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信長Take3【コミカライズ連載中!】  作者: 松岡良佑
17章 永禄4年(1561年) 弘治7年(1561年)必然と偶然と断案
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167-2話 若狭湾決戦後始末の顛末の結果の結末の行方の因果の余波の彼方 織田奇妙丸、武田信虎、浅井長政

167話は4部構成予定です。

167-1話からご覧下さい。

「それでだ。美濃守殿が各地を巡り提案し、提案された事を触れの書状として報告は受けておる。あの内容に至る話し合いを想像するに、就任早々大変だった様ですな?」


「色々想定外もあり洗礼を浴びましたが、各地の大名の方々に私を認めさせられたのでは思っております」


 帰蝶の顔が自信に満ちる―――ぐらいの感情が読み取れる顔にはなってきた。


「今川、朝倉、三好は当初の予定通りだったが、まさか武田、北条に浅井、上杉と長曾我部か。中々羨ましい旅であった様だな。ワシも斎藤殿の家臣のフリして付いていけば良かったわ」


 当初は同盟国への挨拶兼、現状把握が主な目的であった。

 その中で、想定外の人物と多数会う事となった。

 訪問国の当主が偶々(たまたま)セッティングしてくれたり(164-2話参照)、訪問国に偶々訪問中であったり(165-2話参照)、訪問国に偶々(?)従属していたりで(166-3話参照)、同盟国以外の実力者と顔を合わせる機会も得ていた。

 信長でさえ前々世と現世を合わせても、未だ顔を知らない相手もいる。

 帰蝶の体験を少々羨ましく思う信長であった。


「それで、書状についてですが、ご検討いただけましたでしょうか?」


「うむ。一つずついこうか。まずは武田との婚姻同盟であるな? 奇妙丸と武田の姫との婚姻か」


 信長も家臣達も難しい顔をする。


「美濃守殿が必要だと思う事を実行せよと確かに言ったが、少々驚いたぞ」


 帰蝶は駿河善徳寺にて今川、武田、北条と四者面談を行った。

 その場の勢いと存在感を示すために提示したのが、織田と武田の婚姻同盟だ。(164-1話参照)

 信長は『少々驚いたと』澄まし顔だが、書状でその報告を受けた時は密かに狼狽し、精神的に同行しているファラージャに問い詰めかけて、(すんで)の所で踏みとどまった。


 ただ、驚愕の内容ではあるが戦略的に結ぶのも、歴史的事実としてもこの同盟には価値はある。

 ただし、だからと言って武田を信じるかは別問題。

 史実では武田勝頼の正室に信長の養女(龍勝院)が嫁いでいるが、信玄配下の秋山信友は、織田家の森長可と衝突しているし、信忠、松姫の婚姻が成立した後、信玄は織田徳川への侵攻を開始した。

 武田信玄は、それほどまでに信頼できないし油断できない。


 一定値を超える信頼を得た家臣には、無償の信頼を返す信長も、武田に対しては仮に晴信自身が人質として差し出されようとも、全く信頼できない。


 だが、今は史実の徳川家よりも強力な今川家が武田の道を塞いでいる。

 史実では武田は徳川と同盟を結びつつも、最初から同盟など無かったかの様な扱いをしていたが、今川家相手ではそんな無茶もできない。

 ここに来て、信長が存続を希望した三国同盟が効いていた。


 これでもなお、武田は同盟を簡単に破棄する勢力となるか、史実と違った顔を見せるか分からないが、全く状況が違う今、歴史改変的にも価値があると信長は判断した。


「よかろう。奇妙丸の件、美濃守殿を仲介とし、武田との和睦を進めよう。姫が成長するまで待つのも飲もう。これは正直楽しみでもある」


「はい。ではその様に……」


「ただ次の件よ。斎藤朝倉上杉で一向一揆を殲滅とな? それを別に止めはせぬ。やりたい様にして頂いて結構。だが、そうすると飛騨を巡って必ずや武田と争う事になる。何の為に今川が存在しているのか理解した上での事であるな?」


 飛騨の一向一揆を取り除いた後は、斎藤家が飛騨を治める事になるが、その飛騨の正当統治者は『飛騨守』を持つ晴信だ。

 史実でも、今回でも、桶狭間で今川を破ったあと、三河から駿河、遠江へ侵攻しなかったのは、武田や北条と言った強敵との接点を持たない様にする為である。


 飛騨を治めると斎藤家は武田と隣接する事になる。


 一応、美濃も武田の支配する南信濃とは隣接しているが、山々に閉ざされた強力な天然要害で分断されている上に、こちらに来た場合、それぞれ本拠地から楽に補給を受けられる織田と斎藤を両方相手しなければならない。

 信濃から美濃へは守るに易し、攻めるに難しだが、信濃から飛騨は事情が異なる。


 かつて武田は飛騨に侵攻し、一目散に逃げだし、織田と斎藤も追撃しては一目散に逃げだせたルートがある。(13章参照)


 しかも今は一向一揆が吹き荒れており、かつての防御機構が十分再構築されているとは思えない。

 飛騨一向一揆は誤算だったが、見方を変えれば、一向一揆は今川家同様、武田への強力な防壁でもあった。


 今、飛騨を再統治するのは虎の檻を撤去するに等しい。


「理解しています」


 信長は帰蝶がその事実を理解しているのか不安に思ったが、帰蝶は断言した。


「例えばそうだな。武田の秋山辺りが攻撃を仕掛けたとして、晴信は『家臣の統制が取れず申し訳ありません』と謝って終わりかもしれん」


「大丈夫です」


「一向一揆を裏から扇動するなど当然の行動と覚悟しているな?」


「当然の覚悟でありましょう」


「……」


 これだけ念を押されてなお、帰蝶は断言した。

 武田の恐ろしさを身に染みて知る信長には、それが蛮勇なのか、勝算に裏打ちされた自信なのか判別はつかなかった。


「よかろう。そこまで言うなら対処して頂こう。無論、その為の援助は惜しみませぬ」


「ありがとうございます。その件で一つお願いがあります。武田左京殿(信虎)を譲って頂けませぬか?」


「成程。そうだな。左京、聞いての通りだ。晴信に関わるのであれば、織田の下より斎藤の下に居た方が機会は多かろうと思うが移籍するか?」


 晴信のクーデターによって甲斐を追放された信虎は、織田家に流れ着き復讐の機会を伺っている。(外伝28話参照)

 飛騨、深志の戦いでは、その的確な指揮で戦い、撤退戦においても存在感を示した。(123話参照)


「そう言う事であれば、美濃守様に付いて行きたいと思います」


 余程恨みが強いのか、信虎は即答した。

 信長の視線は中央に向いているので、晴信と戦うには斎藤家の方が確率は遥かに高いが、それにしてもの潔さだ。

 ある意味、全てを失った者の強みなのだろう。


「最初和睦と聞いた時は耳を疑いましたが、確かに愚息が約束など守るハズがありますまい。奴の企ては某が悉く潰して見せましょう!」


「うむ。織田での役割、大儀であった。引き続き斎藤家での活躍を期待しておる。それで次だ。企てと言えば、浅井久政の企てを阻止したらしいな?」


「えっ!? あ、いや、失礼しました!」


 浅井長政だ。

 柴田勝家に同行しこの場にいるが、急に出てきた父の話題に、しかも企てとの話に驚き、口を挟んでしまった事を謝罪する。


「はい。その結果、浅井殿は浅井当主を辞し、越前での開発に専任されるそうです。ただし、それには新九郎殿(長政)が浅井当主として戻る事が条件となります」


「えっ!?」


 今度は謝らない。

 それ所ではない話だからだ。


「よかろう。権六、話は付いておるな?」


「はっ。於市様も最後には分かって下さいました」


「そう言う訳だ。新九郎。お主の織田での任を解く。ただし、立場はワシの家臣のまま、それでいて朝倉にも従う浅井の立場は継続。その上で浅井本家に戻り統治を引き継ぐが良い。楽な統治では無いが、織田で色々学んだお主が、浅井を立て直した上で、織田、斎藤、朝倉の助けになる事を期待する」


「は、はッ! 必ずや!」


 余りにも予想外の人事に長政は訳も分からず、しかし重大性だけは感じ取り頭を下げ応じた。

 だが、その覚悟を上回る沙汰がさっそく下された。


「そして於市も与える」


「えっ」


「嫌なのか?」


「えっ!? と、とんでもない! し、しかし、某はてっきり於市様は柴田殿に嫁ぐのだとばかり思っておりましたが……!?」


 紆余曲折あって、この歴史の於市は柴田勝家に惚れていた。(外伝35、46話参照)

 長政もその光景を柴田家で間近で見て恋心を砕かれた。

 その於市の恋慕心を勝家も察しつつ敢えて無視していたが、信長から長政の浅井復帰兼、大名就任に際し於市も与える話を聞き、柴田家の家臣として仕える於市を説き伏せたのは別の話である。


「お主の価値と将来性をワシは買う。なれば当然の事だ」


 信長は長政と於市をどうするか最後まで悩んだ。

 前々世と違い、今の浅井長政には戦略的価値が無い。

 価値が無い以上、史実通りに於市を嫁がせても何の意味もない。

 現状では、有力家臣に与えるのが適切と考え、その筆頭は勝家であった。

 事実、9割方そうなるだろうと読み、婚姻時期も於市が15歳の時と考えていた。


 先日までは。


 しかし今、価値が生まれてしまった。

 長政は織田と戦い織田に組み込まれ、織田の為に戦い成長した。

 先日の南近江での六角との戦いでは、勝家指揮の下、獅子奮迅の活躍を見せた。

 蠱毒の中心地で戦い抜いた長政の力は柴田家でも抜きんでていたのだ。


 そして久政失脚の先触れを帰蝶から受け、長政の浅井家継承の目が生まれた。

 戦の技量は申し分なく、支配する土地を得る機会も得た。

 しかも史実と違い、浅井家が精神的に主君と認める13代将軍家は織田家に吸収され、史実では長政を悩ませた存在である久政が越前に封じられた。

 史実では地理的価値を認めた浅井家との同盟であったが、今回は地理以外の他の条件が史実より格段に好条件。

 これ以上の高望みは贅沢と言うモノだろう。


 ならば、今度は違う歴史を歩む公算が非常に高い。


 領地的に大勢力には最早成り得ないが、少数精鋭での役割は期待できるし活躍次第では領地の加増も信長は考えている。


「し、柴田様! 本当に宜しいので!?」


 長政は勝家に問うが、嬉しくて問うているのではない。

 於市の態度を見ていれば、諦めるのが筋だと思って受け入れていたのに、正に青天の霹靂であった。

 勝家に嫁ぐのが於市の幸せだと悟った。

 於市は誰にでも、それこそ長政にも優しく接してくれるが、正に『LOVE』と『LIKE』の違いであるのは一目瞭然だった。


「問題ない。幸せにしてやってくれ。ただし、不幸にしたらワシがお主を討伐するからそのつもりでな。ハハハ!」


 勝家は笑ったが目は真剣だ。

 本気で於市の幸せを願い、不幸をもたらす者を許さないと決めている。

 勝家は於市の心を知っている。

 己も於市に惹かれている自覚もある。

 だが、結ばれる事は許されないとも思っている。


「わ、わかりました。そこまで仰るなら某も覚悟を決めます。短い間でしたが柴田家にはお世話になりました。今後は共に織田家に仕える立場として必ずや名を轟かせて見せましょう!」


「うむ。期待しておる。次に三好の件だが……」


 帰蝶の目がギラリと光った―――のは勘違いだったのだろうか?

 信長は首筋に殺気を感じつつ受け流した。


「長曾我部が三好に臣従し四国統一を目指すか。織田にとって良いのか悪いのか判断が付け辛いな」


 三好の四国統一によって、尼子は遠隔地を攻撃する余裕はなくなるだろう。

 だが、そうなると近畿の大部分を制し、四国まで手中に収めた三好の力は揺るぎ無い物になる。


 三好と同盟を組む織田家にとっては今後の安心が確保できる話ではあるが、天下を目指す信長にとっては三好のこれ以上の成長は望ましくない。


「だが、良い悪いを論じて結論を付けた所で『だから何だ』と言う話にしかなるまい。それよりも織田と斎藤の今後よ。朽木を制した事によって当面の課題は内政に絞られた、と今まで言いつつも、何だかんだで戦に関わる事も多かった。今後も予断は許さんだろう。特に今の版図に隣接する京と延暦寺、興福寺は何が起きても不思議ではない。特に興福寺がある大和は来年が危ないだろう。場合によっては後手を踏む可能性もある。だが準備は怠るな」


 信長の言葉に帰蝶の殺気が和らぐ。

 帰蝶は三好が興福寺を攻める事をまだ信長に伝えていない。

 内密の話であったし、今の帰蝶は信長に対する信頼が若干揺らいでいる。


 ここで、興福寺の件を信長が言わなかったとて帰蝶の疑念が確信に変わるモノでもないが、信長に衰えが見られない事には安心するのであった。


 こうして、帰蝶の各国訪問旅は終わった。

 各種対応が決まり、武将たちは今後に向けた己の仕事に慌ただしく向かう。


「さて、美濃守殿。いこうか? 今からは夫婦の時間だな?」


「そうですね」


 ここからが真の本番。

 正に命懸けだ。

ここまでが完成分となります。

残りは暫くお待ち下さい。


今年も信長Take3を読んで頂きありがとうございます。

今年はコンテストの最終選考に残れたりと、皆様のお陰であと一歩まで辿り着きました。

来年はその先まで行ける様に、より一層精進いたします!

 

それでは皆様、良いお年を。

特ににコロナはご注意を。

私は幸いにも分類上は軽症ですが、まぁまぁ辛い状態です。

健康に勝るモノは無し!

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[気になる点] 三河から駿河、近江へ侵攻 近江→遠江 ですかね? [一言] お疲れ様です コロナご自愛ください
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