八話 ホムンクルスと始まり
アウルはミラに相談があると部屋に呼び出されていた。
「アウルだ、入ってもいいか?」
「空いてますのでどうぞー」
ミラの部屋に入るのは久しぶりだった。中にはミラと最近、買った奴隷であるルカが紅茶を飲みながら優雅に待っていた。
ミラの趣味なのか、ルカは執事姿であった。
「ミラ、ルカは女性なんだろ?」
「はい。契約書では女性になっておりました。その事について、兄さまに相談があってお呼びしました」
ミラは何か困った顔をして、アウルを見ていた。確かに男装をしているルカを見ると男の子に見ないことはない。
「男だったのか?」
「いえ、どちらでもないのです。生殖器が存在していないのです」
「生殖器がないだと、病院には行ったのか?」
「軍病院に行って、検査してもらったのですがあり得ないことがわかったのです」
ミラは軍病院のマークがついた書類をアウルに渡した。その書類に書かれている内容に驚愕した。
「人体にあるはずの臓器が全てが確認されない。何故、生命の維持が出来ているのかは不明だと。本当にうちの軍病院に行ったのか?」
「行きましたよ。軍医には私から兄さまに伝えると言い、口止めしました」
魔物ですら臓器は存在している。しかし、目の前にいる人型の生き物は臓器も無く、生存している。
ミラに紹介した商人は誠実な商売しており、信頼に足りる人間であった。
「ルカ、お前は何者だ?」
「私は己が何者かは認識しておりません。グランドマスタ」
アウルが部屋に来てからルカは沈黙を貫いていた。しかし、返事をするときはアウルの目を見て、しっかりと声で答える。
「生まれは?」
「マスタの知識をから参照すると私の生まれは教国となります」
教国は唯一神ユースティアを崇拝している国家である。他の宗教への弾圧は苛烈であり、隣国の魔国とは停戦を繰り返しながら三百年も戦争を継続している。
「両親は?」
「私はホモンクルスの為、両親は存在しておりません。強いて、言うならば博士でしょうか」
ホモンクルスは魔法協会により禁術指定されており、どの国でも製造は禁止されているはずだった。
何故、ホモンクルスが禁術とされている理由は製造するために生後間もない赤子を使うことがあまりにも非人道的なことが問題となって、禁術となっていた。
「救国騎士団に所属していましたが日常的に暴行を受けていましたがそれを良しとしない騎士に逃がされました。そして、いつの間にかに奴隷となり、マスタに購入されました」
確かにホモンクルスなら臓器などは不必要だがそれよりも重要なことは教国がホモンクルス以外の禁術などを研究している可能性があるということだ。
「お前はもし、博士が命令したら俺やミラを裏切るか?」
「マスタやグランドマスタを裏切るなどあり得ません。博士は私を生み出した下さいましたがマスタが望むなら博士の首を持ってまいります」
目の前の問題は解決はした。しかし、ルカの存在は公表したら大問題となるので軍医には更に口止めをしなければならない。
「ルカ、俺が居ない時はしっかりとミラを守ってくれ」
「言われなくてもです。グランドマスタ」
ルカは胸を張り、答えた。年は同じくらいなのにミラとルカの方が発育が良いようにアウルには見えた。
「兄さま、どこを見てるんですか? 義姉様に言いますよ」
「お前は何を言ってるんだ。俺は執務に戻る」
アウルはミラの部屋を出た。再編した軍や警察も再稼働しているが、魔の森の近辺での魔物の目撃情報が増加している。
もう、テラス・キマが押し寄せることは確定であるがこれが人間なら予測の立てようもあるが魔物が相手では策などは簡単に破綻する。
「モルト。教国への間諜を増やし、魔国にも接触してくれ」
「ハッ。了解いたしました」
モルトはサージに引き続き、アウルに仕えていた。すでにモルトの情報網は国外にも伸びていた。
「すまないが佐官以上の陸海軍の将校を第一会議室に集めてくれ」
「了解です」
アウルは衛兵に軍部の招集を指示した。次のテラス・キマについての会議であった。
「次は魔物を相手に生存戦争か。俺達も忙しいな」
終わりが見えない魔物との闘いはもう、二百年は続いていた。その戦いで両親は死に、多くの南辺境の人々が死んでいた。
研究者がテラス・キマの原因を研究をしていたが判明していなかった。
――三週間後
「トータス・ピグロ南辺境伯からテラス・キマによる非常事態宣言がされた。我らカラミタ領軍は最大戦力で防衛戦域に移動する」
防衛戦域は魔の森との境に防衛陣地と砦で形成している地域である。この土地で数多の命が失われていた。
「では、領地の防衛は警察のみに?」
「警察にもSRや銃も配備している。防衛戦域が抜かれたら元も子もない」
軍以外にもISSを簡易化した量産機も配備が始まっていた。
「三日後の朝に出発する、準備を始めてくれ」
「「ハッ」」
新婚生活も碌には出来ずにアウルは新たな戦場へと身を投じていくのであった。
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