18 《杏》
「アイアンメイデン――」
ぶつりと消えたセンジュさんの声。それに被せるようにして、
「――を超えたっ! ってゆーか今超えたっ‼」
花無博士の声が継いだ。
「完全物質を媒介に、ヒルコより精製されし究極の『絶対物質』。ゆえにーここに命名、絶対物質、『オリハルコン』。今こそ綴れ少女の時代、オリハルコン製の対プラテネス決戦兵装メイデンちゃんと共にぃっ」
すうと息を吸い込み、そして高らかに。
「絶対少女戦役――『オリハルメイデン・キャンペーン』、コンポーズッ‼」
あたし目がけて飛んできた巨大な槍の柱。それを一瞬の内に掻き消すや、宙に浮かんだままの釣り鐘状の物体。黄金色に輝くそれがくるりと向きを変える。
それは西洋式の鎧を身に着けた女性の彫像だった。花無博士いうところのメイデンちゃん、顔の上半分を覆った西洋式兜のせいで表情の読めない彼女に後ずさりつつもぺこりとお辞儀なんてしていたら、
「ポチっとな」
朗らかな博士の声に、物騒な鎖がぶら下がったメイデンちゃんの胸から下の部分が観音開きに開いた。その奥には底の見えない闇が広がっている。
棺桶みたいだな、なんて連想してたあたしは――――呑みこまれた。
「え、ええーっ‼」暗闇の中で驚いている暇もなく、なんだかうねうねしたものがあたしの身体にまとわりつく。
「うなっ、うなっ、うなっ、うなーっ」真っ暗闇で何をされているかも分からないあたし。うねうねしたものに弄ばれるように暗闇の中で七転八倒。ようやくにしてあたしが態勢を立て直すと、再び世界は眩い陽光で迎えてくれた。
わざとらしい程の効果音、ギギギと古い家(洋館風)のドアが軋むような音を響かせて開かれたメイデンちゃんの胸部。そこから追い立てられるように、あたしはもんどりうって飛び出す。不出来なでんぐり返しで地面に転がり、おしりを打った。
それは文字通りペッと吐き出されたような、ぶどうなんかをモグモグしたあとで種と皮をペッと吐き出したような、やっつけ感だった。
地面におしりをペタンとつけたあたしと、同じく地面に座り込んだままの李子ちゃんの目が合う。
その傍らで看板の下敷になった棗ちゃんもあたしを見ていた。棗ちゃんのおでこから流れる血が止まった気配はなかったけど、その瞳はさっきより生気を取り戻していた。
あたしを見る二人が揃って瞳をぱちくりさせるものだから、なんだかちょっといたたまれなくなって、立ち上がるあたしは膝についた砂なんて払ってみる。
その時になって気がついた。あたしのいでたちがまるっきり変わっていることに。
慌てて振り返ると、閉ざされていくメイデンちゃんの闇の端っこに、きれいに折りたたまれたセーラー服一式が見て取れた。
「アプリちゃんの学校の制服は、メイデンちゃんが殺菌、消毒、圧縮パッキングして保存しとくから安心してー」
どこからともなく聞こえる花無博士の朗らかな声に、しかしあたしはバイ菌にでもなった気分で曖昧な返事を返す。
そして改めて自分の恰好を確認した。
全体的に白でまとめられた衣装は、さっきまでのセーラー服以上にかっちりとした感じで本当の意味で制服ってつくり。
詰襟で首まで覆った長袖のジャケットは、左胸から肩当ての部分にかけて縄状の細い紐が伸びている。プリーツスカートのひだひだが、インナーのパニエでふんわりと広がり、真っ白なブーツはあたしのサイズを予め知っていたかのようにフィットしていた。
両肩には細かくて手の込んだ装飾。勲章みたいなそれに、だけど左胸には手づくり感満載の缶バッヂがカラフルに。
白でまとめた衣装の、制服の袖や裾、ブーツに差した赤色のラインが目にも鮮やかだった。
トータルコーディネートとして、あたしはマーチングバンドの衣装や、国防軍の礼装を連想する。
そして、今日の日に一時間半かけてセットしたポニーテールも、メイデンジャー使用の細三つ編みへとセットし直されていた。三つ編みの先を結うのは、差し色と同じ赤色のリボン。まるで繭ちゃん先生のご要望みたいに、きらめく赤は三つ編みの躍動感を増しましで見せてくれるよう。
あぜんとしたままのあたしに、
「聞いてるアプリちゃん? 身に纏いしそれこそは特殊戦闘形態、名付けて――『マジ天使ちゃん兵装』。通称、『ラブテン・フォーム』よっ。聞いて驚いてっ、し・か・も、なんとそれはアタシの手作りなのですっ。長考の結果、旧帝国海軍時代の礼装をリスペクトしつつーアレンジを加えた逸品。アタシ頑張りましたっ、二日徹夜して頑張りましたーっ」
花無博士が声高に語った。
あたしは、すごいハイテク技術を持っているのにそこは手作りなんだ、って思っちゃったから、「た、大変でしたね」って上ずった声で返した。これからの激戦を想像するあたしにすれば、戦場へと手作りのコスプレで送り出されるのは正直あまりぞっとしない。
と、そんなやり取りを続ける中で、あたしははたと気づいた疑問を口にする。金色に輝くメイデンちゃんはあたしの目前でふわふわとたゆたっていたけど、別にそこから花無博士の声が聞こえてる訳じゃない。博士の声はもっと近く、あたしの耳元で聞こえるのだ。
「あの、花無博士。どうして博士の声があたしには聞こえるんですか?」
すると、花無博士は不出来な教え子との会話にうんざりするように溜息を吐いた。
「違うでしょ、アプリちゃん……」
溜息交じりに吐かれた言葉にあたしの身が強張る。理解力の足りない自身の不出来さを先に謝るべきか――、考えるよりも早く花無博士が継いだ。
「仁・知・果ちゃん。仁知果ちゃんよぉー。もしくはチャンはな。花無博士とかなんだか他人行儀で嫌だなー。まあいーや、真玄、教えてあげて」
花無博士、もとい仁知果、さんの破天荒ぶりにあたしは我が師父のことを思い出す。
趣味とか嗜好とか、繭ちゃん先生と仁知果さんは良い友達になれるんじゃなかろうか――そんなことをなんとなく考えていたら、
「あ、え、っと、七草杏ちゃん。僕だ、チカエシノオオカミの真玄だ」
少し戸惑いを浮かべる真玄博士の声が聞こえた。
「この回線は君の周囲に張られたヤタガラスというナノマシン、目には見えない空気状の機械を通して君に伝達されている。基本的にヤタガラスを通じてイザナミからの声を杏ちゃんに発信することも可能だし、ヤタガラスの感知した映像を杏ちゃんに発信することも可能だ。見ててごらん……」
あたしの右目、そのすぐ近くの空気が震える。間もなくして霧のように、目に見える形で集まってきた白は、一枚の六角形の薄いガラス板を形作った。理科の実験なんかで使うプレパラートに似ていた。
メガネのレンズ程の大きさをしたプレパラートに、海沿いの県道が映し出される。
発生した〝災禍〟から逃げるように市街を目指す道路はぎゅうぎゅうで。だけど〝災禍〟を目指すようにガラガラの反対車線を走る一台の軽自動車。画面がズームしていくと、運転席にセンジュさんの姿があった。
それを確認すると、ガラスは粉末状に砕けて空気の中に消えていく。
「……と、まあ、こんなところだけど分かったかな?」
真玄博士はあたしに配慮してか、ゆっくりとした穏やかな声で話してくれた。あたしは混乱を極めるこの場において、とてもまともな大人の人がいてくれることに感謝した。
「はい、ありがとうございます」
あたしが言うと、真玄博士は、「それは良かった」と軽く笑ったようだった。
空ではドンパチが続いていたし、棗ちゃんの状況が好転したわけじゃない。だけど、学校の先生がみんな真玄博士みたいだったら良いのにな、なんてあたしは少しほっこりした。
でも、そんな気持ちも長くは続かない。
「さー、一通り講義も済んだところでー、決めちゃおっかーアプリちゃん」
破天荒なチャンはなの再登場。
決めちゃおう、という言葉にあたしは拳を握りしめた。この悪夢をまさしく終わらせる決着の手段。それをもたらす言葉を、固唾を呑んで待つ。
でも仁知果さんはもどかしそうに言うだけだった。
「さあ、早く決めちゃってー」
「……あの、なにをすればいいんでしょうか」恐る恐る訊いてみると、
「なに、ってポージングで決め台詞でしょうよー。変身後のポージングと決め台詞はヒーローにはつきものでしょー。さあ、早くっ、早くっ」
突っ込みどころが多すぎてパニクるあたしを混乱の場に放り込んだまま、仁知果さんは急き立てる。
だからあたしは急かされるままに、右手を天高く突きあげた。
「あ、あたし爆誕っ☆」
「――及第点」仁知果さんが無慈悲に言った。
同級生二人の視線が、痛かった。
メイデンちゃんの中に逃げ込みたい気分で、力なく突き立てた右拳を下すと、
「まあ初めてだしそんなもんよねー、次に期待するわ」
無茶ぶりで滑らされた挙句、言葉の暴力を浴びせられた。
そんな事故の後で、わざとらしい程に仁知果さんは声を上げた。
「さてさてさておきアプリちゃーん、いざ戦地に赴かん」
凛とした物言いに横やりを入れるのも気が引けたけど、あたしは思い切って尋ねた。
「あのっ、あたしが、いや、メイデンちゃんに特別な力があるなら、棗ちゃんを助けることは出来ませんか?」
「んー、まあマニュアルに関してはぶっつけ本番の中でレクチャーするかたちになるんだけどねー。基本メイデンちゃんの機能は物質効果と反物質効果の精製、つまるところ対消滅効果によるところが大きいからねぇ。早い話、物をぶっ壊すことには特化してるんだけど、繊細な作業ってなると慣れが必要なんだよねー。あんな看板くらいぶっ壊すのは訳ないけどさ、友達までぶっ壊さない保障ってないんだー。でも試しにやってみよっかー?」
「やめておきます」棗ちゃんをぶっ壊さないためにあたしは即答する。
「それにねー、ヤタガラスで測定している限り彼女の怪我は大したことないんだー。たぶん援軍が駆け付けつけるまで十分間に合うと思うよー」
援軍――あっ、とあたしは声を上げる。県道を南下する軽自動車が頭をよぎった。
それなら、とあたしは思った。真っ直ぐに李子ちゃんと棗ちゃんの方を見る。
「二人はあたしが絶対に守るからっ」
踵を返して空を見上げた。
チクチクと針を刺しては空を忙しなく飛び回る羽虫のような銀色の天使たちと、それを追い払うでもなくただそこに佇む真っ白な怪獣。その戦場に、あたしはいま飛び込んでいく――
――でも、どうやって? 悩むより先に回答がくる。
「まずは、基本戦術――『シールド』の展開からいくわよー。シールドっていうのはさっきメイデンちゃんがマーズの投擲攻撃を消滅させた氷華様式、雪の結晶状の盾を形成することよー。あまり難しく考えないで、アプリちゃんはそれをそこに置くようなイメージを持てばいいだけ。演算や形状化なんかのフォローはメイデンちゃんがしてくれるからー」
あたしは持ち上げた右手を広げた。そしてその掌にさっき見たガラス板が張り付いているイメージを重ねた。
ゆっくりとそれを宙に置いてみると、イメージが結晶化したように六角形の発光が現れる。
天使や怪獣が創り出していた遠目にはただの六角形にしか見えなかったものの正体、この近さで見ると繊細なつくりに驚かされる。それは紛れもなく、雪の結晶を大きくしたような形で、ガラス細工の花びらにも似ていた。
「それがシールド。今度はそれを頭の中だけで動かしてみてー、宙と地面の間に階段があってその一段に置いてみる感覚」
言われた通りあたしがそう望むと、横向きになった氷の華は宙でピタリと止まった。ちょうどあたしの膝の高さだ。
「今シールドはアプリちゃんにとって『物体』の属性を保ってる。上に乗ってみてー」
戸惑いつつもその上に立つと、それは本当に宙に作られた階段のようで沈んだりすることもなかった。
「オッケイ、やっぱり大人と違ってのみ込み早いわー。それにきっと才能も、ねー。それを繰り返せば空まで行けるよー。ホントはシールドなしで自由に飛ぶことも出来るけど、それは慣れてきたらいずれ、ねー。にしてもみんなと同じ氷華様式っていうのはちょっとオリジナリティないなー。アプリちゃんて何月生まれ?」
ふいな質問に、「四月です」と答える。
「牡羊座? それとも牡牛座?」
「牡牛座です」
「オーライ、じゃ紋様のデフォは『タウラス』にしましょー」
瞬間、足元のシールドの模様が変わる。牡牛座を表すモチーフ、〝♉〟を中心に据えた金色の円形。マークの周囲には、歴史の授業でちらと見た象形文字じみた記号が並んでいる。
「まあ記号に意味なんてないから気にしないでー。ハッタリアリティってヤツー? でもさー、十二子宮で揃えるって考えたら夢が広がらなーい? メイデンジャーがあと十一人もいるなんてさっ。あーもう、またアタシ徹夜で作業に追われちゃうなー」
あと十一人もの人間に痛みを負わすのはやめてあげて下さい――心の叫びは届かなかったけど、代わりに仁知果さんはあたしの背中を押してくれた。
「メイデンジャーアプリちゃん、初級講座はお終いよー。さあ、今こそ飛び立ちなさいっ!」
その声に導かれるように駆けた。宙に次々と描かれる〝♉〟の円形。踏み抜いて、あたしは駆け上っていく――空へと。
「この短時間でよくもまーそれだけの数を、やっぱり才能あるわーアプリちゃん」
耳元で仁知果さんの弾む声。そして続けた。
「メイデンちゃん、ツェリザカ射出っ。アプリちゃん二丁とも受け取ってねーっ」
駆けるあたしの後ろをついてくるメイデンちゃんが飛び出す。
あたしを追い越すや旋回。両肩から二本の物体が生えたと思うや、バシュッと白煙を上げて飛んだ。
大きなロケット花火が飛んだくらいのつもりでいたあたしは、飛んできたそれを掴んだ拍子にシールドから落っこちそうになった。
それはいわゆる拳銃と呼ばれる類の代物だったけど、恐ろしく巨大で、一丁を両手で抱えなきゃ到底撃てそうもないのに、形状はあくまで片手持ちの拳銃だった。
ゾウでも倒せそうだけど、撃ち方も想像できない冗談みたいに大っきな拳銃。黒塗りのそれが合わせて二丁。
一丁ずつを左右の手で掴んではみたものの、あたしはそれをぶら下げたままで、仁知果さんが〝マーズ〟と呼んだ怪獣へと向かうシールドの階段、その途中で行き止まった。
「仁知果さん、あたしにこれでどうしろと?」
あたしの体重くらいはある二丁拳銃の重量に息を切らしながら訊くと、仁知果さんは呆れるように言った。
「シールドの応用、銃の下の空間に小さなシールドを張るイメージ。そしてそれをそのまま持ち上げて固定してー」
仁知果さんに言われた通りにやってみると、まるで見えない手が押し上げてくれたみたいに簡単に持ち上がった。
仁知果さんは続けて、
「固定されたら、いつだって張られたシールドはくっついているものだって思ってー。そういうものなんだってー」
まさか最新の科学技術を手にして『思いこめ』と語られるとは思っていなかったあたしは一瞬うろたえたけど、そういうものだって思いながら銃を左右に振ってみる。
握り部分特有の重量感を覚えながらも、銃自体はびっくりするほど滑らかに動かせた。例えるならテーブルの上に置いた筆箱をスライドさせる程度の抵抗。
だからあたしは、きっとこれはこういうものなんだ、って改めて思い込んでみたりする。
と――、「十時の方角から槍が接近中です」耳元で感情らしさもない声が淡々と告げた。
良く言えば実践教育、悪く言えば行き当たりばったりの指導方法。それに一進一退な覚えの悪さも手伝って、あたしの脳内はおさらいでいっぱいだった。だからわずか上空で展開している戦闘からの流れ弾の報せに、反応は遅れた。泡を食ったところでもう遅い。
それはあたしの失敗、目の前にはあの槍が迫りくる。シールドをイメージしようとしたけど、集中する余裕なんてない。
赤錆まみれの鉄骨みたいな槍は、もはやあたしの眉間のすぐそばで――――消えた。
あたしの隣には、ふよふよと浮かぶメイデンちゃん。
「今のが対消滅。相手が出してきた物質属性の攻撃を即座に解析して、その物質に反する性質をぶつけて相殺したの。早い話が後出しじゃんけんの原理ねー。単調な攻撃ならメイデンちゃんの自立防衛機能で迎撃可能だからー、アプリちゃんは攻撃に専念して」
仁知果さんが説明した。
「はいっ」あたしは声を張り上げ、音感ゲームのステップみたいに発光する階段を蹴る。失敗を取り戻すつもりで一気に駆け上がった。
海の色と混じり合ったような紺碧の空。
飛び回る天使たち。
そしていざ近くで見るとその巨体さに改めて圧倒される怪獣――〝マーズ〟。
それはもうからだが大きいとかいう範疇を超えていて、本当に空を埋め尽くす入道雲みたいだった。
遠目に見れば獣っぽい顔として映ったものも、数十メートルの距離を置いたこの状況ではただの白い壁、それも終わることなく伸び続ける壁にしか見えない。アリとゾウ、そのスケールに間違いはなかったらしい。
見上げると、首が痛くなるところにルビー色の球体。向かって右の瞳は確認できたけど、左の瞳はあたしの視界じゃ見切れちゃってる。
自分のちっぽけさに出かけたため息を飲みこんで、見えるルビー色にぎゅっと視線を鋭くする。あたしなりの開戦ののろし。
そして間髪入れずに右手に握った銃の引き金をひいた。
「あっ」と仁知果さんが言うのと、あたしのからだが吹き飛んだのは同時だった。
あたしの手首くらいの太さはあるだろう、弾けた弾丸の抜け殻がゆっくりと宙を舞うのが見えた。ここいらの言葉でブクトレタあたしは、真っ白になった頭で銃の暴発を連想する。
「シールド!」の一声に我を取り戻したのは、永遠にも感じられたほんの一瞬。数メートル落下して、宙に張ったシールドの上に着地した。
あまりの衝撃に右腕ごと吹き飛んだんじゃないかと思ったけど、どうやら無事らしい。とはいっても腕の骨はキシキシ痛む。
「撃つ前には、『対ショック用』に銃の後方にもシールドを展開させなきゃダメよー」
仁知果さんは非常識ね、といったテイで話すけど、あたしはだったら先に言っておいてよと口を尖らせる。
それでも見上げた先で、あたしの一撃は〝マーズ〟のシールド、その一番外側の膜を打ち抜いて、二番目の膜にめり込んでいた。
「でも、効果あったんじゃないですかっ!?」
あたしはぱっと明るい顔で訊いたけど、うーんと唸った仁知果さんは、
「あれは二段式に対消滅を起こす螺旋弾の元々の効果だからねー。速度とか衝撃とかに関わらず一枚目のシールドは破壊できるように最初から設計されてるのよー」
めり込んでいた弾丸は、二番目のシールドの膜と同化するように消えていく。
嫌な予感はあった。だけど聞かずにはいられなかった。
「あの、それってつまり銃の性能とかに関わらず、弾のおかげってことですか? でもそれならひょっとして、あたし別にこんな大っきな銃で戦わなくても良かったんじゃ……」
仁知果さんは朗らかに言った。
「それはそうだけどー、か弱い少女が、普通は持ち上げることも叶わないようなバカでかい銃もって、バシバシ弾丸ぶっ放して戦うのってさ、かっこいーじゃん」
なんだか泣けてきた。だからあたしは仁知果さんの望み通り、あの入道雲目がけて引き金をひきまくってやった。