9話「少女と犯行」
佳樹と千代崎、二人の戦争が始まった。
初手佳樹はcross killという通常攻撃を使った。そしてクリーンヒット。幾ら防御力に秀でたアバターとはいえ所詮は遠隔攻撃というアビリティを持ったうえでの付加されたもの。守りを捨て、更にリーチも捨て攻撃力を最高にした佳樹のアバター、即ちkillerに押し勝つはずがない。予想の通り千代崎のmagic battlerは大きなダメージを受けた。そして佳樹はそこから連打した。いや、するはずだった。佳樹の手が止まってしまったのは、千代崎が思いもよらぬことをしたからである。
なんと、零距離でビームを放ってきたのだ。これには佳樹も驚いた。しかし、遠隔型の欠点はどんなカクゲーでもそうであったように、撃ったあとすぐにもう一度出せないことだ。そこを狙った佳樹は、体力ゲージ上に表示されている「GROWUP GAUGE」を見た。このゲージが満タンになると、必殺技、覚醒ができる。
…もちろん狙いはmurderを当てることだっ!
佳樹は満タンのゲージを全消費し、最強の攻撃技、murderを放った。
しかし、その攻撃はあえなくよけられてしまった。そして千代崎もゲージを確認し、magic battlerの必殺技、magic stormを放った。
佳樹は負けた。
「対戦ありがとうございました!私一回佳樹さんと勝負したかったんです」
「他に意味ないのかよ…」
「そ、それより、これ、読んでくださいよっ」
千代崎は顔を赤らめた。真っ赤の千代崎も、なんかかわいい。手紙をあけると、そこには頑張って書いたと思われる恋文があった。
しかし佳樹は思わぬ言動に出た。
「ごめん。僕は人が苦手で、こういうのができないんだ。ごめんね」
悲しい失恋であった。確かに千代崎は日本人で一番可愛い部類に入る女の子だ。仕草も、従順な態度も、男を落とすには十分であった。ただ、佳樹の人間不信は、どんなことがあっても揺るがないものだったようだ。その日の夜は、悲しくて眠れなかった。もちろん、泣き疲れて眠ってしまったのだが。
翌朝。
なにかあった。なにかがあった。から始まる脳内ネットワークを超速でつなげていく。佳樹は目を覚まし視覚器を大きく使って視覚情報を分析するまでもないキケンなトラップを発見した。
…千代崎の寝巻がはだけて下着だけになっていた。ちなみに下も。
相当の美少女の素肌を見てしまっている。もはやこれでは性犯罪である。
「これはヤバいっすねーグフフ」と言いたい心を抑えささっと出ていくことを決意した佳樹だった。さっと壁伝いを歩いていく。すると、
ふみっ。
何かを踏んでしまった。今更気にするかっと思い出て行こうとすると、
「いだぁっ」
という少女の声が聞こえた。そして少女は起き上がった。
「あ、佳樹さん。おはようございま」
そこで少女の声が凍った。そのまま二、三秒の沈黙。少女は自らの体を見た。
「グッドモーニング!ハウアーユー?シーユー!!」
なぜか英語になってしまった佳樹に、
「Don't gaze at my body」
冷徹な英語で返した。意味がわからなかった佳樹がポカーンとしていると、
「今のは体をジロジロ見ないでくださいって意味だったんですが聞こえませんでした?」バシーン!!殴られた。
「大丈夫ですよもっと見ても。秒ごとに殴りますから」
「そ、それなら」バシーン!バシーン!!バシーン!!!見るヒマもなかった。
その後千代崎は、「今日はずっと一緒にいてもらいます」という約一名に見つからなければ大丈夫そうな条件を突きつけて許してくれた。まだ佳樹は、約一名に見つかりどうなるかを知らない。