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信長Take3【コミカライズ連載中!】  作者: 松岡良佑
19-1章 永禄6年(1563年) 弘治9年(1563年) 
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189-2話 降伏 策からの神速行動

189話は3部構成です。

189-1話からご覧ください。

【越前国/堀江館 朝倉領内、織田拠点】


 一向宗が退席した会談直後の話である。


「新介(毛利良勝)と小平太(服部一忠)、それに葵、茜、直子に指令を与える」


「何でしょうか?」


「今から吉崎に向かい、周囲を観察しつつ吉崎御坊に潜入しろ」


「潜入? それは構いませぬが、情報収集でしょうか?」


 男の2人は精悍な顔付きで任務の内容を確認する。


「尾張で治安活動して居た時以来ですね」


 女達は信長の側室で、彼女らは既に母親でもあるが、その美貌には磨きが掛かっている。

 やりたい事をやれる幸せが、生命力と美貌の秘密だ。

 彼、彼女らは信長の最初期からの親衛隊。

 かつては偵察もこなして来た身。

 武力もその辺の木っ端武者など相手にもならない。


「それもあるが、まずお主らに頼みたいのは、道中のついでで良いから民の生活を確認せよ。まず民は居るか? 居るなら食うに困っているのか、とりあえず今日の食事はあるのか、何か月も耐えられる備蓄があるのか? 吉崎以外の家屋への潜入など無理はしなくて良いが、その辺りを道中で調査して欲しい」


「構いませぬが、備蓄は1万石を与えた以上、間違い無くあるのでは?」


「うむ。それをどう使ったのか知りたいのだ。だから調査は念入りじゃ無くても良い。一軒でも民が食うに困っているなら、吉崎御坊に籠城用として運び込んでいるのだろう。だが、しっかり食っているなら、分け与えたのだろう。そこで七里頼周を計ると共に、今後のこちらの戦略も変わる。もし民がしっかり食っているならそのまま戻って来い」


 信長としては、籠城備蓄でも分け与えても、どちらでも良いと思っている。

 これで頼周の善悪を判断したいのでは無く、今後の対応をどう考えているのか知りたいのだ。

 備蓄なら籠城、民に分け与えたなら決戦を挑む恐れがある。

 武将を送ると密書で言ったが、決戦を挑むつもりの軍に送ったらそのまま人質だ。

 その見極めが理由の一つである。


「後は、少し嫌な任務かも知れんが、お主らが歩き回って、性的な視線を感じるかどうか見極めて欲しい。実はもう既に流言を放っておる。『吉崎御坊は女を集めて乱痴気騒ぎ』だとな」


「えっ。そんな流言に引っ掛かり……るかも知れませんね」


 先の会談前、頼廉が来た時点で女子供は吉崎に避難させてある。

 その上でこの流言だが、先の会談で女の匂いを嫌と言う程に嗅がせた後だ。

 訳の分からない思考回路で、無理やりその流言を都合の良い様に信じて、女子供の退避を乱痴気騒ぎと結び付ける輩が必ず出る。


 犯罪を決心した者は、その悪の大小に関わらず、理屈が他人にとって不可解異常であっても、己の中で筋が通れば躊躇(ためら)わないし、何なら『ごめんなさい』と正当化しながら罪を犯す。

 そう思うなら最初からやるな、と思うのが普通だが、犯罪を決心した者はあらゆる異常を、異常な思考で正当化してしまう。

 その正当化に自分が酔ってしまえば、一線を越える事に躊躇は無い。


「当然、襲われたら撃退も許可する。先の会談の効果確認だ。お主らなら撃退も逃げ切るのも訳も無かろう」


「勿論です」


「殿以外の男に靡くハズもありません」


「そうです。我らがその身を捧げるのは殿だけです」


「責任重大よな」


「ああ。まぁ、こいつ等を襲う勇気がある奴など……」


「何か言った?」


「いーえ。何も。何も心配しておりませんよ。()()()


 5人は、冗談を言いつつ、嫌な任務を嬉々として受けた。

 特に女達は信長の役に立つ事が幸せなのだ。


「なお、民の生活ぶりから吉崎御坊に備蓄があると判断したなら、潜入は正面から堂々と行け。頼周と頼廉には話が通してある。『本願寺()()からの使者』と言えば頼周か頼廉の下に案内されるだろう」


「えっ!? いつの間に!?」


「先の会談で、書状の取り交わしの時、奴らだけに分かる様に書状を忍ばせた。助けを乞いたいなら連絡せよとな。ワシはその連絡が必ず来ると読んでいるが、その判断基準が先に言った民の生活なのだ。頼周も頼廉も優秀だ。ならば民を吉崎に匿って籠城しているハズだ、とワシは見ておる。だから返事が来る前にもう動くのだ」


 信長の一級品の判断の速さ。

 しかも敵に対する信頼だ。

 策で追い詰めた相手だが、弱みを正確に見抜き予測で動く。

 未来知識で知っているのは下間頼廉の優秀さだけで、他の全てが変化している北陸一向一揆だが、信長は断定して動いた。


「どんな形になるかは不明なれど、籠城戦でも迎撃戦でも、相手は一向一揆になろう。その時、頼周と頼廉を助ける将兵が必要だ。その指揮官として働くと共に、戦地となる様子を探り間者に報告せよ。ワシらは吉崎に軍を向けつつ、その報告を聞き救援に向かう事になる」


「わかりました。一揆内一揆の吉崎御坊側の戦力として任務を果たします」


 小平太、新介、葵、茜、直子は嫌な顔をせず言い切った。

 罠の可能性もあるが、命令を拒むは己の存在意義の否定だ。

 しかし、死ぬつもりも無い。

 死地に飛び込み生還するのが、古参親衛隊の誇りなのだ。


 一方、不満顔の女が一人いた。


「……私には命じて下さらないので?」


「やはり希望するか。分かった。吉乃も一緒に行け。小平太達には護衛を頼むが無事吉崎に送り届けてくれ。スマンが頼むぞ」


 これで古参の親衛隊は全員集合だ。

 近頃、男は武将として、女は妻として働いていたが、ここらで、最古参親衛隊の腕を下っ端共に見せておくのも悪く無いと思っていた。


「分かりました。でも、吉乃様に戦いや指揮は酷でしょう。一体何を企んでいるので?」


 吉乃は隠形術に掛けては織田家最強だが、指揮采配、武術は全くダメである。

 辛うじて、ヘナチョコ弓を扱える程度だ。

 大混乱であろう吉崎御坊で身を隠すなら完璧にして見せるだろうが、今回、護衛してまで連れて行って隠れるだけでは何の意味も無い。

 何か理由があるはずだ。


「良く気が付いたな。まさに企みだ。吉乃。お主は残念ながら戦では役に立てる事は無い。戦になったら吉崎御坊の奥で避難を命じるが、一つ任を与える」


「はい、何でしょう?」


 先も記述した通り、吉乃は織田家最強の天然隠形使いだが、流石に性欲を刺激された男共に匂いを感付かれる恐れもある上に、体術は全く駄目だ。

 能力が偵察全振りなのが吉乃の親衛隊としての役割なのだ。

 出来れば大人しくして欲しいのが正直な気持ちだが、前々世では最後の子供(五徳姫)を産んでから徐々に体調を崩して亡くなったが、この歴史では元気いっぱいだ。

 とても後3年で亡くなる感じは無い。

 ならば、その最強の天然隠形術を活用しない手段はない。

 信長は、前向きに考え吉乃にも任務を与えた。


「戦のドサクサを利用し『タンニショー』と呼ばれる書物があったら盗め。しかし絶対に無理はするな」


 隠れるのは天才的だが、探し物を見付けられるかは運次第。

 失敗前提の任務だが、マズイのは窃盗現場を見られる事だ。

 ソコだけは厳重注意を申し付ける信長であった。


「そう言う事でしたら、お任せ下さい!」


「うむ。頼んでおいて何だが、少しでも危機を察知したら中止しろ。これは失敗して良いからな」


「小平太、新介」


「まだ何か?」


「いや……いや良い。籠城の際には存分に暴れて参れ」


 信長が言い淀んだのには理由がある。

 本当のプランとしては良勝と一忠は、自軍の武将として使いたかった。

 ただ、大名の軍隊相手では無い今回。

 しかも吉崎は地形が複雑だ。

 任務の性質は野盗討伐の方が近い以上、適材を考えるなら、この配置の方が戦果は挙げられると考え直した。


「はッ!」


「お任せを!」


 信長は余計な詫びを言わず信頼の言葉で留めた。

 それと同時に、あえて命令を切った。

 これで配置完了なのだから、もう言う事は無い。


 しかし、その信長に視線を向ける眼が1つ。

 2つでは無い。

 1つだ。


「殿、私も出るべきでは?」


 隻眼の帰蝶が『まだ命令があるでしょ?』と言いたげに、不満顔を通り越して仏頂面で聞いた。


「これは()()殿()! 斎藤殿にそんな任務を任せられませぬ!」


「何を仰られますか!? ()()()()()()で御座います!」


 信長の大仰な他人行儀的拒否言葉に、帰蝶は妻の立場と親密さで信長よりも大仰に論破する。

 この歴史の信長は滅多な事では怒らないし、怒ったとしても演技や策略である。

 本気で怒った事など片手で足りる。

 人生3回目故の余裕が成せる精神力でもある。

 だが、帰蝶にだけは、特にこんな場合の帰蝶には嫌な予感しかせず、どうしても口が悪くなる。


「えぇい、このたわけが!! お主は斎藤家代表じゃろうが!?」


 信長が始めた意図的な演技臭いセリフだったが、それも忘れて怒った。

 何の不備や隙も無い、完璧な理由で怒った。

 また、帰蝶の別の思惑も察知した。


「斎藤軍の指揮を放棄してそんな任務、与えられる訳が無かろう!? 駄目じゃ! どうせ先に見せた武を活かす場を狙っとるのじゃろう!?」


 信長は言いながら『だいぶ昔に似た様な事があった気がする』と何か既視感に囚われた。(11話参照) 

 一方、帰蝶の左目が失った右目の分まで泳ぐ。

 そんな状態で言うセリフは実に白々しい。


「ち、違いますぅ~」


 クソ演技にも程がある白々しい返事だった。

 こんな誰でも『嘘だ』と理解出来る返事は、逆に清々しい。

 だが確かに、あの武を磨くには実践あるのみ。

 性欲に狂った者を実験台に使うのは、確かに丁度良い相手だろう。


「それに! もう一度言うが! 今は誰が何と言おうと斎藤家の主君の立場じゃ! ワシが夫の立場を利用して命令しないと斎藤家の面々の前で宣言したじゃろう!!」(163話参照)


 信長が、帰蝶と斎藤家を己と同等の立場と認め、約束を守る為に以前の取り決めを持ち出した。

 これ以上無い、会心の否定のセリフだ。

 だが、あろう事か、その一言が自分の首を絞めてしまった。


「ッ!? あ……でもそうなると、今、殿は夫の立場を利用して、私の動きを止めようとしていません?」


「えっ……なッ!? そ、それは……ッ!?」


 強烈なカウンターパンチを食らった信長は、言葉が続かなかった。


「まぁでも。仕方ありませんね。私は斎藤家当主。では己の意思で葵殿達に付いていきます」


「ッ!? 汚いぞ!?」


「オホホ! 『誉め言葉として受け止めます』って奴ですわねぇ~」


「グヌヌ……!!」


 こうなると、信長は織田家として斎藤家に止める事を要請するしか出来ないが、帰蝶は絶対にそんな要請、断るに決まっている以上、もう止める術は無い。

 久しぶりに本気でこめかみに血管が浮き上がるが、浮き上がってもどうしようも無い。

 今から斎藤家に工作を仕掛けるのも無理だ。

 八方塞がりだった。


「あの会談、殿の女性だけを集めた意地の悪い策に比べたら、私の偵察など清廉な方ですよ? 私の意志で、私の目で、今回の会談の成果の行方を確認するのです。誰かの報告を聞くのも大事ですが、己の目で確認するのも大事なのは殿も同じ意見のハズ。その上で、私は女大名。絶対的な利点だと思いませんか?」


 正論っぽい屁理屈を並べる帰蝶。

 確かに、認めざるを得ない部分もある。

 何なら、帰蝶の言葉を聞いて、信長すら『それなら自分も行こうかな?』と血迷いだして、頭を振って邪念を退けた。


「グググッ! 勝手にせい! 但し、斎藤家の家臣達には報告して行けよ!? 間違っても『織田殿が許可した』とか言うなよ!?」


「オホホ。それは勿論ですよ」


 もし、信長の妻の身分なら帰蝶は偵察に最適だ。

 だが斎藤家の当主となったからには偵察には最悪の人選だが、大名自ら効果確認する意義は大きい。


 大きいかも知れないが――


 それで昨年、七里頼周と激闘を演じた大事件が発生している。

 当然斎藤家の家臣団からは猛反対されるが、帰蝶は偵察の利点と、『真に一揆衆を守る為、吉崎御坊に潜入する!』と押し通したのだった。



【越前国/吉崎御坊周辺 一揆領】


 帰蝶、葵、茜、直子、吉乃、一忠、良勝と、あと風魔の狐蕾が護衛として参加した。

 狐蕾は風魔忍者としての身分がもう割れている。

 養子受け入れの際、斎藤家も知った上で受け入れている。

 その上で、帰蝶がどうしても偵察に行くと聞かないので、能力を考えるなら、本来の一番適任者である狐蕾に、家臣達が半泣きで護衛を頼んだ形だ。

 忍者として世間的な身分は低いが、実力主義の斎藤家で、北条氏康の妻で浄衣の母。

 実力と任務の性格と、狐蕾の性別を考えれば適任に違い無かった。


 彼女らは『朝倉領の寺社取り締まりから逃れて来た設定』で、向かっている。

 男2人に女6人。

 特別不審な団体では無いだろう。

 事実、本当に吉崎に避難する僧や住民も少なからず居たのだ。

 また、今度は髪の艶で見破られない様に、砂埃や泥、煤を髪に塗り込んでの念の入れ様だ。 

 焼け出されて這う這うの体で逃げて来た設定でもある。


「俺ら最古参の隊長各が、こうして揃うのは何年ぶりかな?」


「さぁな。女は無事殿と結ばれたし、俺達も出世した。偶にはこんな懐かしい任務も良いんじゃ無いか?」


 服部一忠と毛利良勝が懐かしそうに話す。


「そうね。アンタ達が衰えて無くて安心したわ。フフフ」


「ぬかせ」


 そこに葵が皮肉を交えつつ冗談を言う。


「所で濃ひ……於濃さん」


「なあに、葵さん?」


「先の会談の狙いと、今後の展開については理解しているつもりですが、これって絶対流血を伴う可能性が一番高いやり方ですよね?」


「あぁ、それは私も思いました。『北陸は血を流し過ぎた』これが両陣営共通認識なのに、我らが陣営は今後の展開で一向一揆の内部崩壊を狙っている。別にそれがダメだと作戦にケチを付ける訳では無いですけど、あの場所に女を揃え、男の護衛100人も入れなければ、こんな混乱起きず、一揆勢を説得出来たのでは?」


 葵と茜が根本的な事を尋ねた。

 何なら先の会談は、信長達と、頼周、頼廉だけでも良かったはずだ。

 それなのに、あんな大規模な会談とし、こちらは女を大量に揃えたのだから、策として露骨だし、お陰で、貞操を守りながらの潜入となった。


「2人の言う事も分かるわ。でも殿は女の力が適任と思ったのかもね? 今後の統治まで考えたらね」


「あっ」


「成程……」


 流石、大名の身分でもある帰蝶だ。

 あの淫靡策は攻略後の統治まで見据えた策。

 後の統治をスムーズにする為の、一揆を利用して享楽を貪る者を殺す策だと帰蝶は気が付いていた。


「どっちにしろ流血を完全に避けるのは無理であり理想。なら、ついでに膿を出しておこうと思ったのでしょう」


 血を流し過ぎた北陸とは言え、この先一滴も流れず済むとも思っていないが、今回はワザと流血させる意思も感じた。

 実はその通りで、信長は、一揆衆の中でも理性が効かぬ者や、造悪無礙を心に飼っている者を、今の混乱を逆手に満喫している者を一掃するつもりだ。

 吉崎防衛は当然、その先の支配まで計算に入れた信長の策である。

 どうせ、七里頼周の方針に逆らう輩は、一揆の火種として燻り続けるのだから、これを機に死んでもらう。


「風魔の、と言うより忍の術には色仕掛けも多数あります。先の会談はそれの大規模版と感じました。普通は性を直接利用するんです。でもあんな方法は聞いた事がありませんが、敵を乱したいのは間違い無いと思います」


 狐蕾が忍者ならではの視点で考察する。

 正に大正解で、敵を分別するのだ。

 生かす者と殺す者を。 

 女に狂った者など、最初から失格判定だ。

 その上で朝倉家の法度を受け入れた吉崎御坊に攻撃を仕掛ける者も失格。


 宗教一揆の根絶は、これからの世を考えれば、ある意味必要経費だが、一揆に紛れて楽している真の悪を断罪する。

 その為の策なのだ。


 生きたいなら逃げるか避難するか、朝倉に保護を求め、初めて生きる権利を得る。

 それ以外に道は無い。


「北陸は血を流し過ぎたとは言え、これで最後の決着を狙い、勝利だけでは無い、今後の加賀の生活も含めた、一石……もう何鳥か分かりませんが、その様な策を狙った、と言う事ですね」


 直子が手の汚れをを叩き落としながら言った。

 彼女らの足元には、性欲に狂った男共が始末されていた。

 彼女らは、織田家、斎藤家の中でも上から数えた方が早い武芸者でもある。

 槍など大型の武器は持ち運べ無いが、流星圏、短弓、杖、脇差、分割可能な半槍は携帯している。

 更に個々が、乱暴者の10数人などモノの数では無い戦闘力を有している。

 帰蝶などは嬉々として無手で戦った程だ。


「こんな調子では、道中何回襲われるか分からないわね。吉崎に到着するまではなるべく目立ちたく無いけど、ついでに敵戦力を減らせるなら、それはそれで悪く無い。困ったわね……」


 帰蝶にとっては体術の実験が出来るのは都合が良いが、流石に道中ずっとこの調子でも困る。


「先の会談が効いたのか七里頼周の支配力が落ちているのか……どちらもかしら」


 葵も同調する程、今居る地域は治安が悪い。

 それは領地最前線だからでもあるが、そんな所に民間人が、しかも女が紛れ込んだらどうなるかは何時の時代も変わらない。

 早くも信長の悪質な策が効果を発揮し、帰蝶達の隠しきれぬ色香に惑わされ、彼らは死ぬべき者として選別されてしまっていた。


「避難民を演じなければなりませんからねぇ~。一石二鳥になれば良いのですね~」


 戦いから避難していた吉乃が、空き家から顔を出しながら言った。

 皆もその気持ちは理解出来るのか、口角を挙げて笑った。


「とりあえず、死体は始末しましょう。痕跡は消すのが潜入の基本です」


 狐蕾が皆の関係性を羨ましく思いつつも、忍者らしい意見を出し、身ぐるみを剥いで、吉乃が隠れていた空き家の囲炉裏で衣服や証拠を燃やし、敵の武器もその空き家に置き、死体は幸い流れていた近くの川に捨てた。


「襲われれば排除するしか無いのでしょうけど、人の存在を完全に消すのって意外と大変ね。尾張時代は放って置いても相手は山賊の類だから山間部に捨て置いて問題無かったけど、施設への潜入は中々大変ね。しかも私達は男連中の視線を受けながら移動する。昼間は休みつつ、夜に距離を稼ぐ事になりそうね」


 茜が確実に起きる面倒事に悩む。


「それだけ我々が魅力的って事ですよ」


 直子の言葉に皆が笑った。

 だが油断はしない。

 勝ったから良いモノの、負けたらココでは表現不可能な、或いは、ノクターンに移籍するしか無い、アレやコレやが起きるのは間違い無い。


 笑いながらも気合を入れ直す一同であった。

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