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8 王城からの誘い

 「今回、君の貢献は非常に大きいものだった。

  王子だけの手柄にすることはない。

  王城に研究職として入らないか? 相応の役職は用意してやる」


 オーキッド侯爵に言われた言葉。

 穿った見方をすれば、今回の件は、殿下が僕の研究成果を横取りしたと取ることもできる。

 そう考えれば、僕のことを考えてくれての言葉と言えなくもないのだけど。どうしてだろう、怖気が走る。

 カトレア様が戻ってくると、オーキッド侯爵はすぐに離れていった。


 「どうなさったの、セリィ? 顔色が優れないようですけど」


 「あの、実は今、オーキッド様から…」


 その日は、疲れているだろうということで、話は翌日にすることになった。



 翌日、カトレア様に会うと、まずは昨日の成果の話を聞かせてもらった。

 炊き出しで出した煮物は評判が良く、研究者としての殿下の評価に繋がったそうだ。

 これにより、殿下はカトレア様との結婚と同時に公爵となって、王城に新設される研究部門の長官に就任する予定だそうだ。

 現場指揮に立ったオーキッド侯爵も、その立役者として、研究部門の事務担当としてそれなりの役職を与えられる予定だ。

 オーキッド侯爵の狙いは、今回殿下の影に隠れてしまった形の僕を発掘・勧誘し、僕がその後生み出すであろう研究成果を自分の功績として計上することらしい。


 「あわよくば、貴女を妻とすることで、功績をオーキッド侯爵家のものにしたり、領地貴族であるバラード伯爵家との繋がりを持ったり、という狙いもあるのかもしれませんわね」


 「私には、婚約者がおりますが」


 「まだ院生に過ぎないジェラード様より、現に爵位を持っているオーキッド侯爵の方が立場は上ですから。

  貴女が王城で働くようになれば、貴女と親しくなる機会が巡ってくることもあるでしょう。

  もし貴女自身が頷いたなら、親の決めた婚約など解消させることもできるでしょうし」


 「婚約解消、ですか? ヴァニィと…」


 僕から婚約解消する(捨てられる前に捨てる)

 たしかに、それなら国外追放とかの心配はなくなる。

 修道院だって行かなくていいかもしれない。

 でも…それって、結局ヴァニィじゃない(別の)男と結婚するため、なんだよね?

 うわああぁぁ、何それ、気持ち悪い。目の前が暗くなる。肌が泡立つ(ぞわぞわする)



 「ちょっとセリィ、顔が真っ青よ」


 カトレア様の言葉で我に返った僕は、頭を振っておぞましい想像を振り払った。


 「すみません、カトレア様。

  オーキッド様と結婚などと考えたら、少し気分が…」


 あの人の目は、なんだか怖い。

 僕を何かの道具と思っているんだ、きっと。

 ヴァニィも「償う」って義務感で僕と婚約してるけど、ちゃんと大事にしてくれてる。

 たとえ子分でも妹分でも…。

 あれ…なんか涙が出てきた。


 「ごめんなさい。不安にさせてしまったようね。

  大丈夫、貴女が承知しない限り、ジェラード様との婚約が解消されることはないわ


  でもね、セリィ。

  オーキッド侯爵はともかく、二段飛び級した貴女の力を純粋に惜しむ方もきっと現れるでしょう。

  殿下ご自身も貴女を王城へと望んでらっしゃるわ」


 「私は…」


 僕はどうしたらいいんだろう。

 あと2年ちょっとで得られるであろうデータをもってすれば、修道院だろうとジェラード領だろうと、バラード領だろうと、研究なんかどこでもできるだろう。

 そもそも、僕が農作物の改良を考えたのは、食い扶持を得るためだったんだし。



 「貴女の将来のことでもあるし、ジェラード様とよく相談なさい。

  ジェラード様と結婚してから王城に上がるという方法もあるのですし」


 カトレア様は、僕が殿下のお手伝いをすることを望んでる。

 強制はしてこないだろうけど。

 僕が王城で、ヴァニィが領地で? うちのお父様とお母様の逆ってこと? でも、それって…




 「殿下の研究のお手伝いなら、学院(ここ)でします。

  王城へというのは、今はまだ考えられません」


 「ええ、急いで答えを出すことはありませんわ。

  貴女の幸せを第一に考えなさい。

  まずはジェラード様とよくお話しなさい。

  もうじき帰ってらっしゃるのでしょう?」


 そうだ、ヴァニィは来週帰ってくる。

 早く帰ってきてよ、ヴァニィ。


 「オーキッド侯爵については、殿下にも同席していただいてお断りしましょう」



 3日後、僕は、殿下とカトレア様に同席してもらって、殿下の執務室にオーキッド侯爵を呼び出した。


 「私は、まだ学院に通う身です。

  お申し出はありがたいのですが、まずは学院を卒業することを第一と考えておりますので、申し訳ありませんが、王城へ上がることはできません」


 「それでは、卒業された後は、王城の方へ…」


 「私もそう頼んでいるんだけどね、まだ先のことは考えられないと断られていてね」


 殿下が援護してくれた。

 王族にして、研究部門の長官が直接交渉に当たっていると明言した以上、オーキッド侯爵はもうどうにもできない。

 たとえ僕が王城に上がったとしても、それは殿下の功績となるから。


 これで、とりあえず時間が稼げたから、ゆっくり考えられる。



 僕の、将来。


 僕は、どうしたい?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 侯爵は伯爵より高位かー。 ヴァニィ、ピンチ!? オーキッド侯爵、やな感じ。 でも、まあ、普通の人だよね。 出世したい男。 [気になる点] >あれ…なんか涙が出てきた。 >早く帰ってき…
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