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信長Take3【コミカライズ連載中!】  作者: 松岡良佑
9章 天文22年(1553年)支配者の力
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90-4話 帰蝶のお勉強 信長の配慮

90話は4部構成です。

90-1話からよろしくお願いします。


「誰ぞある! 勘十郎(信行)と新五郎(林秀貞)を呼べ!」


 信長は、もう一つ織田家で抱える問題に対処すべく、かつて史実で己を裏切った報復として殺害し、今回もまた2回裏切った信行と、柴田勝家と共に信行派の筆頭でもあり、訳あって信行殺害から24年越しに難癖をつけて追放処分を下した林秀貞を呼ぶのであった。


「兄上、お久しゅうございます。某の処分が決まりましたか。……ところで義姉上は一体? 御加減が宜しくないので?」


 長期間の軟禁で太原雪斎の洗脳も解けたが、その代わり利発だった相貌も痩せこけてしまった信行が、挨拶もそこそこに本題を切り出したが、ただ、どうしても気になる事を尋ねた。

 信行は、どう好意的に見ても『心ここにあらず』な帰蝶を目に留めると、自分の命が風前の灯なのに帰蝶を心配した。

 もはや生を諦め、まな板の鯉とでもいうべき覚悟が、逆に心に余裕を持たせていた。


「あ、あ奴は少々心に衝撃を受けてな……!?」


 先ほどまで行っていた、信長とファラージャによる、渾身の性教育の結果であった。


「そうですか。弱い心は危険です。某の様に簡単に付け込まれますからな。義姉上の活躍は某の耳にも届いております。女の身でありながら見事な手腕。それ故に心配でもあります。疲れの蓄積も男の比ではありますまい」


「かんじゅうろうドノ……。おきづかい、ありがとうございマス……。でもだいじょうぶデス。こんなすがたをみせるのはきょうダケ……。あしたからはいつもどーりデス……たぶん」


「そ、そうですか? しかしご自愛なされませ。義姉上には織田家の世継ぎを産む使命もあります故に」


「ッ!? はい……ありがとうございマス……うぅ……」


 帰蝶は顔を真っ赤にして消え入りそうな声で答えた。

 信行の気遣いが、逆に帰蝶の精神にダメージを与えてしまい、慌てて信長がフォローに入った。

 この瞬間、処刑を待つ人間が、一番堂々とする奇妙な空間が出来上がってしまっていた。


「か、勘十郎。先ほどお主は処分と言ったが、決まるのはこれからじゃ。生かすも殺すもお主次第。良いか? ワシの考え次第ではない。そこを間違えるな」


「……? まだ某に役目があると?」


 信行の曇った眼に、若干の光が戻った事を信長は見逃さなかった。


「もちろん役目はある。今の織田家では例え罪人であっても貴重な人材。死罪など貰う方が逆に困難じゃ」


 今の織田家では、従来なら死罪に匹敵する罪であっても生きていける。

 生き地獄ではあるが。


「勘十郎。お主の罪は軽くはない。しかし、だからと言って酌量の余地が無い訳ではない。大部分は今川の策略故にな。引っかかったお主の未熟さに問題もあるが、織田家としての教育に問題があった事を父上も認めておる。問答無用で処罰するつもりはない」


 史実では信長の『うつけの策』からの奇行が原因で、織田家の為に立ち上がった信行であるが、今回の歴史では、信長の策と才能が早々に知れ渡ったので、信行が裏切る結果は変わらなかった。

 原因は史実と全く異り、大部分が今川と己の未熟に起因していた。

 こんな所でも歴史改変が影響したので、全ての責任を負わせるのには無理があるし、人手が足りないのも事実である。


「しかし授ける予定の役目は生半可な覚悟では成し遂げられん。処罰に等しい役目を与える故な。しかし父上やワシに、己の正義と意見を通す為に今川に寝返った時よりも、力強い覚悟があればその処罰にも耐えられよう」


 ただ、さすがに無罪放免ともいかない。

 織田家の中心に限りなく近い人物の罪である。

 周囲へのケジメもあるし、公正さを欠く身内贔屓は危険を伴う。


「……その役目と処罰とは?」


「それはまだ言えん。じゃからとりあえず今は忘れよ。現時点でお主に申し付けるのは、これからワシは斎藤美濃守(義龍)と共に京へ上洛するが、お主と秀貞はその供をせい。その上洛が終わった後改めてお主に役目と共に問う。それを聞いた上でどうしても処刑を望むなら自害の機会を与える。そうでは無くて今すぐの処刑を望むならそれも叶えてもよい。さすがに死にたがりを止める術は持たんからな」


 罪人さえ貴重な労働力であるが、信行ほどの人物に対する処刑は、それはそれで織田勢力の引き締めにも繋がる。

 死罪が無いからと舐められては困るので、死にたいのであれば、そこに利用価値を作るのも信長の応用力であった。

 信行は処刑間違いなしと思っていた所に思わぬ展開になった為、しばらく考えて結論を出した。


「いえ……。分りました。上洛には供をさせて頂きます。処罰はその後に」


 信行はとりあえずの生を保証された安堵からか、先ほどよりも強い目の光を発していた。

 長期にわたって処刑の恐怖を耐えてきた反動であろうか、生の可能性が活力を与えたようであった。

 やはりどんなに覚悟を決めても、死への恐怖はストレスを伴うのであった。


《飴とムチ……とはちょっと違うかもしれませんが、信長さんは人を乗せるのが上手いですね》


《そうね……はしばドノも ひとをのせるのが うまいってききますケド とのもまけてませんヨ さいしょから しょけいぜんていデ はなしをすすめてタラ のせるコトはできなかったデショウネ》


 精神に大ダメージを負いつつも、信長の手法を勉強する帰蝶であった。

 そんな帰蝶の状態に怪訝な顔をしつつ、秀貞が信行と入れ替わって質問をした。


「殿、それでは某の役目とは、勘十郎様がその処罰と役目を引き受けた場合に連動するのでしょうか?」


 政治的判断を伴う役目とおおよその当たりをつけた秀貞。

 秀貞は政治手腕に才能を有する武将である。

 史実では信行と共に裏切った罪を、24年も経過した後に難癖に近い形で問われ追放処分となった武将であるが、これには()()()()()()()があった故の決断であった。


 しかし、今回の歴史では、信長が早くから才能を見せた為に裏切りは行っていない。


 故に目立った失点も無いが、かと言ってこれといった功績も今はない。

 むろんサボっている訳ではなく、尾張整備に携わってはいるが、可も無く不可も無くと評価するしかなかった。

 本来の能力を考えればもっと頭角を現しても良さそうであるが、今回の歴史では裏切っていない分、反乱を叩き潰され目を覚ます経験もしていないからだと信長は考えた。


 柴田勝家にした心配が杞憂だったのに対し、秀貞は強く歴史改編の影響が悪い方向に出てしまっていた。

 それを何とか是正して、かつ、最後まで能力を発揮してもらう為に、今回の上洛で才能を開花させようと信長は考えていた。


「うむ。その通りであるが、仮に勘十郎が処刑を望んだとしても、それはそれでお主にはやって貰いたい事がある。その為に供をしてもらう。よいな?」


「は。承知しました」


 こうして信長一行は、佐々成政、前田利家、織田直子、織田信行、林秀貞と親衛隊250名と柿の苗木、三好長慶への返礼品を伴い尾張を発つのであった。

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