166-4話 若狭湾決戦後始末の顛末の結果の結末の行方の因果の余波 簒奪への道
166話は4部構成です。
166-1話からご覧下さい。
「その通りだ! ワシは頂点を目指す!」
この決断がどんなに罪深いか知らぬ長慶では無いが、それでも言い切った。
そんな長慶の様子から帰蝶は気が付いた。
《これは精神を病むのも仕方ないかもね。こんな孤独、同志が居なければ耐えられる者ではないわ。兄弟の死が精神の異常を来したって聞くけど、たぶん違うんじゃないかしら? たった一人でこの結論に辿り着いた日本の副王に偽り無しなのね!》
《私、涙が出そうです! こんな偉大な先駆者の偉業が伝わっていないだなんて!》
帰蝶もファラージャも感動頻りだ。
「是非聞かせてくれ。何故そう思うに至った? 天皇は仏教伝来よりも古くから存在する、この国の根源宗教! 外様の仏教とは比較にならぬ! 現人神たる天皇は、どんなに落ちぶれようとも侵してはならぬ存在! 何せ信仰こそが生きる術にして不変の怪物! それを侵すなど口にするのはおろか、考える事すら憚れる事!」
「そうですね……。例えば私は大名となる以前から織田家と共に宗教対策を取ってきました。天下布武法度。ご存じですか?」
「知っておる! 知っておるとも! 良くぞ思いついた、と言うより良くぞ決断した内容と感心したモノよ!」
「そう言えば、あれも、ある意味経典でありましょう」
「フフフ。確かにな!」
「他には、織田の殿は那古野の地を人地と改めました。私は地名の変更を織田の殿以前に成し遂げた者を知りません。三好殿は聞いた事はありますか? 未来永劫、日ノ本を治める資格を持つ天皇の国の地名を勝手に変えるなど、私は聞いた事がありません」
「ワシも無い! おそらく天皇に連なる者以外でソレをやった人間はおるまい! 正直ワシは悔しかったよ。何故思いつかなかったのかとな!」
信長は那古野を人地と改めた。(74話参照)
この布告を、信長は不退転の覚悟で述べた。
人と治める大地があってこその織田家であり、方針に迷ったり間違った時の戒めとして定めた―――とは建前も建前。
地名を変える行為にこそ意義があったのだ。
まさに天才的発想である。
そんな天皇の国の地名を変更する重大事案に対し、若手武将は意味も分からず従い、中堅武将は慣れ親しんだ地名の変更に面倒臭さを感じつつも従った。
その重大性を知らぬが故のアッサリした反応だ。
だが、一部教養のある者は絶句した。(74、75話参照)
公家でもある北畠晴具、具教親子に、その事実を駿河で伝え聞いた今川義元、太原雪斎、尾張にお忍びで来ていた足利義輝と細川晴元。
一様に衝撃を受けた。
地名を変える発想など、恐れ多くてとてもじゃないが出てこない。
前例が無いので、本当に変更していいのか良し悪しが分からない。
そもそも、支配者の持ち物を誰が承諾無しに勝手に扱えようか?
名前には意味があり魂も宿る。
宗教が絶対の世界だ。
古代では人の名前である諱を口にするのは最上級の禁忌である。
諱とは忌み名。
諱を口にする事は相手の魂を支配するとされ、呪いの儀式と同義だからだ。
それから時が下り、戦国時代になっても礼儀の習慣として依然として残っている。
だから『三郎』『上総介』など、個人を特定する諱の代わりの『仮名』が存在する。
そんな諱を口にするのは、親か、大名クラスの禁忌を侵す特権を持った支配者だけだ。
一方で、禁忌だからこそ、名の一部を与える偏諱という行為が褒美としても成立する。
ならば地名も同じだ。
言葉にも意味があるなら、当然地名にも意味がある。
その地名の大半の由来は神話由来か、地形そのものを指す言葉の変化だ。
言霊信仰こそが日本の常識。
恐らく古代の支配者が選びに選び抜き、土地の安寧と発展を願い、あるいは業績を称え、神聖なる呪力を持たせて命名した地名。
それを変更するなど大地を引き裂くが如く災害行為。
だた、一方で前例も無く古過ぎる仕来りで知らない者が殆どであったのも事実。
斎藤義龍と斎藤家一同はそれを知らず、実に気楽に変更し『今龍派』と『龍浜派』でしょうもない争いを繰り広げた。(75話参照)
変更してはいけない理由を知らないからだ。
油売り行商の子孫と家臣では教養不足も仕方ないのだろう。
結局今浜を今龍に変更したが、後の長慶との面談でその重大性を指摘されて青ざめたのだった。
だが、これで信長と長慶の真意を知り、もう後にも退けないと覚悟を決め受け入れた。
朽木侵攻における龍興初陣総大将も、天皇弑逆まで含めた覚悟があっての策であり、何れ龍興が長慶に対面した時に、臆さず立ち迎えられる経験を積ませる為に。
史実では信長の岐阜を皮切りに、羽柴秀吉が今浜を長浜に、徳川家康が曳馬を浜松に、黒田長政が博多を福岡に、蒲生氏郷が黒川を若松に、加藤清正が隈本を熊本に、伊達政宗が千台を仙台に、信長の弟子や孫弟子が真似をしていく。
だが、宗教が絶対の世界なのに変更が原因で災害が起きる訳でもないと証明した最初の人間が信長であり、とある理由を付随して変更したのも、後にも先にも信長以外には確認できない日本史上初の天才的行為だ。
だがこの行為も日本の非常識にして世界の常識。
世界では征服者が地名を変更するのは当たり前だ。
一応、信長含め、その重大性を知っていたかどうかは定かではない。
何せ信長は『上総守』の重大性を知らなかった可能性が高い。(129話参照)
斯波家の家臣の家臣の下賤の出である信長と、更にその家臣の家臣達では古い仕来りを知らぬのは当たり前だったかもしれない。
だからうつけであり、うつけ故の天才的閃きでもあった。
ただ、少なくとも岐阜で可能性に気が付き、安土城を建てた頃までには把握していたであろう。
目賀田山を安土に変更し、信長公記によれば、安土城天主閣には当時知りうる様々な神を描かせ、己は天主として君臨した。
天守ではない。
天主だ。
天の主だ。
言葉には意味があり魂が宿るのに、これを誤字だと言う人もいる。
だが、あらゆる事に意味を持たせてきた信長が、そんな無頓着な事をするだろうか?
何度も何度もしつこくて申し訳ないが、戦国時代は言葉に魂が宿る宗教が絶対の世界である。
信長は他にも全ての官位を放棄し、京の都の鬼門に位置する安土城の足元に天皇御所そっくりの清涼殿を築いた。
戦前、信長は勤皇家と評価されたが、本当はどうだったのか?
真相は本能寺の変と共に消えた。
「信長教の経典たる天下布武法度は宗教を雁字搦めにしていますが、要約すれば法の下の宗教の平等です。天皇も神であり宗教ならば当然支配下に置く事でしょう。そして三好殿が堺で私の物語を何故間違って広めているのか? ようやく理解しました」
「ん? 間違っておるのか?」
「あ、あれはその、遠藤直経を倒したのは間違いですが、それは三好殿にとってもどうでも良い事でしょう。肝要なのは『旧王朝が倒され新王朝が立つ』という話。これは日本においては絶対あり得ない話。織田の殿が地名を変更する事に意義を見出している様に、三好殿も王朝が交代する話を広げる事に意義を見出した。違いますか? 織田の殿も三好殿も同じです。直接言いませんが態度では既に示しているのです」
「フフフ! お主をダシにしたのは申し訳なく思うが、我ながら面白い策だったと思っておるわ!」
「後は『霊的挑発が効かない事』も重要だったのでしょう。先ほど仰った『試す様な真似』とはまさにこの事。三好殿と共に天皇という最古の宗教に挑む者が、あの程度の霊的挑発で怒り心頭では、共に歩む資格はありますまい」
「特に期待している織田家だったからな。最終確認のつもりで試したのだ。ここに引っかかる様ではこの後には共に行けぬ」
あの挑発が効かなかったかと言えば正確には違う。
霊的には効かなかったが、ダシにされたのは不愉快であった。
だが事ここに至っては怒りよりも真意が確認できた方が遥かに重要だ。
「だからこそ、応仁の乱以降の京の復興もなおざりなのですね。織田にあの援助を寄越した三好殿の力で復興が出来ぬハズがない。しかしそれも納得です。いずれ滅ぼす場所を復興するのも無駄、という判断ですね?」
史実の長慶は朝廷に献金したり連歌会を開いたりと、朝廷とは親密に関わったとされる一方で、朝廷御所や京を完全復興させたのは長慶の後の信長だ。
廃墟同然の都を信長が復旧させるまで、日本の副王たる長慶が制していた京は日本一見すぼらしい土地だった。
信長以前に京に携わった者は、他勢力との争いでそこまで手が回らなかったのだろうが、長慶は違った。
無駄だからだ。
何れ滅ぼす場所を復興させる程、無駄極まりない行為は無いだろう。
ただ、付き合いとして朝廷を完全に遮断する訳には行かない。
野望が露呈し朝敵になる訳には行かない。
だから適当に理由を付け積極的に携わらない、なおざり復興だった。
「六角に止めを刺さず、生かしているのもこれが原因ですね? どんな野望を持ったとしても、日ノ本で天皇に手をかけて無事ではいられない。しかし誰かが暴挙を起こしてくれれば話は変わる。誰かの暴挙を征伐し、そのまま居座ってしまえばいい。これが蠱毒計の真意ですね?」
「そうだ! 蠱毒計とは、天皇まで含めた毒虫の根絶にある! 13代将軍が滅んだとて全く問題ない!」
信長は第一次朽木合戦で、13代陣営を滅ぼしてしまった。
それに対し長慶は松永久秀を通じて『問題ない』と伝えた。(149-3話参照)
毒虫が絶えるのは困るが、依然として毒虫は二匹以上残っているのだから何も問題ない。
13代将軍陣営は脱落した虫だが、それは蠱毒においては自然な事なのだ。
「とは言え、最近は毒虫の動きも鈍いからな。もう少し活性化させたい。そこで、松永に大和併呑を命じた。そろそろ興福寺にも本格的に毒虫になってもらおうと思う。来年の話であるが、織田や斎藤にも協力を頼むつもりだ。大和から伊勢方面に虫が脱走しては困るからな」
「承りましょう」
「うむ。援助が必要な場合は遠慮なく申せ。以前織田にも援助したが、あれの何倍でも用意してみせようぞ」(140-1話参照)
「三好殿の本気は十分すぎる程伝わってますが、あの何倍もですか。身が引き締まる思いです」
以前、三好は信長の泣き付き応じ、1万貫(15億円)の軍資金と、80万石(400億円)の兵糧を送った。
斎藤、織田の領地全て合わせて、あの援助の額を用意できたとしても、それを他勢力に渡す余裕はない。
借金は信用によって成り立つ。
長慶は堺に借金してまで用意したが、こんな莫大な援助を更に何倍でもという長慶の信用に対する自信は凄まじい。
「先ほど三好殿は仰いました。『歴史の転換期』なのだと。全くもって同意です。この未曽有の戦乱はある意味千載一遇の好機なのです。不完全なまま乱世を終わらせては二度と是正はできすまい。例え悪名を被ろうとも誰かが手を汚さなければ! 三好殿も織田の殿もその覚悟を持った! ならば私も持ちましょう! これが結局歴史を変える事に繋がると判断しています!」
「フフフ! これ程充足した刻を過ごしたのは織田以来よ! いや、衝撃具合でいえば、お主が最高の面談相手であった! 見事などと安い言葉で表現できぬ覚悟であるが……ん? 今『歴史を変える』と言ったか?」
先程までの帰蝶周辺の現実的な話題と違い、急に飛び出してきた壮大迂遠な話に長慶は引っ掛かる。
「それは、何かの歴史から流れを変える、と言う意味か? お主は今、『歴史の転換期』とは違う意味を含ませたな? まるで、別の歴史を知ってるとでも言いたげよな?」
「ッ!!」
この次元の歴史しか知らぬ長慶には無理もないが、帰蝶も長慶に挑み挑まれる戦いに応じる為、『転生した』とは言わずとも、かなり核心に近い事を言う。
「―――そうです」
「そうです!?」
《帰蝶姉さん!?》
「と言ったらどうしますか?」
「ふ、フフフ! 冗談か? 講釈話の意趣返しと言う訳か? 少し驚いたぞ……ッ!?」
長慶は帰蝶の目が笑っていない事に気が付く。
「お主は一体……」
「私が表で活動する様になって16年経ちます」
帰蝶は長慶の言葉を遮って話し始める。
大変な無礼だが、長慶は咎めるのを忘れた。
「表で? そう言えば、幼い頃は病で寝込む事が多かったとか? それが今や大名か。世の中、何が起こるか予測など出来んのも道理よのう」
「えぇ。本当に。病や天災は誰にも予測できません。人の世も同様。でも病や天災と違い、人が関係する失敗は後から原因が特定できます」
「確かにな。だが特定した気になっていて間違っていた事も多々あるな?」
「そこです。私も同じ思いです。しかし、例え間違っていたとしても、必ず最善と信じる選択はしなければならないと思います。妥協した選択は必ず禍根を残します。そうなると必ず我らの想いを歪めて解釈する者が現れ将来の禍根に繋がります」
「そうだ。その通りだ。ワシも偉そうな事を言っておいてなんだが、妥協せざるを得ん選択は幾度もしてきた。力を付けた今でも本当に最善だったのか眠れぬ夜を幾度も過ごした」
「先にも仰いましたが、間違いなく今は歴史の転換期。歴史はブツ切りではなく、連綿と続く川の流れが如く。ならば我らの一挙手一投足が八百万、いえ、億年先の未来まで響くのは間違いありませぬ」
帰蝶は断言した。
知っているからだ。
「億年ときたか。だが、そうだな。途方も無さ過ぎて想像できぬが、今まで続いてきた歴史の延長が億年先であるのは間違いあるまい。覚悟の重さとしては最上級よな」
歴史を知っていると言いたげな帰蝶の思いを覚悟の重さと受け取った長慶。
だが、歴史を知っているという可能性を、戯言と捨てる事もしなかった。
宗教が絶対の世界である。
解明できない事が起きても何ら不思議ではないと考えるのが普通の時代だ。
「はい!」
帰蝶は手を差し出した。
「ん? これは?」
「南蛮人の挨拶で握手と言うらしいです。お互い手を握り合わせます。信頼を表す儀式とでも言いましょうか」
「ほう? それは知らなんだ。だが、間違いなく信頼に値するお主じゃ。応じるのが男なのであろうな」
かつて、信長が朝倉宗滴に対して行った儀式であるが、これは宗滴を未来に復活させるファラージャの計らいでもあった。(83話参照)
長慶が帰蝶を認めた様に、帰蝶も長慶を認めた。
この先何かあった時、未来に復活させるに足る人間であると。
「!?」
一方長慶は、握った帰蝶の手の感触に強烈な違和感を覚える。
(な、何だこの手は!? これが女の手か!? 何をしたらこんな武骨さと繊細が合わさった手ができるのか!? 男でもそうそう見た事がない!)
暫く感触を確かめる様に握る二人。
同時に力が抜け、自然と手を離す。
「よし。では最後に伝えておこう。こんな事をしでかすのじゃ。歴史上誰も成し遂げておらぬのだから、どんな障害が待っているのか想像もつかん。当然ワシが失敗する可能性はある。言霊を発現させたくないが、当然の備えとして伝えねばならぬ。じゃが、ワシが失敗したあと追随する者がいる事か肝要だ。それが織田となるかお主となるか? あるいは北条でも上杉でも松永でも誰でもいい。ワシの面談を突破した者が受け継いでくれればワシの勝ちとなろう」
「そうですね。受け継ぐ事が大事だと私も思います。継いで来た末が歴史なのですから」
「フフフ。待ったくもってその通りよ。さぁ、戻るとするか。家臣共も心配しているであろうよ」
「はい」
長慶は突き立てた刀を抜いて鞘に収めた。
こうして長慶の面談に満点で応えた帰蝶は、腰を浮かし立とうとした所で思い出した。
「あっ、そう言えば!」
「何じゃ?」
「三好殿は修理太夫の官位を授かってますが、例えば上野守とは名乗りになりませんか?」
「親王任国を侵そうと言うのか? これはまた盲点よな。良い策だ!」
親王任国とは上野国、常陸国、上総国において『守』となる官位は親王しか就任できず、この三国では『介』が一般人の限界官位である。
これも古い仕来りで疑問を挟む余地がない常識でもあった。
天皇の地位を狙っている長慶でさえ、言われるまで忘れていた不変の常識であるが、即座にその意図を察した。
「織田の殿は上総守を狙っております」
史実の信長はその仕来りを知らず恥をかき、今は全てを知った上で『上総守』を狙っている。(129話参照)
「それは初耳だ! 成程成程。ククク。ならばワシも時期が来たら上野守でも名乗るとするか!」
地方の田舎侍が名乗ったなら教養不足の愚か者だが、長慶程の人間が自称したら、そのメッセージは激烈無比である。
地名変更や、新王朝設立のお伽話など軽く凌駕し比較にならない衝撃となるだろう。
故に、時期は選ばなければならない。
「私はその場に居ませんでしたが、織田の殿は近衛殿下に直訴し将来の可能性として約束してくれたそうです」(140-1話参照)
「!?」
「これも圧迫としては丁度良いのではないでしょう……か……!?」
帰蝶はそこまで喋って長慶の様子の変化に驚く。
今日の面談で一番驚いた顔をしていると言っても過言ではない表情だ。
「ちょ、ちょっと待て! 自称じゃないのか!?」
「えっ?」
長慶は上野守を自称するつもりでいたが、信長が直訴したと言う話に驚愕する。
「ヤツは朝廷に、天皇に一番近い近衛に上総守を要請したのか!? 官位の自称も地名の変更も、何なら咎められたとて知らなかったで強弁できるが、よりによって近衛に要請しただと!? それは朝廷に野望が露見したも同じでは無いか!?」
「……。あ、あれ? た、確かに? あれ!? 言われてみれば何故!? あ!? でも、そう言えば『機能しているとは言い難い親王任国制度だから』と仰っていたらしいのですが……!?」
「確かにそうかもしれん! 権威を切り売りするしか懐を潤す手段の無い朝廷じゃ。機能していない親王任国など銭に変えてしまえ、との判断も分らんではないが、一歩間違えば朝敵となっても文句は言えんぞ!? 何故そんな早まった真似を!? 織田の考えはワシの狙いとは違うのか!?」
「わ、私は同じだと思ってました……!」
「親王任国の位を侵すのだ! 親王しか就けぬ位を望む! それ即ち皇位簒奪予告であろう! ヤツのやり方は何ら筋が通っておらん!」
現実世界では爆破予告などの脅迫が溢れている。
爆破という手段で目的を叶えたいからだ。
良し悪しはともかく、筋は通った流れだ。
一方、フィクションでは泥棒予告、殺害予告などあるが、普通はそんな事をやれば相手が警戒するだけで面倒が増えるだけだし、手段が目的の愉快犯でなければ筋が通らな過ぎる。
それでも必要な場合は、予告の裏で何かがある場合なら筋は通っている。
一方、信長の上総守要請は何の筋も通っていない。
長慶の懸念通り、完全に警戒させるだけだ。
皇位簒奪を予告するなど愚者の極みであろう。
しかも何の力も無い一般人ではない。
よりによって地位も力も十分にある信長が簒奪予告したも同然の格好である。
もし、親王任国を人質に何かを成し遂げたいなら筋は通っているが、そうだとしても時期が悪すぎる。
京は手放してはいても、依然として日本最強勢力の三好が『時期を見ての自称』と判断した『親王任国官位の一つ上野守』を、地方の実力者に過ぎない信長が朝廷の最有力者にわざわざ言うのは、自殺行為に等しいフライングであろう。
これでは無駄に警戒されて終ってしまうだろう。
「我らはこの国の根幹を揺るがそうとしておるのだ! それなのにワシが認めたヤツが、そんな事を気が付いていないハズがあるまい! それともまさか尾張のうつけは本当に偽り無しか!?」
「お、近江に戻ったら真意を問いただしてみます!」
「……素直に言うとは思えんがな。ワシも最悪を想定せねばならぬ……!」
こうして波乱の面談は終わり、帰蝶は近江の信長の下へ、この斎藤家就任挨拶最後の関門へ向かうのであった。
【近江国/岐阜城(史実名:安土城) 織田家】
「地名の変更か。別にワシが一番最初では無いぞ?」
「えっ」
信長のその言葉に、帰蝶は面食らうのであった。
12/26追記
本日コロナの陽性と判定されました。
今月末の投稿は厳しい状況です。
申し訳ありませんが次話は暫くお待ち下さい。




