四話
《異世界生活一年目》
絶対、高級品の本が机の上にあった。
これは是が非でも読んでおきたい。
そんな衝動に駆られた一才のオレは椅子を使って机の上に座り、本を開く準備をした。
とりあえず、周りを見てみる。
重たい本を持ち上げ、何かないかと見ていると背表紙にこんなことが書いてあった。
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一人の冒険者が世界に散らばる大秘宝を探しに旅に出る物語。
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ただその一行だけが。
これは好奇心が引き立てられる。こんなに豪華な装飾を施しておいて説明はたった一行。天才の一言に尽きるな。
ゴクリと喉を鳴らせ、目を開いた。
本を目の前に置きなおし、表紙に手をかけた。
すると、勝手にページがめくれ白い光が部屋を……いや、家の周りまでも包み込んだ。
その光はすさまじく頭がくらくらするほどだった。
意識が吹っ飛びそうになるのをこらえ、目を開けると丁度、両親が部屋に入ってくるところだった。
「フィル!大丈夫なのか!」
「あなた……この本」
「しまった……机におきっぱはしだったか……全部しまったと思っていたんだがな……」
「それより、さっきの光は大丈夫なのよね?!」
「ああ、問題はないさ」
そのあと、誰にも怒られなかった。
ある意味怖いやつね。
ーー
謎の発光事件発生から数日たったある日。
「ごめんくださーい!」
「あら!ひさしぶりね!ケレン!」
母さんは返事をするとドアを開けた。
日中はごろごろとしながら本を読んでいるオレでも気づいた。
女性の後ろにいる素晴らしい存在に。
両耳はツンと少し尖って綺麗な金髪からちょんと出ていた。
幼い顔でも分かる、整った顔だ。
そう。きっと、エルフだ。
「フィル、ちょっとおいで」
母さんに呼ばれて玄関まで駆け足で向かった。
「うちの子のフィリップよ、仲良くしてあげて」
「よろしく、フィル。うちのルシルよ、少し気難しい子だけどいい子だから仲良くしてあげて」
オレは一礼をし……ってえ?!オレってフィルじゃなかったの?
フィリップ……フィル……愛称か。
そういえば、昔からちょこちょこフィリップって呼ばれたりしていたっけな。
「あら!すごいわね!この歳で挨拶ができるのね!」
「まま、わたしも、できる」
ルシルからたどたどしい挨拶を受け、和やかな空気のまま家に招いた。
その後、母さんたちは女子会を開き、オレ達子供組は一歳の遊びをした。
ボールを投げて遊んだり、かけっこをしたりと前世にいる一歳児と同じようなあそびばっかだ。どこの子供も子供には変わりがないらしい。
あと、女子会も。
「子供たちは仲良くなったみたいね」
「そうみたいね!よかったわ。フィルとルーシーちゃん……この二人が結婚して子供が生まれたら、きっとかわいいでしょうね」
「きっとじゃないわ。絶対よ」
そんなことを話していた。
幼馴染と結婚……少女漫画とかでよくありそうな展開だよな。
でも、美形幼馴染との結婚……いいなそれ。
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待ちに待ったルーシーとの結婚式。
当然、昨日も熱い夜を過ごした。
新婚は触ると火傷するくらいのアッツアツじゃないとね!
そして、司会の人にこう質問される。
Q、どこで知り合ったんですか?
A、そうですね、生まれたときからの幼馴染なのできっと、天国ですかね?
真実と違うところも混じってるが許量範囲だろう。
Q、意識し始めたのはいつですか?
A、そうですね、天国にいたときからですかね……?
今から、うまく受け答えできるように練習しとくか。
その日からというものオレは披露宴の練習で頭がいっぱいだった。
声に出して練習をしているとアリヴァからの目線が変なものに感じられたが気にしなかった。
多分、日本語でブツブツ言ってたからだと思う。
うん、ソファでゴロゴロしながらブツブツ言うのはやめよう。
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今日は父さんと風呂に入ることになった。
「おお、フィルはもう一人で服を脱げるようになったのか!でも、まだ女の前で服を脱ぐのには少し早いからな?いいか?」
一歳の子供を前に変なことをたらしこむ父親。
オレは適当に「うん!」と返事して先にバスルームに入っていった。
バスタブをまだ、跨ぐことのできないオレは手前にある台に上がり、跨ごうとした瞬間。
ずるりん。
思いっきり、足を滑らせバスタブの中に顔からばっしゃん!
オレはこの世界にきて初めて溺れた。
少しすると、何を心配するでもなく入ってきた。
「おお、フィルも水の中で遊ぶようになったのか!」
なってないわ!
ヘルプヘルプ、ヘルプミーだよ!!
オレ前世でもおぼれたことないから初体験なの!こわいの!
「いやー、俺はの時は時間がかかったって親父が言ってたけど、やっぱりフィルは何でも早いな!親父として鼻が高いよ」
あの!鼻が高くても低くてもどっちでもいいから抱き上げて!
もう、本当に息が苦しくなってきたから……!
「ん?フィル、お前、おぼれてるのか……?そうだったのか!」
「いいか!よくきけ。鼻に水が入ることを怖がらずに、思いっきり水を吸い込むんだ」
意識が朦朧とするなか、父さんの言葉が聞こえた。
オレはどうせ死ぬなら!っという思いで一気に水を吸い込んだ。
すると、自然と体に水が浸透しだし、気がつくと息ができるようになっていた。
この世界にツイッターがあるなら確実にオレは
『エラ呼吸なう』ってつぶやいてるよな。