10 あなたの隣で
ヴァニィと気持ちを確かめ合ったことで、随分と気が楽になった。
ジェラード領に行くから王城には行けないということは、既にカトレア様に伝えてある。
「そう。殿下は残念がるでしょうね。貴女の才能を埋もれさせることには。
けれど、私は良いと思うわ。
愛する人と共にありたいという気持ちは分かりますから」
カトレア様の口利きのお陰で、殿下も私がジェラード領に行くことを了承してくれた。
ただ、私の立場を一応王城の研究員扱いにさせてほしいと言われてしまった。
要するに、私の研究成果を手に入れるための理由付けだ。
私としては、ヴァニィの傍にいられるなら文句はないので、その話を受けることにした。
あまり無碍にすると、強攻策を採ろうとする人が出ないとも限らないし。
研究員扱いになるので、研究費としてそれなりの資金も与えられることになっている。
そして、春、カトレア様が殿下と結婚された。
殿下のバラの研究はまだ完成していないけれど、私の方で栽培に成功した7色のバラで花束を作り、結婚式の際にカトレア様に差し上げた。
この7色は、まだ世代間で形質が安定していない研究中のものだけど、400本も咲かせれば7色揃うくらいにはなっている。
花束を渡した時、カトレア様は、7色揃えたことをすごく驚いてくれた。
「この花束をあなたに向かって投げてあげたいけど、広すぎて届かないわね」
なんて言うものだから、私が殿下より先に7色揃えたことが気に入らなかったのかと思ったら、
「とても素晴らしいから、セリィにあげようと思って」
と、よく分からない答えが返ってきた。
「いただかなくても、それ、私が咲かせたんですから、自分の分だって作ろうと思えば作れますよ?」
と返したら、カトレア様は
「そうね」
と笑っていた。
殿下は、ゼフィラス公爵として、王城内の研究所で所長に就任され、それに伴って、私は院生の立場のまま、在外研究員という役職を与えられた。
今のところ、院生として研究していて、何か成果があった時に報告するという、中途半端な立場だ。
ただ、この肩書きがあることで、学院内にカトレア様という後ろ盾をなくした私に、王城という新たな後ろ盾ができたことになる。
きっとこれは、カトレア様の置き土産だったのだろう。
リリーナについては、もう警戒する必要がないので、勉強を教えてあげるようになった。
今は「リリー」と呼んでいる。
彼女も、何らかの成果を持って帰らないと、望まない相手と結婚することになってしまうらしいので、回避のための協力だ。
その一環で、殿下とカトレア様の許可を得て、結婚式の時のバラの余りの中からつぼみの段階のものをリリーの実家に譲ってあげた。
ゼフィラス公爵ご成婚の際に花嫁が持っていた花束と同じバラということで、リリーの実家は相当儲かったらしい。
リリーは、これで面目が立ったと喜んでいた。
なお、私が見た限り、リリーはその後誰ともイベントを起こしていないようなので、彼女がヒロインだというのは、私の勘違いだったのかもしれないと最近では思っている。
まぁ、ほかにヒロインと思しき人はいないのだけれど。
ヴァニィとは、あの日から、たまにキスをするようになった。
もちろん、貴族として、貞操は結婚まで守るのが当然なので、キスだけだ。
それでも、ヴァニィもできるだけ一緒の時間を過ごせるようにしてくれて、私はとても幸せな毎日を送っている。
来年にはヴァニィが卒業するけど、1年も離れているのは嫌だから、私も一緒に卒業することにした。
私は飛び級している関係で、その気になれば1年早く卒業要件を満たすことができる。
ヴァニィと一緒に卒業して、そのままジェラード領に行って結婚できたらいいな、と言ったら、ヴァニィも
「それじゃあ、一緒に領地に帰ろうか」
だって。
そうやって、私たちは寄り添って生きていこう。
私は、ヴァニィの隣に立つために生まれてきたのだから。