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外伝20話 信長Take3

投稿日2019年4月1日

(―――暗い。ワシは死んだ……のだな―――)


 真っ暗な闇の中でふと自分の生き様を思い出した。

 何度負けようともワシは諦めなかった。


(……? 諦めなかった……? 何に諦めなかった?)


 自分が大往生を果たした日と同じく、真っ暗な闇の中で今の状況を確認できる自分の思考に驚いた。


(諦めたらそれまで、乱世の理を誰よりも理解しているのでは無かったのか? ……って今、この考える事ができる状況は何なのだ? 城はどうなった?)


 恋焦がれた城を確認しようとして、それが出来ない事に気が付いた。


(目は……開いている……のか?)


 何も見る事ができない。あの負けた時の夜、炎上する城に絶望し目の前が真っ暗になった時の様な黒であった。


(耳は?)


 軍神率いる賊軍の絶望的な歓声すら懐かしい、有り得ない程の静寂。


(鼻は?)


 匂いは無い。懐かしい城の匂いも、あの敗走時の炎と煙の匂いが嘘のように無い。


(声は?)


 出ない。出そうとしても音が聞こえないので出ているのか判別できない。

 あの城に向かって叫んだ咆哮も、喉が震えたり呼吸をしている感覚が無い。


(手は……足は……?)


 夢にまで見たあの城の自室から立とうとしたが、自分が立っているのか寝ているのか判らなかった。


(何だこの感覚は?)


 浮いた事など無かったが、鳥のように空を飛べたら、己が愛する城を上空から眺められるかもと思った。

 しかし、五感の全てが狂っているとしか思えなかった。


(こんな状態で生きているとは言えぬ。死んではいないのか? ワシは何故負けた? 負けた? 何に? そもそもワシは誰なのだ?)


(御屋形様……! オダ……様……!)


 ―――!!


 声が響いた。

 しかし耳から聞こえた訳では無かった。


(オダ……??? 誰だ? ワシに話しかけるのは?)


(某を思い出して! 某の名前を!)


 その時意識の中に光る人影が手を振っているのに気が付いた。


(帰ってきてください!)


(これは何だ? 左衛門……大夫? ……菅……?)


 瞬間―――光が差し込んだかの様に、五感の全てが頭に情報を送り出した。


「菅谷左衛門大夫範政!!」


 漲る力と共に男は跳ね起き急いで周りを見渡す。


(上杉の軍勢はどこだ!? 鬼義重は!? 太田三楽斎は!? ここはオダ城……ではない!?)


 周囲は白とも黒とも光とも言える薄く輝き、天井も地面も壁も近くにある様な無い様な奇妙な空間であった。

 城なら今頃は不当に占拠されているはずであったが、周りの環境が自分の知りうる何とも合致しない、未知の場所にいる事に気が付いた。

 周囲を見た渡すと忠臣の菅谷範政が涙ぐんでいた。


「左衛門大夫……か?」


「御屋形様……!」


 男は自分の胸に飛びついた左衛門大夫を抱きかかえた。


(本当に左衛門大夫か!?)


 そう思うほど力強い抱擁を受けた。

 妙に若々しく元気だ。


(なんだこれは? 夢なのか?)


 その時―――


「おぉ信長よ! 死んでしまうとは情けない!」


「……? ノブナガ?」


 背後から声が聞こえたかと思うと、妙な小僧が良く分からない事を言っていた。

 男は棺らしき物から出て歩み寄った。


「……」


 男は小僧の顔をじっと見つめた。


「なーんちゃって! ……ん? あれミスったかな?」


 小僧は神妙な顔つきからおどけた顔になり、さらに難しい顔をしうんうん唸っている。


「……」


「おーい」


 小僧は手を男の前にかざしてヒラヒラと振って見せたその瞬間―――


「ほわっちゃぁ!」


「危な!?」


「上杉か佐竹の手の者か! または太田のクソッタレか!? 断じてワシの城を渡すわけにはいかぬ!」


「御屋形様!?」


 それなりに見事な突きであったが、本当にそれなりで小僧には避けられ、主君の目には止まる突きに驚愕しつつ範政は叫んだ。

 男は驚く小僧の顔を見て、一旦間を開けた。

 男は格好良く決めたつもりが簡単に避けられた事に気まずさを覚えつつ、話題を逸らすために喚きたてた。


「小僧! 話せ! ここはどこだ! ワシを助けたのか? オダ城はどうなっておる! ……む?」


「ここはって……ん? 織田城……? 本能寺や安土城じゃなくて? ……な、なんかイメージと違うし頼りない???」


 眼前の人物の挙動に不審なモノを感じ小僧は思った。


(本当に織田三郎信長? 曰く戦乱の申し子にして救世主。当時は元より後世の人間と比較しても、その最先端の思考は疑いようがないわ……でも、なんか様子が変ね)


 まさに人類史上最高と言っても過言ではない男が、自分の前に居る―――のか? 小僧は自信が揺らいだ。


「ここはどこじゃ!? 城は!? 敵はどうなった!?」


 男は現実が分からず慌てふためいていた。


(あのパンチはイマイチだし、未知の世界とは言え情けなく慌てる信長。イメージが崩れる! やはり歴史資料は当てにならないわ。本人もこのザマだしねぇ……)


 そんな失礼極まりない事を思いながら、オホンと咳払いし口を開いた。


「私は……えーと、ファラージャと申します。織田様からしたら変な名前なのは重々承知していますが正真正銘日本人です。ですがその前に……あなたは尾張出身の織田信長様で間違いないですね???」


「ふあらあじゃ? 不破羅阿邪? 奇怪な名前よの。しかし、ワシは確かにオダじゃが尾張のうつけと一緒にされては困る! ワシは常陸の不死鳥、小田氏治! 二度と間違えるでない!」


「……は? ……え? え!? 織田……ウジハル??? 常陸に織田家? 織田ウジハル……織田家にそんな名前の血縁者がいたかしら?」


 男が名乗った名に聞き覚えが有る様な無い様な感じがしてファラージャは考え込む。

 それを妨害するかのように小田氏治と名乗った男が怒鳴った。


「それよりワシの城はどうなった!?」


「(さっきから城の事ばっかりね!?)ワシの……城??? さっきも言ってたけどそれは……念の為に聞くけど……本能寺や安土城の事じゃ無くいのよね?」


「違う! 常陸にその名を轟かせるワシの城! 小田城じゃ!」


 ファラージャには何を言っているのか全く理解できなかった。


(え、まさか失敗!? 常陸……オダ城……まさか『織田城』じゃなくて、()()『小田城』!?)


 ようやくファラージャは何が起きているのか理解し、足元が瓦解していく様な感覚に陥った。


「……お、小田城は、破却されたと聞いています(失敗だ! まさかのオダ違い! この人は()()()()()小田氏治だ!?)」


「是非もなし……って破却!? そんな馬鹿な!」


 小田氏治と名乗った男は泡を吹いて気絶した。


「殿ぉぉぉッ!?」 




 しばらくして氏治は復活したが―――




(これでは今から告げようとしている事を言ったら卒倒するんじゃないかしら?)


 しかしファラージャの認識は甘かった。

 氏治はファラージャの予想を上回る人物であった。


 例えば、氏治が素っ裸なのに気づき、乙女の様に恥じらうので、着物を空間から取り出すと卒倒し―――


「ひぇぇぇ~!?」


 自動着替えシステムに卒倒し―――


「ちゃくい? ひゑえぇッ……!??!!!?!……!!」


 音もなく現れる座布団とひじ掛けに卒倒し―――


「あひへぇ……ほへえっふッ!?」


 氏治はその度に情けない声を出して卒倒した。

 その度に範政が頬を引っ叩いて意識を復活させる。


 かつて『常陸の不死鳥』と名を馳せた氏治から見ても信じ難い度し難い体験であった。

 (なだ)(すか)してようやく氏治を落ち着けるファラージャと範政。


「……ふわらあじゃよ。いろいろ言いたい事や聞きたい事があふれて来るが、一体何が起きているのか説明してもらおうか?」


 キリッとした態度で尋ねる氏治。 

 態度だけは一丁前だとファラージャは思った。


「お答えします。まずここは私の……いやそれよりも、うーん……今は小田殿の時代から1億……いや、ちょっと待ってください」


 ファラージャは困りに困った。


(信長なら未来と言ってもそれなりに対応してくれそうだけど……この小田氏治に言っても大丈夫なのかしら?)


「えー……いわゆる極楽浄土……という奴です……」


 ファラージャは全ての説明を諦めた。

 まさか間違えて生き返らせたとは言えない。

 だからと言って失敗したから処分する訳にもいかない。


 とりあえず極楽と称したこの地での生活に慣れてもらって、折を見て説明しようと思った。




 ファラージャの苦難は始まったばかりだ―――





 続く……かも?

申し訳ありません。

この話は『信長Take3』ではなく『信長Mistake3』であった事を謝罪いたします。


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