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007 モブの少女とヒロイン

何とかギリギリの時間で入った講堂には、一人一人が座れる座席があって、階段状に並んでいた。

自由席らしいので、後方の空いている場所まで行き、シェリーと隣同士で座る。


橙の髪のオランジュとチェリーブロンドの髪のヒロインを探してみたが、見つからなかった。


諦めて、珍しい白髪のジンを探すとやっぱり目立つのか直ぐに見つかる。

隣の席の背もたれからちょこっと金髪の後頭部が見えたので、ナタリーと一緒にいるのだろう。


程なく司会が開式宣言をして、辺りは厳かな雰囲気に包まれる。中央に設置されたステージで、学園長が簡潔に話を終えた後、生徒が静かに興奮しだしたのが分かった。

時折、こそこそと小さな声が聞こえる。


入学式で何か特別な事があっただろうかと首を捻ったが、次の瞬間舞台に姿を見せた少年にああ、と納得した。


ステージ上のライトを一身に浴びて、キラキラと輝く明るい金髪に広大な青空を連想させる碧眼。

意志の強そうなキリッとした目は、壇上のマイクの前にきた時、真っ直ぐ生徒達を見据えた。


正に次期国王に相応しい、堂々と、それでいて優雅な物腰。

大勢の生徒達を前にしても、少しも臆することのない立ち振舞い。


この少年こそが、キランルード・フォルスフォード。

フォルスフォード王国の第一王子であり、僕の双子の兄だ。


昔は結構仲が良かったんだけど、僕が国王直属の暗部に所属すると同時に、直系王族が住む城の中心から離れに追い出された時辺りに距離が出来た。


国王と王妃が僕とキラを接触させないようにしているのは調べたら簡単に分かったけど、実の両親がそこまで僕の事嫌ってるとは……。産まれた瞬間に殺されなかっただけ、まだましかな。


よく通る声で、生徒代表を務めるキランルードは時々ある方を見る。

その方を見ると、チェリーブロンドと橙が隣り合って並んでいた。


別に、シェリーの話を信じていなかった訳じゃない。

ただ、現実逆ハーレムを達成するのは至難の技だ。


……でもこれは、ひょっとすれば、ひょっとするかもしれない。


ペシペシと横から肩を叩かれて振り向くと、シェリーが息を荒くして「メインヒーロー!あれ、メインヒーローだよ!」と小声で叫んでいた。


……うん。王子二人が出てきた時点で、何となくキランルードは攻略対象者じゃないかなって思ってたんだけどやっぱりそうだったね。


生徒代表のキランルードは、どこをどう見ても王子様って感じがする。

メインヒーローということは、俺様キャラなんだ……?


「黄色を司るキランルード殿下のルートで必ず、双子の弟であるリンくんの事が語られるんだよ!もう一度仲良くなりたいとか、何やってるんだろうとか、リンくんの住む部屋に行こうとしても、国王付きの近衛騎士が邪魔をするから行けないんだとか。俺様王子様はブラコン入ってるんだよ」

「へえ」


シェリーが知っている乙女ゲーム内のキラに、思わず笑みが溢れる。


キラの本当の心は分からないけど、また仲良く話せるようになりたいなあ。


「やっぱりキランルード殿下とヒロインちゃんは、オランジュと出会う前に出会ってるよ!!くっそー、見逃しちゃった!惜しいことしたよー。しかもキランルード殿下は、ヒロインちゃんをあからさまに意識してるし!」


ヒロインとキラを交互に見比べて、悔しがる彼女は生徒代表の挨拶なんて全く聞いていないようだった。


「でもキランルード殿下はイケメン俺様王子で人気ランキング2位だったけど、現実で俺様とか面倒だよね!」


彼方此方でキラの精悍な顔立ちと姿に、女子生徒の悩ましげな溜め息が漏れていたが、彼女はケロッとそんなことを漏らす。


一応、僕双子の兄なんだけどな……。




入学式は意外とサクサクと進み、自分のクラスでホームルームがあるとの事で、各自移動をする。

シェリーはどうやら、キラとヒロインの出会いを見られなかった事がよっぽど悔しかったらしい。


「オランジュとキランルードを侍らせている……だと!」


深い赤色の絨毯が敷かれた廊下を歩くキラとオランジュ、そしてヒロインの後を付けていた。


「シェリー。ほら、僕達も教室行くよ」


何故か僕を巻き込んで。


物陰に引きずり込まれて、かなり密着しているのだけれど、彼女にやましい意図がないのは見ていれば分かる。

なんというか、危機感無いよなあ。


「ちょっと待って!これは逆ハールートいってる可能性があるから!ヒロインちゃん超難易度高い逆ハールートに1歩1歩進んでるよ!」

「分かったから、ほら」


理性が切れかけた訳ではないが、物陰に隠れる男女二人という構図を誰かに見られたら不味いので、廊下にでる。そして、彼女のローブの袖を軽く引っ張っていると、彼女は急に鼻をおさえた。


「ちょっとリンくん袖をクイクイするなんて、やっぱり萌えポイント分かっておりますな。あざといっ!!もう本当に女装させた――」

「わっ?!」


僕をネタにした彼女の妄想を適度に聞き流していると、横から来た人にぶつかって少しよろめいた。


「あら、ごめんなさいねぇ」


頭上から降ってきた声に慌てて立ち上がり、僕は首を振った。


「ああ、いえ、大丈夫で――……す。僕が突っ立ってたのが悪いので」


僕とぶつかった人の顔を見るなり、驚きで一瞬固まってしまったが、何とか持ち直す。


燃えるような赤で彩られた唇に瞳、ショッキングピンクの長くて真っ直ぐな髪。

筋の通った高い鼻に黒い肌、色気を撒き散らすようにその人は長い睫毛を伏せる。


「あら、貴方可愛いわねぇ。アタシはゴール。ゴール先生って呼んでね」

「は、はい」


しかし、教師を示す黒いローブ越しでもかなりの筋肉が付いていて、肩幅が広いのが分かる。


身体だけは、どう見ても男だった。


僕の動揺を知ってか知らずか、ゴール先生はパチンとウィンクしてお茶目に笑う。


「貴方私と付き合わない?お姉さん、可愛がってあげるわよ」


開いた口が塞がらなかった。


「ちょっと待ってくださいゴール先生!」


今まで事態を見ていたシェリーが、慌てたように僕とゴール先生の間に入る。


それを見て、僕はある事に気付いた。

僕を含めた攻略対象者は、何かしらの色を司っている。


僕は黒、ジンは白、オランジュは橙、キラは黄。

皆、イメージカラーがそのまま司っている色なのだ。


ならば、このゴール先生の瞳は赤、髪はショッキングピンク。ショッキングピンクは虹の中にはいっていない。でも、瞳の赤を司る攻略対象者はまだいない。



もしかして、と思ったのは早とちりだった。


「リンくんは私の嫁です!!ゴール先生には渡せません!」

「嫁?!」


ゴール先生に対して、凛々しく宣言するシェリーに思わず突っ込みを入れる。

僕、正真正銘の男だからね!

姿がまだ小さいだけだからね!


僕より20センチ以上高い位置から、シェリーを見下ろしたゴール先生は舌舐めずりをする。


「良いわ。相手にとって不足ナシ……ね」


何も良くないけど?!


ゴール先生の反応に、シェリーは前髪をかきあげて不敵に微笑む。


「ふっ。先生だろうと容赦しませんよ。嫁をかけて戦うのはおとこの使命ですから!」

「当たり前じゃないの。おとこじゃないと戦い甲斐がない!あたしが見せてあげるわ、真のおとこってのをね!」


ゴール先生の真は男だよね。……いや、男なのか?女なのか?

取り敢えず、女なのか男なのかどっちかにして欲しい。


当事者を差し置いて繰り広げられる応酬に、僕はもう良いやと半ば投げやりになって静観しようとしていたが、直ぐに事態は急変する。


「や、止めてあげて下さい!」


シェリーとゴール先生の不毛なやり取りは、澄んだソプラノの声に遮られた。

僕達3人は、一斉に声の方を向く。


「あ」


やらかした、と盛大に顔をしかめたシェリーは僕と声の主を見比べた。


「そこの男の子が困ってるじゃないですか。止めてあげて下さい」


思わず庇護欲が湧きそうな上目遣いをして、緊張したように肩を強張らせるチェリーブロンドの髪の女子生徒は、眉を下げてゴール先生に頼み込む。


「……シェリー。これって?」


小声で彼女を呼ぶと、ばつの悪そうな顔をして近寄ってくる。

そして、こっそりと僕の耳元で状況を教えてくれた。


「リンくんとヒロインの出会いイベントだよ。オカマ教師に絡まれているリンくんをヒロインが助けるの」


乙女ゲームでの、僕の立ち位置って……。


もしかして、乙女ゲームの僕って、そっくりな別人をモデルか何かにしてるんじゃないだろうか。


「大丈夫ですか?」


気付きたくなかった事に呆然としていると、ヒロインが心配そうに僕の顔を覗き込んでくる。

……あ、ゴール先生がギリギリとヒロインを睨み付けているを見てしまった。


「ああ、全然問題ないよ。シェリーも、ありがとう」


ヒロインとシェリーに微笑み掛けると、今更ヒロインはシェリーの存在に気付いたようで、目を大きく開いて唇を戦慄かせた。

ぶるぶると震える指がシェリーを指差す。


陣内じんない 志織しおり?!!何でテメェがここにいんだよ!」

「え?」


……は?


野太く地を這う様な声と、貴族の令嬢にあるまじき言葉遣いで叫ぶヒロインに、僕は思わず目を擦る。

矛先を向けられたシェリーは、最初はきょとんとしていたが、ヒロインを凝視しているうちに段々と険しい顔になっていった。


え?知り合い?


「あぁ!!あさりばっかり食べてたゴリラ女!!いや、こっちの世界ではゴリラじゃなくて大魔猩猩おおましょうじょうって言うんだっけ?!」

「あさりじゃねぇ!愛莉沙だ!江藤えとう 愛莉沙ありさ!忘れたのかテメェ!つか、生まれ変わっても絶壁なんだな」


……あさりじゃなくて、大魔猩猩おおましょうじょうって呼ばれてるのに気付いてないのかな。


「絶壁じゃない!美乳なんだよ!!」

「微乳の間違いだろ!いや、もう乳無ぇだろ!!」

「ゴリラ女はだいぶ美化したよね!!というか、あんたがヒロインとか何の冗談?」


豊かなチェリーブロンドの髪を振り乱すヒロインに、無い胸を押さえるシェリーを見ていると、櫻魔樹木の元にいた美少女達は幻影だったんじゃないかとふと思う。


ポンポンと続くやり取りにポカンとしながら傍観していると、キラとオランジュが此方に向かって走ってくるのが見えた。

ヒロインを探しに来たんだろうか?


「つぅか、テメェ前世の因縁忘れたとは言わせねぇぞ!!絶壁のくせに、アタシの好きな男を寝取ったのを!」


……え?


「絶壁関係ないでしょ!絶壁かゴリラかというと絶壁の方がまだマシ………………って、は?寝取ったって?」


目が点になった僕とゴール先生、駆け付けてきたキラとオランジュはともかく、シェリーまでもがヒロインの言葉に唖然とした。

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