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外伝27話 織田『小さな努力』信長

お待たせしました!

現在のコロナ騒動が生活に影響して執筆が遅れてしまいました。

この外伝は12章 弘治2年(1556年)今川義元が武田信虎に織田家への紹介状を書いた後の話である。


【尾張国/人地城 織田家】


 夜中の誰もが寝静まった人地城では、信長とファラージャが雑談をしていた。

 信長は何となく寝られず、テレパシーで暇を潰していたのである。

 尚、帰蝶は隣で早々に眠りこけている。

 布団など無い時代故に仕方ない部分もあるが、寝相は極めて悪い。


《―――ところで、信長さんって思ってたより優しいですね。女の私をいきなり投げ飛ばした時は、噂以上の狂人だと思いましたが、あの一件以外は紳士ですし》


《狂人? あれは貴様が悪い。ワシは死の直後だったのだぞ全く? それに女にも見えんかったしなぁ》


 本当は、信長復活までに1億年の時間が経過している。

 だが、信長の時間感覚では死の直後に目覚めたのであって、意識を維持して待機している訳ではない。

 訳の判らぬ場所に急に目覚め、眼前に不審者が居れば防御行動も取るのも仕方ない。


《私が悪い!? 何で投げられた私が悪い、って……え? 今、『女に見えん』って言いました?》


 ファラージャは聞き捨てならぬ言葉に反応する。


《……思い出した。あの時も小僧って言ってましたね!?》(2話参照)


《そうじゃったな。今は慣れたが暫く小僧にしか見えんかったし、今もその姿形では女と認識するには難しい。但しあの時、仮に女と解っても取り押さえとったわ。ワシ等の感覚では非常事態の真っ只中だったしな》


《確かに本能寺からの復帰直後ですし、って……え? 今、『今も女と認識できん』って言いました?》


 ファラージャは聞き捨てならぬショッキングな内容に、念押しの確認をするのであった。


《仕方なかろう。お主の格好は奇天烈すぎる。お主の外見は我らの常識で男女を判別できん》


《そんなに変ですか……? まぁ確かに、戦国時代には存在しない髪型ではあるでしょうけど……》


《極めて変じゃ。髪型もそれはどうなっとるんじゃ? 色も形も人智を越えて変じゃ。定期的に変な髪型に変えとったが今日は過去最高に狂っとる》


《過去最……!?》


《まぁ男女の区別はともかく、役目を終えて未来に戻ったら真似して見ようと思っとるぞ?》


《もう! でも変と言えば、さっきも言いましたが信長さんも変ですよ!》


《髪がか? これは別に……》


《違います! 性格の話です! かなり優しい感じがします!》


 未来の外見問題とは別に、ファラージャはこの十数年の付き合いで信長の意外な一面を知った。


《敵に対しては厳しい面もありますが、長島一向一揆も可能な限り民衆の離脱を促しましたし、味方には予想以上に身分の貴賤無く接してますし》


《そう思うのか?》


《はい。信長教では厳しくも慈愛に満ちていると伝えられてますが、コレはこのまま信じるわけにもいかない情報です。どこでどう歪んでいるか分かったモノじゃないですからね》


 歴史は支配者や勝者の、都合の良い物に改竄されるのが常である。

 前支配者を打倒した者は、自身の正当性と前支配者の悪を示すのが普通である。

 これが独裁国家だった場合、例外無く言論の自由が存在しない。

 自由で健全な議論が出来ない世の情報は、怪しさ満点であり信頼性は無に等しい。


《アンチ信長教では悪逆非道で冷酷な殺戮者です。しかしこれもアンチの思考が一人歩きして都合の悪い様に解釈してます。歴史研究家の間では革新的な思考の持ち主で、しかし容赦もしない人物と伝えられてます。ただ資料を鵜呑みにし過ぎて信頼出来ない部分もあります。事実、今の信長さんはどれにも当てはまるようで少し違う感じです。まさに『事実は小説より奇なり』ですかねー?》


 信長の残虐伝説には大小様々無数に存在する。

 城の留守番をサボった者を処刑し、家臣を安土に移住させる為に家臣の屋敷を焼き払い、浅井長政、久政親子と朝倉義景の髑髏を肴に酒宴を行い、長島一向一揆では参加者を、比叡山の僧侶は殺戮し尽くした。

 これらは信長が元服した後の行いだが、乳幼児時代にも乳母の乳房を噛んで流血させたと言われている。

 真偽定かで無い噂話になると、理解に苦しむ信長像すら『ありそう』と思ってしまう。


 誤解を恐れず書くならば、信長を表現する人の数だけ残虐行為があり、信長の性格を表す端的で秀逸な言葉に『鳴かぬなら 殺してしまえ ホトトギス』とあるが、まさに伝説を完璧に表した言葉であろう。


 ファラージャはもう何度も経験したが、改めて『史実≠事実』を実感するのであった。

 しかし、信長は意外な言葉を口にした。


《ならば気を付けている甲斐があるというモノよ。これも本能寺突破の為の小さな努力じゃ》


《えっ? それじゃあ相当我慢しているって事ですか?》


《我慢か。確かに我慢はしてたがもう慣れた。歳も歳じゃしな。多少は穏やかにもなろうて》


《あぁなるほど(でも……)》


 信長は肉体こそ青年だが、人生経験は既に65年にも及び、人間五十年の時代では長寿の領域である。

 自らを『歳も歳』と評する気持ちもファラージャは理解できたが、引っかかるモノもあった。


 確かに信長と帰蝶は特殊なのだが、人生の経験年数は多いが()()の経験は無い。

 肉体の衰えによる精神への影響は必ずあるが、現在の若い肉体で老人の様な境地になるのは、無いとは言わないが勘違いの面もあるとファラージャは考えている。


 現にファラージャはもうずっと『15歳』であるが思考や精神は若々しいままである。(各あらすじ&登場人物紹介参照)

 精神と肉体の不一致故にチグハグな所もあるのは理解できる。

 若さ故にありがちな暴走爆発が少ないのも、精神が経験豊富なので控え目に見える。

 だが、信長も意識してコントロールをしつつ、錯覚部分もありそうであった。


《二度も殺された身としては、政治戦略の策や方針は当然だが、己を変えていかなければならん部分もあろう。あんな目に会うなら我慢など安いモノよ》


 信長は、目の前の問題だけを片付けていれば良いのではない。

 将来に備えても動かなければならない。

 目先の事しか考えない人間が大多数を占める中、先見性のある人間はちゃんと将来を見据えている。


 三好長慶、今川義元、朝倉宗滴―――


 もちろん信長も将来を見据え天下布武を掲げているが、他にも考えなければならない事がある。

 それは限りなく確定していそうな未来である『本能寺の変』の突破である。


 本能寺突破とは何か?

 襲われても生き残れば確かに歴史改編には違いない。

 だが襲われるのを知ってて、何もしないのも馬鹿馬鹿しい。

 じゃあ、本能寺に行かなきゃ良いのではとも考えたが、しかし歴史の修正力がソレを許さないかもしれない。


 また、修正力の真偽の確認も出来ない。


 判明している事実は、本能寺に2回挑戦して、2回失敗の突破率0%という残酷な事実である。


 ならばどうするか?

 それは『本能寺に宿泊したとしても、誰も裏切らせない』である。


 これが目標である。

 その目標をどう達成するか?


 斬新な手段も思い付かないので、今すぐ出来る事である『優しくなる』を取り敢えずやっているのである。


《まぁ、ワシが注意するだけじゃからな。銭もかからん。心労は増すがな》


 信長は信長なりに明智光秀(史実:Take1)と羽柴秀吉(0話:Take2)の反乱原因を考えた。


 弟信行と柴田勝家、林秀貞は織田家の後継者を狙って。

 松永久秀は芽生えた野望と、恐らくは三好長慶の後継者として。

 浅井長政、足利義昭、荒木村重は、変化する時代に恐怖したかもしれない。


 これはまだ理解できるし、推測可能である。


(しかし明智光秀と羽柴秀吉は何だ? 奴等こそワシの考えを最も理解した者達。本当にわからん! ひょっとして……厳しくし過ぎたのか? きつく当たり過ぎたか? 無茶な事を要求し過ぎたか?)


 特別目を掛けて、可愛がった二人である。

 感謝こそされても、恨まれる理由は無いと信じたい。


(……だが、その考えこそが驕りだったのか?)


 例えば『親の心子知らず』とも言うが、その逆である『子の心親知らず』も真ともいえる。

 本能寺の原因は未だ定かではなく、いかにも有りそうで証拠の弱い説が大量にあるが『火の無い所に煙は立たぬ』とも言われる。

 潰せる可能性は潰すに限る。


 絶対にコレだと断言出来る理由は思いあたらない以上、出来る事を片っ端からやるしかない。

 ただし、ソレが原因で滅びては本末転倒なので、バランス維持は難しい。

 取り敢えずは、家臣との溝は出来るだけ広げないように、注意する事にしていた。


(前々世でも自分では家臣とそんなに溝を作ったつもりはないが、相手の心情は分らんしな。以前以上に気さくを心掛けねばなるまい)


 史実では言葉数少なく、間者への供えもあって必用最低限しか伝えなかったとも言われる。

 しかし信長と謁見したルイス・フロイスの信長評にも短気で冷徹、しかし身分の貴賤無く接したと記されている。

 また意外にも、家臣の意見に耳を傾ける度量もあると記録される。

 信長はこの時代なら当然の、貴賤感覚を無視できる感覚は既に持ち合わせており、実施できる努力としては楽な部類であった。


 今回の人生では、家臣に官位を分配した時など、信長が無位無官になる事に対して家臣からは総ツッコミが入った。

 あの時、やろうと思えばツッコミなど封殺できる流れを作れたが、実際には丁々発止のやり取りの末、多少強引ではあるが家臣を納得させた。(87話参照)

 帰蝶に引っ張られた形ではあるが、農民と一緒に泥にもまみれた。

 女装した時の佐々成政の己に対するナンパも笑って許した。(帰蝶たちは憤慨したが)

 どれも、ファラージャの知識として知った信長像とはかけ離れている。


《ところでファラ。お主ワシがどうやって死んだか知っておるか? 確か聞かせた事は無いよな?》


 信長が話題を変えた。

 まだ眠くはならない様である。


《え? 聞いた覚えは無いと思いますけど、でも知ってますよ? 本能寺で自害……》


《違う》


 余りにも今更な問いに、ファラージャは普通に答えたが信長は遮った。


《出来事ではなくて手段じゃ。自ら命を断つ手段よ》


《え……?》


 信長の言う通り、本能寺の変は事件の名前であって自害方法ではない。

 ファラージャが現場の様子を視認できるのは、テレパシー能力を付与した3回目からであり、1、2回目の自害方法を知らないのは当然であった。


《1回目は於濃とワシで互いの腹に刃を突き立てた。ワシはその後、於濃の首を刎ね己の喉を突いた後もう1回腹に刃を立てた。あの時の於濃は、病で筋力が衰えておってワシの腹を貫けなかったからな》


 そう言いながら信長は隣の帰蝶を見た。

 かつてその手に掛けた帰蝶の足が眼前に見える。

 病が嘘みたいな寝相であった。


《うっ……そ、そうですか》


《メチャクチャ痛かった。自害の方法としては最悪じゃった》


 信長は1回目の本能寺を思い出しつつ、眉間に皺を寄せ、普通の人では不可能な死の感想を語った。


《死ぬなら一瞬で意識を絶たねばならんと学んだわ。しかし学んでも活かせるかどうかは別問題。大体、活かせる方が異常なのだしな》


 普通、人は2回死ぬ事は出来ない。

 学んだ事を活かせる機会は、二度と訪れないのが普通である。


《そんな訳で2回目は流石のワシも、簡単には己に刃を突き立てられなかった。2回目は於濃も連れて来てなかったしのう。1回目の痛みの記憶が蘇って、ワシともあろう者が躊躇した。ある意味1回目の経験が活きてしまった》


 信長は眠る前の雑談なのに死の経験を思いだし、ますます目が覚めた。


《自分で自分を即死させる方法なぞ、緊急事態の最中では思いつかん。結局全身炎に包まれて、痛みと息苦しさで踊り狂って腹を滅多刺しにして知らぬ間に死んだ。1回目も最悪じゃと思ったが、それ以上の最悪を知ったわ》


《うへぇ……》


 自殺をする者が、いざその時に躊躇して致命に至る傷を負えず、通称『ためらい傷』となってしまう場合がある。

 信長も1回目なら武士、あるいは戦国の世に生きる者の覚悟として潔い自害もできたが、さすがに2回目は信長といえど無理であった。


《3回目ともなると、みっともなく泣き叫ぶかもしれん》


《ハハハ……。まさかそんな……》


 あまりにも想像を絶する信長の醜態像に、ファラージャは乾いた笑いしかでなかった。


《それほど死ぬのは痛いし辛いし、もう二度と、いや三度と味わいたくないという事じゃ。それで話は戻るが、自害せんでも良い様に、今の現状でできる努力としてワシ自身の意識改革をしとる訳じゃよ。家臣達に対するご機嫌取りって訳じゃないが、注意自制せねばと思った訳よ》


《はぁ~……。殊勝な心掛けとでも言いましょうか……。3回目の人生とは言え、伝えられた信長像とはやっぱり違いますね~》


《ふん。信長公記とやらも誰が書いたか知らんが、そ奴の感想や思想、時の権力者に対する遠慮や意向があるはずじゃ。絶対にワシの評価や印象を改悪したハズじゃ。ワシを理解しているのはワシだけよ。あとは我慢にも慣れんといかん。答えを知るが故にどうしても急いてしまう。皆が答えを知っている訳では無いのは分かっていてもな。今から慣れておかんといずれ精神がやられそうじゃ》


 我慢はしても、ストレスを感じない事はあり得ない。

 この世界に生きる人には全てが初体験の事が、信長には既に経験済みや知っている事である。

 どうしても、理解に対するタイムラグが絶対的に存在し、ストレスを感じてしまう。


《ストレス発散も大事ですよ?》


《わかっとる。しかし、ワシしか出来ん発散方法がある。歴史改編じゃ》


 我慢は溜め込んでは、精神が参ってしまう。

 だからなるべく、以前より良い結果を出してストレスを発散すべく、斎藤、今川、朝倉と結び、長島一向一揆の戦死者を敵味方共に減らす努力を惜しまなかった。

 そんな歴史の改変は、信長だけが味わえる快楽でもあった。


 だが今回、その歴史改変の快楽が、信長にも予想外の方向からやってきた。


《さて、そんな改編の結果、明日、武田信虎がワシに会いに来るらしい。これも同時多発的に歴史を動かした結果かのう? 楽しみな事じゃ》


《そうですね~。信長さん以上に極悪非道を極めた人物らしいですけど、本当ですかねえ~?》


《まぁ、どうじゃろうな? 会ってからのお楽しみじゃが、取り敢えずは、於濃と手合わせさせるのは確定じゃ》


 そう言いながら信長は隣の帰蝶を見た。

 今度は顔が信長の胸の辺りに見える。

 この短い間に、寝相で一周しそうな勢いであった。


 信長とファラージャは、その光景を楽しみにしつつ、雑談に花を咲かせるのであった。

次話もコロナ次第でどうなるか解りませんが、目標は5月中に投稿する予定です。

よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 世の中自粛ムードで気軽に外出も出来ないのでこの作品のように気軽に読める作品にとても救われています。 今後ともお体に気をつけて下さい。 [気になる点] 今やっている某ソシ…
[一言] この時代の信長がファラージャの格好で現れたら気が狂ったとまじで思われそうですね。
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