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信長Take3【コミカライズ連載中!】  作者: 松岡良佑
1章 神信49年(100001582年)破滅の未来
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3話 信長教

「分かった。やり直してやろう……いや! やり直させてくれ!」


 信長はそう懇願して叫んだ。

 信長にとって本能寺の件だけは悔いが残る人生であった。

 時代を引っ掻き回し新たな時代を作るはずであった。

 それが、唐突に時代から退場する事になってしまい、残された者の苦労は想像に難く無い。


(それに……1億年後の今の世界はヒドイ! 巡り巡ってこんな世界になるとは夢にも思わなんだわ!)


 信長がそう思うのも仕方がなかった。


 復活した信長と帰蝶は、ファラージャの話を聞いた後に奇天烈な着物から一旦普通の(しかし信長からすれば十分奇天烈な)服に着替え1億年後の世界を視察した。


 その光景に、信長は眩暈を覚え、帰蝶は膝を付いた。


 未知の、未来の技術に圧倒されたからでは無い。

 それは既にファラージャの研究室で通過した感覚である。

 眩暈を覚え膝をついたのは、歴史の結果の光景にである。


 世界に出る前に、現在の状況を説明された時は半信半疑だったが、実際に世界を見ると――


 見知った地形は一切無かった。

 日ノ本らしき地はどこにも無かった。

 ファラージャは詳しいメカニズムは省いたが、1億年の間に起きた数多の地震で徐々に大陸に移動して接続されたと説明した。

 従って、かつて日ノ本だった場所はあるが、知らなければ絶対に分からない。

 日本のシンボルだった富士山も地震と噴火によって、遥か昔に木っ端微塵に吹き飛んでいる。

 山々や緑は戦国時代と遜色無いと感じたが、空飛ぶ大型の人が乗る鳥、勝手に動く人が乗る箱、動く絵に中空に映し出される映像、宙に浮いたり、およそ人と思えぬ身体能力を発揮する人々。


 しかし――

 それらは未来の技術や光景として、理解は追いつぬが、何とか己を納得させた。


 納得出来なかったのは――

 そこかしこに存在する、信長や帰蝶、かつての家臣達の奇天烈な人物像や絵には、全く納得出来なかった。


 更にもう1つ――


「街並みは、もうどんな言葉を連ねても表現出来ぬ程に凄い! しかし……」


「あの私達の名前が書かれた像や絵は何なのですか!?」


 信長と復帰した帰蝶はゲンナリしつつ聞いた。

 これが信長の眩暈と帰蝶の膝から崩れ落ちた原因の一つであった。


「気になりますよね? もう気付いたと思いますが最初に着替えてもらったあの召し物は、この人物像の中の一つを参考に作られたモノです」


「……であるか」


「それは分かるのですが、何故私達はこんな辱めを受けているのですか!?」


 帰蝶は顔を真っ赤にして抗議した。

 後世に伝わる似ても似つかぬ自分達の姿に、晒し者にされていると感じたからである。


(お市や吉乃もそうだが、扇情的な姿形をし過ぎておるわ)


 信長は目を細めながら、じっくりと眺めている。


「これは別に辱められている訳では無いのですが、その答えはこれから案内する場所にあります。フーティエ!」


 ファラージャがフーティエを呼ぶと3人の体が浮き上がり場所移動を始めた。

 街から離れたエリアに移動すると――


「ここが答えの分かる場所です」


 ファラージャが連れて来た場所は――


 そこには『信長教(しんちょうきょう)』と呼ばれる宗教色がこれでもかと前面に出た、寺とも教会とも言えそうな荘厳な建物があった。


「お2人の時代では、仏教以外にも世界には多種多様な宗教がありましたが、今は『信長教』が世界唯一の宗教として君臨しています」


 申し訳なさそうにファラージャは告げた。

 これこそが真に眩暈を覚え、膝をついた最大の原因であった。


「な、何じゃこの安土城っぽい建築物は!?」


「これは信長教の神殿です」


 ファラージャの説明は要約するとこうなる。


 ・遥か昔には多種多様な宗教が存在していたが、全て邪教徒として刈られ根絶やしにされた。

 ・信長教の唯一神として信長がいる。

 ・信秀は聖父、土田御前は聖母。

 ・帰蝶ら妻達は聖女。

 ・信長の兄弟姉妹は神の補佐をする聖人。

 ・信忠ら息子娘達は神の子。

 ・森可成、丹羽長秀、滝川一益、柴田勝家、池田恒興ら信長のかつての家臣達が信長の使徒。

 ・明智光秀は神を殺した破壊神。

 ・信長に敵対した今川義元、武田信玄、顕如らは破壊神の使徒。(羽柴秀吉、徳川家康は神の世界の簒奪者として忌み嫌われているが、信長の死後の話なのでファラージャの思惑によって伏せられた)

 ・土地の支配は宗派毎に区切られている。

 ・かつて日本だった地は信長生誕の地として神聖視されている。

 ・復元された安土城は大聖地に、清州城や岐阜城など信長と縁のあった城は小聖地と扱われている。

 ・信長の一代記『信長公記』は聖書として扱われている。

 ・今いる地は最大派閥にして最大の過激派である信長教柴田派が、つい最近占拠した地である。


 そこには――

 宗教内の多数の派閥が、自分達こそ正統であると疑わず争いあっている、凄惨極まる地獄絵図が眼前に広がっていた。

 各派閥は聖地を所有する為に、他派閥を殲滅させ様と、見た事もない兵器、理解不能な技術で争い、各派閥が掲げる解釈が各宗派の主張として叫ばれ他勢力を滅ぼす大義名分となり、手が付けられない程の争いが起こっていた。

 凄まじい技術で作られていたであろう街並みは、人の死骸だらけで戦国の世より酷い有様で、国と言う概念は霧散している様であった。


「何でこんな事になるまで放置したのだ!? 何でワシが神に祭られておる!? 信長教って何じゃ……ッ!?」


 ファラージャは滅茶苦茶複雑な事情を説明するのに四苦八苦し、とりあえず遥か昔に世界中で宗教戦争が勃発し、5000万年前に『信長教』が設立された事を伝えた。

 また、『信長教』が成立した背景に『信長が本能寺で討ち死にした事が原因である』との学説が支配的である事も伝えられた。


 こうして信長は当然、帰蝶も茫然自失となり、冒頭のセリフを叫んだのである。


「わかった。やり直してやろう……いや、やり直させてくれ!」


 見物した結果、信長は乗り気でなかった人生やり直しが、絶対に必要だと感じた。


「そう言ってくれると信じていました」


 申し訳なさそうにファラージャは答えた。


 そんな悪夢の視察を終えて――


「……所でふぁらあじゃ殿はどこかの宗派に属しているのですか?」


 恐る恐る帰蝶は尋ねた。

 もし柴田派と言われたら卒倒しそうである。


「……破壊神明智派です」


「えっ」


 ファラージャは語った。

 明智派は破壊神光秀を崇拝する異端であり、見付け次第殺す事が全ての派閥の義務であり、神に近づく為の修行の一環とされている。


 その明智派の実態は別に宗派でも何でも無いが、強いて言うなら『信長教』に異議を唱えるたり侮辱した者に対する不名誉な称号名である。

 特に一部の者はこの狂った宗教戦争に疑問を感じ、歴史解釈の是正と平和的解決に向けて活動していたが、異端者明智派と認定され弾圧の憂き目に会い、多勢に無勢、力尽きて散り散りになってしまった。

 だから明智派と呼ばれる者はひっそりと横の繋がりも無く、ほぼ個人で秘匿する思想であった。

 ファラージャはそんな数少ない明智派として隠密活動を行っていたのだ。


 この世界を消し去る事は出来ずとも、『もしも』の世界を作り出す事が出来れば、と考え偶然と自らの運命に一縷の望みを掛けて信長達を復活させたと語った。



 ファラージャが言ったやり直しには条件があった。


 ・天正10年6月1日に本能寺に泊まり二人とも生き延びる事。

 ・未来の技術や戦術は教えられない。

 ・本能寺の変後の歴史は教えられない。

 ・本能寺前までの歴史は現在に伝わっている内容を希望があれば教える。

 ・本能寺を生き延びたならば、天下布武を遂行する事。

 ・今まで得た知識は駆使して良い。


 それ以外は特に条件は無く、信長は拍子抜けしてしまった。

 仮に失敗しても何度でもやり直しは出来る等、条件としては甘過ぎるものだった。


 ここまで聞かされて信長は思った。


(本能寺を生き延びる方法など知っていればどうとでもなるし、未来の技術は確かに知りたいが、そんな未知の兵器や技術で天下を統一しても意味が無いのは納得出来る。そんな事をしたら増々神として祀られそうじゃし、本能寺後の歴史を教えられないのも、この先誰がどうするとか知ってしまうと、考えが惑わされるのも分かる……良し!)


 条件を満たす方策はすでに頭の中に出来つつあった。


「良し! では過去に戻る!」


 信長は出発を促した。

 過去に戻る決意を固めたから、と言う理由と、自分が不本意に恥ずかしく奉られているのは我慢が出来ず、一刻も早くファラージャの研究室に戻りたかったのも理由であった。

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