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信長Take3【コミカライズ連載中!】  作者: 松岡良佑
4章 天文17年(1548年)修正の為の修正
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26話 伊勢侵攻計画

【尾張国/末森城 織田家】


 信長による熱い今川義元論議が終わった翌日から、織田諸将に指令が飛ばされた。

 その後、末森城に集められた一堂に対し信秀が宣言する。


「我らの現状は、北は安泰、東は油断ならぬが当面は時間がある。ならばどうすべきであるか? 決まっておる。残るは西じゃ。従って伊勢に進出する!」


 信秀の宣言に諸将はざわつき始めた。


「と、殿! 未だ尾張平定は完了しておりません。盤石な状態にしてからでも遅くはありませぬか?」


 当然の反応を示す家臣。

 殆どの家臣も概ね同じ意見のようである。


「わかっておる。今は農閑期を利用して尾張を平定するが、田の手入れが始まればそうも言っておられん。じゃから伊勢進行は半年後の3月(旧暦。西暦換算5月)より始める。そう心得よ」


 信秀が意味不明な事を言い出した―――そう諸将は判断し疑問を返す。


「……3月……え? それは……その時期では兵を揃える事ができませぬが……?」


 その時期は田の手入れ最盛期である。

 農兵を集めたら収穫に甚大な被害が出てしまう。


「当然じゃ。農兵は可能な限り使わぬ」


「では……」


「言うべき時が来たな。お主ら、先の末森城決戦で援軍1000が来たのを覚えておるか? あれは三郎(信長)に極秘で集めさせた援軍じゃ。奴らは農兵ではない。戦う事を専門とする生粋の兵士じゃ」


「……え? 三郎様? 専門の兵士?」


 言っている意味が分からずオウム返しするしかない諸将。


「ここからは発案者である三郎に説明してもらう」


 前に出た信長は、かつて平手政秀に話した専門兵士について、もう一度話し始めた。

 日本初の『専門兵士の計』は、諸将の度肝を抜くに十分なインパクトがあった。

 それは史実より相当早い『うつけの計』種明かしでもあった。


(『うつけの計』も『専門兵士の計』も驚いたが、先の尾張内乱は若殿が勝利の立役者だったとは!!)


 諸将は勝利のカラクリを聞いて驚いていたが、それでも半信半疑でもあった。

 どうしても『あの信長が?』と疑ってしまい、疑念を払拭できないし、普段の信長を思い出せば思い出すほど無理があった。

 そんな諸将をみて信長は『時期を誤ったか?』と舌打ちしたが、どうしても種明かしせざるを得なかった理由がある。



【今川義元に対する熱弁を語った日】


《決めたぞ! 今川家と対決する前に伊勢に侵攻する!》


 信長は帰蝶とファラージャにそう宣言した。


《それは別に反対はしませんが、歴史修正の一環ですか?》


 ファラージャが尋ねる。


《そうじゃ。今のままでは兵が足りぬ。桶狭間の博打は二度とやりたく無い故に、伊勢を平定して国力を増強する》


《今の伊勢と言うと北畠、北勢四十八家、あ! あと志摩の九鬼様!》


 帰蝶が現在の情勢を思い出し、後に重要な家臣となる九鬼水軍の存在を思い出した。


《そうじゃ。人材を確保しつつ織田の力を今川に匹敵させる。その力を持って今川家と固い同盟を結べれば良し。斎藤家の様にな。仮に戦になっても、前世の様な九死に一生の様な博打をしなくても済む様にする! 今川が尾張に手が出せぬ今の内に動く!》


《スピードが命となる作戦ですけど、勝算はあるのですか?》


 ファラージャが心配する。

 この動きは歴史修正としては申し分ないが、今の織田家単独の力で伊勢を奪えるかは未知数である。

 対して信長は想定内の質問として答えを出す。


《無論じゃ! 今この時期、歴史通りなら北畠家と北勢四十八家最大派閥の長野家は争っておる。尾上で、長野家は北畠家に押されておる。そこに割って入って掠めとる! 九鬼については既に約定を取り交わしてあるしな!》


《九鬼様と既に関わっているのですね? ……でも北畠は恨みますよね?》


 漁夫の利をやられる形になる北畠家にとっては、憎悪も激しくなるだろうと帰蝶は予測した。


《そうじゃろうな。しかし北畠の都合など知った事ではない。それに九鬼は北畠と小競り合いが続いておる。九鬼への援軍の口実を北畠侵攻の口実にする。前世は将軍家に配慮しつつ戦う面倒臭さがあったが、今なら自由に動ける! 長野は弱っており、北畠は九鬼とも争う。今が千載一遇の好機なのじゃ。多少強引にでも今は動くべきだ!》


 歴史を知る故のアドバンテージを活かした作戦であった。


《信長さんに一つ聞きたいのですが、今川対策なら斎藤家と協力して当たれば、前々世よりは楽にできませんか? 歴史修正を実施する気持ちや、今川対策を万全にする気持ちもわかりますけど、スケジュール的には相当な無理が必要じゃないですかね? 今川との戦いも前倒しされる可能性もありますし……》


 ファラージャには信長が焦っている様にみえて仕方がない。

 失敗して死んでもやり直せるとは言え、死に至る苦痛は耐え難いものがある。

 普通の人間なら一度で済む体験を何度も経験するものでは無いし、苦痛に負けて精神を病んでしまったら元も子もない。


《昨日話したであろう? 義元公の為じゃ》


《義元公の為?》


 帰蝶とファラージャが同時に尋ねた。

 全く意味が分からなかった。


《ワシは気が付いたのじゃ。何故義元公が後世で、あの様な辱めを受けねばならぬのか? それはワシが前々世で『うつけ』で弱小大名だったからじゃ。しかし互角の戦力を用意できれば、少なくとも負けても納得な部分は醸し出せるじゃろう。それに()()()()()もある》


《なるほど……。理由と理屈はわかりました。いずれにしろ伊勢平定を目指す価値はあると思います。私も陰ながらサポートはするので頑張ってください》


 ファラージャは納得してサポートを約束した。


《頼むぞ》


 ファラージャのサポートは直接的な介入はできず、未来の知識も教えないが、話をしていて後の世の人の考えが、思わぬ思考や発見を生む事がある。

 今回の今川義元の不当な評価報告を発端にした伊勢侵攻案の様に。

 信長はファラージャにそれを期待していた。


《ところで上様、さきほど言いました試したい事とは何でしょう?》


 残る疑問を帰蝶が尋ねる。


《聞きたいか。こんな事できるかどうかは解らぬが。―――。これをやってみようと思う。万が一の可能性よりも低そうではあるがな……。じゃからこそ、少なくとも尾張の家臣達には『うつけの計』を話す必要がある》 


 含み笑いをしつつ、信長は万が一の可能性を成し遂げる為の努力は惜しまぬつもりであった。

 この様なやり取りがあった後、冒頭 信長の『専門兵士の計』『うつけの計』暴露に時間は戻る。


「お主らには良い機会だから申しておく」


 信秀が信長の策に、あっけにとられている諸将に話し始める。


「今現在の織田家当主はワシじゃが、今より家督はこの三郎に譲る。織田家の全実権は三郎の物じゃ。しかしまだ三郎も若すぎる故、対外的にはもう暫くワシが当主の形を取るが、あくまでワシは名ばかりの当主じゃ。今後ワシから何か言うことは無い。そう心得よ」


 今日の集まりの前日、信長は信秀と相談し、専門兵士の計を尾張全土で実施するため、全家臣を動員したいと申し出ており、それに対する信秀の答えが、家督相続の発表であった。

 信秀主導で動いても良いが、対外的には一切功績のない信長の実績を確保するためである。

 信長主導で動いた方が手間も掛からないとの判断もあった。


「はっ! 我ら一同、三郎様に尽くす所存! 存分にご命令くだされ!」


「ッ!?」


 信秀の宣言の後、どう反応していいか困った諸将を尻目に、後継者最大候補と思われていた織田信広が率先して信長への忠誠を宣言した事に家臣一同驚いた。

 これは信秀、信広、信長が最初に内乱後始末時に決めていた事だ。

 余計な派閥を生み出さない為である。


「我らも殿の為、尽くす所存!」


 信長の真の実力を知った柴田勝家、森可成も追随する。

 信長付き降格だったとは言え、かつては弟信行の家臣だった柴田勝家まで動き、未だ謹慎の信行は後継者脱落である以上、他の家臣もこの決定が織田家の意志である事を察した。

 全員が信長に平伏するのに左程時間は掛からなかった。


「面を上げよ。お主らの忠誠うれしく思う。じゃが、ワシが『うつけ』であった事実が払拭できぬ者も中には居ろう。それは無理からぬ。ワシがお主らの立場だったら当然そう思う。従って、この伊勢侵攻にて結果を示す。そうじゃな……2年以内には伊勢を平らげる! その為の準備を今から申し付ける! お主らの縁者、親類、友人、知人全てに当たり、家督も継げぬ、表舞台に出られぬ穀潰しを全て集めよ! 武家は勿論、商人、農民、孤児、奴隷、流人、罪人、戦いに限らず活躍の場を求める意思のある者なら老若男女すら問わぬ!」


 信長は力強くそう宣言した。


「おっと! ワシはもう暫くは『うつけ』を演じる故、ワシの振る舞いに騙されるでないぞ? あくまで諸国の油断を誘う為である事を心得よ」


 こうして家臣一同は自分の知行地に戻り、信長の命の下、各地に指示を出して人を集めた。



【10日後】


 各地より続々と集まる野心溢れる様々な人間に対し、順次希望や適性を考慮しつつ間者や商い、兵站部隊や兵士等に振り分けられていく。

 兵士に振り分けられた者は更に弓槍や遠投、騎馬の適性を見る。


 そんな中、残念な容貌の不細工な子供が目立っていた。

 ただし、顔だけが注目要素ではなかった。

 間者、商い、兵站、兵士全てにおいて中々の成績を修めていたのだ。

 子供ゆえ腕力は大人に劣るが、目端が利き隙を突くのが上手い。

 子供なのに大人に混じって違和感なく溶け込んでいる。

 人と人の間に滑り込むように入り込む空気の様でもあり、扇の要の様な無くてはならない、そんな不思議な存在感であった。

 信長はその子供を見て一目で気付いた。


「(こ、こ奴は……秀吉か!?)貴様、名をなんと言う?」


 念の為、確認をする信長。

 急に信長に話しかけられた子供は驚きつつも、自己紹介をした。


「こ、これはお殿様! あっしは藤吉郎と申しやす! 尾張は中村郷より馳せ参じやした!」


 そういってニカッと笑う残念な顔は、不思議な魅力があった。


「……そうか。成績も中々のようじゃな。励むが良い!」


「は、はい! まだ試験が残っておりますので、これで失礼します!」


 信長に褒められた藤吉郎は舞い上がって小躍りしつつ、ネズミの様にそそくさと部隊に戻っていった。


 その様子を遠巻きに見ていた帰蝶は信長に話し始めた。


《あの子供は、やはり羽柴様ですか?》


《え、トヨ……羽柴秀吉がもう現れたのですか!?》


 羽柴の名を聞いたファラージャも会話に混ざるが、ウッカリ豊臣の名を出しそうになって慌てて訂正する。


《そのようじゃな。奴は若い頃は各地を放浪していたと聞いておったが、まさか此度の徴兵に応じてくるとはな。奴が才能を発揮するなら親衛隊の中でも間違いなく頭角を表すじゃろう。……ワシを討ち取れる程にな》


《あぁ、上様がフライングしていった前世での思い出ですね?》


 帰蝶が痛い所を的確に刺してきた。

 前々世、つまり転生などしらぬ頃は明智光秀に本能寺で討ち取られたが、前世、つまりフライングして本能寺5年前に飛んでいった世界では、羽柴秀吉に本能寺を襲撃され討ち取られたのだった。


《クッ! しかしあ奴がワシを裏切るとは……他の誰が裏切っても秀吉だけは無いと思っておったわ……。いや、秀吉だからこそ裏切ったのか? 少なくとも今の子供のあ奴からは、とてもじゃないが想像できぬわ》


《光秀さん同様、前世とは違う結果になる様にコントロールしつつ本能寺ENDを回避しましょう! 竹千代ちゃん同様、才能があるのは確定しているのですから、鍛え抜いて活躍してもらいましょう!》


 ファラージャは秀吉の才能を有効活用するよう提案した。


《……そうじゃな。光秀も秀吉もそうじゃが、他の者も前世、前々世で敵対したからと言って、その罪を問うたらワシが本物の『うつけ』になってしまうわ》


 さすがにそれは理不尽すぎるのを信長は理解していた。

 光秀、秀吉に怒りはあるが、それは別の世界の光秀、秀吉に対してであった。


《そうですね。ところで大人になった羽柴様しか私は知らなかったですけど、今の羽柴様は猿の赤ちゃんみたいで、妙な魅力がありますね。あれが噂に聞く『人たらし』の才能の一端ですかね?》


《そうじゃ。アレだけは他の誰にもマネが出来ぬ。秀吉だけが持つ唯一無二の才能にして、恐るべき才能でもある。他の誰が織田家から居なくなっても代わりは居るが、最底辺から出世したあ奴の代わりだけはどこにも居らぬ。少なくとも前世、前々世では奴に匹敵する才能に出合った事が無い》


《す、凄い高評価ですね! そんな羽柴秀吉さんの評価を聞きますか?》


《評価か……ん? そういえば、前々世のあ奴は本能寺の後はどうなったのじゃ?》


《信長さん、それは話す事ができません……。すみません》


 本能寺後の歴史は聞いてしまうと歴史修正に影響が出かねないので、ファラージャには話す事が出来ない。


《そうだったな。しかし前世ならワシを討ち取った後、光秀と同様、周囲に蹂躙されて終るじゃろう。しかし毛利と相対する前々世はどうなったか?》


《徳川様は明智様に討たれるのですよね?》


 堺見物に来ていた徳川家康は明智勢の襲撃にあって討ち取られた、と、信長と帰蝶には勘違いされている。


《確かあの時の毛利は、秀吉に止めを刺される寸前であったな。最後の仕上げとしてワシを呼ぶ位じゃしな。しかしワシはその時には死んでおる。じゃから後詰は永遠に来ない。ワシが死んだ情報がどの様に伝わったかによるな。京周辺は光秀の影響力が強い。伝令は秀吉に届かぬ可能性がある。逆に毛利には光秀からの伝令が届く。光秀と毛利の挟撃作戦も取れる。……そうか! あの時の光秀は毛利と連携すれば生き残る可能性がある、と言う事は前々世で秀吉は、光秀か毛利に討ち取られた可能性があるな》


《そうですね……》


 ファラージャには『はい』とも『いいえ』とも答えられず『そうですね』としか言いようが無かった。


《では羽柴様に伝令が届いた場合はどうでしょう?》


 別の可能性を帰蝶が尋ねた。


《そうじゃな。もし秀吉が生き残るなら光秀の伝令を捕らえて、毛利と和睦し諸将や信忠と連携して光秀討伐に動くしかない》


《あれ? でもその場合は天下布武は信忠殿の下で実施されますよね? 最初に未来に復活した時、ファラちゃん『天下布武が実行されなかった世界が今の世』って感じの事言ってなかった?》


《(あ! やばい!?)そ、そうでしたっけ!?》


 信長と帰蝶には、本能寺の変同日に信忠も討ち取られた事を知らないが故に感じる疑問であった。


《と言う事は信忠がしくじった、という可能性もあるな……。信忠の息子もまだ幼児じゃから流石に引く継ぐのは無理がある。そうなると信雄、信孝も家臣達も誰も天下布武を引き継げなかったのか? ……ん? と言う事は光秀が天下を制したのか!? そうか! じゃから破壊神と言う事なのか! ようやく繋がったわ》


 信長は真実にたどり着き満足した様子だった。


(ぜんぜん違うけど……どうしよう? この勘違いは歴史修正に影響を与えるのかしら? ……影響しない訳が無いわよね。でも今回は光秀さんも秀吉さんも、上手くコントロールする方針だから大丈夫かしら?)


 ファラージャは信長と帰蝶の考えが、今回の転生に与える影響の薄い事を祈りつつ、この後のテレパシーも適当な相槌で凌いだのだった。


 そんな信長たちを他所に、伊勢侵攻作戦は着実に進んでいくのだった。

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