ヌヴェル48 風見鶏になった男
掲載日:2026/09/27
その男の仕事は、風を読むこと。
風の向き。
風の強さ。
風の中の季節。
それらを男は日々記録する。
今日は、北向きの風だった。
今日は、風速六メートルだった。
今日は、春がきた。
いつしか、男は風に乗って運ばれてくる物語を読むことができるようになった。
それは、心温まるお話しだったり、悲しいお話しだったり、さまざまだった。
最初のうちは興味もあり聞き耳をたてていたが、しだいに気分が滅入るようになってきた。
風に乗って運ばれてくる物語の中には、笑顔にさせてくれる話もあるが、悲しい話、寂しい話、怒りが湧いてくるような話、聞きたくもないような話がほとんどだった。
男は仕事を続けることに苦痛を覚えるようになった。
日々の風だけを感じていたい。
日々の風とだけ戯れていたい。
そう思うようになった男は、ある日目覚めると、風見鶏になっていた。
風を受けてくるくると回る。
とても楽しそうな風見鶏に。




