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外伝23話 佐々『強者への道』成政

 この外伝は10章 天文23年(1554年)の願証寺攻略が終わった後である。


【とある寺】


「あー。その方らの横暴は目に余る。よって、不当に蓄えられた財は没収するが、まじめに修行するなら生活の一切合切は保障する」


「はい。その沙汰を受け入れさせて頂きます。拙僧らも常々上役の行いには疑問を感じ自問自答しておりました。『御仏に仕える身として現状が正しいのか』を。そう悩んでいた所、織田様が正しい道を示されました。それに反発する者は皆逃げ出し残った者に反抗の意思はございません」


「……そう。じゃあ、これ天下布武法度だから……。真面目に修行に勤しむ様に……」



【またとある寺】


「あー……。その方らの横暴は目に余る。よって、不当に蓄えられた財は没収するが、まじめに修行するなら生活の一切合切は保障する(どうだ!? 頼む! 頼むぞ!?)」


「こうなってしまっては是非に及びませぬ。心を入れ替え御仏と向き合う所存です」


「……そう。じゃあ、これ天下布武法度だから……。真面目に修行に勤しむ様に……」



【またまたとある寺】


「あー…………。その方らの横暴は目に余る。よって、不当に蓄えられた財は没収するが、まじめに修行するなら生活の一切合切は保障する(お願いします! 神様仏様!)」


「ふざけるな! 貴様ら仏敵に何の権利があるのだ! この様な暴挙は断じて許せん!」


「……そう。じゃあ、これ天下布武法度……え!? 本当に!?」


「兄貴!」


「うむ! やったぞ! さぁ彦五郎殿(今川氏真)、これより取り締まりを行いますので、まずは見ていてくだされ!!」


「はい!」


「さぁ! クソ坊主ども! 抵抗するなら頑張って抵抗してみせろ! 喜んで相手してやるぞ! さっさと掛かってこい!」


 嬉々として任務に取り掛かる佐々成政と前田利家。

 それを今は学ぶ、今川家より派遣されている今川氏真であった。

 普通なら大人しく従う敵対勢力の改心に安堵するところを、こうも落胆し、今こうして大喜びで動くのには理由があった。


 織田の領地では寺院による政治介入や商売、武装、教義の捻じ曲げによる民への横暴を禁じているが、初期の頃は関所潰しや取り締まりで小規模な争いが起きていた。(60話、外伝12話参照)


 これは所謂、『兵農分離』『兵僧分離』に続く『僧商分離』『僧政分離(政教分離)』である。

 寺院による現代の闇金も真っ青な超高金利な貸付、神仏を盾にしたテロ同然の要求など、善良な僧侶もいる一方で不良僧侶による生活や政治への介入は度し難い有様であった。


 その結果、武家は仏罰を恐れ泣き寝入りするしかなかったが、その誰もが避ける禁断の領域に信長は手を付けた。


 その第一段階の集大成が願証寺攻略戦である。


 その結果―――


 脅しが効き過ぎたのか、抵抗する力の無い寺は早々に降伏、または逃げ出しており、こうして抵抗する寺は数える程しかなかった。


 最初は良かった。

 威風堂々、領内を羨望の眼差しを浴びながら闊歩する。

 順調な任務に、船酔いで逃した手柄と面目も立つ。


 たまらない快感であった。


 道中の雑談にも花が咲きに咲き、成政、利家、氏真の共通の話題である帰蝶の恐怖(羨望)にも話が及ぶ。


「あの方は人ではないかも知れんな。ハッハッハ!」


「……案外当たっていたりして。内緒ですぞ彦五郎殿!?」


「ハハッ……」


 こんな軽口もポンポン出てくる成政と利家。

 しかしそれも長くは続かず、逆に焦りが出てくる。

 本来なら全く焦る必要など無いのだが、願証寺との戦いで一際武功の無かった成政と利家。

 今のこの優越感が、今回戦には全く貢献していなかった現実に気づき、フラストレーションが溜まる。

 しまいには、口では降伏勧告をしておきながら『頼む! 抵抗してくれ!』と願うようになっていた。


 二人は地域を支配する武士ではあるが、政治家よりも戦士の側面がまだまだ強い未熟者なので致し方ない部分ではあった。

 氏真は、雪斎と父義元の英才教育の賜物で、為政者としての心構えも備わっている。

 従って別に寺院の弱腰対応の現状に焦りは感じていないが、とは言え、帰蝶に土産話を持って帰りたい思いもあるので、物足りないとは感じていた。


 こうして今の状況に至る。


「かかって来いって……え?」


 成政の『さっさとかかって来い!』と響き渡る声に僧は戸惑った。

 僧は別に戦いたい訳ではない。

 腕を試したい訳でもない。

 自分達の要求は、強いて言うなら『干渉するな』であるので、『勝手にかかって来る相手』が『かかって来い』では『ん?』と思うのも仕方ない。


 成政達は武功を挙げたいあまりに、少々本末転倒な事をしていたのであった。


「……あ、内蔵助殿(佐々成政)、ま、まずは証拠品を押収しては如何でしょう?」


 政治の心構えがある氏真が、何かチグハグな雰囲気と手順が違う事に気付き、それとなく耳打ちする。


「? ……あ! も、もちろんですぞ!? よ、よし! ならば中を改める。見られて困る物が無いなら断るまいな?」


 帰蝶にしても、単に暴れるだけではない。

 強引に押し入ったり色々悪質な手段は取るが、証拠品や現行犯で自分に理がある状況を作り出す事を心掛ける。

 戦でも政治でも同じだが、自分に有利になる行動を取るのが第一で、成政の様に突然勝負を挑んでは意味が分からなくなる。

 それを氏真が、成政のプライドを傷つけぬ様に気遣いつつ提案し、成政も過ちを認め軌道修正する。


「中を!? ……グッ!」


 寺院には見られて困る物が山積みであり、見られれば当然、断っても悪事を認めたも同然であった。

 急所を突かれた僧は、苦虫を噛み潰すかの様な顔になる。


「よし。では改める。行くぞ」


「ぬぅぅぅッ! (けが)れた武士が入るな!!」


 我が物顔の武士の態度に、とうとう我慢の限界を超えた僧が、薙刀を振りかざして成政に斬りかかる。


「……フン! この(たわ)けが!」


 一瞬の決着だった。

 襲い掛かった僧が空中を回転し、砂煙を立てながら薙ぎ倒されたのである。


 僧は何が起きたのか理解できなかったが、成政はしてやったりの顔をしている。

 何が起きたかのかと言うと、政は薙刀の振り下ろしを半身で逸らしつつ、刀を鞘ごと腰から抜き僧兵の左脇に差し込む。

 そのまま左手を(つか)に、右手で鞘の先端を掴み強引に刀を縦に回転させる。

 すると僧は振り下ろしの勢いのまま、左腕は鞘に絡め取られて後ろ手に回されると同時に地面に叩きつけられる。


 成政は即座に膝と足で体を押さえつけると、ようやく鞘から刀を抜き放ち倒れた僧の首筋に添える。

 完全に勝負ありであった。


「おぉ!」


「フッフッフ。 名付けて『刀絡み腕落とし』! なんてな!」


「お見事です!」


「兄貴! やったな!」


「うん~? 某、また何かやってしまったかな~? ウフフフフフ! まぁそれほどでもないぞ~?」


 常々考え、ようやく披露する事ができた必殺技を、百点満点で繰り出せた成政は、顔のニヤツキが止まらず、気持ち悪い顔を伏せながら謙遜するのであった。

 それもこれも常日頃の訓練で帰蝶にブチのめされ、地面を転がり土と泥にまみれ、半泣きになりながらも挑み続けた成果であった。


 一方、敵対した僧は結果が信じられなかった。

 リーチも威力も優れる薙刀で武装しているのに、刀一本で、しかも鞘に納刀したままで、さらにそのまま刀を振るうのではなく、刀を単なる棒として扱い圧倒された。

 堕落した生活をしていた僧の身体的問題もある。

 しかしそれでも、こうも鮮やかに制圧されるとは思いもよらなかった。


「さぁ抵抗する者は捕縛して連行する! 無駄な抵抗はするなよ!? 絶対するなよ!」


「何をしておる! 寺院を守るのじゃ!」


 別の僧が怒鳴り散らした。


「良しキタァ!! 皆の者、行けぇい! ……さて貴様には色々喋ってもらう事がある」


 そこで成政は周囲を確認する。


「……ハァッ!」


 こんな感じで成政達の寺院への粛清行脚は進んでいった。

 大多数の寺は抵抗する事無く降伏したが、一部の寺は、武家に、しかも成り上がりの織田家に親たる願証寺を殺された事に憤慨し激しく抵抗する。


 そんな寺の抵抗に、佐々成政と前田利家は『待ってました!』とばかりに戦いを挑む。

 目立った武功の無かった二人は、ここぞとばかりにストレスを発散していった。



【制圧完了後】


「それにしてもお二人共にお強いですね!」


 氏真は成政と利家の腕前を素直に称賛した。


「なのに何故勝てないんですか?」


 もちろん、帰蝶に対して未だに一本取る事が出来ない現状についてである。

 これは決して馬鹿にしているつもりはなく、氏真の目からみれば二人の強さは自分を遥かに圧倒しており、そんな二人が未だに『ちゃん』呼ばわりである事を素直に不思議に思ったからである。


「何故なのでしょうな……。ワシも常々考えております。さっきの投げ技もそんな苦境を打破する為に考えたのですが……。濃姫様に通用するかと言われれば全く成功する光景が思い浮かばんのです……」


「兄貴……」


「彦五郎殿は濃姫様の殺気を浴びた事がありますな?」


「はい。あれ程の殺気は今まで経験した事はありません」


 氏真は帰蝶の発する殺気を、臓腑を握りつぶされるかの様な猛烈な殺気を浴びた経験がある。

 長福寺の会談で(44話参照)、桶狭間の決戦で(55話参照)、刈谷城での稽古で(外伝16話参照)。

 それを思い出し身震いすると共に、快感極まりない感情を思い出す。


「我ら二人、例えば腕相撲や走りに関しては濃姫様に勝つ事なぞ、もはや造作も無い事なのです」


 成政がしみじみと語りだす。

 まるで疲れ果てた老人の様な顔で。


「あの方が持ち上げられない重石もワシ等は持てる。槍も遠くに投げられる。長く早く走れる。なのに! あの方の打撃や斬撃は骨に響いてメチャクチャ重くて痛い! 鎧越しでも衝撃で膝を突きそうじゃ!」


 成政の嘆きに、利家もその記憶を思い出し顔をしかめる。


「それが柴田様(勝家)や森様(可成)、剣術に明るい北畠伊勢守様(具教)だったら理解できる。体や扱う武器の重量、筋肉を考えれば然もありなん。しかし、あの方の攻撃はあの細腕で、軽い体で、普通の武器でソレを易々とこなす。信じられますか!?」


 利家も首が取れそうな程に深く頷く。


「例えばソコの木をワシが殴ったとします」


 成政が指さす場所には新緑が生い茂る銀杏(いちょう)の木が生えていた。

 直径は子供の胴体程の太さで丈は3mは超えるだろう。

 銀杏の実もたわわに実をつけており、秋が待ち遠しい。


「まぁ、衝撃で葉や実が幾つか落ちれば良い方でしょう。実際にやってみましょうか」


 そう言いながら下馬した成政は拳を木の幹に叩きつける。

 腰の入った鋭い突きによって銀杏の幹が鈍い音を震わせ、幾つかの実が地面に落ち、さらに舞い落ちる葉の一枚を刀の一閃で両断―――は出来なかったが、ひらひらと舞う葉を捉える技量は中々の腕前である。


「しかし、多分じゃが、あの方が殴ったら木が枯れるんじゃないか?」


「兄貴、それは流石に言い過ぎ……いや……言い過ぎでもない……かな……?」


「ははは……その光景は容易に想像出来てしまいますね」


 表現するにしても『全部の葉や実が落ちる』ではなく『枯れる』とは大層な表現であるが、男たちは有り得そうな現象に思い悩んだ。


 もちろん流石に一撃で木を枯らすのは不可能である。

 しかし、枯らすのは決して不可能ではなく、中国拳法の伝説で割と近代に生きた達人である李書文は『拳聖』『神槍』『二の打ち要らず(つまり一撃必殺)』と称えられ、修行の末に樹齢数千年の木を枯らしてしまった逸話がある。

 人間の可能性は無限である。


「あの方の闘いはまるで暴風です。吹き荒れる嵐の様に怒涛の攻撃が来るのに、その一撃一撃が尋常じゃないほど重い。佐々殿や前田殿が連戦連敗なのも致し方ありますまい」


「それに加えてさっきも少し触れたあの殺気! アレこそが我らと濃姫様の間に立ち阻む決定的な障壁! 僅かな差でも永遠の差と言えましょう。あの殺気があるからこその攻撃であり、木を枯らすのも可能だと思ってしまうのです」


 利家がそう断言するが、一撃では木を枯らすのは不可能なのに、彼らの中では帰蝶が木を殴れば枯れるモノと認識されている。


「あのお方は以前は病弱だったのに、ある日突然快癒したらしい。そんな事あると思うか? 季節の変わり目の劾病なら理解できる。ワシも経験はある。しかし、あの方は長年の病が突然快癒したのだぞ? そんな事がありえるのか? もし、あり得ないとしたら? ……闘神の魂でも乗り移ったのではないか?」


 当たらずとも遠からず、と表現する程に正解でも無いが、あながち間違ってはいない。

 今の帰蝶は、未来式超特訓で潜在能力を開放した魂が乗り移っている。


「一方、殿の攻撃は洗練され過ぎておる。その一撃も岩石の重さを備えた繊細な刃物の様に両立しない攻撃をしてくる。マトモに相手出きるのは越前の妖怪朝倉宗滴か、美濃の斎藤様、駿河の今川様と雪斎和尚だけじゃろうなぁ。まぁ、あの方達が強いのは理解できる。積み重ねた年齢と鍛錬の賜物じゃろう。しかし、殿と濃姫様は意味が分からん強さじゃ。そう言えば殿も突然体の動きが変わった時期があったな。そうか。夫婦揃って闘神の化身か!?」


 信長は転生直後、若い肉体の感覚についていけず、魂と肉体の同期に時間を要したが、同期後は魂の経験も合わさって洗練され過ぎた動きを獲得していた。(6話参照)


「そう! 殺気と言えばやはり殿じゃ。上手く例えられんが……濃姫様程に凶暴な殺気では無いが、では耐えられる殺気かと言えばそうでは無い。むしろ凶悪性では群を抜いておる。何年か前の尋問に同席した時は、ワシは死ぬかと思ったわ」(外伝22話参照)


 信長は2回死んでいる為、帰蝶よりも洗練された殺気の放出を可能としていたが、成政と利家は虜囚の尋問に同席した際、不幸にも信長の殺気を至近距離で浴びてしまい失神しかけていた。


「そう言えば、さっき兄貴は殺気を放つのに失敗してましたね」


 それは、寺を取り締まった時に反抗した僧を投げ飛ばし『……さて貴様には色々喋ってもらう事がある……ハァッ!』と殺気を放ってみた時の事である。

 成政は精一杯の殺意を頭で思い描き、それこそ信長の魂を刈り取るが如き凶悪な殺気をイメージしてみたが、残念ながら『ハァッ!』という気合が木霊するだけであった。


『……』


『……』


『……?』


『……? 何とも無いか?』


『え……何が……?』


 本当ならば殺気で脅し口を割らせるのが目的のはずであるが、成政も半ば殺気を放つ事こそが目的になっており、ここでも投げ飛ばす前の本末転倒問答同様な謎行動でしかなく、結局、地面に倒れた僧は困惑するだけで、殺気は微塵も放出されていなかった。

 この後、成政は顔を真っ赤にしながら僧を尋問したのであった。


「見てたのか!?」


「はい」


「某も」


 恥ずかしい行動を二人にバッチリ見られていた事を知り成政は慌てるが、一応、この軍の総大将なので見られてない訳が無かった。


「……又左衞門、彦五郎殿は殺気を出せるか? 出せぬよな? ならば訓練しか無いよな?」


「え?」


「何を……?」


 その後二人は、次の抵抗した寺院で捕縛した僧に殺気を浴びせる訓練と称したパワハラを受け、同時に捕まった僧も、三方から『ハァッ!』だの『おぉぉ!』だの訳の解らない雄叫びを聞かされては『どうだ?』と質問され大迷惑を被るのであった。


 結局この日三人は、殺気に目覚めることは無かった。


「はぁ……。駄目か。腕力、脚力とか個々の能力では勝てるのに、総合能力ではまるで歯が立たん。殺気など夢のまた夢か。その濃姫様に勝てる柴田様や森様は凄いんだなぁ」


「……あれ? それですよ! 柴田様や森様の殺気は濃姫様に及ばないのに、濃姫様に総合能力では勝っています!」


「確かに! 雪斎和尚の引退手合わせも、殺気は濃姫様に及ばず、寧ろ受け流して肉薄する強さを見せていました」(100-5話参照)


 成政のボヤキに利家が反応し、氏真も呼応した。


「うーむ……。では勝負に殺気は必須ではない……? いや、そんな事はあるまい。では我らとあの方達の差は何なのだ?」


 それは場数と経験と地道な努力、又は、本当に死ぬ程痛く苦しい死ぬ経験である。

 なお、彼らが決して殺気を出せない訳ではなく、戦場では無意識に微力ながら出せており、自由自在にコントロール出来ないだけである。

 信長と特に帰蝶という歪な存在が、前途ある若者を惑わせた結果、彼らの努力の方向性を誤らせているのであった。


 それに、いつの世でも若者が自分だけの未知の力や、闇の力に憧れるのは仕方のない事である。

 更に戦国時代は、現代の科学と同等に神仏宗教や天罰、怨霊、霊力が信じられている時代である。

 少し前の時代で『半将軍』の異名で絶大な権力を持った細川政元は、修験道の力で空中浮遊の力を習得しようと、真剣に修行をしたぐらいである。

 多少方法が間違っているとは言え、殺気の習得を目指す事など可愛いモノである。


「あぁ! わからん! どうすりゃいいんだ!!」


「濃姫様に鍛えてもらいましょう! それしかありませぬ!」


 嬉しそうな顔でそう宣言する氏真。


「彦五郎殿は凄いですね……。濃姫様に嬉々として挑むのは、彦五郎殿ぐらいだけですぞ」


(あッ!? やめ……)


 利家は呆れた顔で笑うが、成政は即座に顔を曇らせる。


「何故ですか!? 某にとって、いつても自由に稽古を付けてもらえるお2人が羨ましくて仕方がありませぬ! そんな恵まれた環境を否定するのですか!?」


 利家の失言に氏真が食らいつく。

 しかしこれは利家が正しいというか、柴田勝家や森可成にしても帰蝶に稽古を付けられる立場でなくて心底喜んでいる。

 ただ彼らは彼らで帰蝶に勝ってしまったので、帰蝶に挑まれるという別問題を抱えているのだが。

 勝っても地獄、勝てなくても地獄である。


「あ、いや、あぁ!? 次の寺が見えてきましたぞ!」


 氏真のマズイ性癖を感じ取った成政は、強引に話を切り上げるのであった。

 事実、南近江にほど近い寺が遠くに見えていた。


「さぁ、行きましょうぞ!」


 彼らが『これが殺気か!』と気づくのはもう少し先の話であり、当分の間は迷走しつつ、強さとは何なのか模索していくのであった。



【尾張国/人地城 織田家】


「はくしょーいッ! へくしょーいッ! ……誰か悪い噂をしてるわね……。内蔵助ちゃん達かしら?」


 もちろん偶然だが、帰蝶は悪評の噂元を特定した。


「お、お姉様! そんなに大きなクシャミをしてしまっては……!」


 吉乃が帰蝶のクシャミを注意する。

 信長の妻に相応しくない下品な仕草を咎めた―――訳ではない。


「……あぁぁ! あああぁぁぁッ!!」


 せっかく眠りについていた於勝丸が、起きて泣き出したのである。


「あぁ!? 御免なさい! あぁもう!」


「あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!」


「私も泣きたい……」


 泣く子と地頭には勝てぬ―――

 道理の通じない者と権力者に勝つのは不可能である事を表現する諺であるが、正にその通りであり、現在の織田家最強は於勝丸であった。


「はいはい、泣き止んでねー」


 於勝丸の実母である直子が抱き上げあやすと、天災の様な泣き声が嘘みたいに止む。


「凄い……」


「さすが直子ちゃんですね~」


 現在、織田家強さランキング2位は、その泣く子を制御できる直子であった。


「内蔵助ちゃん達、早く帰ってこないかしら……」


 育児ストレスからか若干やつれた帰蝶は、そのストレスの捌け口の帰還を待ち望み、任務を終え帰還した時、成政と利家は悲鳴をあげ、氏真は喜ぶのであった。

信長Take3 ざっくり強さランク


朝倉宗滴(於勝丸 直子)

斎藤義龍 長尾景虎

織田信長 三好長慶 武田晴信 今川義元 北条氏康

森可成 柴田勝家 北畠具教 武田信繁

帰蝶

斎藤道三 太原雪斎 松永久秀

明智光秀 足利義輝 滝川一益


----------殺気の壁----------


佐々成政 朝倉延景

丹羽長秀、斎藤利三 藤吉郎

今川氏真 前田利家 浅井久政

松平元康

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