一話 プレリエ演習
前作の災厄の梟の設定などを再考した作品となります。
アウルは木々の間を駆け抜ける。後ろに続く部下も木の根や倒木を避け、森を抜けて行く。
徐々に木と木の間隔は広がり、プレリエ平原へと出た。全体を見回すとそこには多くの旗が風に靡いていた。
そして、このプレリエ平原はカラミタ男爵領とピグロ辺境伯の境界線にあり、交通の要衝でもあった。
偵察から戻った兵から情報では敵軍はこちらの接近に気付いていないようだった。アウルは部隊を二つに分けて、移動を再開した。
空で爆発が起きた。その爆発を確認した別働隊は敵軍の左翼から攻撃を始めた。旗が左翼に移動して行く。
アウルは合図を送り、陣形を単縦陣に変更する。敵軍右翼に移動し、切り込んだ。その勢いままに本陣まで突入する。
敵総大将を切り捨てると大きな音がなり、アウル達の勝利が伝えられた。切り捨てられたはずの総大将も起き上がり、悔しいそうな表情を浮かべていた。
プレリエ平野で行われていた戦闘はカラミタ領軍とピグロ領軍の合同演習であった。勝利条件は二つ、全軍の三割以上の行動不能か総大将の撃破である。
空の爆発はカラミタ領軍歩兵隊が攻勢に出る時の合図であり、更に左翼から奇襲を行い敵軍を前方と左翼を意識を向かわせて、防御が薄くなった右翼から突撃し敵総大将を討取るというのがカラミタ領軍の作戦であった。
ピグロ領軍は陽動に引っ掛かり、総大将を討取られてしまった。演習終了後は反省会を行い、将兵の交流後に各領地に帰還した。
新兵が入隊したばっかりの春に練度向上を目的に行われている演習だが、年々レベルが上がり一日で終わらないこともあるが今のところはカラミタ領軍が勝っている。
今は平和であるがこの日常が砂上の楼閣のようにアウルには見えた。近づくテラス・キマの破壊の足音、王国に奪われた土地を取り返すべく暗躍する隣国と悩む日々であった。
町へ戻ると兵隊達は我が家と戻っていく。そして、今日の演習の話をするのだろう。こうして、語られていくのが人の夢だったり、憧れになるのだろう。
アウルも夢を見る。その夢はあまりにも現実的で、平和で暖かい夢であった。しかし、遠くからアウルを呼ぶ声が聞こえる。
「……兄さま、起きてください。兄さまっ」
「おはよう、ミラ」
欠伸をして、アウルは自分を起こしに来た妹のミラを見た。朝日に照らされた金色の髪や蒼い色の瞳は母親の血を色濃く残していた。年を重ねるごとに母親に近づていく容姿は何処か懐かしさをアウルは覚えていた。
「朝ごはんの時間ですよ」
「もうそんな時間か。余程、昨日は疲れていたようだな」
軽く背伸びをしたアウルはミラを見つめる。ミラは何故、見られてるのかわからずキョトンとしていた。
「着替えたいから部屋から出てくれ」
「す、すみません。今すぐ、出ます」
頬を赤色に染めて、急いで外に出て行った。アウルは着替えると今日の予定を確認して、部屋の外で待つミラに声をかけて食堂へと足を運んだ。
食堂はいつも人で賑わっている。食事をする者や同僚と語り合う者、会議をしたりといろいろなことで利用されている。
受付でモーニングセットを注文して、席を探していると目が合った職員がパンとスープを急いで完食して、席を譲った。
「申し訳ない」
「気になさらないでください、若様」
職員はアウルにそういうと食堂を出て行った。アウルはカラミタ領の次期当主であり、職員や領民からは若様と呼ばれている。
「兄さま、本日のご予定は?」
「この後は新兵訓練と試作ライフルの視察だ。ミラは?」
「私はフラルゴさんに研究室に呼ばれてます」
ミラはSRという兵器の開発に協力している。フラルゴはSRの設計や開発を担当している技術者である。
「アウル様、ミラ様。お久しぶりです」
「久しぶりだな。モルト」
アウルからモルトと呼ばれた男はカラミタ領の裏側を取り仕切る人物だ。年齢や家族構成などは不明だが、サージの代から仕えている。何処にもいるよう男であるがこれまで危険な潜入任務を成功させてきた。
「これが今月の報告書です。やはり、アグリアがSRを模して、マジック・ドールというのを生産しております」
「そうか、アグリアが糸を引いていたか」
内通者からSRの情報が洩れた。内通者は処分されていて、モルトの部隊が調査していたがドワーフの国であるアグリアが指示していたことが分かった。
アグリアは手に入れた情報を元にMDを作り上げた。報告書を見る限りでは重要な魔法エンジンなどの開発は難航しており、SRとの機体性能差は圧倒的であった。
「では、また来月にお会いしましょう」
「気を付けてな」
モルトは一礼すると人波に消えていった。食事も終わり、アウルとミラは厨房にお礼を言うと 食堂を出た。
アウルは新兵がいる訓練場を目指した。廊下を歩いていると見覚えがある人がこちらに近づいてきた。
「お迎えにあがりました」
「ありがとう、アルディート」
アルディートの鍛え上げた肉体は服の上からでもはっきり分かる。カラミタ領軍の武官であり、歩兵隊を指揮している。先日の演習でも歩兵隊を率いていて、数で勝るピグロ領軍に互角の勝負をしていた。
「どうだ、今年の新兵は?」
「訓練も真面目に取り組んでおり、先日の演習では落ち着いて指揮に従っていました」
アルディートは客観的に新兵達の評価をアウルに伝えていた。訓練場に近づくと教官の怒声と剣撃の音が聞こえてきた。
「訓練も順調のようだな」
「はい。個人の適正を判断して、部隊に配属する方法を取り始めたから成長度を高まりました。後、士官への条件を満たす者を増えました。良い傾向です」
初期訓練で新兵の適正を判断し、訓練部隊に配属していた。新兵訓練の後に一定の能力が認められた者は士官候補生として更に一年の訓練を受けることなる。
教官の号令で新兵達がアウル達の前に整列した。一糸乱れぬその姿は練度の高さを示していた。
「全員、傾注」
「先の演習では諸君の力もあって、勝利することが出来た。しかし、この勝利に慢心すること無く、日々の訓練に励んでほしい」
アウルは敬礼をし、研究室に移動する為に訓練場を出た。何故か、後ろからアルディートもついて来ていた。
「アルディート、訓練を見なくていいのか?」
「優秀な部下が多いので」
がっはっはとアルディートは笑って誤魔化し、アウルは気にしないことにした。
「研究室に行くが着いてくるか?」
「はい、お供します」
アウルとアルディートは馬に乗り、研究室がある施設へと移動した。
亀更新ですが、よろしくお願いいたします。
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