料が無いだけで、伝わった可能性もあるが、歴史上の事実としては違う。
「あ、兄上、どうかされましたか? 錆びて痛んでいたので危険な個所は削り落として来ましたが……」
「あ、あぁ違う。すごい造形じゃと思ってな!? しかし頭から爪先まで一体型なのか? どうやって着用する? と言うより動けるのかこれは?」
「あ、はい、分解は出来ますので足から順に着用していくのですが、日ノ本の甲冑なら、多少体に合わなくても着用できますが、コレは完全適合者じゃないと、移動だけで己が傷つきます」
南蛮甲冑が鈍重かと言うと、少し違う。
日本式の甲冑よりは鈍重だが、サイズピッタリの者が着用すれば、何不自由ない動きができるし、何なら宙返りも可能だとか。
ただ完全にフィットしないと、いわゆる『靴擦れ』などの擦過傷は起きうるケガで、長時間の着用も着用者の体力を容赦なく奪っていく。
メリットはもちろん防御力だが、日本で完全プレートアーマーが流行しなかったのは、山岳地帯が多いことや、前線の兵士は機動性を重視し、楽に山道や石垣を登るためにもプレートアーマーは発明されなかった。
デメリットは、温度に弱い事。
全身金属だから暑ければサウナだし、寒ければ容赦なく体温を奪う。
着用した活用した人物は戦国時代にいないが、独自の改造を施し着用した人物はいる。
豪華であることがステータスである大将級の武将、例えば徳川家康や伊達政宗らだ。
だが、神速を旨とする信長は、いくら珍品好きだとしても、実用性を感じたかは疑問が残る。
せいぜい美術品か、考えて何らかの価値を作り出すだろう。
「実際に着用すればこうなります」
龍興が着て見せた。
プレートアーマーは見た目に反して着脱は日本の甲冑より楽である。
日本より細かい部品が無いのもメリットか。
錆びたプレートアーマーを持ってきたのは、信行と龍興で、これしか着用できる物がなかったからである。
ただ、錆びていても実用性を感じさせればいい。
鉄砲を数年で完全コピーどころか、上位互換まで発展させた日本の技術である。
見れば再現など楽勝だ。
「戦場ではこんな感じになるでしょうか」
フルフェイスの隙間から龍興の籠った声が聞こえる。
ちょっと苦しそうだ。
暑いのだろう。
プレートアーマーは通気性が最悪だ。
実際、熱中症に陥る兵も多かったとか。
龍興が刀を振る動作や、槍を突く動作など、様々な動きを見せる。
多少のぎこちなさはあれど、そこまで問題視するレベルでもない。
慣れの問題だろう。
一通りの演武を終え息を荒げた龍興が、アーマーを脱ぎながら言った。
「ど、どうでしょう?」
少々息を切らした龍興が、意見を聞いてみた。
「うむ。問題点はいくつかあるが、部分採用などは良いかもしれんな。しかし渡航で鍛えたお主がそこまで息を切らすのは考えモノか? ん? これは銃弾の跡か? ほう? 鉄砲の貫通も許さんか。う~む? 良し悪しは色々あるが、とりあえず着脱が素早いのは良いな」
「防御力も凄そうですね。刀も槍もこれは通らないかしら? なら私の拳はどうかしら?」
「待て!? 産後じゃろう! せめて半年おとなしくしておれ! いや、して下さい!」
まだ産後2週間も経っていないのに、さっそく拳の骨を鳴らす帰蝶に、信長は慌てて止めた。
止めないと本気でプレートアーマーを殴りそうだ。
そして確信がある。
間違いなく破壊すると。
「刀や槍は通さないでしょう。た、たぶん拳も。そこでこのモーニングスターやハルバードの出番です。南蛮の戦法では、この甲冑を身に着けた相手を、斬ったり突いたりして倒すのは難しいので、鈍器で殴り倒すのが定番だそうです。このモーニングスターは棘がついてますが、以前に持ってきた明国の錘の一種と考えていいでしょう。ハルバードも方天戟とほぼ一緒です。これら重量物で殴り倒しますが、日ノ本の武器なら、金砕棒や木槌が有効かと思います」
「いずれ、普及するかもしれんな《前々世では知らんかったが、こうして現物が歴史を曲げてやってきたのだ。ありえるだろう》」
《そうですね。私も拳を鍛えなおします》
《……。そう言えばワシの甲冑越しに痛打を与えておったな。お主ならやるかもしれんな。……ファラ君? とんでもない化け物を産んでくれたね?》
《い、いえ!? そんな高等技術は教えていません! 全て帰蝶さんの発想力です!》
信長の嫌味を必死に否定するファラージャ。
ただし、いつか、その手の才能を開花する所までは持って行ったのもファラージャだ。
そんなテレパシーを飛ばしていると、廊下から小姓の声が聞こえる。
仙石久勝である。
もう元服を済ましたがまだ12歳。
未熟ゆえ未だに小姓の真似事をしている――のではない。
弟の秀久同様、12歳にして猛者の風格を漂わせているので、小姓と言うよりは帰蝶のボディーガードである。
帰蝶にガードが必要かどうかはともかく、これは斎藤家臣団の一致条件として帰蝶に飲ませた条件である。
若手の兄弟も鍛えられるし、帰蝶を守れる(?)し、一石二鳥だ。
「殿、松永様がお見えになりました」
「わかりました。通してちょうだい」
「では、失礼します。どうぞ松永様」
「失礼し……!? お主らは!? あの時の水夫!?」
「え、松永様って弾正様でしたか!? 申し訳ございません。随分雰囲気が変わっておりましたので気が付かず……!? と、言う事は? ご同行していた方はまさか三好修理大夫様!?」
「松永弾正様に、三好修理大夫様!?」
信行は久秀に連れられ堺に案内された事がある。(91-3話参照)
ただアレからお互い10年以上。
信行は完全に海の男になり、かなり久秀は胡散臭くなった。
お互いが気が付かなくても仕方ない。
ただ龍興は面識はなく、その名前だけで驚いていた。
「勘十郎殿か!? これはまた随分磨かれたと言うか、困難を乗り越えたというか……。人間こうも変わるのか……。素晴らしい! っと斎藤殿と織田殿の前で失礼しました。余りにも意外な人物がおられましたので。……ん? と言う事は、あの時買った品はひょっとして、織田家と斎藤家に持ち帰るものだったか!?」
「い、いえ、あの宝剣はもう一振りありますのですが……あの、ひょっとして?」
「あぁ。ハハハ! 仕方ない。こんな偶然があったと主には伝えておく。さて斎藤様、ご懐妊および出産、誠におめでたき事。母子共に無事で何よりです。しかも双子とか?」
この時代の出産は母子共に命懸けだ。
しかも双子だ。
七五三まで生きられる子供は、それだけで強運とも言える時代。
ただ歴史に明確に存在しなかった双子が、今後どうなるかは未知数だ。
「松永殿は双子を忌み嫌わないので?」
「斎藤殿の子であれば、三つ子でも何人でも、居て困る事はありますまい!」
「そ、そう。用件は伺っております。出産祝いだとか。ただ、先の話しぶりからすると……?」
「えぇ」
そう言いながら久秀は信行を見た。
『どっちから行く?』
目で明確にそう語っていた。
「まだ披露していませんが、そちらの箱にあります」
「そうか。じゃあ、となりに置かせて頂きます。その他の祝い金や品々は目録にて。この品は主が選んだ逸品にして勘十郎殿らも選んだ業物。どうぞお納めください」
新八郎が一礼をして、二つの箱を抱え帰蝶の前に置いた。
中身は全く一緒の宝剣、改めレイピアが入っていた。
「武器……? それにしては美麗な作りね? 飾り用? 痛ッ! 刃もあるのね。刺突用の武器かと思ったけど……重さは刀と変わらない? でも重く感じるのは手元だけね」
例えばバットの重心は先端だ。
日本刀は全体が満遍なく重い。
一方レイピアは持ち手が重い。
帰蝶が手首のスナップで軽くレイピアを振った所、糸を引くような斬撃が、ピュッと風を斬りピタリと止まった。
ちなみにレイピアはしならない。
しなるのはフェンシングでお馴染みのフルーレという種類になる。
「ッ!!」
全員が驚愕の目で驚く。
信長もだ。
明らかに人が崩れ落ちる姿を見た。
帰蝶がそう見せたのだ。
「今の感触。明らかに人を切り捨てましたな?」
信長が言った。
レイピアは刺突が得意だが、両刃の剣でもある。
斬ろうと思えば斬れるのだ。
「はい。でも習得には時間が掛かりましょう。特に刀とは使い勝手が違いすぎますね。甲冑相手にはちょっと頼りないですが、でも突きに限定すれば、そこの全身鎧に比べたら日ノ本の甲冑は隙間だらけです。使いどころはありそうですね」
「全身鎧……あの……アレですか」
久秀がプレートアーマーを何と評して良いか分からず『アレ』で済ました。
だが、その形状は目に焼き付けた。
決して『アレ』で片付けて良い物ではない。
他の武器にしても見た事もない。
これがそこらの盆暗大名なら無警戒でも良いが、何せ大ファンの斎藤帰蝶と、曲者すぎる織田信長である。
必ず決戦に何らかの形で、しかも、思いもよらない形で使ってくるに決まっている。
「さて、あまり長居しては産後の体に障りましょう。主も次に会う時を楽しみにしておりますれば、健やかにお過ごしください。それでは失礼します」
(次顔を合わせるときは天下を決める決戦! 必ずや信長を倒し、帰蝶様をお助けせねば!)
久秀はRPGの主人公の様な事を思いながら、祝いの品々を渡し帰路に就くのであった。
「では我々も。他の細々した物品を運び入れてまいります」
「ご苦労様。それが終わったら、しばらくは好きに過ごすといいわ。積もる話もあるでしょう。ついでに欲しい物がないか聞いて回ってきなさい」
「はッ! ありがとうございます」
勘十郎と新九郎も退室した。
残った信長と帰蝶は、贈り物をじっくりと見始めた。
「二刀流の宝剣……」
帰蝶は誰にも聞こえない声で呟いた――
「設計図……これは……」
一方、信長も紙切れを見て考え事をしていた――




