エピローグ ある悪役令嬢の独白
私は、王立学院に入学した時、前世の記憶が蘇りました。
ここは「薔薇は七色に咲き誇る」という名の乙女ゲームの世界なのだと。
私の役割は、メインヒーローである第3王子サイサリスの婚約者であり、ヒロインに嫌がらせをしたことで何もかも失うというものでした。
このゲームには攻略対象が7人いて、ヒロインのパラメータに応じて攻略対象が登場するという作りだったと思います。
私は、ゲームの時もそうでしたが、現実となったこの世界でも、サイサリス殿下が好きでした。
ヒロインに渡したくはないけれど、嫌がらせなどしては全てを失う。
そこで、私は、ヒロインを観察して上手に対処し、殿下以外の誰かを攻略させようと考えました。
このゲームには逆ハールートはないので、ヒロインがほかの誰かを攻略すれば、殿下が攻略されることはなくなります。
ヒロインの名は、セルローズ・バラード。
タイトルに引っ掛けて、ローズとバラが名前に入っているというちょっと安直なネーミングでした。
恐ろしくハイスペックで、上手くやればパラメータが天井知らずに上がる反則キャラです。
パラメータを理系中心に上げていくと、学年を2つ飛び越えてサイサリスと一緒に研究をするようになり、品種改良というこの世界にない概念を持ちだして国力を上げ、ついにはサイサリスは王になります。
私は、王になどならなくていいから、殿下と一緒にいたかった。
そのためなら何でもできます。
セルローズが入学してくると、初日に出会いイベントが起きます。
様子を窺っていると、恐れていたとおり、セルローズが殿下との出会いイベントを起こしていました。
けれど、幼なじみキャラのヴァニラセンスとの迷子イベントも起こしました。
どうやら、パラメータ的に、この2人が攻略対象のようです。
その後、セルローズは、シナリオどおり二段飛び級して殿下の研究室に入りました。
そこで、私は、セルローズが転生者か否かを確認するため、日本語で話しかけてみましたが、まるで反応しませんでした。
つまり、彼女はヒロインではあるけれど、転生者ではなく、攻略情報は持っていないのです。
ならば、ヴァニラセンスとのルートに誘導してやれば、サイサリスルートからは離れてくれるはず。
試しにセルローズに、婚約者以外の男と2人きりになってはいけないと釘を刺してみると、すんなり殿下と距離を置くようになりました。
こうなればしめたもの。
私は、周囲からやっかまれているセルローズを殿下が庇うイベントが起きないよう、自ら彼女の後ろ盾となって守りました。
もちろん、ヴァニラセンスとのイベントが進むよう、彼が登場したら身を引きます。
このように誘導して、セルローズはヴァニラセンスと熱愛状態になりました。
けれど、まだルート確定していません。
セルローズには、王城に研究員として招かれるルートがあり、権力争いに巻き込まれて結果的に殿下を王位に押し上げるルートが復活する可能性があるのです。
これは、殿下がセルローズの才能に惹かれているために発生するルートです。
私は、セルローズとヴァニラセンスが愛し合っていることを強調して王城から遠ざけることに腐心しました。
苦労の甲斐あって、私は殿下との結婚式までこぎ着けました。
当日、セルローズが7色のバラの花束を持ってきた時は焦りましたが、ブーケトスのネタを振っても反応しないことを確認して、安心して花束をもらうことができました。
本来、7色のバラは、サイサリスとセルローズのハッピーエンドの時に完成するものだからです。
こうして、私の悲願は果たされました。
セリィ、貴女には本当に感謝しています。
恋敵にさえならないなら、貴女は素直で優しくて最高の友人です。
ヴァニラセンスと、幸せにおなりなさい。
そのための手助けなら、いくらでもしてあげますから。
無事、完結しました。
このエピローグは、連載版のプロットを考えた時から予定していたものです。
9話ラストでの、セリィの一人称変更と、エピローグでの実はヒロインはセリィ自身だったというどんでん返しは、筆者の中ではとても気に入っていて、これを書きたくて連載版を書いていました。
特に、9話は、筆者的に最大級の甘さで、書いていて楽しかったです。
反面、このエピローグを読んで、作品全体の印象が変わってしまう人がいるのではないかと不安でもあります。
セリィは、自分がヒロインであるとか、カトレアが裏でやっていたことは関係なく、ヴァニィとの愛を育み、色々世話を焼いてくれているカトレアに感謝しています。
セリィ自身、カトレアが殿下のためにセリィの研究を利用しようとしていることは気付いていますが、ヴァニィと一緒にいられるように計らってくれるカトレアになら利用されてもいいくらいに思っているんです。
ルートという言い方をすると、セリィの意思が関係ないように聞こえますが、見方を変えれば、カトレアはじれじれの幼なじみカップルの背中を一所懸命押してやってるだけです。
筆者の描写力が足りないため、どこまで伝わるか分かりませんが、愉しんでいただければ幸いです。