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七話 世代交代


――二週間後


 カラミタ領軍はアビスポン領の港で降りて、撤退した王国軍と合流した。集めた情報によると王国はフムス地方の放棄を決断、公国との停戦交渉に入っていた。


「モルトの交渉も上手くいって、追撃は中断されたようだな」


「停戦までとはいきませんでしたが、追撃や補給線への襲撃などは中断させることができました」


 非公式の会談であったが王子は応じた。最初はモルトは停戦を求めていたが一領主では相手にならないと言われたが王国軍への追撃を止めることは認められた。


 全王国軍がアビスポン領に入ったことを確認して、剣は返却した。


「しかし、王国も今回の敗北を誤魔化すために俺を英雄に仕立て上げるとはな」


「大臣達も必死なんでしょう。まぁ、それもありますがサージ様もこの機会に爵位をアウル様に譲る準備をしていたとは驚きです」



 アウル達、カラミタ領軍は王子を守る為に敵軍に突撃した忠勇深き部隊として、仕立てられた。そして、その功績から子爵に任命された。


 それと同時にサージは宮廷に手を回し、アウルに爵位を継がせた。王都に到着してからの一週間は夜会や儀式に追われていた。


「あのくそ爺、許さん。帰ったら覚えとけ」


「アウル様、口が過ぎますぞ」


 カラミタ領に帰る馬車の中でアウルはアルディートに愚痴っていた。兵は馬車の護衛以外はカラミタ領に帰還していた。


「さて、ミラとアマンダは元気にしているかね」


「領地を離れて、大分経ちますね」


 アウルの脳裏には懐かしい故郷の風景が映し出された。これからはサージの補佐では無く、己が領地を引っ張っていく立場となった。


「帰ろう、我が家に」


「ハッ」


――五日後


 アウル達はピグロ領を通り、カラミタ領に帰還した。アウルの帰還を知った住民が手を振り、花弁を撒き、無事な帰還を祝福した。


 屋敷に到着するとサージを筆頭に多くの武官文官が勢ぞろいしていた。


「カラミタ子爵。ご帰還、おめでとうございます。我々一同、喜び申し上げます」


 サージが片足を地面に着き、最敬礼を取った、これには周囲も驚いていた。後ろに居た者達も慌てて、サージに続いた。


「出迎え、ご苦労。これより会議室で離れていた間の報告を聞きたい」


「直ちに準備いたします」


 アウルはサージの意図に気付いて、返事をした。爵位をアウルに譲ったことにより家臣の一人になることを示したのであった。


 すぐに会議室の準備が整い、アウルがカラミタ領を離れていた間の報告が始まった。


「最後になりましたが警備隊からの報告です。魔の森の付近で魔物が増加傾向になっております。報告はすでにピグロ領にもしていますが我々も準備をしたほうがよろしいかと思います」


 もし、魔物増加が続けば、テラス・キマ(魔物の波)が発生するだろう。、自分と妹の大切な両親を奪い去った、忌まわしきテラス・キマ。


「備蓄はどうだ?」


「全住民が避難しても三年分の備蓄はあります」


 備蓄や資材は他の領地に比べて、かなり余裕がある。これもアウルとミラの成果である。


「準備は怠らないようにしよう。巡回には定期的にSR(セヘル・リッター)も編成しよう」


「かしこまりました」


 全体の報告も終わり、会議室は静かになった。アウルは一息入れて、部屋を見渡した。


「私からは軍部及び警備隊を再編成する。詳細については追って連絡する」


 全体の報告も終わり、会議室は静かになった。アウルは一息入れて、部屋を見渡した。


「皆者には殆ど知らせずに私は就任となった。戸惑いもあるかもしれないが、これからよろしく頼む。そこで、前領主である祖父には私の相談役してもらいたいと思う」


 アウルはサージを自分の相談役として置くことにした。領政には関与しないことが決定された。


「これにて、会議は終了する」


 アウルを残して、全員が退出した。表立って、アウルに反抗するものはいないが何人かは引退を表明していた。


 カラミタ領軍は出来るだけ、縁故での出世などは排除しているが排除しきれていない部分がある。今回の再編で旧体制を払拭しようとしていた。


「アウル」


「久しぶり、アマンダ。帰ってきた」


 会議室に入ってきたのはアマンダであった。アウルに抱きつき、口づけを交わした。


「私に挨拶も無いなんて、酷くない?」


「すまん。しかし、やっと準備出来た。待たせたな、アマンダ」


 アウルは懐から指輪ケースを取り出した。ケースを開き、指輪をアマンダに見せた。


「私、平民だよ?」


「関係あるか、そんなこと。カラミタ家が誕生した時から貴族であったわけじゃない」


 アウルはアマンダの目を見つめて、言った。王族もヘルト王国が出来るまでは王族では無く、一般人であり、誰しも生まれながらの貴族や王族は存在しないとアウルは考えていた。


「アマンダ・ルージュさん。私、アウル・カラミタと結婚してはいただけないでしょうか?」


「よく言うよ、断らせる気が無いくせに。いいよ、奥さんになってあげる」


「ありがとう、アマンダ」


 翌日にはアウルとアマンダの婚約が発表され、アウルと領軍の帰還に続いて、二人の婚約は領民から祝福された。


「アマンダさん、やっとあの(ヘタレ)が告白しましたね」


「長かったよー ミラちゃん。今日からは義姉さんって呼んでね」


「わかりました。義姉さん」


 アウルの目の前では自分の妹と妻がお茶しながら自分の愚痴を言い合っているの聞きながら執務に励んでいた。


 軍の再編に伴う書類がアウルの机の上に山のように積まれていた。


「軍の膿だと考えていた連中は粛清されると思って、うちを辞めて王国軍に入ったな。階級を決めるための書類も山積みだ」


「アウルが言い出したことでしょ? 頑張らなきゃ」


 兵の階級を大まかに士官、下士官、兵に分けた。更に陸軍はアルディートを大将に任命し、海軍はオピスを大将が任命された。


 アウルは槍や剣を主装備にしている部隊を全て解散、主装備をDR(ダンテ・ライフル)-2として、再訓練を行っていた。


 また、SR隊も増産がされており、オネスト、レーゲン、ブリッツの三中隊は大隊に増強し、新たに六中隊を編制していた。


「フムス防衛戦以降、領民も増加している。行政の処理能力も限界まで稼働しているしな、手伝いは呼べない。ミラ、手伝ってくれんか」


「嫌です。私はお爺様と一緒に引退しました」


 アウルの一番の誤算はミラが領地運営から手を引いたのであった。ミラの今の所属はアマンダの研究員の一人になっていた。


 ミラは作業手順書などを作成しており、行政の処理能力向上の一因となっていた。


「兄さま、頑張ってくださいね」


「じゃ、私も研究所に戻るねー」


 二人は執務室から出て行った。アウルは机の上にある書類の山に手を伸ばして、処理を始めた。こういう時の為にサージを相談役(雑務役)にしていたことをアウルは忘れていた。




亀更新ですがよろしくお願いします。

 

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