三話 セヘル・リッター
百機以上のSRが並ぶ姿は壮観であった。その周りを作業員が忙しく、走り回っていた。そして、今回の改装でリア・アームズという武装補助装置を取り付けていた。
アウルのSRは遠くからでも分かりやすかった。他の機体は深緑色で統一されているがアウル機は黒と赤で塗装されていた。
「良い感じに仕上がってるな。武装は?」
「基本装備はソードを追加で装備しています。HRAを装備しているため、両肩にキャノンが一門ずつ追加されています。重量も増えていますがスラスターなどの出力を上げています」
「要求通りのスペックだ、流石だな」
アウルは自分の機体の前で改修の説明を受けていた。改修前とは姿が随分、変わっていた。
両肩にはキャノンが一門ずつ、両腰もソードが一本ずつ。量産機に比べたら重武装になっているがスラスターなどの出力も上がっているために機動力も上昇している。
「他の機体も改修は終わってるみたいだな」
「はい、後は搭乗者待ちですね」
機体はイミタシオン・スピリット・システムで制御している。ISSは魔法陣で擬似的な精霊を生み出している。擬似精霊はSRの機体制御と武器管制の補助的な役割を担っているが微妙な設定は搭乗者が必要であった。
「白に塗装している機体は誰のだ?」
「オネスト中隊の機体ですね。アウル様の直掩部隊なので、今回の改修で塗装を変えたみたいですよ」
「そんな報告されてないんだがな」
オネスト中隊はアウルの直掩隊である。しかし、塗装の変更などの報告はされていなかった。
「そして、奥にあるのが新型か?」
「そうですね。まだ、試作段階なので完成には時間がかかりますね」
奥の方でミラやアマンダがSRの倍くらいある機体を見ながら、真剣な顔で話している。
「武装関連は上手くいってるんですが制御関係がですね~」
「なるほどな、頑張ってくれ」
アウルは適材適所と考えている。あまり、知識の無い者がしゃしゃり出てくるのは現場の混乱を招くと考えていた。
遠くから試作機を眺めていると、間接から煙があがっていた。ミラとアマンダは手で顔を覆っていた。
「あらま、またやり直しだ」
「お前は行かなくていいのか?」
「今日は終日、アウル様の調整に付き合うことになっているので、良いんですよ」
フラルゴは悪い顔をしながら答えた。まぁ、納得して役割分担をしているならいいかと思った。
「調整も終わった。俺は屋敷に戻る」
「了解しました。玄関までお送りいたします」
アウルは機体の調整も終わり、屋敷に帰るとフラルゴに伝えた。ミラは新型の周りを険しい顔をして、走り回っている。声をかけるのは作業の邪魔になると思い、先に帰った。
玄関には馬に乗った兵が降りて、アウルを見るなり、敬礼した。
「アルディート隊長の指示によりお迎えにあがりました」
「ありがとう」
アルディートの事を隊長と呼ぶということは歩兵隊の中でもアルディート直轄の精鋭達である。
「――過保護すぎるぞ、アルディート」
「何か、言われましたか?」
「いいや、何も」
アウルは護衛を引き連れ、屋敷と戻って行った。この後に出てきたミラもアルディートが派遣した兵に捕まり、連行された。
「兄さま、アルディートにもう少し護衛の量を減らすように言ってください」
「まぁまぁ、アルディートもお前のことが心配なんだよ」
夕食の席でミラはアウルに帰りの護衛の数について、不満を漏らしていた。アウルよりに護衛の数が多く、帰り道に町を通り、大勢に見られて恥ずかしかったようだった。
「アウル、食事が終わったら儂の部屋まで来い」
「わかった」
食堂に珍しくサージが訪れたがアウルに食事が終わったら自室に来るように伝えるとすぐに出て行った。
「じゃあ、行ってくる」
「はい、私は疲れたので休みます」
ミラと別れて、サージの部屋に向かった。アウルの足取りを重く、廊下には足音が響いていた。
「アウルです」
「入れ」
サージは部屋の窓から町を眺めていた。そして、中央のテーブルには琥珀色のウィスキーと二つのグラスが置いてあった。
「まぁ、座れ」
アウルに座るように言うと自分も座り、グラスにウィスキーを注いだ。
「この酒はファルとお前の成人を祝う為に取っておいた、酒だ」
「親父と?」
サージはそうだと言うとそのまま、煽った。アウルもグラスを手に取り、少し口に含み、飲んだ
。
「美味しい」
「そうだろう。これは当時の一番良い酒を用意したのだ。まぁ、お前と飲むならファルも許してくれるだろう」
サージはまた、グラスにウィスキーを注ぎ、アウルの顔をみた。
「アウル、俺は引退する。お前が後を継げ」
「引退にするには早いんじゃないか? 爺さん」
サージはアウルに自分の引退を告げた。しかし、アウルはサージの引退は早すぎると伝えるが首を横に振る。
「行政面はミラ、軍事面はアウル、お前たちに運営自体は任せてる。儂がいつまでも飾りでも上に立つのは邪魔になるだろう」
「だがな、俺もミラもまだ若い。爺さんが居たからこそ、俺達を認めてる連中もいる。当たり前のことだが、俺もミラも爺さんを頼りしている」
アウルとミラは行政面や軍事面では大きな功績は無いがこつこつと実績を積み上げていた。やはり、内部には青二才と言っている人間もいる。
「お前も知ってるだろう? 戦争が近づいている」
「公国のフムス地方への侵略だろ?」
フムス地方は王国が十年前に公国から奪い取った地域である。戦争の準備なのか、公国は銃と弾薬を大量に買い集めている。そして、王国国境線の軍を再編成しているという情報をモルトが掴んでいた。
モルトからアウルにもこの情報を伝えられていた。王国の首脳部も情報を掴んでいるが動きが鈍かった。
「王国は銃の有効性に気付いていない。しかし、公国は銃の有効性に気付いて研究も始めているだろう。そして、智将と呼ばれている第一王子のレイ・R・フォルスが今回の総大将になるだろうな」
「爺さん、何が言いたい?」
アウルは急に話が変わり、サージが何を言いたいのか、分からなかった。
「武功を立てて、力を示せ」
「フムス地方で起きる戦争は負け戦に近いんだぞ? それを勝ち戦にしろと?」
「いや、負けていい。上手い負け方をして、帰って来い」
「難しいぞ。爺さん」
フムス防衛戦は王国は負けるとアウルとサージは予想していた。しかし、サージはその負け戦の中の勝ちを拾ってこいと言うのであった。
「後、アマンダとの結婚するためにも功績は必要だろう」
「爺さん、待て。何故、俺がアマンダと付き合ってあることを知ってるんだ?」
「バレてないと思ってるはお前だけだぞ」
アウルは衝撃の事実を知り、思考が停止した。自分が隠しきっていると思っていたことが周りにバレていた。話を進めるためにも頭を動かし始め、答える。
「確かに功績が必要だな。俺も出来る限りの事はする」
「お前は出来るさ」
アウルは立ち上がり、部屋を出た。確かにアマンダと結ばれる為には実績が必要であった。
「……しかし、負け戦で勝ちを拾うなんて、出来るのか?」
アウルは自問自答をしながら自分の部屋に戻っていった。そして、戦いの準備へと身を投じていく。
亀更新ですがよろしくお願いします。
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