五話 梟と黒騎士
道を行く、集団の頭上には梟が描かれた旗が靡いている。その先頭を行くのは黒騎士、その後ろには追従うように白騎士達が続いていた。
「現在、行軍は計画通りに進んでおり、落伍者も居ません」
「そうか。二時間後に交代で小休憩を取ると各部隊に伝えてくれ」
アウル達がカラミタ領を出て、三日が経ち、途中でモルトから情報が伝えられた。公国軍と西辺境領軍は布陣を完了しており、睨み合いを続けていた。
「侵攻する上で速度は重要なのに攻めずに睨み合いをするなんて、矛盾しているよな。さて、我々を待っているのは蛇か鬼か、行ってみないと分からないな」
アウルは休憩している兵達を見ながら、言葉を溢した。モルトからの報告書では公国軍は二万、王国軍は三万の軍勢がフムス地方を争うこととなる。
時は経ち、カラミタ領軍は小休憩が終わり、戦場に向けて進軍を開始した。
「しかし、戦闘に遅れたら爺さんとの約束も果たせないから少し、進軍速度を上げるか」
「かしこまりました。そのように伝達いたします」
アウルが独り言を口に出したら、背後に現れてたアルディートが返事をした。いつも、突然現れるアルディートは心臓に悪かった。
しかし、アルディートは攻勢時は先頭に立ち、兵を率いる。しかし、守勢時はまるで山のようにどっしりと構えて、守り切る。アルディートの戦う姿はアウルの見本であった。
「アウル様、全体の指揮自体は私が執ります。私の旗下に歩兵隊、息子のエフォールにフシル隊を任せます。当初の計画通りにアウル様はオネスト分隊と所定の位置についてください」
「エフォールも久しぶりだな。フシル部隊の運用の報告は聞いている」
「お褒めの言葉、ありがとうございます。部隊の者達も非常に頑張ってくれています」
アルディートの息子であるエフォールは父親に似て、指揮官として優秀であった。エフォールはカラミタ領で生産を開始したばっかりのライフルの興味を示した。
その後、アウルと訓練をしている間に領内ではアウルの次に銃の扱いが長けていた。訓練後は戦闘における銃の有効性などの研究をして、戦術を確立した。その功績が認められて、フシル部隊長に任命された。
「俺が総大将だが、アルディートが指揮を執っていてもいいのか?」
「その事に関しましては、総大将が初陣などで副将が全体の指揮をするのも珍しくありません。
そして、今回の戦場では我々は役割は精々前線指揮官程度のものです。アウル様か私のどちらかが指揮を執ろうとも王国軍の上層部は気にしないでしょう」
アルディートはきっぱりとカラミタ領軍の立場を言った。通常の貴族なら己が末端などと言われたら憤怒するだろう。だが、アルディートの主たるアウルは貴族らしくなかった。
アウルは食事も兵と変わらないものを食べ、交代で夜間哨戒にも出る。何より、兵達には死の名誉や誇りよりも生きて帰ることを厳命していた。これは他の貴族ではあり得ないことである。
アウルが率いるカラミタ領軍は行軍速度を上げ、フムス地方へと急いだ。
――二日後
「壮観だな」
アウルの目の前には東西南北の辺境伯の旗を筆頭に王国各地の貴族の紋章が風に靡いていた。その中でも一際目を引く、白龍の旗。
「王族が来ているとは報告がきてないな」
「昨日、到着いたしました。各辺境伯達も知らなかったようで昨日は凄い騒ぎでした」
「モルト、久しぶりだな」
アウルの横に現れたのはモルトであった。西の辺境伯が知らなかったということは王族の独断で出兵しているということだ。
「弱みが増えたな」
「はい。来ている王族は第三王子で、副将に第一王国騎士団団長。あまり良い組み合わせとは言いえません」
第三王子であるゲルプは王子としての権力を盾に婦女暴行、集団暴行など多くの悪事を起こしている。しかし、第一王子や大臣などがもみ消していた。そして、第一王国騎士団団長もコネと裏取引により、今の地位を得ていた。
「それにしても、第一王子に言われて来たのか。それとも、功績を求めてきたのか」
「どちらかは不明です。やりますか?」
「いや、気にするな。今は行動する必要はない」
物騒な話をしている二人は興味が無くなったのか丘を降り始めた。二人の先には盾の紋章を掲げている軍勢が居た。
ピグロ南辺境伯の象徴である盾の紋章は王都をテラス・キマ《魔物の波》から守る盾の役割を意味していた。
「アウル、久しぶりだな」
「ピグロ閣下もご健勝で何よりです」
モルトはいつの間にかに消えており、アウルとピグロのみが残されていた。アウルとピグロは技術共有や演習などで度々、顔を合わせていた。
「南辺境貴族軍は本陣前に布陣する。カラミタ領軍は独自の裁量で行動を認める。これが書類だ、確かに渡したぞ」
「ありがとうございます。これで自由に動けます」
カラミタ領軍の自由行動の申請をピグロを通して、提出していた。一応、軍としての面子がある為に申請を出していた。万が一、許可が下りない場合は事後承諾で行動することとになっていた。
「アウルはこの戦をどう見る?」
「私の見立てでは、王国軍の攻撃が成功すれば、王国の勝利。失敗すれば、敗北の確立が上がります」
アウルはピグロに対しては勝ち目があると言ったが実際のアウル達の予想では九割で王国が敗北すると考えていた。
「明日、攻勢をかけることが軍議で決まった。カラミタ領軍以外は本陣後方にて、待機となっている。では、明日は戦場で会おう」
「閣下も身の安全を一番にお考え下さい」
「そういう、貴族はお前ぐらいだよ」
ピグロは手を振り、アウルと別れた。また、後ろにアルディートとモルトが現れた。
「独自裁量を上に認めさせるなんて流石、ピグロ閣下ですな」
「あの方の交渉能力は非常に高いものです」
「珍しく、モルトが人を褒めるなんて珍しいな」
「当然の評価をしているまでです」
三人は珍しく和気藹々とカラミタ領軍の下へと帰っていった。しかし、明日からは血を血で洗う戦いが始まるのであった。
亀更新ですがよろしくお願いします。
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