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六話 フムス防衛戦


 戦場にホルンが響き、騎馬隊が突撃していく。そして、その後から歩兵隊も続いていく。

 

 アウルの率いるオネスト中隊は王国軍右翼後方に展開しており、他の部隊も所定の位置についていた。


「先行している西辺境軍は援護はしますか?」


「あぁ、撤退は援護する。敵の追撃部隊に一撃を加えてやれば、援護にもなるだろう」


「了解しました」


 公国軍との距離が縮まるが魔法や矢は降って来ない。長い筒のような物を構えているだけで不気味であった。


 騎馬隊の隊長は敵が攻撃をしない理由が分からないがこのまま、攻撃しなければと考えていた。しかし、公国軍の号令が聞こえた後に爆裂魔法のような音が響いた。


 乗っていた愛馬が悲鳴を上げて、倒れた。何故、愛馬が死んだのか理解できないまま、後続の騎馬に踏まれて、死んでしまった。


 頭や手足から血を流して倒れている者や馬上で死んでいる者、落馬して後続に踏まれて、内臓などが飛び出して死んでいる者。一面、血と死体で埋め尽くされていた。


 生き残った騎馬隊や歩兵隊は動揺を隠せずにいた。しかし、悪夢は続く。左翼後方の山から土煙を上げて、竜騎隊が接近していた。


「本陣からは撤退が指示されております」


「もう既に敗走している。しかし、我々が竜騎隊を追うのは不味いな」


「計画通り、敵陣に攻撃を行うのはどうでしょうか? 竜騎隊も追撃を中断して、こちらに来ると思いますが」


「その案でいこう。敵の総大将も見てみたいしな」


 アウル達も伏兵は予想していたがまさか、竜国の主戦力である竜騎隊が現れるとまでは予想していなかった。そして、味方の撤退を援護すべく、敵本陣へと攻撃を開始した。


「各小隊、複縦陣。射程距離に入りしだい、射撃開始。接近戦は竜騎隊が追撃を止め、こちらに引き返してくるまでだ」


「「了解」」


 竜騎隊に合流すべく本陣から出てきた公国軍の騎馬隊をアウル達が捉えた。敵もアウル達を発見したのか、次々と魔法や矢が空を覆いつくし、迫ってきた。


「その程度でSR(セヘル・リッター)の装甲は抜けんわ!」


 騎馬隊はSR隊に擦れ違いざまに放たれた光の中に消えて逝った。公国軍の兵達は一瞬で消えた騎馬隊を探すがどこにも居なかった。今まで存在していたはずの騎馬隊がまるで幻のようだった。


「敵は浮足立っている、最大速力。敵本陣にこのまま攻撃を仕掛ける」


 アウルも多くの敵兵を切り捨てる。敵兵の首を刎ね、その勢いのまま次の敵の胴体を切り裂く。


「何も考えるな。考えるな。死を恐れるな。」


 切りるたびに血が噴き出し、腹からは肺臓が飛び出す。腹が裂けた死体が一瞬、目に止まり、自分と重ねてしまった。ふと、右胸が暖かくなる、そこには出発前にアマンダに貰った御守りが入っていた。


 アウルは頭を振り、剣を握り直し、叫び、己を鼓舞する。


「見えた! 黒獅子の紋章だ!」


「突撃せよ!」


 オネストの声に呼応して、SR隊が黒獅子の紋章に襲う。アウルは白馬に乗っている派手な騎士に蹴りを入れて、蹴落とし、切りかかった。


「初めましてだな!フォルス公国第一王子レイ・L・フォルス!」


「貴様は誰だ!」


「アウル・カラミタだ! お見知りおきを!」


 至近距離で戦闘を行いながらアウルはレイと会話していた。異常であった、命の取り合いをしているのだがアウルは心なしか声が弾んでいた。


「銃の運用、竜騎隊を用いた奇襲作戦とても素晴らしい才能だ」


「くぅぅ!敵に褒めて貰っても嬉しく無いわ!」


「本陣の撤退を確認! 竜騎隊、敵後衛接近!」


「全機離脱!一機たり置いて帰るな!王子の首の代わりにその剣、貰い受ける!」


「待て、その剣は!」


 アウルはレイの剣を奪い取り、増援が到着する前に離脱した。途中で竜騎隊とすれ違ったが人が乗っていない竜や負傷兵を抱えていた。追撃をしてきた竜騎隊にアルディート隊が反撃し、損傷を与えていた。


「全機、集合完了!」


「これよりアルディート隊と合流し、先に撤退した王国軍に追いつく!」


「「了解」」


 アウルとオネスト中隊は程なくしてアルディート隊と合流した。しかし、モルトの情報によるとフムス地方全体で武装蜂起が起きていた。


「反乱軍は銃を武装しており、王国軍主力は町での補給を行えずに酷い物資不足となっております。我々もアビスポン領までの移動は困難が予測されます」


「モルト達だけでカラミタまで帰還するとしたら何日かかる?」


「四日、いえ、三日で到着すると思われます」


アウルは自分のテントに入った。そして、アルディート達は切り株に腰を下ろし、アウルが戻ってくるのを待った。


 現在のカラミタ領軍は約六百名が森の中に身を潜めていた。兵糧などは多く準備していたが物足りない隊員は森の魔物を狩り、その日に食べきれない分は燻製などにして保存食としていた。そのおかげか、兵糧の減りは予定より僅かであった。


「モルト、カラミタと王子の下に使いを送れ。カラミタの方は急いでくれ」


「はっ」


 アウルはモルトに手紙を二通と剣を預けた。モルトは己の任務の果たすために消えた。


「アルディート、王子は本当に条件を呑むと思うか?」


「あの剣にはそれだけの力があります」


「それなら良いんだが」


 レイから奪い取った剣を見せたところ、アルディートは驚いていた。あの剣は公国の第一継承権を示す物だったらしい。


 そこでアウルは剣を材料として、独断で停戦交渉をレイに申し込んだ。


「我々は六日後に港を襲撃する、準備を怠るな。アルディートとオネスト、エフォールは来てくれ」


「はい、かしこまりました」


 アウル達はテントの中に入っていった。他の隊員も襲撃の準備を始めた。テントの中では計画を練られていた。


「六日後にカラミタ海軍が国境近くの港を襲撃する。この混乱に乗じて、輸送船に部隊を収容し、離脱する」


「しかし、海軍は新設したばかりです。期日通りに到着しますかね?」


「信用しろ。オピスの指導は(オーガ)のようだ」


 元私掠船の船長オピス・ドレークが新設された海軍を調練されていた。その調練の様子からあだ名がオーガと名付けられた。


「民間人には被害を出さないように抵抗するものだけを殺せ」


「了解」


 作戦を練り終わり、お茶を飲んでいたら外が騒がしくなっていた。見ていると中央に三メートルにもなる熊が解体されていた。


「今日は肉が沢山食べれそうだな」


「SRを持ち出した奴は出てこい!」


 オネストの怒声と周りの笑い声で森が包まれるのであった。


――六日後


「信号弾を確認! 海軍です!」


「こちらも、信号弾を上げろ。打ち上げからすぐに砲撃が来るぞ」


 海上にはクリーク級駆逐艦が四隻、ロウラ級巡洋艦が一隻、ロゼ級戦艦が一隻が港に砲塔を向けていた。


「こちら、ヘルト王国カラミタ領海軍。これより、港へと砲撃を開始する。死にたくない者は港から避難せよ」


「鬼にも慈悲はあるんだな。意外だ」


 避難勧告が繰り返され、避難を促していた。隊員から意外だと言葉がちらほら出てきた。その後、艦砲射撃が始まった。


「予定とは違ったがSR隊が前後の展開し、中央には負傷兵と輸送隊。フシル隊は中央の護衛に付け」


「了解!」


 森から港までの移動で本隊と逸れた部隊やフムス地方の衛兵隊を回収していた。駆逐艦二隻と巡洋艦、輸送船が港に接舷していた。


 周りには海兵を展開して、警戒していた。アウル達が近づくと銃を向けたがすぐに下ろした。


「申し訳ございません。すでに収容準備は整っています」


「銃を向けたことは気にするな。準備が早くて、ありがたい」


 敵の襲撃も無く無事に収容が終わり、出航した。アウルは旗艦である戦艦に乗り移っていた。


 アウル達は波に揺られて、フムス地方を離脱した。こうして、防衛戦は王国の敗北で終わった。



亀更新ですがよろしくお願いします。


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