外伝25話 信長Take1818 (#^ω^) 本能寺も大変
4月1日です。
こんな御時世ではありますが、毎年遊んで来たことなので読んで頂ければと思います!
迷惑かけず出来ることは自粛しない、危険なことは当然自粛の精神です!
【天正10年 山城国/本能寺】
(やる事はやった! 今回こそは! 人は信じあう事で前に進めるのじゃ!)
男は諦めそうになる自分の心に、発破をかける様に言い聞かせる。
―――しかし
問題は無いハズなのに、どうしようもない不安感が男の胸中に渦巻き、散々見てきた光景を思い出し、全身に脂汗が滲み出す。
(いかん)
男は胸騒ぎを感じて起き上がった。
(いかん!)
どこかで兵が騒いでいるのに気が付いた。
(いかん!!)
こんな明け方に。
(いかん。いかんなぁ……)
毎回本能寺で感じる猛烈な悪寒。
(駄目か……)
男がそう思った矢先に、廊下から足音が響いてきた。
いかにも緊急事態を告げそうな足音である。
(ハイハイ。乱丸到着まで3、2、1……)
ずばぁん!
男が『0』を胸中で唱えると同時に襖が開け放たれる。
(ジャストタイミング! 次は襖につっかえ棒でもしてみるか?)
男がしょうもない悪だくみを考えていると、乱丸が大声で報告した。
「上様! 一大事……」
「で、今度は誰の裏切りだ?」
上様と呼ばれた男、織田信長は冷静に、しかし諦めた様に、でも少し楽しそうに尋ねた。
「こ、今度? えーと、その浅井長政……ですが……」
「ほう長政か」
乱丸は信長の言う『今度』の意味を間違えた。
聞かれた事に対する答えが『浅井長政』、聞きたい事に対する答えが『浅井長政』であったが、話が噛み合っている様ですれ違っている。
乱丸は信長の言う『今度は誰の裏切り』を『一昨年に裏切った者の次の裏切り者』と解釈し、『次は浅井長政』と答えた。
つまり天正8年に裏切った足利義輝の反乱から、天正10年の今日に掛けての出来事に準じて答えた。
当然といえば当然の受け答えであり、何も間違ってないし正しい。
しかし信長の聞きたい事は違う。
信長の問いかけが、言葉足らず過ぎているのが問題なのだ。
どうやっても説明できるモノでは無いのも問題だが。
とにかく、信長の言う『今度は誰の裏切り』とは何か?
正確に述べるなら『前回の999回目の本能寺の変の首謀者は今川氏真だった』が、『記念すべき1000回目は誰?』という意味である。
999回目から1000回目。
つまり前回の天正10年から、今回の天正10年についての話であり、『今度の本能寺の変の首謀者は誰だ?』と聞いたのである。
乱丸は時間軸で考えて、信長は次元軸で考えている。
文字通り次元の違う話である。
余談となるが、足利義輝は反乱を鎮圧されると爆死を果たし、流石の信長も『お前が爆死するんかい!』と突っ込んだとか。
更に余談であるが、今回のやり直しでTake1818を重ねており、それなのに本能寺が1000回目なのは、本能寺の変に辿り着く前に病死や事故死、討死したからである。
意外と本能寺にたどり着くのは難しいと思われ、到達率は約55%と中々の難関である。
ともかく信長は、ある種の悟りの境地で口を開いた。
「Take1024の時以来、これで26回目。久し振りじゃな」
「て、ていく……? 26回目……? 裏切りが……ですか? 久し振り? え? 一体何を……」
意味不明な言動に、乱丸は信長が気が触れたのかと思った。
しかし、そんな心配をされているとは思わない信長は、優しい目で問いかけた。
「今までの合計聞きたいか? どうだ? 聞きたいだろう? ん?」
喜色満面で、イヤに楽しそうである。
「え? その、は、はい……?」
今は非常事態で、そんな事を聞いている場合ではないのだが、乱丸は何故か聞かずには居られなかった。
(長政様の裏切りが26回ってまるで意味不明だし、そもそも1回も裏切ってい居ないはずなのに、いつのまに26回も? って私は馬鹿か! 何を考えているのだ!)
乱丸の表情からは、そんな困惑の表情が簡単に読み取れた。
「最多は明智光秀の……」
「あけちみつひで? 誰ですかその方は?」
聞き覚えの無い名前に、乱丸は思わず信長の言葉を遮ってしまう。
主君の言葉を遮るなど、本来なら失態物のミスだが、信長はまるで気にしなかった。
「あぁそうか。今回の奴は早々に斎藤家の内乱で戦死したのだったな。まぁ聞け。とにかく明智光秀が最多の115回」
「115……え?」
信長を裏切って許されるのは1回まで、極稀に良くて2回目も許される時も無くはないが、まさかの3桁に達する裏切り回数に乱丸は虚を突かれた。
これも時間と次元の違う解釈故の驚きであろう。
「続いて羽柴秀吉108回。奴はここ最近光秀を猛追しておったが今回は違ったようじゃ。次に柴田勝家91回、森可成83回。こ奴等二人も最近は回数を伸ばしておるなぁ」
「え、え、え?」
まるで、成績を競い合う我が子の成長を喜んでいる父―――
乱丸は、信長の雰囲気から、そんな錯覚をしそうになり頭を振った。
「以下、滝川一益42回、佐々成政36回、松平元康35回、丹羽長秀32回、前田利家30回、細川藤孝9回、九鬼嘉隆8回、織田信雄5回、池田輝政4回、蒲生氏郷4回、安藤守就3回、織田信行2回、稲葉一鉄2回、佐久間盛信1回……」
「ちょちょちょちょっとお待ちください!! 仰る意味がまるで分かりませぬ!!」
「なんじゃこの程度で混乱しおって。ここから先はもっと凄いぞ?」
「え?」
「浅井長政は今回で26回目じゃが他にも、武田信玄42回、足利義昭31回、朝倉義景23回、今川氏真21回、黒田官兵衛20回、真田昌幸16回、上杉謙信16回、伊達政宗15回、顕如15回、北畠具教12回、尼子義久12回、武田勝頼11回、今川義元10回、六角義賢9回、藤堂高虎9回、長宗我部元親8回、陶晴賢7回、石田光成6回、吉川元春6回、最上義光6回、島津義久6回、佐竹義重6回、毛利輝元5回、斎藤龍興5回、南部晴政4回、島津義弘4回、大谷吉継4回、水野勝成4回、武田義信4回、小早川隆景4回、竹中半兵衛3回、北条氏政3回、山県昌景3回、二階堂盛義3回、姉小路頼綱2回、仙石秀久2回、松永久秀2回、小田氏治1回、隈部親永1回。これで997回じゃ」
乱丸にとって、所々知らない名前が交えられ訳が分からないが、裏切られた回数を詳細に語る信長は何故か笑顔だった。
「あとは森成利、於市、於濃、それぞれ1回。これで1000回じゃな!」
「はぁ……は!? 某!? それに於市様、濃姫様もですか!? 上様……」
森成利、すなわち森乱丸は自分の名前が裏切りにカウントされているのに驚き、さらに女子で信長の妹と妻の名前まで出てきて、主人が乱心したと確信した、のだが―――
「あれはTake500の記念でしたわね。今思えばアレが切っ掛けでしたね」
そんな信長の妄言を肯定する呑気な言葉と共に、帰蝶が奥から現れた。
真っ赤な鉢金を額に、蝶と蛇の迷彩柄の着物の袖を襷掛けの弾帯でまとめ、腰にコンバット脇差、高性能焙烙玉、防刃防弾鎧、右手には大型マシンガン、左手にはアンチマテリアルライフルを掲げる臨戦態勢は、まるで筋肉ムキムキマッチョマンが戦闘準備を整えた時の様な仁王立ちであった。
(流石は姫鬼神濃姫様! 普通地面に固定して撃つのがやっとの銃を両手で持ちながら戦えるとは……!!)
突っ込む所はそこでは無いと思われるかもしれないが、今は非常事態でも、帰蝶の装備は乱丸にとっては通常の光景なので何も変ではない。
では、なぜ乱丸にとって通常の光景で、こんな近代兵装が可能なのか?
それは500回目の本能寺の変の時である。
この時は極めて順調であったのだが、何故か帰蝶が信長に詰め寄り勃発した、数多の本能寺の変の中でも特に異質で極めて変であった、夫婦喧嘩による『本能寺が変』によって織田家滅亡を記録した時がキッカケである。
なお余談であるが、この時間軸の本能寺の変は原因が夫婦喧嘩と完全に判明しており、後世において真犯人論争の類は殆ど発生していない。
だが、ある意味ダイナミックすぎる死因により定期的に信長の人気が爆発し信長教は誕生してしまった。
「今思ば、アレがキッカケだったな。未来知識を解禁したのは」
「そうですね。歴史の修正力を跳ね返すために。最初に知ったライフリングによる射線の安定には驚きましたっけ」
「それが今や連射式で射程距離も破格の性能じゃ」
「み、未来知識? あの……一体何の話で……」
絶体絶命の窮地の会話とは思えない呑気で意味不明な会話に、乱丸は狼狽するばかりであった。
そんな乱丸を置き去りにして、懐かしそうに2人は話す。
Take500の夫婦喧嘩後に、時間樹のある5次元空間でファラージャにしこたましっかりたっぷりこってり絞られ、2人は深く反省し理解した。
しかし、どんなに頑張っても工夫しても本能寺を突破できない。
ついに2人は心折れ、ファラージャに土下座し、埒が明かないやり直し人生にテコ入れするべく未来知識の解禁を要請し、ファラージャもこのままでは無理だと納得し、少しずつ知識を与えたのであった。
その結果、乱丸が生まれる前から目覚ましい技術の進歩があったので、帰蝶の姿に突っ込まなかったのである。
しかし、それでも本能寺を突破できず、Take777を迎えた時の事である。
「それでTake777記念に身体能力も未来知識で強化しましたね。お陰で私、もうちょっとした妖怪ですよ?」
その結果、帰蝶は走りながら左目左手で狙撃し、同時に右目右手で周囲をマシンガンで斉射が可能になり、薙刀を振るえば複数人を纏めて斬り裂き、握力で石炭を金剛石に変質させ、走れば100m6秒台、視力30.5の身体能力を手に入れていた。
なお、本来は信長教撲滅が目標であるが、もう3人共形振り構っていられないし、そんな些細な事はとっくに忘れた。
とにかく本能寺突破が最優先に目的が変わってしまっている。
「刀で鋼鉄をも斬れる様になったしな。ハッハッハ!」
「でも、どうしても天正10年の今日を突破できないですけど」
「はっはっは……」
《……オイ!! 笑いごとじゃねー!! Take1818!? 『嫌々』の語呂合わせか!? もしかしてワザとやってんのか!? 今回死んだら魂に拷問するぞこの野郎!? 1000回も燃やされる本能寺の気持ちを考えた事あんのか!? 本能寺も大変すぎるだろうが!》
農業も化学も兵器も生活すら、現代に比肩する豊かさを手に入れた織田家であるが、それでも本能寺を突破できない現実にファラージャはブチ切れた。
最近ではすっかり上下関係が逆転してしまっている。
《何なら水爆の作り方でも教えましょうか!? ビーム兵器でもソーラーシステムでも重力装置でも反物質生成でも量子コンピュータでも巨大ロボットでも希望の知識を教えますよ!? それとも人体を自由自在に操る骨指秘孔術がいいですか!?》
《ファ、ファラさん、そんな怒らんでも……。もうかれこれ戦国時代を5万年近く共にした仲ではないか……ですか。なぁ? 於濃さん?》
《そうですねー。一種の不老不死を体験させてもらってます》
帰蝶は腐った魚の様な目で答えた。
《しかし、それにしたってTake1818! 時間樹も枝だらけでワケが分かりませんよ!! 今となってはどうでも良いですけど!》
5次元空間の時間樹は、特定の個所からだけ異常に枝分かれして、バランスもクソもない異様な汚さと気味の悪さを醸し出していた。
無理やり例えるなら、腕を頭上に伸ばした時の腋毛の様とでも言うべきか。
「う、上様!? 御加減が優れないのですか……って、そんな事より浅井軍が!!」
テレパシー中は他人には呆けている様にしか見えず、乱丸はとうとう大声をあげて訴える。
「わかったわかった。それじゃあ出撃するか。ワシの六天魔王ブレードを用意せよ」
六天魔王ブレードとは、信長と帰蝶が未来知識を得て作り出した合金オリハルコンと、1000回以上味わった死の苦痛から目覚め覚醒した超能力を併用し鍛えに鍛えた刀で、やっと二振り作り上げた逸品である。
この合金刀と超能力使って攻撃をすれば、この世に斬れぬ物は本当に存在しない斬万物刀である。
もう一振りは、帰蝶がコンバット脇差として身に着けている。
「さぁ、弾尽きと刀折れるまで戦うか。ざっと感じる殺意からするに30万人は下らぬ軍勢かのう?」
「私と上様で20万人、乱丸殿達で10万人倒せば逆転できますね」
「そうじゃな。乱丸、行けるか?」
信長は近接戦用防刃防弾鎧に着替えると、ブレードを腰に佩き、右手に連射式ショットガン、左手に焙烙玉バズーカランチャーを持ち臨戦態勢をとった。
乱丸も、大口径ハンドガンとサブマシンガンを手に立ち上がる。
「は、はい! ががが……頑張ります!」
信長達程ではないが、武将級は信長の知識の恩恵で一騎当千の実力を誇る。
ただ、それは敵も同じである。
数の不利は、万夫不当の信長といえど容易に覆すのは難しい。
《死ぬ気でやりなさい! でも死んだら分かってますね!?》
《声が小さい!! 気合い入れろ!!》
「う、上様!?」
信長と帰蝶の突然の大声に乱丸は驚き戸惑った。
こうして1000回目の本能寺の変が始まるのであった。
余談であるが、於市が起こした本能寺の変は浅井長政と柴田勝家の2人の夫を信長に殺された怨みによる犯行で、Take42の時の事である。
通称『本能寺の怨』―――
もう一つ余談で、乱丸が起こした本能寺の変は後世にて、信長との愛憎の縺れ説が教科書に記載される程に周知されている。
通称『本能寺の恋』―――
嘘話ですけど、信長Take3における一つの可能性です。
簡単に言えばBAD ENDです。