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信長Take3【コミカライズ連載中!】  作者: 松岡良佑
4章 天文17年(1548年)修正の為の修正
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30話 北伊勢平定後始末

2023/12/4追記

九鬼一族の通称がどうしても不明な為、独自の通称を設定しました。


九鬼定隆:潮左衛門

九鬼浄隆:流太郎

九鬼光隆:河次郎

九鬼嘉隆:海三郎


真通称が発覚した場合は随時変更します。

【伊勢国/長野城 織田家】


 北伊勢を制した信長は、長野城に今回の遠征での主だった親衛隊隊長格を集めた。

 長野城は先だって滅ぼした長野稙藤の居城である。


「これより当面の方針を申し渡す」


 伊勢侵攻で一旦の区切りがついた為、今後の説明が始まった。

 当初よりも大幅に良い結果を出した伊勢侵攻なので、計画の修正が必要であった。


「まず一つ。間も無く於濃率いる援軍が到着する。2500程は集まる見込みだ。そこで全員尾張への帰還を許す。伊勢農兵も居るし防御する分には充分であろう。誤解の無い様に言うが、これは『やる気のない者は帰れ』という意味ではない。今回の帰還は権六(柴田勝家)、三左衛門(森可成)も含む。それぞれの家での決済や報告を受けねばならぬ者も居ろう。中には子が生まれる者も居るかもしれぬ。今回の遠征の褒美を持たせる故、遠慮なく帰還するがいい。とは言え一度に4000が帰るのは困るので、まずは2000人、1ヶ月後に残りの2000じゃ。特に帰還の必要が無い者は残っても良い。優先順位は、負傷者、家の当主、家族のいる者、若年の順じゃ」


 いかに精鋭部隊の親衛隊と言えど、これほどの長期間、国を離れた者は一人もいない。

 いずれは年単位での遠征もあるが、初っ端からそんな事をしたら、遠からず軍が瓦解する恐れがあるので事前に手を打った形だ。

 兵には英気を養ってもらう必要もある。

 偶然ではあったが思った以上に尾張で兵士希望が殺到した為、それをうまく利用して交代要員として活用した形である。


「二つ目。これからの農閑期は基本的に戦はしない。北畠が攻めて来たら話は別じゃが、こちらから軍を率いて攻め入る事はせぬ。その代わり主に調略で取り込める城は取り込む。城が無理でも人は集める。つまり新規親衛隊の徴兵と間者働きを行う。城の防御に必要な者と親衛隊訓練監督者を残し、残る者は伊勢各地で間者働きじゃ。ついでに野盗や人攫いも始末して参れ。今回の遠征の褒美も持たせるから遊んで来てもよい。その代わり伊勢の情勢や北畠の情報を何か一つでも拾ってこい。そういう意味では伊勢神宮はオススメじゃ!」


「おぉ! さすが大将!」


 親衛隊の面々から歓声があがる。


「これも不平不満が出ないよう一定期間で交代する。一応釘をさしておくが遊び一辺倒は許さんぞ? 当然、伊勢の民への乱暴狼藉は斬首に処す。くれぐれも忘れるなよ?」


「も、もちろんでさぁ!」


 信長の鋭い視線が突き刺さった親衛隊の一人が、冷や汗をかきつつ答えた。


「最後に人を紹介する。九鬼潮左衛門殿(定隆)と、ご子息の流太郎殿(浄隆)、海三郎殿(嘉隆)じゃ」


 信長がそう言うと、襖が開き3人の男が入室した。

 大人一人と子供二人である。


「九鬼の名を知る者も中には居ろう。そうじゃ。あの九鬼一族じゃ。彼らの海戦能力は今後の織田家にとって必要不可欠である。今は他の志摩十三地頭や北畠に押されて居るが、逆に言えば単独でそれらを相手に戦える能力を有した稀有な人である。我らは九鬼殿に合力し志摩十三地頭と北畠を滅ぼす!その代わり九鬼殿には織田家の水軍として活躍してもらう事となった! 親衛隊の面々にはいずれ水軍訓練も行ってもらう故に心に留め置くように。逆にご子息の嘉隆殿には陸の戦も学んでもらう故に親衛隊に配属となる。幼いとはいえ海戦に必要な潮の目の読みや海風の予測は大したものじゃ。当面はかつての竹千代同様に扱うが海の上では我らの上役となる。そう心得よ!」


 そこまで信長が言うと、定隆が前に進み出て名乗りを挙げた。


「九鬼定隆と申す。日の出の勢いを持つ織田家と結ぶ事は誠に身に余る光栄。愚息共々皆様の足手まといにならぬ様励みまする。海での困り事があれば遠慮なく申してくだされ」


 そういって頭を下げ、息子二人もそれに倣う。

 信長は九鬼の力を褒めたが、現時点では押され気味であり、歴史が歪んだ今では滅ぼされる恐れすらあった。

 ただし今は押されていても史実を知る信長は、九鬼家の海戦の力と将来の才能が本物であるのは知っているので、北勢四十八家の滅亡を条件にして同盟を約束させた。


 所で、何故北畠や志摩十三地頭からの解放ではなく、北勢四十八家の滅亡を条件にしたのか?

 実は、九鬼としては能力の良く解らない織田家の言い分には当初は懐疑的であり、せめて力を見せてほしいと織田家当面の敵である北勢四十八家の制圧を条件にしてみたのだが、あっさりと達成された事に驚き、織田家の力を認め同盟し、志摩十三地頭と北畠の滅亡を達成したら、同盟から臣従する事を約束した経緯があった。


「これにて当面の方針説明を終わる。後は持ち場に戻り、尾張帰還者、城待機者、間者の振り分けを実施せよ!」


 親衛隊の隊長格、特に若い隊長は我先にと持ち場に戻り、部下の差配を行い当面の休息を満喫する事にした。

 若者の現金な行動を半ば呆れてみていた森可成は信長に尋ねる。


「殿、本当に我ら二人も帰還してよろしいのですか?」


 柴田勝家も同じ思いらしく信長を心配そうに見やる。


「全く問題ない。入れ替わりに塙九郎左衛門(原田直政)、内蔵助(佐々成政)、茂助(飯尾尚清)が来る。ついでに於濃も。むしろ奴らにも活躍の場を与えぬと成長の機会が無くなるわ。お主らは良くやった。遠慮なく帰還するが良い。親父殿や兄上への報告も頼みたいしな。お主らは帰還し休息した後、親衛隊の面倒を見てやってくれ。今川が大人しいとは言え、無警戒では居られぬしな」


「それは構いませぬが……殿は休まれなくて宜しいのですか?」


 心配で食い下がる可成。

 心配というより、信長の才能に惚れて配下になった身としては、このまま付き従いたい気持ちが強い。


「心配無用じゃ。ワシは今が楽しくて仕方ない。この場にいる事こそが休息よ!」


「しかし……」


 なおも食い下がろうとする可成を遮り勝家が口を挟む。


「そこまで仰るなら……では森殿行きましょうか」


 勝家が無念そうな可成を促し立ち上がる。

 無骨な勝家らしからぬ信長への気配りであった。


(ほう! 権六も前々世とは違う感じに成長しとる!)


「ぬぅ! では殿、尾張より吉報をお待ちしております! しかし、いつでも呼んで下され!」


 もちろん成長した勝家は気配りも出来る男であったが、若い頃は武辺一辺倒の猪武者に近かった。

 それが今回は親衛隊に組み込まれて、若い連中と同じように付き合った結果、性格に変化がでており、さりげない心配りが既に身についていた。


「(逆に三左衛門はあんな性格じゃったかのう?)うむ、楽しみにしておれ!」


 そう思いつつ信長は吉報を約束した。

 最後まで残った重臣二人が退出した所をみて九鬼定隆が口を開く。


「噂に聞く親衛隊ですが、噂以上に若く活発な部隊ですな。ワシも若い海賊衆を率いておりますが、海の男には無い逞しさがありますな! と言うより海賊と言われたら信じてしまいそうですぞ!」


「ほう! ワシを含めてか?」


「おっと、これは手厳しい! ……そうですな。三郎殿は流太郎と左程変わらぬ年頃のハズなのに、ワシよりも風格がある様に見えてなりませぬ。正直、海賊と言うより歴戦の武将と相対している気分ですな。50歳と言っても信じてしまいそうですわい!」


「(鋭い!? さすがは九鬼じゃ……!)海三郎殿には親衛隊を100人ほど預ける故に海の男として鍛えて頂きたい。また流太郎殿には海上警護を頼みたい。特に伊勢湾を利用する我らの商船を警護して頂きたい。その為に現在は知多半島先端を港として使えるよう整備しておる。志摩と知多半島を拠点として活動してもらいたい。我らはその間志摩を陸から守る」


「承りました!」


 浄隆は年の近い信長に畏敬の念を抱き、同盟関係ではあるがすでに心は臣下のつもりであった。


「海三郎殿は暫くは於濃と一緒に行動してもらう」


「……? 濃姫様……ですか?」


 定隆が疑問を挟む。

 女子に預けて何をさせるのか全く分からない。


「あー……ワシも信じたくないのじゃが、あ奴は親衛隊の中でも屈指の武芸者なのじゃよ……。今、犬千代(前田利家)という9歳の子供が、於濃から一本取ろうと必死にもがいて居るが全く歯が立たない。さらに歴戦の大人が挑んでも互角の戦いをしよる。親衛隊の中でも於濃から一本取れるものは僅かなのじゃ。海三郎殿は武芸訓練の一環として、於濃より一本取る事を目標としてもらう」


「えぇ……!?」


 幼い嘉隆は、どんな鬼武者が来るのか不安になってしまった。


「……! そうじゃ! 船の上なら於濃に勝てるかもしれぬ! 陸の戦いに慣れたあ奴に勝つにはそれしかないぞ!」


「え?」


 まるで帰蝶が倒されるのを望むかの如く、信長が嘉隆に肩入れする。


「あ、ゴホン! ……まぁとにかく一緒にいれば学ぶ事も多かろう。武芸だけではない。あ奴はワシ以上に好奇心の塊でな。一緒にいて退屈する事はあるまいて。間違いなく勉強になる事は保証するぞ! まもなく援軍として犬千代と一緒に来るはず……」


「報告します! 濃姫様が参られました!」


「……あ奴はどこかで、今のやり取りを見ていたのではなかろうな?」


 タイミングの良すぎる登場に信長は怪しんだ。


《正解です……。ずいぶん前から隣の部屋で聞いてました》


 ファラージャが申し訳なさそうに答える。


《フフフ! 上様! 何やら楽し気なお話をしてましたね!》


 帰蝶はそう答えつつ襖を開けた。

 擦り傷だらけの犬千代と、塙直政、佐々成政、飯尾尚清も一緒である。


「三郎様。援軍2500率いて到着しました。先の戦には間に合わず申し訳ありません」


 テレパシーの時とは打って変わって殊勝な態度で帰蝶が平伏する。

 一緒に入ってきた4人も同様である。


「《相変わらず見事な変わり身よ!》先の戦はワシの油断が原因。何もお主らに責など無い」


「《フフフ! 後で色々聞かせてくださいね?》はい、ありがたきお言葉! 痛み入ります」


「九郎左衛門、茂助、内蔵助も遠路で、しかも於濃の下で苦労かけたな」


《しかもってなんですか!?》


「いえ、濃姫様の指揮は見事なものでして、逆に学ぶ事も多く良い経験をさせてもらいました」


 塙直政は心よりそう思って居るのだろう。

 声が弾んでいて聞いているだけで気持ちが分かった。


「内蔵助などは、道中濃姫様に挑んでは返り討ちにあってまして、見ていて飽きませんでした」


 飯尾尚清が面白そうに道中の土産話を語る。


「飯尾殿! それは言わない約束で……!!」


 佐々成政が慌てて抗議する。

 誰が聞いても賑やかな道中であったことは想像に難くない。

 織田家の面々は愉快そうに笑っていた。


 定隆はこの光景、特に帰蝶を見て驚きを隠せない。

 信長の妻とはいえ女子が一軍を率いる将として、後ろに控える4人より格上の扱いである事、後ろに控える将がそれを全く不満に思って居ない事、何よりも、帰蝶が信長よりも若く小柄で華やかな美貌を持っている事。

 信長の話を聞いて熊の様な姫を想像していただけに動揺を隠せなかった。


「織田殿、ほ、本当にこちらの濃姫殿が武芸を見るのですか!?」


「不本意ながらそうなのじゃ。のう内蔵助? 犬千代?」


「うぐぅ!!」


 成政がうめき声で返事をし、犬千代は仏頂面で顔を背けた。

 犬千代は嘉隆よりは幾つか年上の子供で青アザだらけである。


「織田殿、もしやこの子が件の犬千代殿ですか?」


「そうじゃ。犬千代よ。お主は一本とれたか?」


「三郎様! 解っていて聞いていますよね!?」


 仏頂面からふくれっ面に変わった犬千代の態度は、如実に連戦連敗の実績を表していた。


「ククク! これからはここに居る海三郎殿と一緒に鍛えてもらえ。おっと内蔵助もな!」


「殿ぉ!?」


 佐々成政が悲鳴に近い声を上げる。

 道中コテンパンにやられたのか、帰蝶に対してすっかり委縮してしまっていた。


「君が海三郎ちゃんね? 竹千代ちゃんも可愛かったけど、君も中々ね!」


「海三郎ちゃん……ですか?」


 嘉隆がかつての竹千代同様不満げな顔をする。


「そうよ海三郎ちゃん。ちゃん呼ばわりが嫌なら一本を頑張って取ってね? ねぇ? 内蔵助ちゃん?」


「ふぐぅ!!」


 佐々成政が顔を真っ赤にして崩れ落ちた。


(ワシらは早々に一本とれて本当に良かった……!)


(全くもってそうですな九郎左衛門殿……!)


 塙直政と飯尾尚清が目で会話し胸を撫で下ろしていた。

 二人は元々武芸の心得があり戦場にも出ていたので、半刻掛からず一本とった。

 ただ、最初は油断から滅多打ちにされ、弓矢は未だ勝てていないので、伊勢で再戦を挑むつもりでいた。

 そんなやり取りを見て定隆は笑いながら嘉隆に言った。


「ハハハ! これは愉快じゃ! 海三郎! 存分に鍛えてもらえ! 流太郎! お主もじゃ! こうなれば河次郎(光隆)も呼ぶかの!」


 光隆とは定隆の次男、嘉隆の兄である。 

 兄が海上主体に、弟が親衛隊に行くので、光隆は九鬼家に留まる手筈でこの場にはいなかった。


「えぇ!?」


 急に飛び火してきた厄介事に浄隆は驚き戸惑った。


「織田の皆様方、どうか愚息達をよろしくお願いいたします」


 そう言って定隆は頭を下げた。


「ご安心を九鬼様! 私にお任せください!」


 そう言って帰蝶はドンと胸を叩いた。


「流太郎殿、海三郎殿、一緒に頑張ろうな……」


 犬千代がゲッソリしながら話しかける。

 浄隆が恐る恐る尋ねる。


「い、犬千代殿は何年『ちゃん』呼ばわりなのですか?」


「……2年」


 消え入りそうな声で犬千代が答える。

 浄隆と嘉隆兄弟は覚悟を決めた。

 決めざるを得なかった。


「なぁに! 先ほどの策を思い出せ! あれなら高確率で一本取れるはずじゃ!」


 信長が先ほどの策を思い出させる。

 策とは船上での波の揺れを利用する事である。


「策?(船上の上の事かしら!)期待していますよ!」


 意味の分かった兄弟は顔を輝かせる。

 陸では無理でも海の上ならこちらの土俵である。

 ただ帰蝶が盗み聞きしていた事は知らない。


(犬千代殿と内蔵助殿には悪いが、早々に一本決めさせてもらう!)


 二人の兄弟は固く誓ったのだった。

 ただ、帰蝶も策を楽しみにし顔を輝かせたのは見ていなかった。

 その後兄弟が船上で苦労して一本取るのはまた別の話である。

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