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オープニング


 遠くの空で海鳥が鳴いていた。


 ぼやけたレンズは、放られる餌めがけて身を翻すいくつかの影をなんとなく捉える。旋回する海鳥たちの中を、最終の遊覧船がゆっくりと進んでいった。

 ズームバックしていく視界に、荒波に曝されて不器用に尖った岩が映る。その影に船が姿を隠すころ、差し込んだ夕日がそびえる岩をぼんやりと浮かび上がらせた。

 波間に滲んだ橙はゆっくりと沈みゆく。


 やがて白色の小石が敷き詰められた海岸が広がった。良く言えば幻想的、悪く言うなら河原のようで海水浴には不向きそうな浜。

 人影もまばらで、今や潮の音しか聞こえないその寂しげな風景を眺めるように、画面は一度立ち止まる。


 画面の端に一人の少女の後ろ姿が映った。

 しゃがみこんでは、せっせと何かしている少女。

 近づきつつ彼女を見下ろした映像に、ふいに現れたテロップ。


 ――何をしているんですか?


 しゃがみこんでいた彼女は、びくっと身を強張らせた後で、立ち上がる。

 蛍光素材なのかなんなのか、シューズの黄色が西日を反射してやけに煌めく。そこから覗く白い靴下は、足首とも膝下ともつかない微妙な長さをしていた。

 間もなくして、振り返った少女の全身が映る。着ていたのは体操服、それも一昔前には廃れたであろうオールドタイプの代物だった。

 元気溌剌げんきはつらつといったそのいでたちとは裏腹に、躊躇いがちに少女は振り返る。

 伸ばしかけのショートヘアー風といった、ややボーイッシュ気味なその外見もまた裏腹に、顔もうつぶせたままでやはり躊躇い気味に口を開いた。


「そ、掃除してるんです」


 すらりと伸びた足、というより履いていた下着みたいなえんじ色のスポーツ用パンツを隠すように、体操服の裾をぐいぐい引っ張りながら言った。

 いつから掃除していたのか、脇に置かれた資源ごみの袋はすでにいっぱいになっている。


 ――えらいですね。


「あ、ありがとうございます」


 まごつきながら答える少女。恐る恐るあげたその顔に、特徴といえばうっすら見えるそばかすくらい。両の瞳の部分にはモザイクがかかっていた。

 お礼の後で少女はニコリと笑ってみせたが、それが満面の笑みでないことくらいモザイク越しにも明らかだ。口角は引き攣りっぱなしだった。


 ――しかし、なぜそんなことを?


 ぐっ、と唾を飲み込んで、


「この海はあたしの大好きな町の、大好きな海だから、あ、あ、あたしは、あたしのできることで、この町を守っていくために、がんばっていく、つもり、です」


 尻切れトンボで言い終えて、再び俯いた少女。その全身の画を押さえるように画面が引いていく。少女の胸元に貼られたゼッケンには、マジック書きで――めいでん 01の文字。


 波の音を背に、俯いたままの少女を映したままで画面は静止。

 

 そして。


 ――この町を守るため戦え、復興戦隊メイデンジャー(非公認だけどね)。


 映し出されたテロップ文字がぼんやりと消えていき、画面も徐々にフェードアウト。


 と、唐突に騒々しい音楽。そんな出囃子でばやしあおられるように、頓狂なおっさんの声が響いた。


「――金曜の夜はぁ、わぁるはらナイトぉ‼」



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