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3 学院入学

 ついにこの日がやってきた。

 王立学院に入学する日が。

 この王立学院は、主に貴族の子弟が12歳から17歳までの5年間を過ごす場所になっている。

 「主に」というのは、平民もある程度の人数はいるからだ。


 元々この王立学院は、王城での高級官僚育成のために設立されたのだけど、かなり高度な教育を受けられることから、領地貴族の跡継ぎが領地経営を学んだり将来の人脈作りをするために通ったりもしている。

 領地貴族というのは、ヴァニィや僕の家のように、王国内に自家の領地を持っている貴族のことで、王城に勤めている官僚貴族と区別するための呼び方だ。

 中には、お父様みたいに、領地を持ちながら王城で官僚となっている貴族もいる。

 これは、本人の性格的に領地経営より役人向きというパターンもあれば、王立学院で能力を高く評価されて是非にと王城に招かれるというパターンもある。

 お父様は、後者だ。

 そうやって王城に勤める貴族であっても、領地を持っていれば領地貴族と呼ばれる。

 こういう領主の場合、領地には代官を置いて、王都に住んでいるのが普通だ。

 夫人が領地経営できるなら、代官を置かずに夫人が采配を振ることも珍しくない。

 もちろん、全てを夫人が見るのではなく、重要な案件を決裁して、細々とした部分は地方官吏と呼ばれる役人にやらせるわけだ。

 領主が自分で領地経営する時だって全部自分でやるわけじゃないんだから、むしろこれは当たり前の話ではある。

 一般に、領地貴族は、領地からの豊富な税収を持っているため、官僚貴族より裕福で発言力も強い。

 それに、官僚貴族は建前上は世襲できないから、格式だって領地貴族の方が上になる。


 ヴァニィのジェラード侯爵家は、広大で肥沃な領地を持ち、農業や畜産で大きな利益を上げているんだけど、ヴァニィの父上が領地で采配を振るっている。

 ヴァニィが言うには、農業や畜産は、天候などに応じて迅速かつ細かい対応を求められるため、その方が都合がいいのだそうだ。

うちの領地は、農業系もそれなりだけど、岩塩と鉄鉱山が主体なので、お母様が采配を振っていて、そのお陰でお父様は官僚として王都にいられるのだ。



 王立学院に通う生徒は、「院生」と呼ばれる。

 「学校」と呼ばれる教育機関は他にもあるけど、「学院」はここだけで、教育レベルも格も学校とは比べものにならない。

 院生は、大雑把に

   王城で官僚・官吏を目指す者

   地方官吏を目指す者

   領地経営を学ぶ者

   貴族の妻となるため、花嫁修業として礼儀作法などを学ぶ者

   花嫁修業をしつつ、将来の伴侶を探す者

の5つのタイプに分けられる。

 ヴァニィは、もちろん領地経営組だ。

 僕は、甚だ不本意ながら、4つ目の花嫁修業組ということになる。

 女性だと、家は継げないし、官吏を目指すのもごく僅かで、ほとんどは4つ目か5つ目になる。

 4つ目と5つ目の違いは、親が婚約者を決めるか、自力で見付けるかだ。

 僕のようにさっさと婚約者が決められているのは、ある程度高位の貴族に多く(僕の場合はヴァニィが侯爵家)、子爵家とかだと卒業後に親が相手を決めるから花嫁修業しているというパターンも多い。

 一方で、親に相手を見付けてもらうのは最後の手段として、学院にいる間にめぼしい相手を見付けようという人も結構いるらしい。

 相手と家柄が釣り合えば恋愛結婚できるし、釣り合わなくても、運が良ければ玉の輿に乗れる。


 貴族の次男以降や、官僚貴族の子供というのは、王城で官吏にならないと貴族でいられなくなるので、一所懸命勉強する。

 まぁ、官僚貴族の子弟は、幼い頃から勉強しているので、官吏になる上で有利だ。

 官吏の中でも、王城勤めで高位になると、官僚と呼ばれる。

 いきなり官僚になれるのは院生時代に相当な成績を示してスカウトされたとかで、普通は官吏として王城に勤めた後、実績を挙げて官僚に出世する。


 平民は、ごくごくたまに玉の輿に乗れる人もいるけど、普通は官吏を目指すことになる。

 王城で官吏になろうとすると貴族との競争になって難しいから、故郷で官吏を目指す者が多い。

 登用された後、実力があれば代官にだってなれる。

 平民にとって、成り上がるということは、王城で官僚にのし上がるか、地方で代官になるかだ。

 実力だけではなれないが、実力がなければ話にならない。

 王立学院をそれなりの成績で卒業できるということは、官吏として有能であると保証されるのとイコールだ。

 それだけに、平民で王立学院に入学するには、難しい試験をクリアする必要がある。

 貴族なら、貴族だというだけで入学できるけれど、平民は能力を要求される。



 とまぁ、院生の目的は色々だけど、いずれにしても、学院では、勉強だけでなく、将来のための人脈作りも大切だ。

 官吏になるなら先輩との繋がりは大事だし、領地貴族にしたって王都の官吏や他の領主貴族との知己を得ることは大いに役立つ。

 また、次期領主として、官吏を目指す優秀な人材を囲い込むことだって大切なのだ。



 さて、学院の授業だけど、日本の学校とは違ってクラス分けみたいなものはなく、院生が自分の学びたい講義を選択して受講するという形式になっている。

 だから、1年生と2年生が同じ講義を受講することもある。

 とはいえ、講義は、同じ種目について、基礎科、本科、研究科といった具合に1年ずつの三段階になっていて、基礎科を1年間履修して単位を取らないと本科を受講できないから、1年生と5年生が同じ講義を受講することはまずない。

 まぁ、12歳と17歳では、体力も体格も積み上げた知識の量も全然違うので、同じことをやるのは難しいだろう。

 具体的に言うと、剣術なら、基礎科は体力を鍛えるところに主眼を置いていて、走り込みや柔軟体操、木剣による素振りなどを学ぶ。

 この時点で、金属製の剣を持つことはない。

 貴族の子弟ともなると、入学前にそれなりの修練を積んでいる者も多いのだけど、そういう子は変な癖がついていて将来的に頭打ちになる場合があるので、素振りで矯正されるんだそうだ。

 そうして一旦白紙に戻したところで、本科では刃を潰した剣を使っての素振りや訓練をするらしい。

 それでも、いい師匠に恵まれた人なんかは、入学前にかなりの腕前になっていることもあるようで、多少癖がついていることを差し引いても十分な実力があると判断されると、1年を待たずに基礎科を終了して本科を受講できる制度もある。

 これは「飛び級」と呼ばれる、特に優れた成績を出した者にだけ認められる例外措置だ。

 最初の1か月で、次の段階の2か月目に合流しても大丈夫なレベルだと判断されると、飛び級試験を受けられる。

 例えば、基礎科で飛び級試験に合格すると、2か月目からは本科に編入される。

 理論上は、本科でも1か月で飛び級試験を受けられるし、合格すれば3か月目から研究科に編入される。

 もっとも、現実には2段階飛び級なんて、過去70年間で1人もいないそうだけど。



 僕より1年早く学院に入ったヴァニィは、武芸や経営学で頭角を現し、さすがに飛び級するほどではないけれど、かなりの好成績であるらしい。

 学院(ここ)で出会うことになるヒロインは、恐らく下級貴族で相手探しか、平民で官吏志望のどちらかだろう。

 僕は、そもそもヒロインが何歳なのか知らないけど、それなりの成績は取っているはずだ。

 誰がヒロインなのか、早く目星を付けるためにも、成績のいい院生はチェックしておいた方がいいだろう。


 それよりも。

 今日のうちにやっておくことがある。

 入学式なら、乙女ゲーの定番・迷子になったヒロインとの出会いイベントがあるかもしれない。

 よくあるパターンだと、温室とかバラ園辺りかな?

 バラ園はないけど、温室は確かあったはず。

 ヴァニィのイベントなら温室はあり得ないけど、そういうキャラもいるだろうし、まずは温室を覗いてみようか。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 貴族社会というか、この世界の仕組みがきっちり分かりました! 学院自体が既にエリート! 更に優秀なものには、出世の道が拓ける!! いいですねー。昭和初期の高度成長期風。 頑張った者が報わ…
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