1周年記念 お嬢様の結婚
今回は、幼い頃のセリィを世話していた侍女のマリーゴールド視点です。
続編である「奇蹟の少女と運命の相手」のローズマリーと同じ「マリー」呼びですが、特に繋がりはありません。セリィが「マリー」と呼べる名前に拘ったということもありません。
ローズマリーの名付けは、ドロシーです。
時期的には、10話から約1年後、セリィがあと3か月で学院を卒業するという年末の話です。
念のために書いておくと、ヴァニィは5年生、セリィが4年生で、セリィは既に卒業要件を満たしているため、一緒に卒業することになっています。
マリーゴールドも色々回想していますので、時系列が面倒かもしれませんが、そこはご容赦ください。
お嬢様がこのお屋敷で過ごす最後の年末がやってきました。
4年前、王立学院に入学されたお嬢様は、年末以外はこちらにお戻りになることもなく、長期休暇も王都のお屋敷でお過ごしでした。
それは、1つには、学院での研究が忙しく、研究室を長い間離れられないという理由からでした。
お嬢様は、学院に入学されるとみるみる頭角を現して、本来なら3年目に入ることになる研究室に、1年目にして入ってしまいました。
当然、周りの嫉妬にさらされたそうですが、お嬢様は
「ランイーヴィル公爵家のカトレア様が後ろ盾になってくださっていますし、ヴァニィが送り迎えしてくれていますから」
と、さして気にもしてらっしゃいませんでした。
私にはよくわかりませんが、お嬢様はその研究室で野菜を育ててらっしゃったそうで、こまめに面倒を見なければならないから帰れないとのことでした。
どうして伯爵家のご令嬢であるお嬢様が領民のようなことをなさるのかわからなかったのですが、奥様が仰るには、野菜は口実で、実は婚約者であるジェラード侯爵ご子息も王都に残っていらして、お二人で過ごされていたのだそうです。
なるほど、それなら納得です。
お屋敷に帰られるよりご子息とお過ごしになることを選ばれるとは、相変わらずご子息をお慕いなさっておられるのですね。
お嬢様は、本来なら5年掛けて卒業するはずの学院を4年で卒業なさることになり、この春には卒業されてそのままジェラード侯爵ご子息の元へ嫁がれることになっています。
去年の年末に帰ってこられたお嬢様は、奥様にそのことをご報告なさっておいででした。
「お母様、勝手に決めてごめんなさい。
私は、来春、学院をヴァニィと一緒に卒業して、そのままジェラード領に参ります」
「あなたが決めたのなら構わないけれど、4年で卒業なんてできるの?」
「学院に確認しましたが、卒業に必要な単位はほぼ取得し終えています。
飛び級で2年のアドバンテージがありますから、卒業の要件は十分満たせるそうです」
「ヴァニラセンス殿に対するあなたの気持ちは知っているけれど、そんなに焦らなくてもいいのではなくて?」
「私はヴァニィの傍にいたいのです。片時も離れたくありません。
1年も離れていたら、私は、きっとどうにかなってしまいます」
「そこまで言うのなら、好きになさい。
どのみち、いずれジェラードに嫁ぐことにはなるのだし。
侯爵夫人も喜ぶでしょう。
王城から招かれているらしいけど、そちらはいいのね?」
「王城の方は、お断りしました。
一応、王立研究所所属の在外研究員という立場でジェラード領に参ります。成果さえ挙げれば、問題になることはありません。
…ごめんなさい、お母様。バラード領には何の恩恵ももたらしませんが…」
「気にすることはないわ。
元々バラード領は農業は盛んではないのだし」
私には、お二人の会話はよくわかりませんでしたが、成績優秀なお嬢様が普通より1年早く卒業できること、卒業と同時にジェラード侯爵家に嫁ぐということはわかりました。
そして、お嬢様が嫁ぐ日を心待ちにしていらっしゃることも。
お小さかったお嬢様の恋は、2年ぶりの再会を経て燃え上がり、片時も離れたくないほどに深まったということなのでしょう。
はにかみながらもきっぱりと、嫁ぐことを申し出たお嬢様の目には、愛する人と共にありたいという恋情が籠もっていました。
そして、今。
お嬢様は、奥様に、嫁ぐ前の最後の挨拶に帰ってこられました。
春になり卒業すれば、お嬢様は、もうこちらには戻られないのです。
老い先短い私には、もしかしたらこれがお嬢様にお会いできる最後の機会かもしれません。
「お嬢様、ご結婚おめでとうございます。
どうかお幸せに」
「ありがとう、マリー。
私は、きっと一生幸せよ。
だって、ヴァニィが隣にいてくれるんですもの」
3か月後、私は、お嬢様の結婚式に出席される奥様の身の周りの世話をするためという名目で、一緒にジェラード侯爵領に行くことができました。
見たこともない色のバラの花束を抱え、輝くような笑顔で夫となった殿方に寄り添うお嬢様のお姿は、正に国一番の花嫁でした。
思ったより甘くなりませんでした。
詳しい事情を知らないマリーゴールドから見た、「早く愛する人に嫁ぎたい」と願うお嬢様の姿を描いてみました。
セリィの偉業は、鉱山主体のバラード領に住むマリーゴールドには理解できないようです。
結婚式でセリィが持っているのは、事前にカトレア経由でサイサリスの許可を取って育てた七色のバラ(カトレアの結婚式の花束と同じように育てたもの)です。




