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信長Take3【コミカライズ連載中!】  作者: 松岡良佑
9章 天文22年(1553年)支配者の力
118/440

88-4話 信長の戦略 北畠伊勢守具教

長くなったので四分割します。

よろしくお願いします

【伊勢国/大河内城 織田家 北畠伊勢守具教】


「どこを発展させれば一番効果的か?」


 信長と帰蝶から織田家の方針を伝えられ、伊勢発展の責任者となった北畠具教。

 発展に至る方法は既に決まっていた。

 特に特殊な事はせず、今の好調の流れを阻害せず後押しするに留めようと早々に決めていた。

 織田信広や九鬼定隆が独自色を打ち出したのに対し、具教は独自色を出す事無く静観を選んだ。

 もちろんこれは怠慢ではなく、積極的な静観とでも言うべき好判断である。


 しかし、その代わりと言わんばかりに、今後の展望を考えた時、一番発展を後押ししなければならない場所を考えていた。

 また、それとは別に、具教は信長が言っていた事がずっと頭に引っかかっていた。


『これが成し遂げられれば願証寺を滅ぼす手段が得られよう!』


 信長は三国の発展で願証寺を滅ぼすと宣言したのであるが―――


「発展する事が願証寺攻略の手段……。まぁ、物資や人が集まれば敵を圧倒する力を得る。間違ってないが……今更じゃな。そんな当然の方策など()が改めて言う程の事では有るまい」


 信長の伊勢侵攻で、桶狭間で、近江援軍で散々信長の手腕を見せつけられた具教。

 長野城での屈辱的な城攻めと撤退戦。

 桶狭間での大迂回戦略による今川本陣の急襲。

 近江は高時川砦での冗談みたいな火薬の大奮発。

 どれもこれも具教の目に鮮烈に映り脳裏にこびり付いていた。


 政策についても天下布武法度に代表された法整備、特に寺院に対する締め付けは常軌を逸した法であった。

 だれもが見て見ぬ振りをするのが最良と思っていた寺院に、正面から挑む信長の姿勢には感銘すら覚えた。

 さらに己自身が帰蝶共々泥に塗れ、米の増産研究を行っていると聞いた時は卒倒しそうになった。

 当初は『やはりうつけか』と内心思っていたら、少しずつではあるが確実に成果を出し始めたのだから、開いた口が塞がらないを本当に実践してしまった程である。


 思考も行動力も具教は負けたと思い知り、どんなに悔しくとも格の差を見せつけられても、認めざるを得ない異質な才能に、嫉妬と尊敬の混じり合った複雑な感情を抱いていた。

 故に確信を持って断言した。


「絶対に、絶対に! その先のとんでもない悪意に満ちた策略があるはずじゃ」


 ただ、信長の足を引っ張ろうとは微塵も思っていなかった。


 当初は隙有らば裏切ってしまおうと考えた事もあったが、織田家の方針を取り入れた領国経営は、かつての領地から半減したのに、半減した分だけでかつての南伊勢全体で挙げていた収益に迫りつつあったし、もはや織田家と北畠家では自力が違う。


 だからこそ同じ土俵で己の才能を認めさせる―――


 それが屈辱にまみれても織田家で生きて行く事を選んだ具教の矜持であり、信長を『奴』呼ばわりした最後のプライドであり、伊勢守を任された信長に報いる為の歪な愛憎入り混じる感情を作っていた。


「奴は何を狙っておる……? 尾張、伊勢、志摩……長島願証寺……盆踊り……。 まさか!? いや、間違いない!! ならば!」


 具教は、信長の願証寺制圧作戦の()()を察知し指示を飛ばした。


「誰ぞある! 北勢四十八家の支配地域に詳しい者を……いや、今から柴田殿、森殿に会いに行く! 急ぎ準備いたせ!」


 具教は伊勢守の権限を早速行使し、北伊勢を管理する柴田勝家と森可成と面会し、2人に自分の考えと信長の方針と、おそらく信長が密かに狙っているであろう盆踊りの悪意を伝えた。

 2人はその悪意に、信じられない思いで聞いて笑い飛ばす―――事ができなかった。


『信長ならやりかねない』


 断言は出来ずとも確信は持てるし、その可能性を知ってしまった以上、具教の伊勢守の権限どうこう以前に、勝家も可成も全力で重点的に発展させなければならないと理解した。


 その時、九鬼定隆からの書状が具教を追いかける形で届いた。

 その内容を見て、具教は99%の予想を100%に至ったと判断した。


「どうやら、尾張守殿、志摩守殿も同じ判断をしたようです。我等も間違った判断をして殿の策を潰す訳には行きません」


 具教は二人に書状を見せ話を纏めた。


「長島願証寺の影響が強い地と隣接しつつ、戦の拠点としても機能し、銭の流通の将来性を踏まえ、かつ、盆踊りも出来る地域を選び出さなければなりません。どこか良い候補地に心当たりはありませぬか?」


 具教の質問に、勝家と可成は顔を見合わせた。


「丁度良い拠点があります。かつての北勢四十八家の拠点で、近江にも南伊勢にも至る街道に近く、願証寺にも睨みが利き、熱田と供に願証寺を挟む地域が。柴田殿、金井城跡地など適地であろうと思うがどうだろうか?」


「そうですな。かつての城攻めの後に破却しましたが、その後は特に手付かずで放棄されています。近江への流通経路として宿場町が必要だと思っていたところです。伊勢守殿の予測と殿の策を考えれば、あの地が適任でしょう」


「ありがたい。では、その地を伊勢の最重要拠点として発展させましょう。お二人にも協力をお願いいたす」


「承りました。伊勢の力を願証寺に示しましょう!」


「それにしても、願証寺に見せ付けるかの様な熱田と金井城の発展と盆踊りに、海上からの篝火による演出。盆踊り包囲網とでも言うべきか……。娯楽と発展を遂げた地域が、理不尽な戒律に縛り付けられた地域の民の目にはどう映るかのう?」


 信長の新年の方針から、三者三様に盆踊りを願証寺への嫌がらせ戦略だと判断した各地の発展責任者。

 まるで、喉が渇いてカラカラの人を木に縛り付け、目の前で頭から水を浴び見せつけるかの様な悪質な策。

 悪質ではあるが、別に悪い事をしている訳では無い。

 それぞれの地域を支配する人間が、それぞれの考えの下で政策を実施しているに過ぎない。


 つまり、隣の家の芝生がどんなに青かろうと、文句は言えないし、何なら『文句があるなら掛かって来い!』と暗に伝えるのである。



【尾張国/人地城 織田家】


 信長は三人の責任者から方針を聞いた時、ニヤリと口を歪めつつ思った。


《奴等もえげつない事を考えるのう! ハッハッハ!》


《そう思うように導いたくせに》


 ファラージャが余りの悪質な策に、顔を歪め突っ込んだ。


《そんな顔をするな。むしろ今すぐ兵糧攻めをしない事を褒めて欲しいぐらいじゃ。兵糧攻めは見ているこちらも精神が蝕まれる程にキツイ策じゃ。それを思えば何と慈悲深い事か》


 信長は全く意に介さずにいた。


《まぁまぁファラちゃん。殿ではなく配下の者が独自に辿りついた、と言うのは重要よ?》


《そう。いずれは己の判断で地方を攻めていってもらう事になる。家臣の考える機会を奪ってはならん。むしろ積極的に考えさせて導くことが肝要よ。失敗しても良いのじゃ。それを糧として挽回すればな。解らなければ聞けば良い。ワシがいなければ何事も立ち行かぬ、では困るしな》


 信長はそう話し、家臣達が辿りついた盆踊りの策に満足しつつ、長島願証寺の方を邪悪な顔で見据えるのであった。

挿絵(By みてみん)

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