15 《千》
俺は駆けだしていた。
右耳にはひっかけたままのインカム。走るに不慣れなサンダルでつまずき、立て直し、また駆ける。
次々と撃墜されていく戦闘機。耳をつんざく轟音の下、手にしたスマホ。切れる端からダイヤルしても、聞こえてくるのは「回線がパンクしているか……」って例の常套句。
ワルツには、やはりつながらない。オフクロは山間の方にヘルパーの仕事で行ってるはずだが、ワルツは仕入れの後でどこに行くと言っていたか――? さすがにいちいち行動を把握しちゃいない。
繰り返される電話会社のアナウンス。確かこれって例の震災時もなったヤツ。全然改善されてないじゃないか――、怒りと戸惑いの中で駆け続ける。
習慣で起動させたツブヤイターに、『怪獣出現?』の単語が躍る。WWWの文字もいつもの三割増し。
いや笑い事じゃないんだけど。いや、むしろもう笑うしかないって状況なのか。不安も三割増しだ。
〝災禍〟の教訓から、背にした脅威に、脇目も振らず俺の隣を走り去っていく人の群れ。
進まない車に向けてクラクションを鳴らす後続車両。
悲鳴。
追突事故でクラクションが鳴りっぱなしになっている先頭車両。
「高台を目指せ」という声。
そして悲鳴。
こういう時は高台なのか、どこなのか、どこを目指すべきなのか――。港を抜け市街へと続く国道は混乱の極致にあった。
混乱する頭。一人問答。そして俺も悲鳴を上げた。フットワークは軽くても持久力のない身体の方がだが。
早すぎる小休止に足を止め、ゆっくりと振り返る。そして立ち尽くす。漁港越しの空に映る、紛れのない新たな〝災禍〟に。
成すすべを持たない俺は、巨大な黒い影を落とす、巨大なソイツをぼんやりと見上げる。数十キロは離れているだろうに視認できる極大のフォルム。いまだ太平洋上にあるというのに、その姿ははっきりと視認できた。
スペシャルサイズの悪い夢。遠くの空に点として映るF‐35戦闘機を基準にするなら、軽く見積もっても富士山、いやエベレストくらいの大きさはありそうだ。まあ、直で見たことはないけれど。
だのに、ファニーでファンシーなその姿。巨大な体躯には不相応な小さな翼をばたつかせて、もふもふとした白色の四肢をおぼつかせる。だがしかし全形が世界最高峰の山くらいあるなら、そのよちよち歩きの一歩ですら数十メートルといったところだろう。
確実に町へと近づきつつある、その巨大怪獣の貌は犬とも熊とも狸とも区別できない愛くるしさ。ほぼ円だけで形成されたその貌は、何かの動物を幼稚園児が一生懸命描いたものにも似ていて。どう見繕ってもマスコット、それもゆるめの、といったざっくりしたつくり。
そう。それはまさに笑う他にはない代物。博士たちが、設定上火星出身でどうのとか言っていたから、さしずめ『かせモン』とでも名付けられそうな。
だけどそんな癒しも優しさも皆無で、シュールに過ぎる現実的な恐怖は、天を穿つ超弩級のゆるキャラ。
ソイツがキュートな面持ちのままで次々と戦闘機をなぎ倒していく。いや、なぎ倒すという表現は少し違うような……。
吹き出しがあるなら「がおー」とでも発しそうな無邪気な表情で、小さなつくりの口を開ける。瞬時に純白の全身が黄土色を経過して赤色へと変化する。
その色がまるで口元へ集まるように移動すると、そのまま口から乾いた赤色の息吹を吐き出す。それは不定形に動きながら渦となり、やがて竜巻となった。
それに触れられるだけで戦闘機のシャープな外装、その全形は腐食し、剥がれ、ボロボロと崩れ落ちていく。
F‐35の攻撃は、宙に現れるや仄白く発光する六角形――シールドのようなものに触れるそばから誘爆、なんてすることなく消失していくからまさに怪獣、無双状態。
足止めにすらならない国防軍の誇る戦闘機の応戦に、タイムロスを感じさせることもなく進むゆるキャラの怪獣。つぶらな瞳は真っ直ぐだけを見据える。崩れ落ちていく敵影なぞ、パラシュートで緊急脱出する敗残兵なぞ、見向きすらせずに。その存在は、その存在然としてただ己が動線を真っ直ぐ目指すだけといった様相。
と。
「――火星の地表、その主成分たる酸化鉄を生成、圧縮して放出しているのか」
真っ黒博士こと真玄薫風の声。インカムが再び音を拾い始めたらしい。
「きゅ、急激な酸化、つまりは錆化現象を起こし、腐食させているんだな。機体のアルミニウム合金、その表面の酸化膜も反物質を触媒に無効化、なおかつ腐食化自体の性能を上げているから、ほとんどガラス細工ばりの脆さで崩れていってるのだな。あそこまでいくともはや風化、と呼んだ方が正しいか」
副音声的な雛菱博士の説明。こっちの脳力の出来、不出来は別としてありがたい。
兎にも角にも、巨大なゆるキャラはスーパー錆化を起こすブレスを吐きまくっては国防軍の戦闘機を蹂躙しているらしい。
おいおい勘弁しろよ、住むとこなくなっちまうだろうが。津波で流されて、新しく家建てたばっかの人だっているんだぞ――俺は内心でぼやきまくる。
そんな頃、新たな声がインカムに響いた。
「真玄くん、私だ! サツマだ! 聞こえているんだろっ、真玄くん!」
「どうも大臣、十二分と四十秒ぶりです。いやあ大臣が学者風情なんて鼻で笑うものだから任せてみましたけど、やっぱり駄目でしたね。自信満々だったのに」
――大臣だと?
「真玄くん、確かに君の言うとおりになった。だが『あれ』はなんだ、真玄くん。太平洋上に突如現れ、我が国の領空を侵犯しているあれはなんなんだ」
連日テレビで国防軍の必要性を説く、髪の薄い防衛大臣を俺は思い出した。
狼狽気味の大臣の調子とは打って変わって、真玄はのんびりと話す。
「だから言ってるじゃないですか。生成に成功した新資源を狙って現れた敵ですよ、敵」
「敵じゃ分からん、どこの国だ‼ 中国か!? ロシアか!? それとも他の第三国か!?」
「うーん、我々もそこまでは。敵は、敵ですよ……しいて言うなら人類の、ね」
「君っ、こんな時にふざけている場合じゃ……」
「まあ、ご安心ください大臣。現時点を置いて、新エネルギーにおいても軍事力においても、我が国がどこよりも先んじていることを世界中に知らしめることとなるでしょう。ここから先は我々にすべてお任せ下さい」
「真玄く……」サツマ防衛大臣の声が途切れる。
「強制切断なんて、随分ぞんざいに扱っちゃってまー」
女の声。花無仁知果の声。
「これ以上は時間の無駄だ。声明は伝えた以上、科学者的には時間が惜しいだろう?」
真玄のご高説に、感情もなく彼女は返す。
「アンタはセールスマンだけどねー。混沌たる舞台を作りあげた上で救世主登場ってわけー? 自作自演にも程があるっての。まるで茶番だわー。あーそーか、これじゃセールスマンですらないねー、ただのペテン師だねー」
高笑ったあとで、真玄博士は歌うように言った。
「俺の科学的理念は結果第一だよ、仁知果。結果としてこの脅威が取り除かれるなら、みんな万々歳だろう。さあ、新しい時代が始まるぞ。その為の露払いだ。新時代の守護者たる、銀の守護天使の降臨だ」
そして。
「イザナミ、壱から伍までの〝ミスリル〟を投入せよ」
了解しました――と抑制された声が告げた。
何が始まる? 思う前に、俺は振り返っていた。西の空、新世代エネルギー研究施設チカエシノオオカミが建つ空へと。
目を細める瞬間、インカムに変化が生じた。ピッと電源でも入る音が微かに聞こえたと思うや、両の視線のすぐ間近で空気が震える。
程なく、二枚のレンズが宙に浮かんでいた。ちっちゃい頃に踏んでは遊んだ、水たまりに張った薄手の氷。その瞬間冷凍でも見せられているような感覚。視界のぼやけなんて暇もなく、ピントはすでに合わされている。
二枚のレンズは、スポーツグラスみたいに俺の両目を覆っていた。それはまさしく薄手の氷といった耐久性の、例えば科学の実験なんかで使うプレパラートほどの薄さだった。
元々目の悪くない俺ではあるが、それは数十メートル先の風景まで鮮明に見せてくれるハイテク。おまけに自動でピントを合わせてくれる遠近両用である。望遠機能付きとは、なんて親切設計。妙に感心する俺にすれば、レンズが宙に浮いてるとか、そのハイテク性を理解するのはどうでもいいことだった。電子レンジやらアナログテレビを繋いで巨大な肉の塊を作ってる連中なら、なんでもござれな気がしてくる。
プレパラート越しの西の空に、銀色の閃光が立ち上るのが見えた。数十キロ離れた場所で確認できた輝きは、まさに人工的としか表現できない発光ダイオードなんかの鮮烈な光。
光はやがて五つの白銀の球体となって宙に留まる。そして飛び立った、と思う間もなく消失した。
完全に目標を見失った俺は空を闇雲に探す。数秒の間を置いて見つけた時、五つの銀色はすでに数キロ離れた空に留まっていた。
高速移動なんて言葉じゃ物足りないそれは、もはや瞬間移動と表現した方が良さそうな出現の仕方だった。
俺は驚愕した。
だが、真の意味での驚愕が訪れたのはそこからだった。
十分に視認できる位置へと現れた五つの銀色の輝き、その正体に俺は気付く。
それは宙に立つ五つの人の形をしていた。一見しては、ライダー仕様にも似たスーツとフルフェイスのヘルメット姿。しかし、そのヘルメットにゴーグル部分はなく、鏡面仕上げみたいに、つるりとしたのっぺらぼうの楕円を形成しているだけだった。
スーツも、そして楕円の頭部もすべては白銀に発光している。淡く輝く全身に時折現れては縦に横に走る紫のライン、その明滅。まるで一昔前のSF映画にでも出てきそうな、未来人の衣装にも似たつくり。
五つの人型は、そのどれもが同じ体躯をしていた。SFチックな防護服に、だけど良く見ればそのスーツに耐久性なんて言葉は皆無。例えるなら、水泳の国際大会で目にする全身用の競泳水着のような。
全身にぴたりと張り付いたスーツのせいで、解りすぎるほどにはっきりと解るのは、頼りなげな線の細さ。戦士の力強さなんて微塵もない。
そこにあるのは成長途中といった――
「――まだ子供じゃないか……」
俺はインカムの存在も忘れて呟いていた。
遅れて、その胸部の小さな膨らみに気付く。表情なんて読み取れずとも、はっきりと理解できた。その五人は紛れもなく――、少女だった。
呆然と見上げる視線の先で、銀色の少女たちが動いた。
再び瞬間移動し、ゆるキャラの目前へと迫るや、背中に張り付いたバックパックの左右から二丁の『P91』を引き抜く。そして躊躇もなく引き金を引いた。
五人が五人ともに、完璧な同調しての動きは、P91の射出音ですら規則正しく完全な調和を保っているかのよう。
とはいえ、だ。F‐35の誇る短距離空対空ミサイル、サイドワインダーですら物ともしなかった相手にPDWでどうするつもりだ――、俺でなくともそう思うはずだ。
P91とは、PDW――、つまりパーソナルディフェンスウェポンの一種だ。
殺傷力の高さに比例して、見た目のゴツさとか禍々しさが際立っていくのが重火器というものだと昔の俺は思っていた。そんな俺のイメージを払拭させたPDWはというと、片手で持ち運べるくらい軽量化に特化した作りで、小ぢんまりとしていた。遠目にはセカンドバックでも抱えているようにも見える。良く言えばシンプル、悪く言うなら野暮ったい仕上がりの短機関銃だった。
ベルギーの銃器老舗メーカーが製造しているそれは、扱いの安さとは裏腹に、ライフル弾並みの威力を誇る特殊弾を射出出来るらしい。と、いったところで対怪獣は想定されていないはずだ。
俺の視線は、彼女たちの――〝ミスリル〟の挙動に釘付けになっていた。
懸念通り、放たれたP91の弾丸はゆるキャラの周囲に張り巡らされた仄白いシールドに防がれていく、はずだった。
だが――。
弾丸はそのシールドを文字通り穴だらけにしていく。
散開するようにしながら、障子でも破るが如く、実に容易くシールドを引き裂いていくミスリルの暴威。
インカムの奥で真玄が高笑った。
「見たか、DNAの構造をシールドの対消滅に応用した通称、二重螺旋弾。須臾演算によりシールドの状態に対応した物質、反物質を形成した弾丸の外側は、二重螺旋構造を形成しシールドを侵食。シールドの再生を押さえている間に、内側に留め置いた純粋な対消滅エネルギー弾がシールドの穴に放出されるという原理だ。仁知果、お前の生化学がこういう形で実用されるとは思っていなかっただろう?」
ゆるキャラは裂かれたシールドの下に新たなシールドを張る。防御に転じながらも全身を変色させて、錆化を起こすブレスを撒き散らした。
銀色の弾丸と赤錆色のブレスの応酬。見上げた空で繰り広げられる、両者の力の拮抗。
ゆるい表情とは裏腹に国防軍の近代兵装ですら歯が立たなかったあの怪獣に、子供たちの装備が有効なのは確か。……オーケイ、それは認めよう。あの白銀色に発光する装備、それが子供にしか扱えないっていうならそれはそれ。そういった特別な力だとか、人型汎用兵器の操縦だとか、いつの時代もソイツが子供にしか扱えねぇデフォってんならそれはそれでオーケイだよ、真玄。だが、だからといって――
「――最初っから前線を子供に押し付けるなんてクソな大人の傲慢でしかねぇぞ‼」
インカムなんてもう頭になかった。聞かれようがなんだろうが構やしなかった。俺にあるのは真玄に対する純然たる怒り、その衝動だけだった。
だから、すっかり忘れていた。俺は気付いていたのにすっかり忘れていた。そこに何でもお見通しのように、間抜けな猿にわざわざ現状を理解させてくれるお釈迦さまのように、インカムを授けし彼女の声が聞こえた。
「守護天使たる彼女らの奮戦は認めるけどさー、どうやら戦線は本土に達しちまったねー。ヤッコさん、上陸を果たしちまったよー」
ハッとさせられる俺。だからひょっとしたらこのインカムは、暴走気味な俺という名の猿を制する金の輪っかだったのかもしれない。
「なぜだっ。なぜシールドを破れないっ。なぜ『モノリス』まで届かないっ」苛立ちを覗かせた真玄の声がブツブツと繰り返される。
まるで彼女の補足でもするように機械的な声が――「国家危機レベルが二階級繰り上げ、レッドゾーンに入りました。非常事態宣言が発動されます」
「だってさ」花無仁知果はのんびりと言った。
国防軍の戦闘機を撃墜しながら歩みを進めていたゆるキャラ。〝ミスリル〟の緊急配備以前に、ヤツはもはや明香里湾まで数キロの位置まで達していた。そりゃ目視でも十分に確認できたってもんだ。
間もなくして真玄の手札たる銀色の天使たちとの交戦が始まったが、戦力差に置いて拮抗状態を保ちつつも、ヤツは決して立ち止まったりはしないらしい。苦々しいまでに前向きな軍事的脅威。
そして国土は実にあっさりと戦地と化したらしい。
と、そこへ声。
「そんなこと言われなくても解ってる‼ イザナミッ、〝ミスリル〟のパターンをハーモニクスからカノンに切り替えろ。そろそろ決着をつけるぞっ‼」
花無仁知果の言葉に苛立ちを爆発させるように真玄が叫んだ。
ブルーインパルスの演目飛行の如く、一糸まとわぬ連携を見せていた白銀の少女たちは、それを合図と一斉に散開した。
宙にまばらに瞬く白銀と、紫の明滅。戦線から大きく逸れる者。宙で一回転する者に、錐もみ飛行。完全なる調和から一転しての不協和音に、相手が敵『機』であれば動揺したことであろうが、ヤツの表情は依然ゆるいまま。
俺が口も半開きのままで怪獣大決戦な空を見上げていると、
「そだね。そろそろ決めないとまずいよねー。このままいくともうじき――」
場にそぐわない、のんびりとした調子で花無仁知果は話す。
息を呑む光景に俺の耳を通過していく彼女の声。
「――プラテネスコード・〝マーズ〟は文化ホールに到達するわねー」
あっさり告げられたその言葉。
……ホールには今――
目を疑う光景ゆえか、年のせいか、サーキットが繋がったのは一瞬間の後。
「――杏ちゃん……」
愕然とする俺に追い討ちをかけるように、インカムの奥で機械的な声が告げた。
「ミサワ基地から空防の大隊が投入されます。第九特科の戦車部隊の配備完了まで七分。太平洋上の護衛艦隊の明香里市到着は十二分後です。アメリカ軍への緊急要請。首相の非常事態宣言が発動されます。ワイプに画像が出ます」
耳の奥にニュースでおなじみの声、それを置き去りにして俺は駆けだす。二枚のプレパラートが空気に混じり合うように消えていく。
混乱の真っただ中にある国道を外れ、細い路地を抜けた。
市街の大通り、『なかほど』へと続く国道に、並行する旧道もまた混雑していたが、こちらは警官による誘導で先刻ほどのパニックには至っていない。
だとして、繋がった先の大通り自体が整備されていないから、さっぱり進んじゃいないのだが。
誘導するならこっちじゃねえだろ――、とちょっと足りない制服警官に目をやると、ソイツはもれなく見知った顔。
俺に気付いたソイツが、半分泣きそうな顔で言った。
「ハライチぃいいとこに来た。手伝ってくれ、手が足りてねぇんだ。いったい何がどうなっちまってんだ? その辺でほかの警官見たか? てか俺ここで誘導してていいのか?」
――よくねえよ。
内心でヤスに毒づく。
脇に乗り捨てられたパールホワイトの軽ジープを見るに、おそらく派出所へ向かう途中でこの混乱に巻き込まれたらしい。
「俺も詳しくは……」口を開きかけた時だった。スマートフォンが勢いよく鳴り響いた。苦労して入力した、三単音のガレキちゃんのテーマはこの猥雑の中でもよく通る。
九年前の〝災禍〟発生時、電話は通じなかったが、メールはそこまでではなかったらしい。特に別回線であるインターネットのメールは非常に有効だった――被災者たるオフクロのそんな話が頭をよぎる。
電子メールを開くと、ワルツからの簡単な文章――今どこだ
俺はまだエンジンのかかったままのジープへと乗り込む。
「ヤス、車借りんぞ」
ゆるキャラ程の前向きさは持ち合わせない俺がミラーをちらと見ると、ヤスが何か喚いていた。それを無視しつつも、ヤスのおかげでガラ空きの車線へとジープを乗り上げる。
手慣れたフリック操作でワルツへの返信――文化ホールに向かう
そしてアクセルを踏み込んだ。