名無しなんだし鰹出汁
小説投稿サイトに登録したので、ハンドルネームが必要になった。内輪のものなので、匿名感を出そうと思った。
昔から掲示板文化では、なんとか名無し、名無しなんとか、みたいな名前を大量に見てきた。
なので、
「名無しではないと思う」
にした。
ここで終わればよかった。
なぜか、そのあとも考え始めた。
「名無しかもしれません」
可能性はあるかな。
「名無しかもよ?」
誰に聞いてる?
「名無しとは何か」
哲学。
「名無しかも知れますぇん」
噛んでみた。
「名無し草」
放浪の旅。でも、ネット民で草?
「ななっしー」
どっかで見た。梨汁とばすやつ。
「名無しになろう?」
勧誘か。
「名無しといっしょ」
教育番組になった。
「名無しのように生きる」
人生論?
「名無しなんだし」
ちょっと開き直った。
「なぜに名無し」
それを決めたのは自分だ。
「名無しになりました」
事後報告。
「名無しではなさそうだ」
一度なったのに、また疑い始めた。
「名無しなんだよ」
キレた。
「名無しじゃないんだよ」
どっちなんだよ。
「名無しなんじゃないの」
知らんがな。
「名無しっぽい」
雰囲気で決めるな。
「名無しじゃない?」
だから俺に聞くな。
「名無しを呼べばいい」
誰を。
「名無しはおらんか」
探し始めた。
「やっぱり名無し」
見つかったらしい。
「名無しなのでしょうね」
受け入れた。
「おっとどっこい名無し」
何の勢いだ。
「静かなる名無し」
急に強そう。
「眠れる森の名無し」
起こさなくていい。
「名無し事件簿」
何があった。
「おとうさんと名無し」
知らない人を家に入れないでください。
「名無し噺」
落語か。
「なんちゃって名無し」
名無しですらなかった。
「どうにでも名無し」
投げた。
「名無しだったよね」
記憶まで怪しくなった。
「名無しさんありがとう」
誰にお礼を言っている。
「だって名無しなんだもん」
言い訳し始めた。
「名無し根性」
何を頑張るんだ。
「名無し魂」
もっと頑張り始めた。
「名無しの夜」
夜に何を思う。
「君となら名無し」
何になるんだ、二人で。
「道ならぬ名無し」
何をしたんだ。
「名無しの紙芝居」
急にかわいい。
このあたりで、風速が落ちてきた。
名無しに慣れてしまったらしい。
もう終わろうかと思った。
「そういえば名無し」
まだいたか。
さらに、なんか出た。
「名無しなんだし鰹出汁」
…………。
「名無しなんだし」の「だし」から、鰹出汁が出た。
韻は踏んでいる。
中身はないけど。
しかし、妙に気に入ってしまった。
一瞬、これをハンドルネームにしようかと思った。
だが、万が一。
ありえんけど、本当に万が一。
何かの間違いで、作品が有名になったら。
インタビューなんかされたら。
「本日は、◯◯◯の作者、名無しなんだし鰹出汁さんにお越しいただきました」
既に嫌だ。
「名無しなんだし鰹出汁さんは、どのような――」
絶対に嫌だ。出オチだ。
「鰹出汁というお名前には、何か由来が?」
ない。
「いえいえ。名無しなんだし、まで考えたら、鰹出汁が出てきました」
と、全国に向かって説明するかもしれない。
やめよう。
こうして名無し30本ノックを経て、ハンドルネームは、
「名無しではないと思う」
のままになった。
本命はまだ無い。




