各陣営の去就 信長の方針 柔軟と客観 100-5話 IF
この話は、もしも信長が中立を選んだ場合の話です。
100-4話の★から繋がる様にしてあります。
タイミングよくエイプリルフールがきたので『嘘の話』として投稿します。
「それらを踏まえて織田家の方針を言い渡す」
★
「織田家はどこの勢力にも加勢はしない!」
家臣たちがざわつくが信長は無視して続きを語った。
「包囲網も三好も知らぬ。あくまで中立、その上で我が道を行く!」
信長の言葉にざわめきがピタリと止んだ。
「理由を説明しよう。多数の勢力がどちらかの勢力に肩入れするであろうが、今の三好は巨木。到底太刀打ちできる物ではない。しかし、将軍が集める勢力を考えれば万が一、いや百が一の可能性はある。ならば共倒れも狙えるし、生き残った方を我らが食い破る事もできよう。漁夫の利じゃな。どのみち三好とも将軍とも我らは相容れぬ。ここで立場を鮮明にし独自に動くべきであろう」
家臣は動揺している、というより困惑の表情で固まってしまっている。
その困惑の理由を義龍も戸惑いながら何とか口を開き疑問を挟んだ。
「ほ、本気か義弟よ? ……ちゅ、中立を立場鮮明と言って良いのか? いや中立が全て駄目だとは思わんが、それでも将軍にも三好にも味方しないと言う事は、ワシ等以外の派閥は全て敵と言うことじゃ。外部に対する体裁も恐ろしく悪い」
包囲網の要請を受けていないなら中立でも何ら問題は無いが、明確に織田も斎藤も明確に要請を受けた勢力である。
包囲網参加を断るにしても、三好に付けばまだ立場を明確にする分、納得も説得もできるが、要請をうけて尚、立場を鮮明にしないのは、いかにも体裁が悪い。
苦労せずに成果だけ横から攫おうという魂胆も丸見えで、その行為の肯定は自分で自分を騙す様で限界がある。
「懸念は理解しているつもりです。我らの態度を煮え切らぬと唱える者もおりましょう。立場を明確にせぬと我らに後ろ指を指す者もおりましょう。―――笑止! それらは全て取るに足らぬ事! 重要なのは勝つ事なのです!」
信長は断言した。
武士のプライドなどクソ喰らえとでも言う様に断言した。
「……!! ま、まぁ、ワシ等の目指すモノを考えれば、この選択も仕方ないのか? 毒を喰らわば皿まで、か。例えが違うか? わ、分かった、斎藤は覚悟を決めて義弟に付くぞ!」
信長の断固たる決意に義龍は押されつつも引き下がった。
しかし、一人納得いかない者が静かに口を開く。
今川義元であった。
「正気か? ワシには破滅の未来しか見えん」
中立を選択するなら、どちらにも肩入れしない代わりに、どちらの陣営からも攻め込まれる可能性がある。
展開によっては漁夫の利どころではない、寄ってたかって攻め立てられ、髪の毛一本残らない結果になる可能性もある。
義元はそうなる未来を感じ取った。
「全方面を敵に回すのも必要であろう。しかし、それは今ではない。その選択は、せめて、三好に匹敵する勢力に成長した後ではないのか? 武田や北条、三好の力を舐めておらぬか? 中立と言えば聞こえは良いが悪評は将来必ず禍根を残そう。それは仮に天下統一が成った後でも付いて回ろう。未来永劫な。我らの理想は歪んで伝わり、後の世を率いる者が誤解して学び誤った舵取りをするかもしれん」
義元の言葉が熱を帯び、街道一の弓取りの顔を覗かせ始めた。
桶狭間の敗戦で数百年に渡り悪評が付いて回った今川義元の言葉である。
重みが段違いであった。
「織田殿は己の理想に酔っておらぬか? 自分の考えが全て正しいと思っておらぬか? やるべき事は判る。理想も大事じゃ。しかし足元を疎か……いや見すぎて前が見えておらぬのではないか? 本当に三好はもとより、恐らく将軍に付く長尾や武田を同時に相手するのか? 宗教勢力は? 今この現状で多方面作戦を展開できるのか? 親衛隊や領民に多大な苦労を掛けるだろうが、待っているのは泥沼の戦いだと思わんか?」
義元の問いに信長は断固として意見を曲げなかった。
「ワシの意思は変わらん。将軍も三好も争いの最中で葬ってくれよう。これが最善最短の道じゃ!」
「そうか……。決意は固いか。已むを得ん。どう見ても擦り潰される未来しか見えぬ。どんなに理想が高かろうとも家が潰れては本末転倒。ワシにはお主の考えが分らぬよ。つい先刻までは骨の髄まで理解していたのにな。……今川は付いていけぬよ」
そう言い残して義元は去っていった。
その際、大名としての顔もあった北畠具教に目線を送る。
具教は誰にも気づかれない様に頷いた。
他にも多数の家臣に動揺が広がった。
中立の汚名を恐れる者、展望を読めず焦る者、皆どうしていいのか分らぬ不安の表情を作っていた。
《ワシは……判断を誤ったか? いや結果を示せば良いのじゃ。前々世と同じ様に勝ち続ければな!》
《だ、大丈夫ですか? 何か限りなく本能寺ENDが近づいた気がするんですけど……?》
本能寺の変は明智光秀の発作的犯行と言われている。
信長のプレッシャーに耐えかねてのうつ病や、佐久間信盛や林秀貞の様に追放を恐れての犯行とも言われている。
そう言われて信長は光秀を見た。
その表情は無表情で全く読む事が出来ない。
《付いて来れぬ者は切り捨てるしかない! 本能寺など軽く突破してくれん!》
信長は独自の道を突き進む事を固く誓った。
似たような歴史になるなら寧ろ展開が読みやすい。
ならば決してデメリットばかりではない。
たとえ屍山血河の道であろうとも、信長は歩みを止めるつもりは無い。
そう覚悟を決めたのであった。
【将軍陣営】
足利義輝、細川晴元、武田晴信、長尾景虎、今川義元
【三好陣営】
三好長慶
【中立陣営】
北条氏康、朝倉延景、織田信長、斎藤義龍