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あと5分(あなたの熱い唇が、わたしの敏感な唇に触れるまで)

作者: 瀬川潮

「……インスタント彼女?」

 久し振りにアキハバラに行って、わたしの猫舌でも食べられるくらい冷ましたおでん缶を食べながらオタクなショップを物色しているとそんな商品を見かけた。インスタントラーメンのような円筒形の商品で、普通のラーメンカップより三倍くらい大きい。モノは、一つだけ。もちろん、即購入した。

 自宅に帰って商品を改めてよく見ると、「インスタント彼女『タントちゃん』」だとか。

 パッケージには可愛らしい少女のイラストが描かれている。吹き出し付きで、

「たぁ~んと、甘えさせてね。お兄ちゃん」

 とかきゃぴきゃぴろりろりした文字が踊っている。内心「たははは」と苦笑しながらも、彼女いない暦がほぼ年齢と同じなわたしは大期待。隅に紹介してある「姉妹品の『タント姉さん』もよろしく」の文字ときらきらと長い髪の毛が綺麗なお姉さんのイラストを見ながら、こっちは「たぁ~んと甘えさせてあげる」かなぁとか思ったり。「タント姉さん」の方が好みだったかもしれないとちょっとだけ感じたけど、「近日発売」の文字を見つけて我が選択の正しさを実感。まだ見ぬ「タントちゃん」に内心謝る。

 ともかく、商品説明をよく読む。

 ふむふむ、まず上蓋を半分くらいまで剥がして、かっこ、恥ずかしいから中をノゾいちゃ駄目♪かっこ閉じる、熱湯を注いで15分待ち、蓋をあければジャパニーズオタク科学の粋を集め実現した等身大の新造人間妹的彼女「タントちゃん」が現れるのですー。後は、お話をしようが手をつなごうがキスをしようがあなたとタントちゃんの自由です~、かっこ、注・最初に着ている衣装は濡れているので、まずは着替えさせてあげてね、かっこ閉じる。

 って、本当かっ!

 とにかく、疑っても仕方がないので早速蓋を半分まで剥がして馬鹿正直に中をノゾかないで熱湯を注いだ。

 だまされたと思ってやってみるのだから、もちろんあまり期待していない。期待しなければだまされてもあまり落ち込まずにすむ。もし万が一、だまされたのではなかったら大喜びだ。というか、どうしても本音期待してしまう。あまりにも大きい期待感がある。期待のあまり、もしもタントちゃんが現れたらいきなりキスだ! お祝いのキッスだ! それもただのキスじゃない、ねっとりねちゃねちゃなディープキスだっ!

 と、そんな妄想を爆発させていたらあっという間に15分がたった。

 が、しかし。

 わたしは、猫舌なのだ。

 いきなりディープキスなんかした日にゃ、こっぴどくやけどしてしまう。やけどするような熱い愛ってのもイイんだけど、実際にやけどはしたくないなぁ。

 そんなこんなで、あと5分待つことにした。いつもコーヒーとかはそんな感じで飲むしね。

 で、5分たっぷりまってから、蓋をあけた。

「おっそぉぉぉぉぉぉい! 何やってンのよ」

 ずびたーん、と平手打ちをくらってふっ飛んだ。目の前には、カップに片足を突っ込んだまま濡れた赤いワンピースに身を包んだ少女が仁王立ちしている。

「見なさいよ! すっかりのぼせちゃってゆでダコのように真っ赤になっちゃったじゃない」

 タントちゃんは真っ赤になった肌を指差しながら、顔を真っ赤にしている。

「レディを待たせるような男はサイッテーよ。じゃあね、サヨナラ」

 きょうびの女の子はシャワー派なのよね、とか文句を言いながら、タントちゃんは湯煙となってカップの中へと戻っていった。

 カップの中には、バッドエンドの文字とスタッフロールが長々と羅列してあるレシートが残っているだけだった。



   おしまい

 ふらっと、瀬川です。


 他サイトに発表済みの旧作品です。

 ぐだぐだな妄想をお楽しみください。

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