外伝69話 木下『羽柴』秀吉
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【近江国/岐阜城(安土城) 織田家】
大和国の騒乱に一区切りをつけて帰還した信長。
北陸の一向一揆に対し、区切りを付けさせられ帰還した帰蝶。
「それで於濃よ。褒美はどうする? 何でも申してみよ」(220話参照)
「えっ、そうですか。……あ!? 大事な願いがあるんでした!」
「で、出来る範囲でじゃぞ!?」
「大丈夫です。何ならタダで手に入るものですので! ――を下さい!」
「そう来たか……! 分かった。望むなら与えよう!」
こうして信長から帰蝶に、褒美が与えられる事になるが、これが後に大騒乱を起こす事になるのは知る由もなかった――と、そんなやりとりをしていると室外から小姓が声を掛けた。
「殿。森様ご一行が参りました」
「お、おぉ! そうであった。入れよ」
信長は丁度良かった、天の恵みとばかりに、帰蝶に押されていた現実を切り替えるべく居住まいを正した。
それと共に、襖が開き森可成と木下秀吉が入室してきた。
「失礼します。急な訪問に対応して頂きありがとうございます」
可成と秀吉が頭を下げた。
「とんでもな……いや違う! うむ! よく来た! 京の監視、ご苦労であった!」
助かったので『とんでもない』とウッカリ言ってしまったが、即座に訂正した。
帰蝶の視線が痛かったのは言うまでも無いだろう。
「ありがとうございます。その件に関しては、事前の報告通り特に兵を動かす様な事はありませんでした」
そう語る可成の顔は難しい顔をしている。
「うむ……? しかしその報告は書状で済んだ話なのに、ここに来たのは何ぞあったのか? 権六(柴田勝家)らも含め、特に問題なかったと聞いておるぞ?」
「はい。戦に関してはです」
そう言って可成は秀吉を横目で見た。
その顔は可成以上に難しく苦渋の顔をしていた。
《秀吉? 確かに様子が変だな?》
《そうですね。羽柴殿、いえ、木下殿は順調に活躍していると聞いてますが……》
「《うむ。そのハズだが……?》藤吉郎はどうだ? 森家内でも頭角を現し活躍は聞いておるぞ?」
「はっ。ありがとうございます」
秀吉は直接答えた。
陪臣の立場で許可なく礼を述べる秀吉。
本当はこの様な場合、秀吉の身分の関係を整理した場合、『信長の家臣である、可成の家臣の、秀吉の立場』を『陪臣』と呼ぶ。
もし、この場に秀吉の家臣が居れば、その者は『陪々臣』となる。
上下関係の厳しい家、特に江戸時代などは、主君の主君に陪臣の立場で、主君を飛び越え主君の主君に声を掛けるなどご法度でもあった。
この礼儀の定着は戦国時代以降とされるが、その江戸時代に突然現れた風習とは考えにくく、戦国時代にも、それなりに勃興しつつあった儀礼風習ではないかと思う。
また実は意外にも信長は礼儀に厳しい。
だが、それは時と場合を使い分けている。
無骨な武者を茶道で気品を身につけさせたり、公式の場での必要な儀礼は身につけさせている。
ただ、信長は基本的には面倒で非効率な風習と捉えており、また、イチイチ『直言を許す』と許可を出すのも面倒なので、こういう場では許可なく発言が許されている。
「戦以外の本題があるのだな?」
信長が鋭く切り込んだが、これは誰でもそう判断するだろう。
明らかに様子がおかしい。
「はッ! 実は、この藤吉郎を殿に返還、いえ、直臣に取り立てて頂けないかと考えております」
「ほう! もう森家では与えられる褒美が無くなったか?」
つまり、森家ではこれ以上出世させられず、与えられる金銭、宝物、領地も無い、と言う事になる。
若輩でこの出世スピードは尋常の才能ではない。
やはり歴史が違っても秀吉は秀吉であった。
「端的に言えばそうなります。この藤吉郎の異才は森家で収まる器ではありますまい。殿の下でこそ活かせる才能をもっております」
「お主にそこまで言わせるか。《奴は頭角を現すとは思っていたが、ここまで早まったか》」
《その様ですね。……その割には、かなり深刻そうな顔ですが》
《それだ。別件なのか、今の直臣願いに関連するのか? 聞くしかあるまいな》
「分かった。ならばその願い聞き届けよう《さてどうなるか?》」
「はっ。ありがたき幸せ。今後は殿の下で、また森様とも共同し働きます」
渋面のまま秀吉は言った。
《……ッ! そう言う事か!》
《何か分かったのですか?》
「《多分な。思い当たる節がある》藤吉郎。お主らしくないな? いつでも、どこでも、どんな時でも、打てば響く返事が腐っておるな。深刻な問題か? 森家を離れたくないか? それとも別件か?」
信長は『別件』に含みを持たせて聞いた。
言いやすい様にとの心遣いである。
「はっ。実は森家を出るならば……何と言いましょうか……記念! そう記念です。苗字の変更をしようと思っております」
「苗字の変更か。記念……別に構わんぞ。案があるならソレにすれば良いし、ワシが何か考えて与えてもいい。ただし、だ」
信長の声が急に一段落ちた。
怒っている訳ではないが、品定めをしているのは明らかな声色だ。
「最初に縁組した木下家との不和では無いな? それが理由ならば苗字変更は許さん」
「と、とんでもない。今や義父、義母、義兄とも仲良く暮らしております。ただ、某の出世は木下家の出世とは微妙に違っています。義兄の立場を考えると、苗字を変更した方が義兄の誇りを傷つけずに済むかと思った次第です」
秀吉は、血縁的には木下家となんら関係ない。
養子縁組として木下苗字を手に入れたに過ぎず、歴史改変が起こって、寧々が森家に養子縁組され、森家の娘である寧々と結婚した事になっている。
「……嘘ではないな。だが、隠している理由がまだあるだろう?」
信長が前々世の知識で問い詰める。
前々世で『羽柴』に変更した理由を知っているからだ。
「あっ……う……」
「と、殿! どうかそれ以上の詮索は……どうかお許しを」
秀吉が言葉に詰まり、可成がフォローした。
「まぁまぁ殿。宜しいではありませぬか。別に苗字の変更ぐらいでそう目くじらたてなくても。木下家との不和でなければ断る理由もありますまい」
「……まぁそうだな」
「で、新しい苗字ですけど、当てて見せましょう! 決まっているのよね?」
帰蝶がウキウキと確認した。
自分も褒美の約束を取り付けたのだからか、当然の感情かもしれないが、やや場違いな雰囲気を出している。
「えっ、は、はい……一応……」
「あ、当てる!? それは無茶かと思いますが……」
可成と秀吉の2人は、絶対に当てられない苗字と確信している。
幾ら信長や帰蝶でもコレは無理だと。
無理だからこそ可成も困っているのだが。
「この指を見なさい! 無茶をするのが、この私よ!」
しかし帰蝶が、骨折した手を突き出しながら、突然妙な事を自慢げに言い出した。
何か暗い雰囲気のフォローもあるが、何より帰蝶も当然『羽柴秀吉』に至った理由を知っている。
丹羽長秀と柴田勝家にあやかって頂戴した文字であると。
ただし、今の歴史は違う。
秀吉の出世も相当早ければ、あやかる武将の面々も史実の織田家とだいぶ違う。
だから当ててみたいのだ。
《ここで『羽柴』は無いですよね。ならば森殿と木下家から取って『森下』かしら? いや『森柴』かも?》
《……どうだろうな?》
《知将の秀吉殿なら、明智、北畠、蒲生……あっ! 細川や足立も候補ですね!》
《……どうだろうな?》
「わかりました! 織田を守る『御守り』に掛けて織田家の『織』と、世話になった森家から『森』で『織森家』じゃないかしら!?」
「……ち、違います。『織』にしろ『森』しろ勝手に貰う訳にも参りませんし……」
申し訳なさそうに秀吉が否定した。
「えっ。じゃ、じゃあ明智、北畠、蒲生の辺りが候補?」
「それも違います……」
「えぇッ!? 他にあやかる武将って言ったら誰!? あっ!? 私!?」
帰蝶が困惑しつつ、しかし嬉しそうに詰問する。
絶対に当てる自信が砕かれたからでもあるが、自分があやかられるのは気分がいい。
「いえ、別に誰かにあやかるとかでは……」
秀吉が予想外の事を言い出した。
「えッ!? 違うの!? あやからない!? 何で!?《歴史が変わって、変更理由がかわったのでしょうか!?》」
《……どうだろうな?》
信長は先ほどから同じ事しか言っていないが、それがますます信長の中で確信に変わる。
「な、何で、と申されましても困るのですが……強いて言えば某に相応しいかな? と思った次第です!」
帰蝶が納得がいかず食い下がる。
絶対に当てる自信があったのだ。
だが当の秀吉が床に額を擦り付け謝罪する。
別に悪いことはしていないのだが、帰蝶の無意識に滲み出る殺気に恐れた。
「ならば『ハシバ』か?」
突然信長が口を開いた。
「えっ」
帰蝶が『何言ってんの? 馬鹿なの?』との顔で信長を見たが、それを肯定する声が秀吉から発せられた。
「ッ!? な、何故それを? 森の殿が事前に!?」
「い、いや、書状も何も伝えておらん。今日この場で口頭で伝えるつもりであった!」
秀吉が驚いて可成を見るが、可成も否定した。
この苗字を伝える為に、2人は今、苦労している訳である。
「まさか『ハシバ』を言い当てるとは奇跡が過ぎますが……大殿が仰る通り『ハシバ』を考えております……ッ!」
秀吉が驚愕して正解だと告げたが、当然、帰蝶は納得しない。
「えッ!? ちょ、ちょっと待ってよ!? なんで『羽柴』なのです!? 丹羽殿、柴田殿にそこまで憧れていたの!?」
この変更は、前世で帰蝶が病気の時にも聞いた話。
巡り巡ってきた噂話だったが『絶対そう! 丹羽殿と柴田殿に対する憧れ!』と思わせる納得できる理由であった。
「え? も、勿論憧れはありますが、そんな某如きが、お2人から苗字を頂戴するなど恐れ多いです! 『織森』にしてもとんでもない!」
史実での丹羽長秀と柴田勝家から一文字ずつ頂戴した話は有名であるが、実は非常に疑問だらけの、事実だとしても信じられない、ありえないチョイスである。
資料によれば『羽柴』への変更は1573年頃とされるが、その頃には明智光秀、池田恒興、滝川一益、原田直政、佐久間盛信、それに森可成が名を馳せている。
きっと他にも武将がいる中で、丹羽長秀と柴田勝家だけを選んだら、他の武将からは『何だ!? 俺の苗字は要らんってか!?』となりかねない。
また苗字の並び順もおかしい。
丹羽長秀より柴田勝家が家臣的立場が上なので、仮に貰ったのなら『柴羽』とすべきなのが当然の礼儀だ。
名前を与える偏諱では、必ず格上の者の名を先頭に持ってくる。
浅井長政の『長』、長曾我部信親の『信』は、いずれも信長から与えらえたので、必ず名前の先頭に持ってきている。
仮に『本多正信』に『信』が与えられたら『本多信信』の可能性もある。(その時は『信正』等に改名するだろうが)
氏素性も不明な秀吉が、人たらしの天才と呼ばれる秀吉が、そんなしきたりや、人間関係を無視した苗字の創設をするとは考え難い。
事実なら、織田家の家臣全員に喧嘩を売る暴挙だ。
暗殺されても文句は言えない。
常に武将達のご機嫌を伺い、針の穴を通過する様に、織田家内で慎重に出世した秀吉である。
当然、妬み、嫉みは嫌味は酷かったであろう。
身分最下位の出身なのだから。
『禿ネズミ、サルの分際で』
武将達には、こう思われても仕方ない身分であり時代である。
そんな中で、丹羽長秀、柴田勝家から苗字をもらったとは考えにくい。
特に今の歴史は、史実よりも異常に出世が早い。
また史実の将来においては頂いたならば、苗字の相手である柴田勝家を攻め滅ぼし、丹羽長秀からは恨まれていたとの説がある。
それなのに羽柴は使い続けている。
生涯使い続けている。
よく誤解されるが、秀吉の苗字の遍歴は『木下→羽柴→豊臣』とされるが、これは間違いである。
信長の最後の真名が、『平朝臣織田前右府三郎信長』である様に、秀吉も『豊臣朝臣羽柴太閤藤吉郎秀吉』であり、『豊臣』は源平藤橘に倣って作られた、新しいルーツでありルーツの始祖としての姓で、平時は常に羽柴秀吉で、羽柴秀吉のまま病死した。
豊臣秀吉ルールを採用すると、織田信長は平信長、徳川家康は源家康、武田晴信は源晴信、伊達政宗は藤原政宗と常に名乗る事になる。
そこら中、源平藤橘だらけで訳が分からなくなるだろう。
なお『橘氏』をルーツにする著名な武家は不明だ。
時代を遡ると楠木正成が該当するが、戦国時代は圧倒的に『源平藤』が多い。
それで話を戻すが、攻め滅ぼした柴田、憎まれた丹羽の苗字は最後まで捨てていない。
つまり、両者から譲ってもらった苗字では無いのだ。
じゃあ『羽柴』とは何なのか?
それは農民よりも貧乏で生活困難者が行う『端柴売り』から来ているのだ、という説がある。
端柴とは落ちている木の枝、火おこしの際の種火を作る為の、『薪』や『炭』とは違う、燃えやすい素材である朽ちた木を集める人を指す。
農民よりも身分が低い、と言うよりは差別的立場で職業でもある。
『しょせん自分は端柴売りですよ~』
秀吉は、そう自分を卑下して立場が上回ったとしても、『羽柴』を使い続けたとの説だ。(※後書きにて追加説明)
「しょせん自分は『端柴売り』。そう言いたいのだろう?」
信長が若干苦しそうに言った。
「ッ!!」
秀吉も可成も驚いて声がでない。
だが信長も苦しそうだ。
実は信長は前々世では、特に考えなく許可をした。
『柴田、丹羽の両者から貰った』
という噂話も聞いた。
特に気にせず許可を出したが、後々『絶対あり得ない!』と気付くも後の祭り。
『ワシともあろう者が、今や織田家で日の出の勢いの者に『羽柴』を許すとはッ! 今更この理由で羽柴からの変更を命じたら余計に拗れるか!? クソッ!!』
自分も初期織田家は身分の低い家であったが、それでも歴とした武家である。
最下層出身たる秀吉の気持ちを、即座に理解できなかった苦い記憶がある。
「ハシバとして漢字はどうする? 言っておくが『端』に『柴』は露骨過ぎるぞ?」
「……ッ!!」
「端柴売りの秀吉など絶対に許さん」
「で、では……あ!? あ、『足場』では如何でしょう!? 織田家を支える足場としての覚悟の現れです!」
「ハシバからアシバか。人に踏まれる存在だと暗に言いたいのか?」
「あぅ……ッ!」
咄嗟に思い付いた起死回生の『足場』だったが、即座に見破られてしまった。
「己を卑下するのが駄目だとは言わん。戦略としてはあり得るだろう。『ハシバ』じゃないと通用しない戦略があるなら許可しよう」
信長包囲網を土下座戦略で乗り切った信長の言葉である。
言葉の重みが段違いだ。
「ただ常時、苗字までに当て嵌めるのはやり過ぎだ。ならば『中村』はどうだ? 中村郷出身だろう? 地名を名字にする武士は腐るほどおるぞ?」
「な、中村には苦い思い出しかありませんでして……」
まさに中村郷で端柴売りとして過ごしてきたのだ。
トラウマを思い起こす苗字は勘弁したい。
「そうか……そう言う事か! それを嫌がって親衛隊に来たのだな?」(26話参照)
「は、はい……」
「じゃあ元那古野の『人地』にするか?」
「それは殿が願いを込めて決められた地名! それこそ恐れ多いです!」
「別に構わんのだが……。苗字を考えるのがこれ程までに難しいとはな。卑下は許せんし、恐れ多いのもダメ、出身地も苦手か。さて、どうしたモノか……」
信長の言葉に誰もどう反応もできず、沈黙が場を支配した――と思ったら帰蝶が声を上げた。
「あっ!? ならば逆に藤吉郎殿に聞きたいのですが、許されるなら絶対にハシバが良いのですか?」
帰蝶が聞いた。
もうこうなれば本人の意思から着想を得るしかないと思ったのだ。
「はい。出来れば……」
「理由は良く分かりました。ただ、その場合、森寧々殿が端柴売りに嫁いだ事になるのは考えましたか?」
「あッ!? も、森様! 申し訳ありませぬ!」
さすがの秀吉も、そこまでは頭が回っていなかった。
寧々は木下家出身だが、血縁はともかく、森家の養女として正式に可成の娘の立場である。
織田家筆頭家老の娘を端柴売りに嫁がせた事実になっていしまうのは、女の帰蝶ならではの気づきだった。
「い、いやワシも考えが至っていなかった。だがそうなると困ったな。お主の希望は叶える手段が無い」
さらなる重い沈黙が場を支配した。
だが、ここでもう一度、帰蝶が口を開いて沈黙を消した。
「じゃあ、私から提案です。殿。一旦『ハシバ』を認めましょう」
「何じゃと? ん? 一旦と申したか? それでどうするのだ?」
「そこです。殿、藤吉郎殿に褒美として『小シバ』の苗字を与えてはどうでしょうか? もうとっくに『端』に属する武将ではありません。少なくとも殿直轄でも十分働ける実力はありましょう。さらに出世すれば『中シバ』や『大シバ』『上シバ』に苗字を出世させるのも面白いのでは? 苗字を持っていなかった藤吉郎殿ならではの特徴となりましょう」
「成程……」
信長も考え込む。
帰蝶の提案は、無茶の様で理にかなっている。
端柴を認めた上で、褒美として『小』の字を与える。
名前を与えるのが当たり前の時代。
苗字を与えるのも例は少ないがある。
史実の先の時代になるが、伊達政宗の家臣である鬼庭綱元が、秀吉から『庭に鬼がいるのは縁起悪い』との理由で『茂庭』の苗字となった。
また松平元康も最終的には徳川家康と『康』しか原型が残らぬ名になっている。
「どうだ藤吉郎。今の案なら受け入れられそうか?」
「はっ。折衷案として、また、これ以上、殿や大殿、濃姫様にも某如きに迷惑をかけられませぬ。受け入れます」
《某如き、か。重症じゃな? ファラ、これも鬱病に繋がるか?》
《うっ……。ま、まぁ鬱病はどんな理由でも可能性はあります》
かつて鬱病の未来知識をうっかり与えてしまった以上、今更隠せずファラージャは白状した。(6話参照)
「よし。『ハシバ』を認めよう。で、森家での功績を称え『小シバ』の苗字を与える。漢字は『小さい芝』の『小芝』とする!」
「はっ! 有難く頂戴いたします!」
こうして問題は解決され、史実に存在はするが苗字が変更され、誰にも迷惑をかけないであろう『小芝藤吉郎秀吉』が誕生するのであった。
トラブルが起きるかは不明である――
実は……『端柴売り』説も個人的に納得できない部分があります。
端柴売りをもじって『柴』と『羽』を使われた、柴田勝家と丹羽長秀にとっては『ブッ殺すぞ!?』と思う屈辱だと思うのです。
一応秀吉が彼らに、全く無関係で字を当てはめたと言い訳したかもしれませんが……。
この時代、極道同然(か、より酷い)の理屈がまかり通る時代なので『寺で命名してもらった』とでも言ったかもしれませんね。
この羽柴秀吉を登場させる為、『端柴売り』以外の説を探したり、新説考えましたが、妙案は見つけられませんでした。
なので『端柴売り説』を採用し、かつ、それを否定し『小芝秀吉』とします。
違和感が凄いですが、慣れてください!




