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お仕置きの時間です

作者: 亜ヰ美-aivi-

私の朝は早い。

同僚が起き出す1時間前には起きて、仕事の準備を始める。

顔を洗い、寝惚け気味な頭をしっかり起こす。

制服に着替え、髪の毛を纏め、派手ではないしっかりとした化粧をすれば準備万端。


では、今日も1日お仕事頑張りますか!!


私はある御方の秘書兼、侍女をしている。

朝の準備を終えた私は、まずその御方の執務室に向かう。

勿論、朝早いですからまだ誰もいない。

執務室に入ったら、最初に窓を開けて部屋の籠った空気と朝の清々しい空気を入れ換える。


さぁ、ここからが重要な仕事の始まりです。


毎度の如く、この部屋の主の机付近は汚い。

毎日朝1番で片付けているのに、どうすればここまで汚く出来るのだろうか。

ゴミはゴミ箱に入れろ!!

インクを倒したまま放置するな!!

大事な書類を床に捨てるな!!

朝から盛大なため息がでる。

それでも仕事と割り切って片付ける。

粗方片付いたら、今度は書類整理。

急ぎの書類と、そうでない書類に分類し机に置いておく。

必要と判断した関連書類も、いつでも見れるように束ねて用意しておく。


そうこうしている間に、皆も起きて仕事に出てくる時間だ。

片付けているときに分けておいた、サイン済みの書類を持って各部署に向かう。

サイン済み書類を渡し、新しく上がってきた書類を受け取る。

各部署が前日に用意しておいてくれるので、待たされたり、慌てたりせずに済むので本当に助かる。


一度執務室に戻り、書類を置いたら朝食に行く。

朝は誰もが忙しいので、食堂は慌ただしい。

そんな中、私はゆっくり食後のティータイムを楽しむ。

ティータイムを終え、そろそろ主も起きる頃なので、執務室に戻る。

主はいつも寝惚け気味で執務室に来るので、しっかり起きてもらう為に熱目の紅茶を用意しておく。

勿論、主が来てから淹れるので、準備だけしておく。

そうこうしていると、主が執務室に入ってくる。


予定だった。


5割の確率で、主は来ない。

そして、今日は来ない日だった。

また寝坊か、と盛大なため息をつき、執務室を出て主の私室へ向かう。


コンコン


「陛下、起きておいででしょうか?執務のお時間です」


部屋付き侍女から返事があった。

結論、主はまだ起きていなかった。

またため息が漏れる。

このいつものやり取りに、部屋付き護衛騎士に苦笑いをされた。

致し方無いので部屋に入り、無理矢理起こす。

本来部屋付き侍女の仕事だが、主の機嫌を損ねるとクビが飛ぶので、強く出られないらしい。


先程の私の台詞でお分かりいただけると思うが、私の主はこの国の王だ。

王である主に周りは強く出られないらしい。

主の気分次第でクビが飛ぶとか有り得ないと思うが、この主ならやりかねない。

主はそういう御方だ。

寝坊はする、気分次第で使用人を切り捨てる、そんな王でよく国など支えていけるものだと思う。

ちなみに仕事は出来なくは無いが、効率が悪い為に色々残念だ。


寝室の扉をノックし、中に入る。

奥方である王妃を抱き枕よろしく抱き締めて、気持ち良さそうに寝ている主がいた。

殴って良いだろうか?

さすがに私も自分が可愛いので、脳内で撲殺するだけで留めた。

主に声を掛けると、無理矢理起こされた為か不機嫌な声を出して起き出した。

やっぱり殴って良いだろうか?


起き出した主を部屋付き侍女に任せて、先に執務室へ戻る。

いつの間にか主の補佐をしている男がいた。

ボーッとしていたのだろう、私が入って来た途端に慌てて書類処理をしだした。

部屋付き侍女といい、この補佐の男といい、ちゃんと仕事をして欲しいものだ。

勿論、主にも言えることだが。


主が来る前に今日の予定を再度確認し、その準備や書類処理をしていると、やっと主が現れた。

すぐに紅茶を用意し、その紅茶を飲んでいる主に今日の予定の確認をとる。

その最中、主は奥方との朝の一時を邪魔された等とブツブツ文句を言っているが、知ったことではない。

時間通りに起きてこないのが悪いのである。

それから主はいつも通り書類処理を始めたが、ブツブツ文句を言うのはやめない。

口を動かしている暇があるならば、手を動かして欲しいものだ。


急ぎの書類が出来上がったので、それを持って各部署に向かう。

幾つか回り最後は、この国が破綻せずに済んでいるのはこの御方がいるからであろう、と私が尊敬してやまない宰相閣下の執務室だ。

本当にこの御方は素晴らしいと思う。

国を支えている頭脳だけではなく、立ち居振舞いなどは品がよく、誰に対しても敬語を使い、常に笑顔を絶やさない。

でも締めるところは締めてるというのか、必要な場面では叱ることもするし、その後のフォローもしっかりしていて、尊敬を通り越して崇拝していると言っても過言ではない。


ノックをし中に入ると、こちらに向かって女なら誰もが腰砕けになるであろう微笑みを浮かべた宰相閣下がいた。

何もかもを吸い込みそうな漆黒の御髪と瞳に、誰もがうっとりするであろう美しすぎる御顔、座っているがそれでもわかる長身に、執務を主にこなしているのに適度な筋肉を兼ね備えた身体、30後半を過ぎているからこその洗礼された色気。

そんな出来すぎた御方が、私にその微笑みを大盤振る舞いである。

腰砕かれていいですか?

まぁ、仕事中ですから頬を染めるくらいにしておきましょう。

ご馳走様です。


私は処理済みの書類処理を閣下に手渡し、その場を辞する許可をいただく。


「それではまた何か不備等ございましたらお声かけ下さいませ、フェルミナス宰相閣下」


「いつもありがとうございます、ミシュリーヌ嬢」


礼をし、閣下の執務室を後にする。

辞するときにファーストネームで呼び合うのは、私と閣下にしかわからない秘密の合図。

廊下でニヤニヤしそうなのをなんとか隠し、陛下の執務に帰路する。


その後、昼食をとって、午後は騎士団への視察と書類処理をこなす。

途中、陛下が奥様とティータイムをとるが、離れたくないと駄々を捏ねるので、無理矢理引き摺って執務室に戻るなど問題が起きたが、私には閣下との秘密の約束があるとなんとかやり過ごす。


やっとの思いで仕事を終えたのは、辺りが闇に包まれた時間だった。

私は急ぎ足で閣下の私室へと向かった。

ついて早々、遅くなった詫びを言うが、閣下は気にした様子もなくソファーを勧めてくれる。

私がまだ夕食を食べてないであろうと、軽くつまめるものとお酒を用意して待ってくれていた。

本当に出来すぎている御方である。

私は礼を言い、軽食をしつつお酒を飲みだす。

閣下はその様子を笑顔で見つめながら、お酒を嗜んでいた。


この密会の本題を先に口にしたのは私だった。


「あの馬鹿は、いつもいつも『王妃、王妃』って。口ばっかり動かしてないで仕事してほしいよ、まったく。あの馬鹿のせいで、なんで閣下が苦労しなきゃいけないのよ。自分が国王なのわかって無いんじゃないの?周りも周りで馬鹿ばっかりだし、仕事しないし、本気でよくこの国が破綻しないものだと思うわ。閣下がいつ倒れるか気が気じゃないですよ。」


「そうですね。陛下は子供の頃から甘やかされて育ったお坊ちゃんですから、大人になってもそれが抜けないのでしょうね。私も何度となく言ってきましたが、そろそろ諦めに近いものを感じてきましたよ。周りもしかりですね。少しは使えるものもいるのですが…」


私は言葉遣いなどお構いなしで馬鹿、もとい陛下や同僚たちの愚痴を吐き出した。

閣下も笑顔ではあるが、自身を覆うオーラはどす黒いものに覆われながら、私の言葉を肯定してくれる。


そう、この密会は誰にも聞かれたくない愚痴を言い合う密会なのだ。

愚痴り大会だね、一切甘い雰囲気とかないから。

日頃のストレスを溜め込まず発散しようという、利害の一致にて始めたことなのよ。


「貴女がいてくれるので倒れはしないでしょうが…しかし、いつまでもこのままではいけないでしょう。そろそろ、あの甘えん坊な坊っちゃんに現実を教えてあげねばいけないでしょうね」


どうしたものか、と閣下はため息をもらした。

そのため息が妙に色っぽくて、頬が赤くなったのが自分でもわかった。

閣下の微笑みもため息も、お酒のつまみに最高ですね。

ご馳走様です。


私たちは時間を忘れてストレス発散に勤しみ、日付が変わる頃に解散した。

私は部屋に戻って寝仕度を済ませると、ベッドに崩れ落ちた。

お酒の力とストレスを発散したことにより、気分よく眠りにつくことが出来た。


翌朝、いつも通りに起きて支度をし、主の仕事が恙無く済むよう準備をし、朝食を食べて主の執務室に向かった。

執務室の中はいつもとは違い、いつもより早い時間に主がいるではないか。

しかも、閣下までいるという事態に、私は何か問題が起きたのだと瞬時に理解した。

だが、ここで私に出来ることなど限られている。

まずは落ち着き、ソファーにかけている主と閣下に紅茶を入れて、壁際に控えた。

それを止めたのはこの部屋の主だった。


「お前にも話がある、座れ」


閣下の隣を指し、有無を言わせない視線で告げる。

辞退したかったが、場の空気を読んで着席した。

私は何かやらかしたのかと、頭の中をフル回転させていたときに、主は話し出した。


「お前たち付き合っていたらしいな。今まで一切気付かなかった」


えっ?

爆弾発言である。

私と閣下が言葉の意味を咀嚼している間も、陛下は話を続けていた。


「余の為に、いつも尽力している二人がとは、素晴らしいではないか。何故今まで黙っていたのだ」


陛下は今まで知らなかったことに拗ねているらしいが、それでも二人を祝福しようと満面の笑みで言ってきた。

だが、私と閣下が付き合っている等という事実はどこにもない。

先に話を咀嚼し終わった閣下が、一体どこからそんな話が出たのかと問うていくと、こういうことらしい。

昨夜私が閣下の部屋に入っていくのをどこぞの馬鹿貴族が見ていたらしく、好き勝手に色々妄想し、それを陛下に話してしまったらしい。

私は頭痛のする頭を押さえたい衝動をなんとかやり過ごし、付き合っている云々を否定するが、陛下は照れているのだと思ったらしく、とんでもない提案をしてきた。


「余は本当に二人のことを好ましいと思っておるのだぞ。そこで王妃と話をしたのだが、常日頃からお前たちは休みなく働いてくれている。その褒美として、2週間の休みを与える。二人の仲を深めるがよい」


余は優しいだろう、と言いたそうな笑みと、あり得ない申し出に唖然としてしまった。

私は兎も角として、閣下が休んでしまえば政務が滞ってしまう。

この馬鹿は何を考えているんだと反論しようと思ったときに、私はあることを思い付いた。

ちらりと閣下を伺えば、閣下も私と同じことを考えていたようで、瞳が輝いていた。

私たちはこの申し出を有り難く受け取ることにした。


「ありがとうございます、陛下。それでは今日より2週間、有り難く休ませていただきます」


「至極光栄でございます、陛下。閣下、折角の2週間の御休みですから、是非我が家へいらっしゃいませんか?母も喜ぶと思いますの。」


「それはいいですね。夫人にも久しくお会いしていないですし、楽しみです。」


そんな私たちの会話を満足そうに陛下は聞いていた。

私たちは午前中を引き継ぎに使い、午後から帰路に着くことにした。


午後になり、城門で待ち合わせをしていた私たちは、馬車に乗り私の家へ向かった。

途中折角だからと、私は閣下にある提案をした。


「ねぇ、閣下。私たち恋人として御休みを頂いたのですもの、折角ですから近くの街でも行ってみませんのこと?」


「ふふふっ、貴女とデートとは嬉しいですね。ですが、恋人ということですので閣下は止めませんか、ミシュリーヌ?」


「そうですわね、フェルミナス様」


馬車を降り、クスクス笑いながら腕を組んでデートを楽しんだ。

その後も、私の家で休みを満喫していた。

1週間が過ぎたある日、ミシュリーヌの家に客人が訪ねてきた。


「フェルミナス、ミシュリーヌ。お城からお客様よ」


ミシュリーヌの母、伯爵夫人に声を掛けられて、私と閣下は目を見合わせた。


「1週間ですか。予想よりはもった方ですかね」


閣下の言葉に頷き、客人の待つ応接室へ向かう。

応接室に入ると、目の下に隈ができて真っ青な顔をした男が、こちらに飛び付かん勢いで駆け寄ってきた。


「お願いします。閣下、ミシュリーヌ嬢。お城に戻ってきてください」


男は泣き出しそうな顔で懇願し、城の現状を報告した。

だが、急ぎの案件が出来たわけでもないと判断した閣下は、笑顔で答えた。


「この休みは王命ですよ。ですので、私はこれからミシュリーヌ嬢と共に、私の実家へ行く所なのです。心配せずとも1週間後には帰ります」


無情にも涙顔の男を残し、私たちは応接室を後にした。

男に宣言した通り、私たちは閣下の実家へ向かい、残りの休みを楽しく過ごした。


閣下の実家へ来てからは、毎日のように部下達が帰ってきてくれと懇願しにきたが、閣下は笑顔で無情な返答しかしなかった。

実はちょっと腹黒かったりするんですよね、閣下。

でも、閣下の実家へ来てから5日目、陛下自ら迎えに来て泣きながら懇願してきたので、しょうがなく城へ帰ることになった。


城へ帰ると、どうやればここまで溜められるのかと思うくらいの書類の山が閣下の机に積まれていた。

陛下の机にもしかり。

私たちは帰ってきて早々、寝る間も惜しんで仕事に明け暮れた。

思わぬしっぺ返しに、私と閣下はため息をついた。

でも、あれ以来陛下が大人しく仕事をしてくれているので、良かったのかなと思う。

これがいつまで続いてくれるかは謎だが、近くは平和であるだろうと、私と閣下の密会は笑顔でお酒を飲む場になっていた。

最近の密会では、もっぱらこの前の反省をし、次はどういうお仕置きをするかについての話題につきた。


しかし、別に隠しているわけでは無いのに、何故城の人たちは私と宰相閣下の関係を、知っている人がいないのだろうか。

恋人ではなく、お互いの家に行ける関係など限られているだろうに。


「ミシュリーヌ、母上から手紙が来ていましたよ」


「まぁ、お婆様から?この間、急に帰ることになったから、機嫌を悪くしてないかしら?」


「大丈夫ですよ。また一緒に帰ってきなさい、と書いてありましたよ」


「そうですわね。またゆっくり会いに行きたいですわね。その時は、またデートしましょうね」


「えぇ、楽しみですね」


二人でクスクス笑い合いながら、夜は更けていった。

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[一言] 親娘、または伯(or叔)父と姪ですね。
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