生き続ける
「おばあちゃーん!また、この絵本よんでー!」
窓から海が見える丘に立つ家から元気な声が響いてきた。
少女が転ぶのではないかと心配そうな老婆の元へ。
「いいわよ、ほら、お膝の上にお座り」
嬉しそうに、膝の上を叩いて座らせる。
少女もまた、嬉しそうに笑みを浮かべ絵本を開いていた。
「むかしむかし、小高い丘の上の家に一人の少年が産まれました…………」
ー《現在》ー
「ふぅ……やっと、倒せた……そういや、飯食ってなかったな、コンビニでも行くか……」
最近、発売されたモンスターを狩りまくるゲームにどっぷりハマっていた。といっても、よくあるラノベ主人公のような廃人生活を送っている訳では無い。
学校がある日は学校に行き、ない日はゲームをする。よくいる高校生だ。
しかし、オレはほかの人とは違う。
ラノベ投稿サイトでそこそこに名を連ねるラノベ作家でもあるのだ。
そのせいもあるのか、最近は持病が悪化したように感じる。
それは……。
自他ともに認める厨二病だ。
ファンタジー小説を得意としていると、嫌でもそういう考え方が身についてしまう。
それにこの間、厨二病が原因で最近彼女とも別れてしまった。
恥ずかしいからやめてくれ。と言われたが、オレの中の大魔王が俺に言ってきたんだ。
男には譲る時と絶対に譲ってはいけない時がある
とか言い出して、結局別れてしまった。
正直、未練たらったら。
うん……。
コンビニ行くか。
あ、そういや、元カノバイト始めたって言ってたな。
家を出て、夜の住宅街をお気に入りのくまのきぐるみをきた男が歩いている。
うん。なんと、奇妙な光景なんでしょうか
小さい子が見たら泣いて帰りそう。
といっても、まだ、9時。
そんなことを思いつつ歩いていたらコンビニについた。
そう。
あなたとコンビニ ファミ〇ーマート♪
「いらっしゃい……ま……せ……」
あ、フラグ回収したわ……。
茶髪のショートの店員さん。
そう、元カノだ。
「よ、よう」
相変わらずかわいい……けど!元には戻れないんだよあ。
そう思うと悲しくなる。魔王さえいなければなぁ……。
気まずくなったから、お菓子コーナーの方に足を向かわせた。
お、新商品じゃん!ラッキーこれで徹夜も行けそう。
いくつかの商品をカゴに入れてレジに並んでいると全身真っ黒でサングラスをかけたTHE不審者って感じの人がレジに割り込んできた。
初めはおい!割り込みなんてやめて後ろに並べよ。って声をかけようとしたが、不審者は手に何も持っていなかった。
なんか話してるな……。
「おい、これが見えねえのか?分かったなら有り金全部寄越せ。いいか?大事にはしたくねえ、おめえさんも死にたきゃねえだろう?」
あら……これって、コンビニ強盗じゃないかしら!って、ふざけてる場合でもなさそう。
多分、あれはサバイバルナイフかな?あんなんで刺されたらクソ痛いだろうな。
って、だからふざけてる場合とちげーわ!
「あ、あの。大事にしたくないなら強盗なんてやめません?そ、そうすれば大事にはならないですよ……?」
ちょっと、まてよ。危なくないか?
俺の元カノ可愛いし優しいから説得しようとしてるけど、相手は今すぐにでも刺しそうな勢いだぞ。
「いいから出せよ!!うるせえ女だなあ!!刺されてえのかあ!?!」
やばい。ほんとにやばい……。何とかしないと。
「早く出せっつってんだろうがあ!!」
大きな声で叫びながら、不審者はナイフを振りかざした。
ッ!
グサッ。
「痛ってえ……」
あ、これダメなやつだ。思いっきり心臓の近く刺された。
お気に入りのくまの着ぐるみが血で真っ赤だ。
痛いって言うより、クソ熱いな。
視野が狭くなってきた……。
元カノの心配する声が聞こえるなあ。
最後くらいはかっこいいとこ見せられたかな……。
ーーーーーーーーーー
「ようこそ。ーーーーさん。」
ぼんやりとする視界。
くらくらする頭。真っ白い部屋に幼女。
ーーやっぱり死んだのかーー
「そうです。あなたはあなたの人生の中で最も愛した女性を守って亡くなりました。」
ーーそうなんですね。で、結局どうなりました?ーー
「そうですね。あなたの言うどうとは、何を指すのか分かりませんが、守った女性がどうなったか?って質問なら。生きていますよ。刺されたあなたに泣きながら抱きついていましたね。
コンビニ強盗がどうなったか?という質問なら。防犯カメラの記録が証拠となり、数時間後に逮捕されました。あなたを刺した時にフードから顔が見え、それをきちんとカメラが録画していましたからね。」
ーーそうですか。それは良かったです。
で、これからオレはどうなるんですか?ーー
「あなたには四つ選択肢をあげます。
一つ、元の世界で生き返る。
二つ、元の世界で転生。
三つ、異世界で生き返る
四つ、異世界で転生。
どれがいいですか?」
ーーそうですね。
元の世界は不満なく楽しかったので生き返って元カノとよりを戻したいところですけど、ラノベ作家として異世界転生は譲れないですよね。
このありがちな展開もーー
「そうか。では、異世界で転生にしますか?」
ーー出来れば転生の詳しい説明が欲しいんですが……ーー
「いいでしょう。転生とは生まれ変わることです。詳しく言うと異世界で死産となるはずの赤ん坊に対象者の魂を入れ移すという事が私たちの言う転生です。」
ーーそうですか、分かりました。
異世界で転生しますーー
「かしこまりしました。それでは二度目の人生を謳歌してきて下さい……」
すると、視界がだんだんと狭まっていき、最終的には意識が遠のいた気がした。
死んだ時と同じような感じだった。