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二話 地獄の門

 

 アウルとアルディートは馬に乗り、カラミタ領の南にある研究施設を目指していた。銃やSR(セヘル・リッター)などの武器の開発をしているため、町から離れた場所に作られていた。


「今年も豊作のようですね」


「あぁ、三圃制や鉄製農具変えた効果が出てきてるみたいだな」


 秋まきした小麦が実をつけていた。収穫率を上げるためにアウルは三圃制を導入し、鉄制の農具を貸し与えた。その際に管理を簡単にする為に集村化も行った。


「アウル様の知識はカラミタ領の発展に欠かせないものでしたな」


「得た知識は活用しないとな」


 アウルは夢で一人の男の人生を追体験し、その体験から多くの知識を学んでいた。三圃制や銃などの知識は夢から知ったことをサージに話し、作っていた。結局のところ、夢の中の男は国や種族は分からなかった。


「その夢も父と母が死んでからは見ていないがな」


「お守り出来ず申し訳ございません」


 アウルとミラの両親は前回のテラス・キマ(魔物の波)で亡くなっていた。父親、母親共に優秀な冒険者だった為に戦闘に出て、オーガ・キングと相打ちになった。


 アルディートも戦闘に参加していたが他の魔物に足止めをされて、二人の救援に間に合わなかったことを悔やんでいた。一時は責任を取るといい、死のうとまでしていた。


 しかし、サージやアウルが説得を行い、アルディートは思い止まった。それからはアウルやミラに対して過保護になった。兄妹が何処かに行くときにはいつの間にか傍に居たりする。


「アルディートは良く仕えてくれているよ」


「ありがとうございます」 


 アウルは偽りのない言葉をアルディートに言った。この二人は祖父と孫と言われるくらい年は離れているが強固な主従の絆で結ばれていた。


「この馬も強靭ですな。ピグロ辺境伯も欲しがるわけですな」


「そうだな。最初はSRを譲って欲しいと言われたがな」


 アウル達が乗っている馬は品種改良が行われている。人工的に馬を魔獣化させて筋肉や寿命などを延ばしている。


「お待ちしておりました。アウル様」


「出迎え、ありがとう。ダンテ」


 ダンテは銃の開発を統括しているドワーフである。最近は子供も生まれて、より仕事に身が入っていた。


「アルディート殿もどうぞ、中へ」


「お邪魔する」


 防爆製の扉はまるで地獄と繋がる門のようであった。三人は扉をくぐり、奥へと進んだ。


 研究施設は研究の他にも開発された武器の試験場も兼ねていた。アウルは施設内の射撃場へと案内された。丁度、試射をしているようで乾いた音が連続して聞こえていた。


「銃声にはなれませんな」


「三日もここに居れば、すぐに慣れますよ」


 射撃場では試作セミオート式ライフルの試射が行われていた。開発名称DR(ダンテ・ライフル)‐3は新火薬や金属製薬莢などの開発によりセミオートを実現した銃である。


 すでにカラミタ領軍ではDR-2を主装備としたフシル部隊を編制している。しかし、殺傷能力が高い為、演習には参加せずに盗賊などの討伐で運用されていた。


「有効射程距離と装弾数は?」


「有効射程は六百メートル、装弾数は十二発です」


  技術者としてダンテは非常に優秀であった。しかし、開発に集中して、報告を忘れることも多かった。


「流石だな」


「褒めても何も出ませんよ」


 試射が終わったようで射撃レーンが空いた。アウルは銃を受け取り、左端のレーンに入った。呼吸を止め、一発二発と撃つと乾いた音が響き、的に当たる音が聞こえる。


「命中十発、凄いですね」


「そうか? このレーンは何メートルだ?」


「長距離用なので八百メートルです」


「はっ?」


 何も考えずに入ったレーンが長距離用だとは知らずに撃っていた。近くに居た、アルディートや射手からも歓声が上がっていた。


「鍛冶の才能はありませんでしたが射手の才能は十二分ですね」


「うるさいぞ」


 ダンテの給料をどうにか下げれないかと考えたが時間の無駄だと思い、考えるのをやめた。


「生産体制は問題ないか?」


「DR-2の生産ラインを徐々に変更しているので三か月で体制は整います」


 アウルはSRは質、銃は量だと考えていた。銃を主装備としたフシル隊は今後のカラミタ領の主力部隊となるので今のうちから生産をしときたかった。


「そういえば、フラルゴがこの後に来て欲しいと言っておりました」


「分かった。アルディートはどうする?」


「私は持ち場(訓練場)に戻ります。帰りには部下を寄こしますので」


 アウルは相変わらず過保護だなと苦笑していた。アルディートは部下を迎えに来させると伝えると射撃場を出て行った。ダンテも報告書を書くと言い出て行った。


 一人になったアウルは昼食を済ませようかと思ったが先にフラルゴの研究室を目指した。


「アウルー、久しぶり」


「抱きつくなよ、アマンダ」


 スタイルの良い身体をアウルに押し付ける赤髪の女性は魔粒子学者のアマンダ博士である。アマンダは魔粒子理論の研究を魔法ギルドを申請したところ、ギルドから異端者として干されてしまった。


 アマンダの話を聞いたアウルがカラミタ領に招いた。研究を続けたアマンダは魔粒子を発見した。それからも魔導エンジンなどの開発に従事していた。


 付け加えるとしたらアウルの良き理解者であり、恋人であった。


「離れろ。誰が見れてるか、わからん」


「いけず」


 アマンダは膨れたまま、アウルの横を歩く。男爵とはいえ貴族である、アウルは成果を出せたら婚約を申し込もうとしていた。


 まぁ、アマンダと付き合っているのがバレてないと思っているのはアウルだけであった。アウルは政治、軍略などは優秀であったが恋愛に関しては疎かった。


「すまない」


「研究についてはギルドから嫌われてるから別にいいよ。貴方のその態度を少しは改めて欲しいかなー」


 アウルは無言で頷いた。普段から会っても時間は短かく、最近は演習や報告書を纏めるので忙しく、会えずにいた。


「今日はフラルゴに呼ばれたんでしょ?」


「あぁ、内容は聞いてないがSRの関係だと思う」


「ふーん」


 アマンダは素っ気ない返事を返した。そして、持っていたバスケットをアウルに手渡し、手を振って別れた。


 バスケットの中にはサンドイッチが入っていた。やはり、自分にはアマンダは勿体無い人だと思うのであった。


「アウル様、お呼びして申し訳ございません」


「すまないが先に昼食を取りたい」


「了解です」


 アウルを出迎えたのはSR開発室長フラルゴであった。彼はSR開発の全権を担っており、アウルも信頼していた。


「お食事しながらで構いません。今回はアウル様の専用機の調整をお願いしたく」


「了解した」


 アマンダの手製サンドイッチを食べながらフラルゴの要件を聞いた。演習後にSRは改修に入っており、アウルのSRも改修を受けていた。


「質問なんですが、何故旧式のライフルを生産しているのですか?」


「それは輸出用だ。武器を輸出するのは良いが最新型を輸出してしまったらこちらのアドバンテージが無くなってしまうからな。だから、旧式を生産して、輸出にしてるんだ」


 カラミタ領では工場をDR-1とDR-2に分けて、生産していた。フラルゴは全ての工場をDR-2の生産にすれば効率が良いと考えていた。なので、疑問を確かめる為にアウルに問いかけた。


「SRの生産は順調か?」


「良好ですね。MD(マジック・ドール)の解析も終わりました。報告書は後日、提出しますね」


 アウル達もSRの情報が盗まれたため、仕返しとばかりにM・Dを奪取した。それを研究所に持ち込み、性能の解析を行っていた。


「さて、行くか」


「私、昼食を食べてないのですが」


 フラルゴの呟きはアウルに届かず、SRの元へと歩き始めた。彼はお腹をさすりながら、アウルの後に続いた。

 


亀更新ですがよろしくお願いします。


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